情報迷宮≪実験≫都市アルゴリア -THE NEW WORLD MAKER-

あめの みかな

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#36

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「もしかしてイルマ、その顔は、こんな事件は警察にまかせるべきだと思ってる?」

「もしかしてもしなくても、そうだよ。ぼくたちが但野や佐伯をどうにかできたのはたまたまなんだから」

「萌衣はどう思ってる?」

「わたしは暇だからエミリちゃんに付き合うよ。エミリちゃんやイルマくんみたいに神の目はないけど、一応ギフトはあるし」

「巫女さんなのに、超殺傷能力が高いやつだしね」

イルマの目は、まだ神の目と呼べるほどのものではなかった。
ギフトにも目覚めていなかった。
だから、ふたりに危機が迫ったときに守れる自信がなかった。

それに、佐伯の言葉も気になっていた。
彼のギフト「エビング・ハウス」は、対象を亜空間に存在する生徒指導室に閉じ込め、徐々に認知症にしていくというものだった。そして、その空間から出て元の世界に戻ったとき、亜空間での記憶は失われるというものでもあった。
だから、その空間にいたときの記憶はイルマにはなかった。イルマの次に閉じ込められた姉と佐伯の会話を、リモート・ワーカーズ越しに聞いていただけだ。
だが、別れ際に佐伯は時分の能力の説明にひとつだけ嘘があったと姉やイルマに告げた。
それは、亜空間にいる間に認知症が発症するということであり、実際に認知症になるのは元の世界に戻った後だということだった。
イルマたちが今真っ先に考えるべきことは、足切他から発見された他の遺体の犯人を突き止めることではなかった。
佐伯のギフトによって植え付けられたいつ発症するかわからない認知症を、発症する前にどうにかすることだった。
ギフトを無効化するギフトか、ヒーラーのようなギフトを持つ犠巫徒を探すことだった。

だが、ふたりを止めることは自分には不可能だろう。
そもそもそんな都合のいいギフトを持つ者がいるのかどうかもわからなかった。
流されやすい自分に辟易しながらも、

「ねぇ姉さん、この人みたいに上司が部下の告発をすることもあるの?」

イルマは捜査会議のまねごとを続けることにした。

「わかんない。うちの会社ではないけど、よそならあるのかも。わたしの会社だったら、告発したい上司の秘密なら山ほどあるけど」

働くということは大変なんだなと思わされた。
この数日、会社に行って働いているのは姉ではなく、姉の小指から生まれたコピー『リモート・ワーカーズ』だったが。

「エミリちゃんって今流行りのAIを作るお仕事してるんだっけ?スカイネットとかマトリックスみたいなの作ってるの?」

「ちがうよ~。もっとくだらないやつ。Chart(チート)GPTって言ってね、ChatGPTができないことをやるAIを作ってるの」

「なんだか、昔ビックリマンシールの偽物を作ってた会社みたい」

「なにそれ?」

「本家はロッテでしょ?偽物はロッチだったの。昔は著作権とか今ほど厳しくなかったから、ガンダムの偽物でガンガルっていうのもいたんだよ」

「それって80年代とかの話でしょ?さてはあんた、おばさんだな?」

「ご覧の通りピチピチの24歳の巫女だよ」

「ピチピチ……え、ピチピチ?死語じゃん。おばさんじゃん。まぁ、いいや。早い話、うちの会社のAIが作ってるのは、エロ、グロ、ナンセンスな生成AI。フォトリアルな女の子や男の子が未成年に見えようがなんだろうがお構い無しのクズAI」

そういう会社だとは知っていたが、姉の口からはあまり聞きたくない話だった。

「まぁ、再来月にはChatGPTがエロ解禁するらしいから、うちがやってきたことは無駄になるかもだけど。うちはたぶん倫理観とか捨てて限度を知らないものを作るようになると思うんだよね」

今はもう、人間が生成AIに勝てる分野はそれくらいしか残っていないが、姉の会社はその分野すらも人間が敗北するようなAIを作っているのだという。

「ふぅん。じゃあ、イルマくんがエミリちゃんやわたしの写真を使って裸の画像とか作ったりできちゃうね」

そういうAIはすでに存在していた。
アメリカで、高校の卒業アルバムに写っていた同級生の女子たちを裸にした画像を作ったり男が逮捕されたこともあった。
姉の会社が作るとしたら、きっとただ裸にするだけのものではないだろう。ポーズやシチュエーションまで変えることができるものだろう。

スマホやパソコンを使えば誰でも簡単にできることだが、したこともないし、しようと思ったこともないことを、さもイルマがこれからするような言い方はやめてほしかった。
萌衣はそういうことを自分にしてほしいのだろうか?と勘ぐってしまった。

村戸家のインターホンが鳴ったのは、その直後のことだった。

「誰だろう?」

イルマは、もしかしたらクラスメイトの鵜山かもしれないと思った。
記憶にはなかったが、彼に住所を教えたことがあったかもしれなかった。

村戸家はモニター付きのインターホンだったから、来訪者の顔は見えた。
鵜山ではなく知らない中年の男だったからホッとした。
馬尾浩二(ばお こうじ)という名前だということや、年が49歳だということは顔を見ればわかった。

「姉さんの彼氏じゃないよね?」

「オジサンじゃん。こんな人と付き合うわけないよ」

「どんな人が訪ねてきたの?足切村の人じゃないの?」

「筋肉ムキムキマッチョマンの変態、かな?」

「じゃあ、トランスジェンダーの木村学さんを殺した元自衛官のお父さんってところかな」

「この人が木村壮介……?」

確かに木村壮介は49歳だった。

「気を付けた方がいいよ。たぶん、ギフトを持ってる」

「わかるの?」

「うん。どんなギフトかまではわからないけど、これだけ距離が近かったらギフトを持ってるかどうかくらいはわかるよ」

それだけではなかった。馬尾浩二が偽名だということは、E.O.P.レベルは90以上あるということだった。

姉は左手の中指を手から外した。
指はすぐに姉と同じ姿になった。

「わたしのコピーに玄関のドアを開けさせるね」

「わたしは、エミリちゃんのコピーの後ろで、すぐに『キャッスル』を出せるようにしとく」

「気をつけてね、萌衣さん」

「うん、ありがと、イルマくん」

姉のコピーと萌衣は玄関に向かって言った。

そして、扉を開けた瞬間にふたりが玄関で倒れる音がした。

トランスジェンダーの息子を、家の恥として殺した元自衛官は、やはりギフトを持っていた。


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