「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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第83話 ゴールデン・バタフライ・エフェクト & インフィニティ・セクシービームス ②

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 ピノアが放った「ゴールデン・バタフライ・エフェクト & インフィニティ・セクシービームス」は、愚者の身体からすべてのダークマターを浄化しつくすと、攻撃をやめた。

 愚者は、魔王の身体の混沌化していたカオス細胞が浄化され、かろうじて人の姿を保ってはいたが、

「私は、ここで……
 こんなところで、終わるのか……?」

 予想していたことであったが、一度混沌化した細胞は、浄化しても人の細胞には戻らないようだった。
 愚者は、もはや指一本動かすことができず、口を動かし声を発することがやっとのようだった。

「そうだよ。今度こそ本当にね」

 まもなく魔王の身体と共に愚者の魂も完全なる死を迎えようとしていた。


「そうか……
 ピノア……最後に、君に伝えておきたいことがある……」

「何? つまんない話だったら聞かないよ」

 つれないな、と愚者は苦笑した。

「ダークマターについてだ……
 レオナルドが……そこにいる甲冑の狼ではないぞ……魔装具鍛冶の方だ……
 私や国王の命令で……エーテルを人工的に産み出そうとした際……
 まだ、そのときは……ゲートは開いていなかった……
 それなのに……リバーステラにしか……存在しないはずの……
 サトシが負の遺産と呼んでいた……放射性物質が現れ……エーテルにとりついた……
 ありえないことだとは思わないか……?」

 ピノアは、確かにその通りだと思った。

「おそらくは……あのときにはもう……リバーステラにいる何者かが……ゲートを開いていた……
 私たちは……ダークマターが産まれたことにより……リバーステラの存在に気づいたが……
 リバーステラのその何者かは……私たちよりも先にこの世界の存在を知り……ゲートを開いていた……
 そうとしか考えられないのだ……

 放射性物質のことは……サトシの息子から……レンジから聞いているな……?」


「うん、聞いてる。
 浄化する方法がなくて、自然に浄化するのを待つしかないんだよね。
 でも、それには何十万年もかかるって聞いた。
 それが年々、ううん、毎日増え続けて、棄てる場所にも困ってるんだってね」

「そうだ……リバーステラは……放射性物質を……棄てる場所に困っていた……
 だから……この世界の存在を知ると……この世界をゴミ処理場にしたんだ……」


「あんた、もしかして、レオナルドを騙してゲートを作らせたわけじゃなくて、この世界をなんとかしようと、本当に、神を召喚しようとしたりしてた?」

「そうだ……
 私には、ゲートを作ることは……いまだにできない……

 私とレオナルドは、この世界を作った神を……召喚しようとした……
 聖書にある……みだりにその名を口にしてはならぬとされている……」

「ハオジ・マワリーのことだね」

「ああ、だが……
 この世界の……エーテルの枯渇を……招いた私を、神は……許してくださらなかった……」

「違うよね。
 全部、レンジの世界にいる、その何者かの手のひらの上で転がされてただけなんだよね。
 だから、100年前に新しいゲートが開いた。
 放射性物質だけじゃなく、人が紛れ込んでくるくらいの大きなゲート」

「たぶんな……
 私は許せなかった……
 自分が人工的に産み出された魔人だということを知ったとき……私は一度この世界を憎んだ……
 だから、一度、世界を……世界を戦争によって……エーテルを枯渇させ……滅ぼそうとした……
 だが、できなかった……」


「愛してたんだね、あなたも。
 ちゃんとこの世界を」


「そうかもしれない……
 だから……この世界を、ゴミ処理場にした連中が……どうしても許せなかった……
 奴らに一泡吹かせるだけじゃない……リバーステラを滅ぼすために……私は、ただそれだけを考えて……この100年を生きてきた……」

「だからあなたは、リバーステラから来たレンジのお父さんを憎んだ。魔王にしようとした。
 だからあなたは、魔王を産み出した後、魔王をダークマターを管理する、この世界の一システムとして利用しようとした。
 だからあなたは、リバーステラに攻め込み、滅ぼすことができるだけの、ヒト型のカオスによる軍隊を作ろうとした」

「さすがだな……ピノア……
 君は、いや、君だけじゃなく……ステラも、ふたりとも……私などより本当に頭がいい……」

「でも、ただのゴミ捨て場に過ぎなかったこの世界で、レオナルドが放射性物質の浄化方法を見つけた。
 わたしはそれを完成させちゃった。
 そして、いま、その技を使ってしまったことであなたを苦しめてる。
 たぶん、リバーステラにいるその何者かは、わたしたちを見てるよね」

「それが……どういうことか、わかるな……?」

「リバーステラが、この世界に攻めてくる。
 わたしと、それとレオナルドちゃんを狙ってくる」

「わかっているならいい……
 戦争がもし、避けられるなら……避けてくれ……
 だが、リバーステラには……」

「そうだね。エーテルがなかったね。
 リバーステラは、放射性物質の浄化方法とエーテル、そのどちらもきっと欲しがってる。
 ダークマターによって産み出すことが出来るヒト型のカオスもきっと欲しいだろうね」

「だから、戦争は……避けられないだろうな……」


 愚者は、いや、もはや彼は、大賢者でも魔人でも、愚者でもなかった。

 ブライ・アジ・ダハーカという、テラを愛し、テラに生き、そして間もなく死を迎えようとしている、ひとりの人間だった。

 ブライは、涙を流していた。
 悔しくてしかたがないのだろう。
 100年かけて積み上げてきたものが壊れただけでなく、自らもまたダークマターに魅了され、憑りつかれてしまい、本来すべきことを見失ってしまっていたのだから。


「わたしはずっと、あなたのことが嫌いだった。
 でも、あなたは、わたしやステラを育ててくれただけじゃなく、この世界を守ろうとしてくれてたんだね。
 気づくのが遅くてごめんね」

「構わない……私のやり方が、間違っていた……
 さっき、君は……私のことを……おとうさんと、呼んで……くれたな……
 嬉しかった……
 それだけで十分だ……」


「何度でも呼んであげる。
 あなたは、わたしとステラのおとうさんだよ。

 おとうさんのやり方は確かに間違ってたかもしれない。
 でもダークマターに魅入られることがなかったら、正しいやり方ができたかもしれない。
 それにすべては、リバーステラにいる、その何者かのせいだから。

 おとうさんは、この世界のために、レンジのお父さんと同じように、おとうさんにしか出来ないことをしようとした。してくれた。
 わたしは、おとうさんのことを誇りに思う」


「ありがとう……ピノア……
 ピノア……父親らしいことを何もしてやれなくて、すまなかった……
 ステラにも伝えてくれ……本当にすまなかったと……」


「わかった、必ず伝える」


「レンジにも伝えてくれるか……
 君の父親は、最期まで本当に立派な男だったと……
 私は、君の父親が、サトシが、本当に好きだったと……
 それなのに、私はサトシに、君に、本当に申し訳ないことをしたと……」



             私は本当に愚かだった。



 そう言って、ピノア・カーバンクルとステラ・リヴァイアサンの父、ブライ・アジ・ダハーカは息を引き取った。

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