情報迷宮≪実験≫都市アルゴリア -THE NEW WORLD MAKER-

あめの みかな

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#09

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旧・足切村の人々は、ナノマシン入りワクチンによって情報迷宮都市となったこの街で、村の外にも罪人が山ほどいることを知ったのだ。
だから、白目病を治療可能なE.O.P.レンズを開発し、神の目を手にしてスコアを操ることにした。
足切村の外にいる人々こそが罪人として裁くために。
そう考えると、すべて納得がいく気がした。

問題はナノマシンとE.O.P.レンズの存在だろう。
どちらもあまりにオーバーテクノロジー過ぎるものだった。
未来人か宇宙人がもたらしたものかもしれない。あるいは神のような存在かもしれなかった。

「早く退院して、うちに帰ろう?晩御飯、何が食べたい?」

「オムライス」

「鶏肉がいっぱい入ってて、卵がふわふわのとろとろのやつ?」

「うん。病み上がりだしハンバーグも食べたいなぁ」

「目の手術、しただけじゃん。それにしても、イルマは本当にオムライスとハンバーグが好きだよねぇ。Uber Eatsでいい?」

「え?作ってくれないの?」

「だって、わたし、お寿司食べたいし」

「え?」

「お寿司の口だから、今日のわたし。今日退院できなかったら、予約してるはら寿司の三人前セット、わたしがひとりで食べる予定」

「サーモンはどれくらい入ってる?」

「いっぱい入ってる。イルマは三度のご飯よりサーモンが好きなリトルサーモンだもんねぇ」

「リトルトゥースやリトルデーモンみたいに言わないでくれる?」

「今日退院したいよねぇ。頑張らなきゃねぇ」

両親がイルマのために残してくれたスコアブックのおかげで、退院の条件であるE.O.P.レベル3はその日のうちに、というより目を覚ましてから2時間ほどで達成できた。
スコアブックも役に立ったが、やる気になれたのは大好物であるサーモンの誘惑だった。

病室の外に出て、通りすがった患者や見舞いに訪れた人たちに会釈や挨拶を繰り返すだけで、自然とスコアはたまっていった。

「不思議だね。このスコアのシステム」

「何が?」

「だってさ、街で大人が小学生に声をかけるだけで、今は不審者扱いでしょ?市の不審者情報メールにすぐに載っちゃう」

「確かに、あのメールって『声をかけてきた』ってことは書かれてるけど、具体的にどういう言葉をかけてきたのかまでは書かれてないよね」

「声をかけるという行為には、『かわいいね』とか『お菓子あげようか』とか、子どもを性的な目で見てる可能性もあるけど、『おはよう』とか『こんにちは』っていう挨拶程度の可能性もあるよね。親が声をかけてくる大人がいたら報告しろって教えてるだけかもしれないし」

だが、挨拶でE.O.P.レベルが上がるということは、ナノマシンもE.O.P.レベルもそれが正しい行いだとしているということなのだ。

「文字で読んだら性的な目で見ているように聞こえる?見える?言葉にも、本当にこども好きな人から出た、他意のない言葉の可能性だってあるわけだもんね。それに、『下校の時間になりました、子どもたちが安心して家に帰れるよう見守ってください』っていう放送が流れるから、ただ見守ってくれてただけかもしれない」

「あの放送を聞いて、『よし、狩りの時間だぜ』って肩を回しはじめるような人なんて本当に限られてるはずなのに、ほんの一部そういう人がいるだけで、挨拶をするだけで不審者扱いされるのが今の世の中なんだ」

「あれとおんなじだね。一部の女の人が男にAEDをされるくらいなら死んだ方がマシとか、強制わいせつで訴えるとかSNSで言い出したり、実際に訴えられた人がいたから、女の人が目の前で倒れても誰も助けなくなったやつ」

きっと、スコアは女の人を助けようとしなければ下がるのだろう。助けることが人として正しい行いだからだ。だが、助けず見殺しにしてしまった場合、罪に問われるのは保護者にあたる者だけだ。保護責任者遺棄致死傷罪は、保護者にしか適用されないからだ。
助けた女性がそれをセクハラや強制わいせつだと感じた場合、スコアはどうなるのだろう。スコアが下がるどころか、犯罪行為とみなされ、人体発火させられてしまうのだろうか。
助けなければスコアは下がるが、罪に問われることはない。
助ければスコアは上がるが、助けた相手次第では人体発火させられかねない。
だったら、やはり女性が目の前で倒れても助けるべきではないのかもしれない。

「そういう場にいあわせたら、運が悪かったと諦めるしかないんだろうね」

「ぼくは姉さん以外は助けないよ」

「それでいいと思う。まぁ、さっさと国や自治体が『AED使ってねバッジ』みたいなのを女性に配るとかしてくれたらいいんだけどね」

命をかけてスコアブックを作ってくれた両親のためにも、そう簡単に人体発火させられるわけにはいかなかった。

E.O.P.レンズは、レベル1では人や物の名前がわかるようになったが、レベル2では人の年齢や物がいつから存在するかがわかるようになった。院内にある樹の樹齢は年輪の数を確認しなくても見え、院内に飾られている絵画や彫刻なども本物かレプリカかだけではなく、いつ作られたものかが見えた。炭素年代測定など必要なかった。
レベル3になると、人や物がどんな物質によって、どんな割合で構成されているかまで見えるようになった。料理を見ればきっと、そのレシピや隠し味に使われているものまでわかるのだろう。
まさに全能の目だった。

イルマの退院の許可を出したのは担当医ではなく、看護師である羅臼ユズリハだった。
E.O.P.レンズはレベル3になれば勝手に目に馴染み、白内障手術と違って点眼薬すら必要としないようになっているらしい。レベルが10になれば、自分の現在のスコアと次のレベルに上がるために必要なスコアが見えるようになるという。
羅臼は何故か少し残念そうにそう教えてくれ、退院の許可をくれた。

「なんで羅臼さんが残念そうにしてるんですか?」

イルマがそう問うと、

「もしかして、うちの子みたいな子がタイプなの?」

羅臼をからかうように姉はそんなことを言った。

「年下の男の子には興味はありません。随分簡単にレベルを上げたなと思っただけです」

まるで攻略本か何かを持ってるみたい、と羅臼は怪訝そうな顔をしてイルマを見て不審がっていた。





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