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「足切萌衣さん……?」
小学生の頃によく遊んでくれたその人の姿にイルマはとても驚かされた。
巫女衣装の上にフード付きのローブをまとい、白杖をついていたからだった。
てっきり彼女は姉のようにとっくに白目病にかかり、E.O.P.レンズの手術を受けていたものだとばかり思っていた。
イルマの面倒をよく看てくれていた頃は、まだ白目病にかかってはいなかったのだ。
「池の水、全部抜いてみたっていう、誰が観てるのかよくわからない番組が、前にあったでしょ?この池はうちの土地のものだし、全部抜いてもらってもいいわ。警察の人もきっとその方が楽だと思うし。そうしたら、その人が棄てた子どもの遺体が見つかるんじゃないかしら」
「足切村の小娘どもは馬鹿ばっかりだな。美鶴はとっくに魚やプランクトンの餌になってるさ」
「だとしても、骨はきっと残ってる。DNA鑑定をすれば、あなたの子どもだとわかるはずよ」
「違うよ、萌衣。魚やプランクトンが食べられるような状態なら、美鶴ちゃんの死体はその体の中でガスが貯まって、浮き上がってきたはず。海に棄てた死体が見つかるときは大体そうだっていうでしょ?」
つまり、但野はガスがたまったとしても浮き上がってこないようにしていたということだ。
考えられる方法は、ひとつしかなかった。
「死体をセメントで固めて埋めたんだね。念のため重りもつけたんだよね。あんたはタクシー運転手にしては、鍛えすぎなくらい体を鍛えてる。死体と一緒に鉄アレイか何かをセメントで固めたんだろ」
「タクシー運転手が体を鍛えてたらおかしいのか?今の時代、そこらへんのサラリーマンや芸人だって無駄に体を鍛えてるじゃないか。仮にそういう死体が見つかったとして、俺がやったっていう証拠はあるのか?」
そういう台詞を言ってしまうこと自体が、自分が犯人だと言っているようなものだと、なぜ犯人というものは気づかないのだろう。
「鉄アレイについてた指紋はちゃんと拭いた?」
イルマの問いに、但野はハッという顔をした。
「セメントを使うときは、ちゃんと手袋をした。だから、鉄アレイを入れたときもしてたはずだ」
「でも、その鉄アレイ自体は普段は素手で使ってたんでしょう?ついたままですよ、指紋。セメントの方にも移ってるくらいじゃないかな」
そうは言ったが、セメントの中の鉄アレイの指紋がどうなっているかなど、高校生のイルマにはわかるはずがなかった。
だが、但野はまたハッとした顔をした。
どうやらあまり頭がよくない男のようだった。
「殺人はともかく、遺体遺棄は認めたようなもんだね。すごいね、イルマ」
「ちゃんと、撮っててくれた?」
「もちろん。ずっとスマホのカメラを回してたよ」
「ぼくが警察を呼ぶから、姉さんは少し下がって、そのままカメラを回してて。萌衣さんは神社の中に戻って。この人、何をするかわからないから。きっとぼくたちを殺そうと考えてる」
「その必要はありません。彼はわたしの『キャッスル』で無力化します」
「キャッスル?」
萌衣を見ると、彼女の目や鼻、口、耳といった穴から、小さな人のような存在が次々と顔を出すのが見えた。彼女が着ているフード付きローブの下の巫女衣装の裾からは、ワイヤーのようなもので吊るされている者たちもいた。
まるで、小人たちが彼女の体の穴という穴から現れたようだった。吊るされている者たちは下着の中から現れているのかもしれなかった。
その小人たちは、弓矢や火縄銃のようなものを手にしていた。
「かっこいいよねぇ。昔のお城みたいでしょ」
呆然としていたイルマに姉が言った。
「昔のお城には、攻められたときのために、たくさんの穴があって、そこから武器を持った兵士が敵兵を攻撃することができたんだ。それをあの子は自分の体でやってるんだよ」
天守や櫓、城壁に空いている穴で、「狭間」と呼ばれているもののことだった。
狭間は、矢や鉄砲で攻撃するための軍備設備であり、大きな穴から小さな穴まであり、長方形や正方形、円形、三角形と、様々な形をしている。
長方形の狭間は矢を用いるための「矢狭間」といい、その他の形は鉄砲のための「鉄砲狭間」だった。
「なにそれ……萌衣さんはロボットなの?」
「違うよ。超能力みたいなもの。わたしたちは『ギフト』って呼んでるけどね」
「ギフト?」
「能力自体のことを言うときはカタカナでギフト、能力者のことは漢字で『犠巫徒』。『犠』牲になる『巫』女や使『徒』って書くの」
「なんだぁ?その小人どもは?足切神社の巫女は呪いでもかけられてるのか?巫女って言ったって所詮は罪人の子孫だもんなぁっ!?」
「殺しちゃだめだよ、萌衣」
「わかってる。ギフトとはいえ人を殺したら、今の世の中一発退場どころか一発人体発火だからね」
キャッスルの狭間の小人たちは、無数の矢や銃弾を但野の足に浴びせた。
「だから、両足がちぎれるくらいにしてあげる」
矢や銃弾は発射されたときは爪楊枝や砂粒のように小さかった。
「ひぎぃやあああああっ!!」
但野の身体を撃ち抜いたときには、時代劇などでよく見る、人が使うものと同じサイズになっていた。
但野はこの村にかつていた両足を切られた罪人やその子孫と同じ身体になっていた。
矢や銃弾は物質ではなくエネルギーのようなものだったか、すぐに消えてしまった。
「萌衣~、傷害罪は結構なマイナスになるよ~」
「傷害罪じゃないでしょ?正当防衛。殺しちゃったら過剰防衛になっちゃうだけ。それに、わたしだけじゃなく、エミリちゃんやイルマくんを守ったわけだから、スコアはプラスになってるんじゃないかな?わたしには神の目がないからわからないけど」
「ほんとだ。プラスになってる。なんで?」
姉はどうやら他人のスコアまで見れるようだった。
「その人、タクシーの制服?の中にナイフ持ってるから」
そして、盲目のはずの萌衣には但野が服の中に隠していたナイフが「視えていた」ようだった。
「こいつ、まじでわたしたちを殺る気だったんだ?」
姉は呆れたようにうつ伏せに倒れていた但野を足で蹴飛ばし、仰向けにさせた。
「よかったね。今が江戸時代じゃなくて。足がちぎれただけじゃなく、あんたが馬鹿にしてた足切村の住人になってたところだよ。あんたみたいな犯罪者と一緒の村に住むなんてごめんだけどね」
姉はそう言ったが、
「なんだよ~。わたしのキメゼリフちゃんと聞いてよ~」
但野はもう意識を失っていた。
小学生の頃によく遊んでくれたその人の姿にイルマはとても驚かされた。
巫女衣装の上にフード付きのローブをまとい、白杖をついていたからだった。
てっきり彼女は姉のようにとっくに白目病にかかり、E.O.P.レンズの手術を受けていたものだとばかり思っていた。
イルマの面倒をよく看てくれていた頃は、まだ白目病にかかってはいなかったのだ。
「池の水、全部抜いてみたっていう、誰が観てるのかよくわからない番組が、前にあったでしょ?この池はうちの土地のものだし、全部抜いてもらってもいいわ。警察の人もきっとその方が楽だと思うし。そうしたら、その人が棄てた子どもの遺体が見つかるんじゃないかしら」
「足切村の小娘どもは馬鹿ばっかりだな。美鶴はとっくに魚やプランクトンの餌になってるさ」
「だとしても、骨はきっと残ってる。DNA鑑定をすれば、あなたの子どもだとわかるはずよ」
「違うよ、萌衣。魚やプランクトンが食べられるような状態なら、美鶴ちゃんの死体はその体の中でガスが貯まって、浮き上がってきたはず。海に棄てた死体が見つかるときは大体そうだっていうでしょ?」
つまり、但野はガスがたまったとしても浮き上がってこないようにしていたということだ。
考えられる方法は、ひとつしかなかった。
「死体をセメントで固めて埋めたんだね。念のため重りもつけたんだよね。あんたはタクシー運転手にしては、鍛えすぎなくらい体を鍛えてる。死体と一緒に鉄アレイか何かをセメントで固めたんだろ」
「タクシー運転手が体を鍛えてたらおかしいのか?今の時代、そこらへんのサラリーマンや芸人だって無駄に体を鍛えてるじゃないか。仮にそういう死体が見つかったとして、俺がやったっていう証拠はあるのか?」
そういう台詞を言ってしまうこと自体が、自分が犯人だと言っているようなものだと、なぜ犯人というものは気づかないのだろう。
「鉄アレイについてた指紋はちゃんと拭いた?」
イルマの問いに、但野はハッという顔をした。
「セメントを使うときは、ちゃんと手袋をした。だから、鉄アレイを入れたときもしてたはずだ」
「でも、その鉄アレイ自体は普段は素手で使ってたんでしょう?ついたままですよ、指紋。セメントの方にも移ってるくらいじゃないかな」
そうは言ったが、セメントの中の鉄アレイの指紋がどうなっているかなど、高校生のイルマにはわかるはずがなかった。
だが、但野はまたハッとした顔をした。
どうやらあまり頭がよくない男のようだった。
「殺人はともかく、遺体遺棄は認めたようなもんだね。すごいね、イルマ」
「ちゃんと、撮っててくれた?」
「もちろん。ずっとスマホのカメラを回してたよ」
「ぼくが警察を呼ぶから、姉さんは少し下がって、そのままカメラを回してて。萌衣さんは神社の中に戻って。この人、何をするかわからないから。きっとぼくたちを殺そうと考えてる」
「その必要はありません。彼はわたしの『キャッスル』で無力化します」
「キャッスル?」
萌衣を見ると、彼女の目や鼻、口、耳といった穴から、小さな人のような存在が次々と顔を出すのが見えた。彼女が着ているフード付きローブの下の巫女衣装の裾からは、ワイヤーのようなもので吊るされている者たちもいた。
まるで、小人たちが彼女の体の穴という穴から現れたようだった。吊るされている者たちは下着の中から現れているのかもしれなかった。
その小人たちは、弓矢や火縄銃のようなものを手にしていた。
「かっこいいよねぇ。昔のお城みたいでしょ」
呆然としていたイルマに姉が言った。
「昔のお城には、攻められたときのために、たくさんの穴があって、そこから武器を持った兵士が敵兵を攻撃することができたんだ。それをあの子は自分の体でやってるんだよ」
天守や櫓、城壁に空いている穴で、「狭間」と呼ばれているもののことだった。
狭間は、矢や鉄砲で攻撃するための軍備設備であり、大きな穴から小さな穴まであり、長方形や正方形、円形、三角形と、様々な形をしている。
長方形の狭間は矢を用いるための「矢狭間」といい、その他の形は鉄砲のための「鉄砲狭間」だった。
「なにそれ……萌衣さんはロボットなの?」
「違うよ。超能力みたいなもの。わたしたちは『ギフト』って呼んでるけどね」
「ギフト?」
「能力自体のことを言うときはカタカナでギフト、能力者のことは漢字で『犠巫徒』。『犠』牲になる『巫』女や使『徒』って書くの」
「なんだぁ?その小人どもは?足切神社の巫女は呪いでもかけられてるのか?巫女って言ったって所詮は罪人の子孫だもんなぁっ!?」
「殺しちゃだめだよ、萌衣」
「わかってる。ギフトとはいえ人を殺したら、今の世の中一発退場どころか一発人体発火だからね」
キャッスルの狭間の小人たちは、無数の矢や銃弾を但野の足に浴びせた。
「だから、両足がちぎれるくらいにしてあげる」
矢や銃弾は発射されたときは爪楊枝や砂粒のように小さかった。
「ひぎぃやあああああっ!!」
但野の身体を撃ち抜いたときには、時代劇などでよく見る、人が使うものと同じサイズになっていた。
但野はこの村にかつていた両足を切られた罪人やその子孫と同じ身体になっていた。
矢や銃弾は物質ではなくエネルギーのようなものだったか、すぐに消えてしまった。
「萌衣~、傷害罪は結構なマイナスになるよ~」
「傷害罪じゃないでしょ?正当防衛。殺しちゃったら過剰防衛になっちゃうだけ。それに、わたしだけじゃなく、エミリちゃんやイルマくんを守ったわけだから、スコアはプラスになってるんじゃないかな?わたしには神の目がないからわからないけど」
「ほんとだ。プラスになってる。なんで?」
姉はどうやら他人のスコアまで見れるようだった。
「その人、タクシーの制服?の中にナイフ持ってるから」
そして、盲目のはずの萌衣には但野が服の中に隠していたナイフが「視えていた」ようだった。
「こいつ、まじでわたしたちを殺る気だったんだ?」
姉は呆れたようにうつ伏せに倒れていた但野を足で蹴飛ばし、仰向けにさせた。
「よかったね。今が江戸時代じゃなくて。足がちぎれただけじゃなく、あんたが馬鹿にしてた足切村の住人になってたところだよ。あんたみたいな犯罪者と一緒の村に住むなんてごめんだけどね」
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