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姉のコピーと萌衣は玄関に向かって行った。
そして、扉を開けた瞬間にふたりが玄関で倒れる音がした。
イルマのそばでは姉も倒れていた。
ギフトによる攻撃としか考えられなかった。
「我が家の恥をわざわざ世間に晒してくれた奴がどんな奴か見に来てみれば、大したことなかったな」
トランスジェンダーの息子を、家の恥として殺した元自衛官は、やはりギフトを持っていた。
それも、萌衣のキャッスルに攻撃させることも許させず、姉をリモート・ワーカーズだけでなく姉ごと倒してしまうような強力なギフトだ。
「足切萌衣……こいつが足切神社の巫女か。この村のしきたりにしばられて目の手術が受けられなかったのか……あわれだな。こっちは、ギフトで作った偽物のようだが……狐野エミリ……?鵜山の話じゃ、村戸エミリじゃなかったか?」
鵜山?鵜山恭介と木村壮介が繋がっているとは考えにくかった。繋がっているとしたら、鵜山の家族だろうか。
鵜山の父親は厩戸見署の刑事だった。木村に情報を流せる鵜山はその父親しかいないだろう。
だとしたら、警察は完全な敵かもしれなかった。
7年も昔から姉たちはずっと目をつけられたままだったのだ。
ふたりが足切池から出てきた遺体について、自分たちで犯人を見付けようとしていたのは、警察を信じていなかったからかもしれない。
「あぁ、例の目の力で、人から見える名前を変えてるのか」
木村は間違いなく神の目を持っていた。
「村戸エミリにはイルマという弟がいるんだったな。上がらせてもらうか。おっと、まずいまずい。鑑識や刑事が足につけるビニール袋みたいなのを忘れるなって鵜山に言われてたな。下足痕を残すなって……はぁ、めんどくさいな。俺の足跡なんてなかったことにすりゃいいじゃねえか」
間違いなかった。警察は完全にこの男の味方なのだ。
「萌衣さんと姉さんを殺したのか?」
「死んじゃいない。仮死状態だよ。俺がギフトを解けば生命活動は再開する。もちろんその前に殺すけどな」
木村の手には拳銃があった。
ドラマなどで警察が持っている、リボルバー式の拳銃だった。
この男のギフトでは、対象の命まで奪うことができないため、警察が彼に銃を提供したのだ。
元自衛官であるこの男なら、銃の扱いに心得もある。
ギフトで対象を反撃できない状態にしてから射殺する。
暗殺向きの能力だった。
「どうやって萌衣さんと姉さんを倒した?」
「お前もギフトを持ってるんだろ?殺す相手を前にして、対策を練られるかもしれないのに、お前は能力をペラペラ喋るのか?」
確かにその通りだった。
姉の前で佐伯があんなに饒舌に話していたのは、あの亜空間の生徒指導室を出たら、その中で見聞きしたことをすべてを忘れるからでしかなかった。
その佐伯ですら、能力を説明する中で一部嘘をついていた。
目の前にいる木村壮介という男は、元自衛官であるだけでなく、息子を殺している。
そして、警察に雇われている暗殺者だった。話すはずがなかった。
「お前はなんで倒れないんだ?」
木村はすでにイルマに攻撃を仕掛けてきていたらしい。
その攻撃は何故かイルマには全く効いていなかった。
「もしかして、鵜山から俺のギフトが何なのか聞いてるのか?あいつ、俺を裏切りやがって!……いや、違う。お前、なんで五臓六腑が欠けてるんだ?」
木村は、そんなわけのわからないことを言いながら狼狽していた。
五臓とは、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓。それ以外に膵臓もある。
六腑とは、胆、小腸、胃、大腸、膀胱、三焦を指す。だが、三焦は人体にはあると信じられていたが実際には存在しないものであったため、正確には六蔵五腑になる。
自分にはそれが欠けている?そんな話、イルマは聞いたこともなかった。
五臓六腑の中には、肺や腎臓のように、左右にひとつずつあるものもあるが、それを摘出した記憶はない。手術痕もなかった。
「ぼくはまだギフトを持ってない。持っていないというか、目覚めてないんだ。白目病にはかかったし、目の手術もしたけど、自分がどんなギフトを持ってるか知らないんだよ。鵜山っていう人とは会ったこともない。だから、対策しようがない」
「じゃあ、無意識にギフトを使って、心臓と肺を隠してるってわけか。大したもんだな」
「心臓と肺がない?ぼくの体に?」
そんな人間が生きていられるはずがなかった。
この男の言うとおり、無意識にギフトを発動していない限りは。
だが、いまだにそのギフトが何なのか、イルマにはわからなかった。
「面倒だ。お前から殺させてもらう」
木村はそう言うと、拳銃をイルマに向けた。
「その男のギフトは『カノニカル・ファイブ』だよ」
聞き覚えのある声がした。
茶川ひよりの声だった。
そういえば、姉は捜査会議の真似事を始める前に、彼女に電話をかけてスピーカー通話にしていた。
彼女は仕事中でほとんど喋らなかったから、イルマはその存在自体を忘れていた。
「自分と対象の間に5つの共通点を見つけることで、その対象の生命活動を一時的に活動を停止させるギフト」
「なんだこの声は?どこから聞こえてきてる?そのスマホか」
木村は姉のスマホを拳銃一発で破壊した。正確な射撃だった。
「残念。そのスマホは囮だよ」
どうやら破壊されたのは、姉が以前使っていたものであり、通話状態にあるスマホは姉が着ている服のポケットの中かどこかのようだった。
ひよりの声自体は、Bluetoothスピーカーから聞こえてきていた。
「その男は、その五つの共通点をメアリー、アニー、エリザベス、キャサリン、ジェーンって言う風に女の人の名前で呼んでるみたいだね。メアリー・アン・ニコルズ、アニー・チャップマン、エリザベス・ストライド、キャサリン・エドウッズ、メアリー・ジェーン・ケリー、五人とも切り裂きジャックに殺されたとされてる人たち。通称『カノニカル・ファイブ』。他人との共通点を五つも探すことは難しいけど、この男はそれを人体の中に見いだした。何かわかる?」
「五臓六腑……」
「そう。人体には五臓六腑がある。その男のギフトは、わざわざ共通点を探さなくても、それを利用することが可能なんだ」
木村のギフトを解説してくれるのはありがたかったが、それを知ったところでイルマにはどうしようもなかった。
それよりも、イルマはひよりに自分の体に心臓や肺がないことの説明をしてほしかった。
そして、扉を開けた瞬間にふたりが玄関で倒れる音がした。
イルマのそばでは姉も倒れていた。
ギフトによる攻撃としか考えられなかった。
「我が家の恥をわざわざ世間に晒してくれた奴がどんな奴か見に来てみれば、大したことなかったな」
トランスジェンダーの息子を、家の恥として殺した元自衛官は、やはりギフトを持っていた。
それも、萌衣のキャッスルに攻撃させることも許させず、姉をリモート・ワーカーズだけでなく姉ごと倒してしまうような強力なギフトだ。
「足切萌衣……こいつが足切神社の巫女か。この村のしきたりにしばられて目の手術が受けられなかったのか……あわれだな。こっちは、ギフトで作った偽物のようだが……狐野エミリ……?鵜山の話じゃ、村戸エミリじゃなかったか?」
鵜山?鵜山恭介と木村壮介が繋がっているとは考えにくかった。繋がっているとしたら、鵜山の家族だろうか。
鵜山の父親は厩戸見署の刑事だった。木村に情報を流せる鵜山はその父親しかいないだろう。
だとしたら、警察は完全な敵かもしれなかった。
7年も昔から姉たちはずっと目をつけられたままだったのだ。
ふたりが足切池から出てきた遺体について、自分たちで犯人を見付けようとしていたのは、警察を信じていなかったからかもしれない。
「あぁ、例の目の力で、人から見える名前を変えてるのか」
木村は間違いなく神の目を持っていた。
「村戸エミリにはイルマという弟がいるんだったな。上がらせてもらうか。おっと、まずいまずい。鑑識や刑事が足につけるビニール袋みたいなのを忘れるなって鵜山に言われてたな。下足痕を残すなって……はぁ、めんどくさいな。俺の足跡なんてなかったことにすりゃいいじゃねえか」
間違いなかった。警察は完全にこの男の味方なのだ。
「萌衣さんと姉さんを殺したのか?」
「死んじゃいない。仮死状態だよ。俺がギフトを解けば生命活動は再開する。もちろんその前に殺すけどな」
木村の手には拳銃があった。
ドラマなどで警察が持っている、リボルバー式の拳銃だった。
この男のギフトでは、対象の命まで奪うことができないため、警察が彼に銃を提供したのだ。
元自衛官であるこの男なら、銃の扱いに心得もある。
ギフトで対象を反撃できない状態にしてから射殺する。
暗殺向きの能力だった。
「どうやって萌衣さんと姉さんを倒した?」
「お前もギフトを持ってるんだろ?殺す相手を前にして、対策を練られるかもしれないのに、お前は能力をペラペラ喋るのか?」
確かにその通りだった。
姉の前で佐伯があんなに饒舌に話していたのは、あの亜空間の生徒指導室を出たら、その中で見聞きしたことをすべてを忘れるからでしかなかった。
その佐伯ですら、能力を説明する中で一部嘘をついていた。
目の前にいる木村壮介という男は、元自衛官であるだけでなく、息子を殺している。
そして、警察に雇われている暗殺者だった。話すはずがなかった。
「お前はなんで倒れないんだ?」
木村はすでにイルマに攻撃を仕掛けてきていたらしい。
その攻撃は何故かイルマには全く効いていなかった。
「もしかして、鵜山から俺のギフトが何なのか聞いてるのか?あいつ、俺を裏切りやがって!……いや、違う。お前、なんで五臓六腑が欠けてるんだ?」
木村は、そんなわけのわからないことを言いながら狼狽していた。
五臓とは、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓。それ以外に膵臓もある。
六腑とは、胆、小腸、胃、大腸、膀胱、三焦を指す。だが、三焦は人体にはあると信じられていたが実際には存在しないものであったため、正確には六蔵五腑になる。
自分にはそれが欠けている?そんな話、イルマは聞いたこともなかった。
五臓六腑の中には、肺や腎臓のように、左右にひとつずつあるものもあるが、それを摘出した記憶はない。手術痕もなかった。
「ぼくはまだギフトを持ってない。持っていないというか、目覚めてないんだ。白目病にはかかったし、目の手術もしたけど、自分がどんなギフトを持ってるか知らないんだよ。鵜山っていう人とは会ったこともない。だから、対策しようがない」
「じゃあ、無意識にギフトを使って、心臓と肺を隠してるってわけか。大したもんだな」
「心臓と肺がない?ぼくの体に?」
そんな人間が生きていられるはずがなかった。
この男の言うとおり、無意識にギフトを発動していない限りは。
だが、いまだにそのギフトが何なのか、イルマにはわからなかった。
「面倒だ。お前から殺させてもらう」
木村はそう言うと、拳銃をイルマに向けた。
「その男のギフトは『カノニカル・ファイブ』だよ」
聞き覚えのある声がした。
茶川ひよりの声だった。
そういえば、姉は捜査会議の真似事を始める前に、彼女に電話をかけてスピーカー通話にしていた。
彼女は仕事中でほとんど喋らなかったから、イルマはその存在自体を忘れていた。
「自分と対象の間に5つの共通点を見つけることで、その対象の生命活動を一時的に活動を停止させるギフト」
「なんだこの声は?どこから聞こえてきてる?そのスマホか」
木村は姉のスマホを拳銃一発で破壊した。正確な射撃だった。
「残念。そのスマホは囮だよ」
どうやら破壊されたのは、姉が以前使っていたものであり、通話状態にあるスマホは姉が着ている服のポケットの中かどこかのようだった。
ひよりの声自体は、Bluetoothスピーカーから聞こえてきていた。
「その男は、その五つの共通点をメアリー、アニー、エリザベス、キャサリン、ジェーンって言う風に女の人の名前で呼んでるみたいだね。メアリー・アン・ニコルズ、アニー・チャップマン、エリザベス・ストライド、キャサリン・エドウッズ、メアリー・ジェーン・ケリー、五人とも切り裂きジャックに殺されたとされてる人たち。通称『カノニカル・ファイブ』。他人との共通点を五つも探すことは難しいけど、この男はそれを人体の中に見いだした。何かわかる?」
「五臓六腑……」
「そう。人体には五臓六腑がある。その男のギフトは、わざわざ共通点を探さなくても、それを利用することが可能なんだ」
木村のギフトを解説してくれるのはありがたかったが、それを知ったところでイルマにはどうしようもなかった。
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