「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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第6話 転移して数時間で最強装備 ①

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 城下町の東のはずれに魔装具店はあった。
 店主はまだ若く、レンジたちとそれほど年の変わらない少年のように見えた。

 この国の国王や大賢者もそうらしいが、稀にエーテルが人と同化して生まれてくる不老長寿の存在がいるらしい。
 人がエーテルを取り込んだのか、エーテルが人を取り込んだのかまではわからないそうだ。

 彼らは「魔人」と呼ばれているそうだった。魔素(まそ=エーテル)を取り込んだ人、という意味らしい。

 魔装具店の店主も見た目は少年だが、100歳をとうに越えており、面倒だから年を数えることはもうしなくなった、ということだった。


「へー、にーちゃんが一万人目の来訪者か。
 そういえば確か今年はゲート開通から100年目だったな」

 店主は、もう100年か、早いな、と呟くと、じろじろとレンジの顔を見た。

「かわいいねーちゃんをふたりもつけてもらって、いいご身分だな」

 口は悪かったが、なぜだかレンジは悪い気はしなかった。
 ピノアはかわいいと言われたことが嬉しかったのか、ニヤニヤしていた。とても満足げな顔をしていた。

「国王が来訪者に支度金として渡す金って確か1万ρ だろ?
 ねーちゃんたちも巫女なんだし、魔装具はそんなはした金じゃ買えないってことくらいわかってるよな?
 冷やかしなら帰ってくんねーか?」

 レンジはステラに促され、財布の中身を店主に見せた。

「100万ρ 紙幣が10枚……
 どうやら偽物じゃなさそうだな……」

 この世界にもおそらく偽造紙幣というものがあるのだろう。日本の紙幣のように透かしが入ったりはしていなかったが、本物か偽物かの判断はどうやらすぐつくようだった。

「いくら一万人目だからって、あのケチでアホな国王がこんな大金を支度金として渡すとは思えねーし、その金をどうやって手に入れたかなんて野暮なこたぁ聞かねぇ。
 あんたらは俺の大体100年ぶりの客だ。最高の魔装具を用意してやるよ」

 店主はそう言った。

 しかし、レンジには不思議だった。
 100年近くもの間、魔装具が売れず、この店主はどうやって生計を立てていたのだろうか。100年前に売れた魔装具の売り上げでなんとかなったのかもしれないが、何か他に副業でもあるのだろうか。株とか。という問題については、とりあえず置いておくとして、不思議なことはもうひとつあった。

 レンジが貯金を下ろしたATMが、あのゲートのそばにいつから存在するのかはわからないが、高校生の自分でも財布の中の銀行のカードを持っており、預金を引き出すことができたのだ。
 これまでに、そういう来訪者はひとりもいなかったのだろうか。
 社会人ならば、レンジの数十倍の預金がある者がいてもおかしくはないはずだった。
 しかし、店主の反応や、城でのステラやピノアの反応を見る限り、どうやらレンジがはじめてのようだった。

 だからこそ不思議だった。

 もしかして、あのATMはレンジといっしょにこちらの世界にやってきたのだろうか?
 いや、ステラはATMがあそこにあることを知っていた。
 だからこそ、レンジがお金を下ろしたかどうか聞いてきたのだし、レンジが大金を持っていることを知り、国王への謁見を飛ばすという選択をしたのだ。
 一体どういうことなのだろう。


 魔装具店は広く、武器や防具の試着だけでなく、試し斬りや実戦形式の試合のようなことができるスペースがあった。
 建物自体が魔装具の材料となる結晶化したエーテルで作られており、非常に頑丈で最高クラスの魔法を使っても破壊はできないということだった。

「受けた魔法をときどきはねかえす、なんて説明されただけで、値の張る盾を買わされて、絶対絶命の大ピンチのときに仲間の治癒魔法まで勝手に盾にはねかえされたらたまんねーだろ?
 この国で唯一の魔装具鍛冶である、このレオナルド・ダ・ヴィンチ・イズ・ディカプリオ様自慢の魔装具をお試しあれってわけよ」

 レンジはきっと、その名前はレオナルドこそ本名だろうが、それ以降の部分は異世界からの来訪者の悪い影響なんだろうなと思った。
 ステラもピノアも国王も王宮の服飾職人たちも、8888人目の来訪者に思いっきり騙されて、ふたりはすばらしい衣装でレンジを出迎えてくれてもいた。
 ステラにはまだ学ランを貸したままだった。ピノアは気に入っているのか全然気にしていないようだった。

 店主はまずレンジのために、頭のてっぺんから足の爪先までを被う西洋風の甲冑を用意すると言った。

 しかしそれは、最初は甲冑であることさえわからない形をしていた。
 まるで金属で出来た狼のような形をしていて、店の奥から自分で歩いて出てきたのだ。

「そいつの首の後ろに、にーちゃんの世界によくあるらしいスイッチってやつがあるだろ? 今はオフになってるから、オンにしてみてくれ」

 店主にそう言われ、レンジがスイッチをオンにした瞬間、甲冑の狼はレンジに向かってまるで襲いかかってくるかのように飛び上がると、空中でその身体を分解させた。
 そしてまたたく間にレンジの全身を被う甲冑となった。

 すごい、としか言いようがなかった。

 まるで変身ベルトひとつでパワードスーツを身にまとう変身ヒーローになったかのようだった。


「この国は魔法大国だから、軍も魔法使いを主戦力としてるが、一応それを守る騎士も結構な数いるんだ。
 肉の壁って言やぁいいのかな、魔法使いを守って死ぬためだけにいるような連中がいるんだよ。
 そいつらが甲冑を着るのにやたら時間がかかってるのを見たことがあるんだが、結構時間がかかっててな、毎回それを繰り返すのは手間だし面倒だろうと思ってな。
 結晶化したエーテルなら作れるんじゃないかって思って作ってみたんだが」

 たとえそんな風に思っても、それをこうして実現させることができるのは簡単なことではないだろう。リバーステラでは変身ベルトは売られていても、テレビの中のヒーローのように変身はできないのだ。
 アメリカの漫画の有名なヒーローには、テロ組織につかまってしまい、そのアジトから脱出するために自らパワードスーツを開発した者がおり、アメリカ軍はオバマ大統領の時代からそのヒーローのようなパワードスーツの開発計画を進めていると聞いたことがあったが、いまだにそれを完成させてはいなかった。

 それだけでなく、甲冑を身にまとう必要がないときは、自我や心といったものがあるのかどうかまではわからないが、持ち運ぶ必要はなく、狼としてついてきてくれるのだ。


「手間や面倒なことにも趣きってもんがあるわけだが、いざってときに自分の身をまもれないなら、どうしようもないからな。
 にーちゃんたちの世界で言う『時短』ってやつだ。まぁ、時間短縮をわざわざ略さなきゃいけないくらい忙しいリバーステラの感覚は俺にはよくわかんねぇけど。
 にーちゃん、着心地はどうだ?」 

 それは驚くほど軽く、学生服の方が重いくらいだった。
 結晶化したエーテルは軽く、堅いが伸縮性があるらしく、関節の稼働範囲を妨げることもなかった。

「最高です」

 レンジがそう言うと、店主は嬉しそうに顔をほころばせた。

「そいつの名前は、レオナルドメイルだ。狼のときはレオナルドって呼んでやってくれ」

 店主はその鎧に自分の名前をつけていた。

 おそらくは日本刀のように刀鍛冶が自分の名前を刀につけるようなものなのだと思った。刀のことはよく知らなかったから、後世になってから刀鍛冶の名がつけられただけなのかもしれないが。

 彼はよほど自分の魔装具鍛冶職人としての腕に自信があるのだろう。

 レンジは、目の前の店主と、甲冑の狼が同時にいるときに名前を呼んだら、どっちが先に返事をするのか、少し気になった。

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