情報迷宮≪実験≫都市アルゴリア -THE NEW WORLD MAKER-

あめの みかな

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#03

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20年前の市町村合併により、白内障手術がもたらされるまでは、足切村では白目病によって視力を失うことこそが大人になることだとされていたという。

まるで、異国で行われている割礼のように。
男性器の包皮を切除する、あるいは女性器の一部を切除する外科的施術のことであり、宗教儀礼、通過儀礼、健康上の理由など、様々な目的で世界中で行われてきた。
特に通過儀礼としての割礼は、大人になるための儀式だった。

すぐ隣町にイルマたちが今いる手術可能な病院がありながら、旧足切村の人々はほんの20年前まで頑なに病院にかかろうとしなかったというのだから、村の因習というものは本当に怖いものだった。

だから、白杖の老人がこの街には多いのだ。

「村戸イルマさんに、イルマさんのご家族の方ですね」

ふたりに声をかけてきた女性の看護師がいた。姉より少し年下だろうか?二十歳くらいの人だった。
本物の看護師であるはずなのに、コスプレしているようにしか見えなかったのは、ピンク色でミニスカートのナース服だったからだろう。

「ラブホのコスプレレンタルみたいなナース服だね」

姉はそんなことを耳打ちしてきた。
なぜそんなことを知ってるのだろうとイルマは赤面した。着たことがあるのだろうか。
いや、確かああいうところには、そういうカタログのようなものがあって、テレビのリモコンだけで食事やそういったものの注文ができるようになっているのだったか。

「せめて、ドンキに売ってそうなやつって言ってよ」

イルマも姉にそう耳打ちした。

ツインテールの髪型の上にナースキャップを載せている?被っている?のも、目の前の看護師がコスプレに見える理由のひとつだった。ツインテールの看護師なんて、生まれてはじめて見た気がした。

「村戸イルマさんの担当看護士の羅臼ユズリハです」

看護士はそう名乗ると、ふたりに頭を提げた。

「ラウスってあの羅臼?」

「はい。北海道の羅臼と同じです。北海道出身ではないんですけどね」

イルマが返事をすることも忘れ、ぼんやりとその人を眺めていると、姉は彼の腕をつねってきた。
姉もかわいいが、目の前にいるその人も相当かわいらしい人だった。
特に瞳が綺麗だった。
姉と同じように、黒目の部分がDNAのような二重螺旋で縁取られている瞳だった。
もしかしたら自分がこれから受ける手術をこの人も受けているのかもしれないと思った。だとしたら、彼女も旧・足切村の住人だということになる。

「見惚れないの。確かにかわいい子っぽいけど、マスクのせいでそう見えてるだけかもしれないからね。マスク美人なんて、マスク取ったら大体ブスなんだから」

そんなことを耳打ちしてきたりもした。
ひどい言い様だなと思ったし、ひどい偏見だとも思った。

「入院の準備はもうお済みですね?」

白内障の手術は全身麻酔をするため、レーシック手術と違い、終わればすぐに帰れるというものではなかった。入院が必要な手術だった。

「うん、全部もうやってあるよ」

手続きは両親の代わりに姉が全部してくれていた。

「しっかりした妹さんがいて良かったですね」

「姉です」

「え?」

「こう見えても一応ぼくの姉なんですよ。24歳」

「こんな赤ずきんちゃんみたいなかわいい服を着た子が?」

二十歳過ぎてるのに職場でツインテールしてる女に言われたくない。
姉はそんな顔をしていたが、その姉もツインテールだったから目も当てられないなと思った。
羅臼さんは姉に完全に嫌われたなとも。

「まもなく午前の診療が終わります。午後2時から村戸さんの白内障手術を行いますので、病室でお待ちになっていてください」

そういえば入院の手続きを姉がしてくれたときも、同じようなことを受付の事務員の人から言われたような気もした。
なぜ、眼科の待合室でずっと無駄話をしていたのだろうか。以前から何度か診察を受けていたから、癖になっていたのかもしれない。
姉がコートのポケットに左手をついも突っ込んでいるように。
もしかしたら、羅臼さんは自分たちのことを探していてくれたのかもしれない。だとしたら、申し訳ないことをしてしまったと思った。

「手術前に、お昼ごはんをイルマに食べさせてもいいの?」

「あ、はい、問題ないです。目の手術ですし」

「あなたはいつもお昼をどこで食べてるの?このあたりに美味しいお店ってある?」

看護師さんにそんなことを聞かないで欲しかった。食べログを見れば、近くに美味しい店があるかどうかくらいすぐにわかるというのに、姉は調べる前にすぐに人に聞こうとする。

「すぐ近くに国道1号線がありますよね。病院の入り口から見て、左手?北?の方に」

「ゲオがある通り?」

「そうです、そうです」

「ゲオから1号線を、えーっと左?西って言った方がいいのかな?その方向に少し行くと、右側に美味しいインドカレーのお店がありますよ。インドの方かネパールの方がやってる本格的なお店ですが、ランチなら850円なんです」

羅臼さんはきっと方向音痴なのだろう。だから、まず左か右かを確認したあとで、方角を言うのだ。

「ありがとね、ラースちゃん」

「ラースちゃん!?」

「え?羅臼だからラースちゃんて呼んだんだけどダメだった?」

「そんな風に呼ばれたのは初めてです。嬉しいです」

「まぁ、ラースは七つの大罪のひとつの『憤怒』のことなんだけど」

「全然嬉しくなかった……あ、ナンのおかわりは自由なんですけど、チーズナンのおかわりできないので、最初にどちらかがチーズナンを頼んでシェアするといいですよ。それと、飲み物はラッシーで。ナンを浸して食べるとデザートみたいになるんです。あっ、話してたらよだれが……」

「変わった子……」

イルマとエミリは一度病院の外に出て、その店でランチをすることにした。
でてきたナンはふたりの想像をはるかに超える大きさで、手術を目前に控えたイルマは、食べきれるかどうか正直不安だった。
だが、本格的なスパイスカレーはもちろん、ナン自体の美味しさもあり、ペロリと平らげて3枚ずつおかわりしてしまった。
病院に戻ってきてからも思い出すとよだれが出てくるほど美味しかった。

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