「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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第69話 魔王と大賢者 ①

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 やってくれたな、と大賢者ブライ・アジ・ダハーカは思った。

 大賢者と魔王は徒歩でゲルマーニに向かっていた。
 ふたりがゲルマーニの領土にようやく入ったところで、城と学術都市にレオナルド・カタルシスによる結界が張られたのだ。


「これでは、ゲルマーニの医療魔法技術を手にするどころか、学術都市にすら入れない。
 我々の身体のダークマターが浄化されてしまう」

 魔王は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
 しかし、徒歩で向かおうと言い出したのは魔王だった。

 ふたりはダークマターを触媒として風の精霊の魔法を使い、背中に黒い羽根を生やし空を飛ぶことができた。
 空を飛んでいけばすでに、学術都市から必要な研究資料を手に入れ、アストリアへと向かっていたはずだった。

 だが、そうはしなかった。
 この世界自体が、まもなく「真の混沌化」を迎えるからだった。

 すべてのエーテルは、リバーステラの負の遺産である放射性物質に取り込まれダークマターとなる。
 ダークマターによって、有機物無機物問わず、世界中のありとあらゆるものが、混沌化する。
 これまで混沌化しなかった動植物までもがカオスとなり、人はヒト型のカオスになる。

 彼らがエウロペの城下町に放った4体のヒト型のカオスは、城に仕える魔人を元に作り出したものだった。

 大賢者がその下準備をし、魔王がそれを実行する。

 その第一歩となるのが、ゲルマーニの医療魔法を手にすることだった。

 魔王は、混沌化する前の世界をしっかりと目に焼き付けておきたい、と言った。
 でなければ、世界を混沌化させることや、混沌化した世界を楽しめないと。

 君はすでに世界中を旅し、知っているだろう? と大賢者は訊ねたが、それは富嶽サトシ(ふがく さとし)というヒトの男が見た記憶であり、魔王となった自分の記憶ではない、だから実感がわかない、と魔王は言った。

 実に魔王らしい考えだと思い大賢者は賛同したが、今思えばそれはまだ魔王に人らしい心が残っているということだった。

 魔王は完全に魔王になってはおらず、サトシの心がまだ残っているか、無意識化にサトシの残留思念があり、こうなることを望んでいたのではないか?
 大賢者にはそう思えた。

 だから、やってくれたな、というのは、魔王に対して抱いた感情であった。

 すでに時の精霊はその身を隠しており、ふたりは時を巻き戻すこともできなくなっていた。

 大賢者が、サトシの息子や、手塩にかけて育ててきたステラ・リヴァイアサンやピノア・カーバンクル、そしてレオナルド・ダ・ヴィンチ・イズ・ディカプリオが遺した秘術によって一度敗れた際、魔王が彼の肉体を時を精霊の魔法で復元した。
 だからこそ自分は今も身体はアンデッドではあるが生きている。

 だが、それすらも、魔王が彼らに与えたヒントであり、だから時の精霊は身を隠したに違いなかった。

 大賢者は、魔王となる前のサトシと100年近く騙し合いを続けてきたが、自分は魔王の手のひらの上で踊らされているに過ぎないと気づいた。


 魔王となる前の富嶽サトシという男は、リバーステラから訪れた最初の来訪者であり、リバーステラの2009年から、100年前のテラにやってきた人間だった。
 エーテルに取り憑き、ダークマターとなったもうひとつの魔素について、サトシはかつて放射性物質ではないかと仮説を立てていた。だが、当時はそれを確かめるすべはなかった。

 しかし、リバーステラで2011年に起きたとされる3.11と呼ばれる震災以降の来訪者の中には、ガイガーカウンターと呼ばれる機械(マキナ)を持つ者がいた。
 それは、エーテルに取り憑いた魔素が、サトシの言う放射性物質かどうかを調べることができるマキナであった。

 サトシの考えていた通り、もうひとつの魔素が放射性物質であることはすでに判明していた。

 リバーステラから来訪者がやってくるゲートを通じて、それが流れ込んできているのだということも。

 一万人目の来訪者であるサトシの息子・秋月レンジをもって、ゲートは閉じた。

 だから、新たなゲートを産み出さなければならなかった。
 今度はひとつではなく、世界中に無数にだ。

 大賢者がサトシを魔王に仕立てあげたのは、自らの手を汚すことなく世界を混沌化させるためだ。
 それこそが、救厄聖書の最後にある預言、大厄災であると考えていたからだった。


 魔王が自分が成そうとすることを阻むなら、魔王はすでに国王やレオナルドと同じだ。
 敵であり、排除すべき存在だ。


「君が何を考えているかくらい、私にはわかっているよ、ブライ。
 だが君には私を殺すことはできない。
 君が死んでも私は死なないが、私が死ねば君は死んでしまうからね」

「どういう意味だ?」

「君にかけた時の精霊の魔法は、私が死ねば解ける。
 君の肉体の時を巻き戻すだけではなく、君の肉体には術者である私の死と共に、魔法がかけられたことさえもなかったことにする、別の時の魔法がかけてある」


 本当にどこまでも忌々しい、と大賢者は思った。

「君の思い通りにはさせない。
 それに、どうやら、富嶽サトシの息子ではないようだが、レオナルドの秘術を持つ者がふたり、こちらに向かってきている。
 君はもう終わりだ」

 魔王がそう言い終えたとき、空に背中に白い翼を生やしたアルビノの魔人が見えた。

「ピノア・カーバンクルか……」

 だが、アルビノの魔人はひとりではなかった。
 ふたりいた。

「もうひとりの奴は誰だ?
 なぜこの時代に、ピノア以外にもアルビノの魔人がいる!?」

 大賢者は驚きを隠せなかった。


「彼が、私が最初に助けたアンフィス・バエナ・イポトリルなのか、それとも未来のレンジたちが助けたアンフィスなのかはわからないが……無事レンジたちと合流できたようだな」

 魔王はそう言い、

「ブライ、君との100年に渡る騙し合いも、どうやらそろそろ終わりのようだ。
 これはリバーステラの言葉になるが、『冥土の土産』に、君の考えている世界の混沌化は、この世界の聖書の最後に預言されている大厄災ではないということを教えてあげよう。
 大厄災とは今から2000年ほど前に起きるはずだったもので、すでに回避されている。
 そして、君の知らない、もうひとりのアルビノの魔人、彼こそが大厄災を起こす力を持つ者だ」


 大賢者には、魔王が、サトシが何を言っているか全く理解ができなかった。

 ピノアは空に甲冑の狼を抱きかかえて待機したまま、もうひとりのアルビノの魔人だけが大賢者の前に降り立った。


「久しぶりってわけでもないし、あんたはまだ俺を知らないだろうから若干申し訳ない気もするが……
 未来のあんたに俺はかなりひどい目に合わされたからな、最初から全力でいかせてもらうぜ」


 全く理解は出来なかったが、目の前にいるアルビノの魔人を倒さなければならないということは理解できた。
 そして、自分にはこの男を倒す力がないことも、先に倒さなければならない相手はレオナルド・カタルシスを発動させることができる者であることも。

 そのためにどうすればいいか、答えはひとつしかなかった。



 だから、大賢者は魔王を喰らうことにした。
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