36 / 109
#36
しおりを挟む
「もしかしてイルマ、その顔は、こんな事件は警察にまかせるべきだと思ってる?」
「もしかしてもしなくても、そうだよ。ぼくたちが但野や佐伯をどうにかできたのはたまたまなんだから」
「萌衣はどう思ってる?」
「わたしは暇だからエミリちゃんに付き合うよ。エミリちゃんやイルマくんみたいに神の目はないけど、一応ギフトはあるし」
「巫女さんなのに、超殺傷能力が高いやつだしね」
イルマの目は、まだ神の目と呼べるほどのものではなかった。
ギフトにも目覚めていなかった。
だから、ふたりに危機が迫ったときに守れる自信がなかった。
それに、佐伯の言葉も気になっていた。
彼のギフト「エビング・ハウス」は、対象を亜空間に存在する生徒指導室に閉じ込め、徐々に認知症にしていくというものだった。そして、その空間から出て元の世界に戻ったとき、亜空間での記憶は失われるというものでもあった。
だから、その空間にいたときの記憶はイルマにはなかった。イルマの次に閉じ込められた姉と佐伯の会話を、リモート・ワーカーズ越しに聞いていただけだ。
だが、別れ際に佐伯は時分の能力の説明にひとつだけ嘘があったと姉やイルマに告げた。
それは、亜空間にいる間に認知症が発症するということであり、実際に認知症になるのは元の世界に戻った後だということだった。
イルマたちが今真っ先に考えるべきことは、足切他から発見された他の遺体の犯人を突き止めることではなかった。
佐伯のギフトによって植え付けられたいつ発症するかわからない認知症を、発症する前にどうにかすることだった。
ギフトを無効化するギフトか、ヒーラーのようなギフトを持つ犠巫徒を探すことだった。
だが、ふたりを止めることは自分には不可能だろう。
そもそもそんな都合のいいギフトを持つ者がいるのかどうかもわからなかった。
流されやすい自分に辟易しながらも、
「ねぇ姉さん、この人みたいに上司が部下の告発をすることもあるの?」
イルマは捜査会議のまねごとを続けることにした。
「わかんない。うちの会社ではないけど、よそならあるのかも。わたしの会社だったら、告発したい上司の秘密なら山ほどあるけど」
働くということは大変なんだなと思わされた。
この数日、会社に行って働いているのは姉ではなく、姉の小指から生まれたコピー『リモート・ワーカーズ』だったが。
「エミリちゃんって今流行りのAIを作るお仕事してるんだっけ?スカイネットとかマトリックスみたいなの作ってるの?」
「ちがうよ~。もっとくだらないやつ。Chart(チート)GPTって言ってね、ChatGPTができないことをやるAIを作ってるの」
「なんだか、昔ビックリマンシールの偽物を作ってた会社みたい」
「なにそれ?」
「本家はロッテでしょ?偽物はロッチだったの。昔は著作権とか今ほど厳しくなかったから、ガンダムの偽物でガンガルっていうのもいたんだよ」
「それって80年代とかの話でしょ?さてはあんた、おばさんだな?」
「ご覧の通りピチピチの24歳の巫女だよ」
「ピチピチ……え、ピチピチ?死語じゃん。おばさんじゃん。まぁ、いいや。早い話、うちの会社のAIが作ってるのは、エロ、グロ、ナンセンスな生成AI。フォトリアルな女の子や男の子が未成年に見えようがなんだろうがお構い無しのクズAI」
そういう会社だとは知っていたが、姉の口からはあまり聞きたくない話だった。
「まぁ、再来月にはChatGPTがエロ解禁するらしいから、うちがやってきたことは無駄になるかもだけど。うちはたぶん倫理観とか捨てて限度を知らないものを作るようになると思うんだよね」
今はもう、人間が生成AIに勝てる分野はそれくらいしか残っていないが、姉の会社はその分野すらも人間が敗北するようなAIを作っているのだという。
「ふぅん。じゃあ、イルマくんがエミリちゃんやわたしの写真を使って裸の画像とか作ったりできちゃうね」
そういうAIはすでに存在していた。
アメリカで、高校の卒業アルバムに写っていた同級生の女子たちを裸にした画像を作ったり男が逮捕されたこともあった。
姉の会社が作るとしたら、きっとただ裸にするだけのものではないだろう。ポーズやシチュエーションまで変えることができるものだろう。
スマホやパソコンを使えば誰でも簡単にできることだが、したこともないし、しようと思ったこともないことを、さもイルマがこれからするような言い方はやめてほしかった。
萌衣はそういうことを自分にしてほしいのだろうか?と勘ぐってしまった。
村戸家のインターホンが鳴ったのは、その直後のことだった。
「誰だろう?」
イルマは、もしかしたらクラスメイトの鵜山かもしれないと思った。
記憶にはなかったが、彼に住所を教えたことがあったかもしれなかった。
村戸家はモニター付きのインターホンだったから、来訪者の顔は見えた。
鵜山ではなく知らない中年の男だったからホッとした。
馬尾浩二(ばお こうじ)という名前だということや、年が49歳だということは顔を見ればわかった。
「姉さんの彼氏じゃないよね?」
「オジサンじゃん。こんな人と付き合うわけないよ」
「どんな人が訪ねてきたの?足切村の人じゃないの?」
「筋肉ムキムキマッチョマンの変態、かな?」
「じゃあ、トランスジェンダーの木村学さんを殺した元自衛官のお父さんってところかな」
「この人が木村壮介……?」
確かに木村壮介は49歳だった。
「気を付けた方がいいよ。たぶん、ギフトを持ってる」
「わかるの?」
「うん。どんなギフトかまではわからないけど、これだけ距離が近かったらギフトを持ってるかどうかくらいはわかるよ」
それだけではなかった。馬尾浩二が偽名だということは、E.O.P.レベルは90以上あるということだった。
姉は左手の中指を手から外した。
指はすぐに姉と同じ姿になった。
「わたしのコピーに玄関のドアを開けさせるね」
「わたしは、エミリちゃんのコピーの後ろで、すぐに『キャッスル』を出せるようにしとく」
「気をつけてね、萌衣さん」
「うん、ありがと、イルマくん」
姉のコピーと萌衣は玄関に向かって言った。
そして、扉を開けた瞬間にふたりが玄関で倒れる音がした。
トランスジェンダーの息子を、家の恥として殺した元自衛官は、やはりギフトを持っていた。
「もしかしてもしなくても、そうだよ。ぼくたちが但野や佐伯をどうにかできたのはたまたまなんだから」
「萌衣はどう思ってる?」
「わたしは暇だからエミリちゃんに付き合うよ。エミリちゃんやイルマくんみたいに神の目はないけど、一応ギフトはあるし」
「巫女さんなのに、超殺傷能力が高いやつだしね」
イルマの目は、まだ神の目と呼べるほどのものではなかった。
ギフトにも目覚めていなかった。
だから、ふたりに危機が迫ったときに守れる自信がなかった。
それに、佐伯の言葉も気になっていた。
彼のギフト「エビング・ハウス」は、対象を亜空間に存在する生徒指導室に閉じ込め、徐々に認知症にしていくというものだった。そして、その空間から出て元の世界に戻ったとき、亜空間での記憶は失われるというものでもあった。
だから、その空間にいたときの記憶はイルマにはなかった。イルマの次に閉じ込められた姉と佐伯の会話を、リモート・ワーカーズ越しに聞いていただけだ。
だが、別れ際に佐伯は時分の能力の説明にひとつだけ嘘があったと姉やイルマに告げた。
それは、亜空間にいる間に認知症が発症するということであり、実際に認知症になるのは元の世界に戻った後だということだった。
イルマたちが今真っ先に考えるべきことは、足切他から発見された他の遺体の犯人を突き止めることではなかった。
佐伯のギフトによって植え付けられたいつ発症するかわからない認知症を、発症する前にどうにかすることだった。
ギフトを無効化するギフトか、ヒーラーのようなギフトを持つ犠巫徒を探すことだった。
だが、ふたりを止めることは自分には不可能だろう。
そもそもそんな都合のいいギフトを持つ者がいるのかどうかもわからなかった。
流されやすい自分に辟易しながらも、
「ねぇ姉さん、この人みたいに上司が部下の告発をすることもあるの?」
イルマは捜査会議のまねごとを続けることにした。
「わかんない。うちの会社ではないけど、よそならあるのかも。わたしの会社だったら、告発したい上司の秘密なら山ほどあるけど」
働くということは大変なんだなと思わされた。
この数日、会社に行って働いているのは姉ではなく、姉の小指から生まれたコピー『リモート・ワーカーズ』だったが。
「エミリちゃんって今流行りのAIを作るお仕事してるんだっけ?スカイネットとかマトリックスみたいなの作ってるの?」
「ちがうよ~。もっとくだらないやつ。Chart(チート)GPTって言ってね、ChatGPTができないことをやるAIを作ってるの」
「なんだか、昔ビックリマンシールの偽物を作ってた会社みたい」
「なにそれ?」
「本家はロッテでしょ?偽物はロッチだったの。昔は著作権とか今ほど厳しくなかったから、ガンダムの偽物でガンガルっていうのもいたんだよ」
「それって80年代とかの話でしょ?さてはあんた、おばさんだな?」
「ご覧の通りピチピチの24歳の巫女だよ」
「ピチピチ……え、ピチピチ?死語じゃん。おばさんじゃん。まぁ、いいや。早い話、うちの会社のAIが作ってるのは、エロ、グロ、ナンセンスな生成AI。フォトリアルな女の子や男の子が未成年に見えようがなんだろうがお構い無しのクズAI」
そういう会社だとは知っていたが、姉の口からはあまり聞きたくない話だった。
「まぁ、再来月にはChatGPTがエロ解禁するらしいから、うちがやってきたことは無駄になるかもだけど。うちはたぶん倫理観とか捨てて限度を知らないものを作るようになると思うんだよね」
今はもう、人間が生成AIに勝てる分野はそれくらいしか残っていないが、姉の会社はその分野すらも人間が敗北するようなAIを作っているのだという。
「ふぅん。じゃあ、イルマくんがエミリちゃんやわたしの写真を使って裸の画像とか作ったりできちゃうね」
そういうAIはすでに存在していた。
アメリカで、高校の卒業アルバムに写っていた同級生の女子たちを裸にした画像を作ったり男が逮捕されたこともあった。
姉の会社が作るとしたら、きっとただ裸にするだけのものではないだろう。ポーズやシチュエーションまで変えることができるものだろう。
スマホやパソコンを使えば誰でも簡単にできることだが、したこともないし、しようと思ったこともないことを、さもイルマがこれからするような言い方はやめてほしかった。
萌衣はそういうことを自分にしてほしいのだろうか?と勘ぐってしまった。
村戸家のインターホンが鳴ったのは、その直後のことだった。
「誰だろう?」
イルマは、もしかしたらクラスメイトの鵜山かもしれないと思った。
記憶にはなかったが、彼に住所を教えたことがあったかもしれなかった。
村戸家はモニター付きのインターホンだったから、来訪者の顔は見えた。
鵜山ではなく知らない中年の男だったからホッとした。
馬尾浩二(ばお こうじ)という名前だということや、年が49歳だということは顔を見ればわかった。
「姉さんの彼氏じゃないよね?」
「オジサンじゃん。こんな人と付き合うわけないよ」
「どんな人が訪ねてきたの?足切村の人じゃないの?」
「筋肉ムキムキマッチョマンの変態、かな?」
「じゃあ、トランスジェンダーの木村学さんを殺した元自衛官のお父さんってところかな」
「この人が木村壮介……?」
確かに木村壮介は49歳だった。
「気を付けた方がいいよ。たぶん、ギフトを持ってる」
「わかるの?」
「うん。どんなギフトかまではわからないけど、これだけ距離が近かったらギフトを持ってるかどうかくらいはわかるよ」
それだけではなかった。馬尾浩二が偽名だということは、E.O.P.レベルは90以上あるということだった。
姉は左手の中指を手から外した。
指はすぐに姉と同じ姿になった。
「わたしのコピーに玄関のドアを開けさせるね」
「わたしは、エミリちゃんのコピーの後ろで、すぐに『キャッスル』を出せるようにしとく」
「気をつけてね、萌衣さん」
「うん、ありがと、イルマくん」
姉のコピーと萌衣は玄関に向かって言った。
そして、扉を開けた瞬間にふたりが玄関で倒れる音がした。
トランスジェンダーの息子を、家の恥として殺した元自衛官は、やはりギフトを持っていた。
0
あなたにおすすめの小説
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
10年ぶりに現れた正ヒロインが強すぎて、10年来のダメ系幼馴染型ヒロインが敗北しそうな件について。
神崎あら
青春
10年ぶりに再会した彼女はまさに正ヒロインと呼ぶにふさわしい容姿、性格、人望を手にしていた。
それに対して10年間一緒にいた幼馴染は、堕落し酒に溺れ、泰平の世話なしには生きられないペットのような生き物になっている。
そんな対照的な2人のヒロインが戦う(一方的にダメ幼馴染が社会的にボコられる)物語が今始まる!!
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる