情報迷宮≪実験≫都市アルゴリア -THE NEW WORLD MAKER-

あめの みかな

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「あなたと美代さんの間には子どももいたみたいね。美鶴ちゃん。でも、美鶴ちゃんが3歳のときに、酒に酔ったあなたの暴力が原因で亡くなってる。美代さんと真白さんと公園で遊んでいたときに行方不明になったってことになってるみたいだけど」

「どうして、それを……いや、そんなわけないだろ?何を言ってるんだ。美鶴は本当に行方不明になったんだ」

「あぁ、なるほど。美鶴ちゃんの死体を旧・足切村の足切池に棄てたから、あの村に行きたくないのね。美鶴ちゃんを殺しちゃったことや棄てたことを思い出したくないから。罪悪感っていうやつかしら?あなたみたいな本当の犯罪者でも、そういうことを感じたりするのね。それとも、自分がかわいいだけ?」

「美鶴は行方不明になったって言ってるだろ!どうせ、頭のおかしな性犯罪者が誘拐して、好き放題いたぶって殺したんだよ!」

「本当に残念ね。奥さんの連れ子の真白さん、結構いい大学に推薦が決まってるみたいだけど、あなたが人殺しだってわかったら、きっと推薦も取り消されちゃうね。学校にも居づらくなるだろうし、行けなくなっちゃうかも。あと5ヶ月で卒業なのに、高校やめちゃうかもしれないわね」

ルームミラーに映る但野の顔はどんどん青ざめていった。
すべて本当のことなのだろう。

姉の目は本当に神の目なんだなとイルマは改めて実感した。テレビに出ているような、うさんくさい占い師たちとは比べ物にならないほど正確に目の前の相手のすべてがわかるのだ。

姉がしていることは脅迫という犯罪や、スコアの減点行為にあたるかもしれない。
だが、姉が但野が犯してきた犯罪を明るみにすれば、減点されたスコアの数百倍、数千倍が加点されることになるだろう。
両親が残してくれたスコアブックにも、そういう結果が記されていた。
両親もまた、犯罪者の罪を明るみにしたことがあったのだ。

そういえば、パンデミックのときも、姉は世界で最初の感染者が確認されるよりも何ヵ月も早く、不織布のマスクやウレタンのマスクをネットで大量に箱賀いしていた。
ウレタンマスクは、グレーやブラックといった従来のマスクの白いイメージと大きく異なっており、おしゃれな形をしているだけでなく、洗えば何度でも使うことができたが、当時はまだ韓国で流行っているファッションアイテムのひとつという認識の頃だった。
韓流ファッションに興味がない姉がなぜそんなものを買い占めたのか当時はわからなかったが、姉にはそこらへんにいるよく当たると評判の占い師やキリストやブッダの生まれ変わりを自称する宗教家ですら誰も予測できなかったパンデミックの発生を事前に知っていたのかもしれなかった。
大量の箱買いも、パンデミックの数ヶ月前なら何の問題もない行為だっただろう。

「旧・足切村のどこまで行けばいいんだ?」

「どこまでお送りしたらいいんでしょうか、だよね。わたしたち、お客様だし」

「どこまでお送りしたらいいでしょうか?」

「ねぇ、イルマ、足切神社に行こっか」

「足切神社?どうして?」

「イルマはお祭りのときにしか、あそこに行ったことないでしょ?」

確かに姉の言うとおりだった。
足切神社には年に一度の祭りどころか、もう何年も行ってはいなかった。

「そうだね。それにお祭りのときに御輿を担いだり、太鼓を叩いたりするのは、小学生や代々あの村に住む大人たちくらいだから、ぼくはもう何年も行ってないな」

パンデミックが起きた5年前、イルマは小学五年生だった。その年と次の年は祭りは行われなかった。
中学生になってからは、祭りには参加していなかった。屋台も出ないような小さな祭りだ。今年の足切祭にも参加するつもりもなかった。

「イルマに見せたいものがあるの」

「見せたいもの?」

「足切神社の御神体、足切様だよ」

「御神体は、神社の本殿の中にあるんじゃなかった?簡単には見れないと思うんだけど」

「神社の神主の家の子は、わたしの友達だから大丈夫だよ」

そういえば、姉は昔、よくその人と遊んでいたなと思った。イルマも遊んでもらったことがあった。高校生の頃の姉は学業とアルバイトで忙しく、その人が姉がいない時間帯に村戸家に来て、イルマの面倒を診てくれていたこともあった。

「足切萌衣(あしきりもえ)さんだっけ」

名前も覚えていた。確か今は足切神社の巫女をしている人だった。

「そうそう、よく覚えてたね」

イルマとエミリは帰宅する前に、旧・足切村の足切神社に寄ることにした。
神社は足切池と呼ばれる大きな池の中心の小島にあり、足切橋という橋を渡る。
タクシー運転手の但野が、美鶴という子どもを棄てたのがその池だった。

「運賃はいりませんので、その動画をSNSにアップすることだけはやめてもらえませんか?」

イルマたちを足切池の手前まで送ったタクシー運転手は涙ながらにそう言い、姉に土下座までした。額を地面に擦り付けていた。
土下座での謝罪が効くと思っているあたり、いかにも昭和生まれの平成育ちの田舎者だなと思った。

「だめだよ。あんたは人殺しで性犯罪者なんだから。それに、わたしの目的は、この動画であんたの犯罪を暴くことで、イルマのスコアとレベルを一気に上げることなんだもん」

「姉さんは、ぼくにその動画をアップさせるつもりなんだね」

「そうだよ。わたしが動画をアップしたって、これ以上E.O.P.レベルは上がらないから。でも、イルマがすれば、一気にE.O.P.レベルが20くらいまで上がるの」

「ぼくは、そんなことはしないよ、姉さん」

イルマは姉に向かってはっきりとそう言った。
姉がしていることは、暴露系や私人逮捕系と呼ばれる悪質なYouTuberそのものだったからだ。

「どうして?これは、イルマが思っているようなことじゃないんだよ。わたしもイルマも有名になることや広告収入で小銭を稼ぐことを目的にしてないでしょ」

但野をちらりと見ると、もう土下座はしていなかった。顔を上げ、安心したような顔をしていた。
この男にとって、自分は救世主か何かになってしまったのかもしれない。イルマはそう思うと少し癪だった。

「じゃあ、その動画は警察に提出したらいいんじゃない?」

聞き覚えのある声が聞こえた。
橋の向こうの足切神社の前からその声は聞こえていた。


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