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でも、確かに自分は面食いかもしれないなと思うときもイルマにはあった。
「同じ元自衛官なら、こないだ、深夜のキャンプ番組に出てたキャンプ系YouTuberがかわいかったよ。まぁ、その何週間か後にゲストに来た福袋光子ちゃんの方が何倍もかわいかったけど」
こんな言葉がさらりと出てしまうくらいには。
幼い頃から、姉や萌衣が身近にいたからかもしれなかった。
「それはわたしや萌衣よりもってことなのかな?」
「姉さんや萌衣さんほどではないです……」
「ねぇ、エミリちゃん、その子誰?有名な子?」
「去年か一昨年くらいから有名かな。あーあー、わたしも競艇とかパチンコにはまったりしようかなー。推しの競艇選手とか作ろうかなー」
「あ、それは違うよ、姉さん。そういうとこだけ真似されても、逆に引く」
「引く!?」
「え?引いちゃうの!?」
「んー、たとえば姉さんが好きなアイドルがいるとするでしょ?で、姉さんに好かれたいからって、同じ趣味をぼくが始めたとするじゃん?それでぼくがそのアイドルに勝てると思う?」
「はて?イルマよりかわいいアイドルなんてこの世にいないんだが?」
そうだった。
この姉はそういうことを平気で言ってくる人だったとイルマは改めて思い知らされた。
「エミリちゃん、その福袋み……じゃなかった。木村壮介って人が息子さん?娘さん?どっちになるのかな?その人を殺した動機ってわかる?」
「わかるよ。遺体を見たとき、ちゃんとスマホにメモしといたから。えっと、『父親・木村壮介によって、家の恥としてを抹殺された』って」
「それは、木村学さんがトランスジェンダーだったからってことでいいのかな?よくはないけど。家の恥ってところ」
「たぶんね。でも、実際は家の恥っていうより、父親の“理想の息子像”を壊された怒りかも」
「なんか、そういうドラマ、萌衣さんと昔一緒に見た気がする。そのドラマだと、子どもが親を殺そうとしてたけど」
「セトウツミかな?あれは名作だったよね。ねぇ、木村壮介もギフトを持ってるの?エミリちゃんにはそこまではわからないんだっけ?」
「うん……でも、もしギフトを持ってるとしたら、ギフトはその人の人間性や願望が反映されることが多いから……たぶん能力のモチーフには自己否定みたいなものがあるんじゃないかな」
「自己否定?」
「うん。トランスジェンダーの子は何にも悪くないけど、時代遅れのその父親にとっては息子の存在が自分の存在すら否定しかねないものだったと思うんだよね。それが遺伝子的なものだと思ってるのか、育て方を間違えたと思ってるのかどうかまではわからないけどね」
そういうものなのかとイルマは思った。
「わかんないよ。勘だよ、勘」
姉はそう言ったけれど、いまだに自分のギフトが何かもわからないでいるイルマにとって、『ギフトは持ち主の人間性や願望が反映される』、それは大きなヒントになるような気がした。
「あ、犯人の名前、わたしならこうやってわかるけど、犯人が今もその名前を名乗ってるかどうかわからないからね?」
「どういうこと?佐伯が、離婚前の婿養子の頃の苗字を名乗ってたみたいな感じ?」
「ううん。E.O.P.レベルが90以上になれば、他人から見える自分のデータを書き換えることができるようになるの。佐伯は手術を受けてなかったから特例みたいな感じ」
それは、はじめて知る情報だった。
萌衣も驚いていた。
姉によれば、レベル90になると、視界にマウスカーソルやキーボードのようなものが現れるようになるという。
それらは指では操作できないが、目の焦点を合わせるだけで操作可能になるそうだった。
つまり、自分の名前を書き換えたいときは、マウスカーソルを合わせ、DeleteキーかBackspaceキーで一度名前を削除したあと、新しい名前を入力すればいいらしい。
「じゃあ姉さんの苗字が、狐野(きつねの)になってるのって……」
「そうだよ。自分で書き換えたの。やっと訊いてきてくれたね。もしかして、親が再婚同士で、連れ子同士で、実はわたしと血が繋がってないとか期待した?」
「期待はしてないよ、別に」
イルマがそう言うと、姉はむくれた。
「少しは期待しろ、ばか」
むくれながら、小さな声でそんなことを言った。
彼氏がいる人が何を言ってるんだろうなと思ったが、悪い気はしなかった。
「イルマくん、今のは謝った方がいいんじゃない?」
「そうなの?姉さんの平常運転だよ?」
萌衣は呆れていた。
それがエミリに対しての呆れだったのか、自分に対してのものだったのか、イルマにはわからなかった。
2つ目の遺体は、佐藤千尋。42歳。
地元銀行の女性支店長だったらしい。
犯人は部下の男性行員で、名前は工藤明というそうだ。
彼女は工藤の不正を内部告発をしようとして殺されてしまったという。
「不正って、少し前にどこかの銀行で逮捕者が出てた、貸金庫の中身を盗んでたようなことかな?」
「うーん。不正ってことしかわからなかった。遺体を見たのは一瞬だけだったし。犯人のギフトは、正義感と保身が対立してる感じかも」
天使と悪魔が囁いているような、古い漫画やアニメでよくある、あんなイメージだろうか。
「池の水が抜かれたことで、初めて彼女の“正義”が報われるかもしれないね」
萌衣が言った。確かにその通りかもしれなかった。
「そうだね。わたしたちが犯人を見つけてこらしめてやらなきゃね」
姉はすっかり全員を佐伯のように凝らしめる気になっていた。
でなければ、そもそもこんな捜査会議のまねごとのようなことはしていなかっただろう。
だが、そんなことは警察にまかせてしまえば良いことだった。
佐伯の自首を促したのは姉やイルマや萌衣だったが、彼がギフトを持つ犠巫徒と呼ばれる存在だったのはたまたまだろう。
タクシー運転手の但野は、ギフトは持っていなかった。
駐在だった花野も警察がすぐに逮捕できたのだから、ギフトは持っていなかっただろう。
仮に佐伯のようにギフトを持つ犯人がいたとしても、警察にまかせるべきだった。
特に姉は過去に木島や萌衣と行っていた指名手配犯の潜伏先の通報の繰り返しで警察に目をつけられていたこともある。
すでに書店やコンビニには、茶川ひよりーー塗壁木綿原作の漫画が掲載された雑誌が流通もしていた。
足切池から発見された遺体と似たような形で発見された遺体に、同じ名が記された予言書のような漫画だ。
「同じ元自衛官なら、こないだ、深夜のキャンプ番組に出てたキャンプ系YouTuberがかわいかったよ。まぁ、その何週間か後にゲストに来た福袋光子ちゃんの方が何倍もかわいかったけど」
こんな言葉がさらりと出てしまうくらいには。
幼い頃から、姉や萌衣が身近にいたからかもしれなかった。
「それはわたしや萌衣よりもってことなのかな?」
「姉さんや萌衣さんほどではないです……」
「ねぇ、エミリちゃん、その子誰?有名な子?」
「去年か一昨年くらいから有名かな。あーあー、わたしも競艇とかパチンコにはまったりしようかなー。推しの競艇選手とか作ろうかなー」
「あ、それは違うよ、姉さん。そういうとこだけ真似されても、逆に引く」
「引く!?」
「え?引いちゃうの!?」
「んー、たとえば姉さんが好きなアイドルがいるとするでしょ?で、姉さんに好かれたいからって、同じ趣味をぼくが始めたとするじゃん?それでぼくがそのアイドルに勝てると思う?」
「はて?イルマよりかわいいアイドルなんてこの世にいないんだが?」
そうだった。
この姉はそういうことを平気で言ってくる人だったとイルマは改めて思い知らされた。
「エミリちゃん、その福袋み……じゃなかった。木村壮介って人が息子さん?娘さん?どっちになるのかな?その人を殺した動機ってわかる?」
「わかるよ。遺体を見たとき、ちゃんとスマホにメモしといたから。えっと、『父親・木村壮介によって、家の恥としてを抹殺された』って」
「それは、木村学さんがトランスジェンダーだったからってことでいいのかな?よくはないけど。家の恥ってところ」
「たぶんね。でも、実際は家の恥っていうより、父親の“理想の息子像”を壊された怒りかも」
「なんか、そういうドラマ、萌衣さんと昔一緒に見た気がする。そのドラマだと、子どもが親を殺そうとしてたけど」
「セトウツミかな?あれは名作だったよね。ねぇ、木村壮介もギフトを持ってるの?エミリちゃんにはそこまではわからないんだっけ?」
「うん……でも、もしギフトを持ってるとしたら、ギフトはその人の人間性や願望が反映されることが多いから……たぶん能力のモチーフには自己否定みたいなものがあるんじゃないかな」
「自己否定?」
「うん。トランスジェンダーの子は何にも悪くないけど、時代遅れのその父親にとっては息子の存在が自分の存在すら否定しかねないものだったと思うんだよね。それが遺伝子的なものだと思ってるのか、育て方を間違えたと思ってるのかどうかまではわからないけどね」
そういうものなのかとイルマは思った。
「わかんないよ。勘だよ、勘」
姉はそう言ったけれど、いまだに自分のギフトが何かもわからないでいるイルマにとって、『ギフトは持ち主の人間性や願望が反映される』、それは大きなヒントになるような気がした。
「あ、犯人の名前、わたしならこうやってわかるけど、犯人が今もその名前を名乗ってるかどうかわからないからね?」
「どういうこと?佐伯が、離婚前の婿養子の頃の苗字を名乗ってたみたいな感じ?」
「ううん。E.O.P.レベルが90以上になれば、他人から見える自分のデータを書き換えることができるようになるの。佐伯は手術を受けてなかったから特例みたいな感じ」
それは、はじめて知る情報だった。
萌衣も驚いていた。
姉によれば、レベル90になると、視界にマウスカーソルやキーボードのようなものが現れるようになるという。
それらは指では操作できないが、目の焦点を合わせるだけで操作可能になるそうだった。
つまり、自分の名前を書き換えたいときは、マウスカーソルを合わせ、DeleteキーかBackspaceキーで一度名前を削除したあと、新しい名前を入力すればいいらしい。
「じゃあ姉さんの苗字が、狐野(きつねの)になってるのって……」
「そうだよ。自分で書き換えたの。やっと訊いてきてくれたね。もしかして、親が再婚同士で、連れ子同士で、実はわたしと血が繋がってないとか期待した?」
「期待はしてないよ、別に」
イルマがそう言うと、姉はむくれた。
「少しは期待しろ、ばか」
むくれながら、小さな声でそんなことを言った。
彼氏がいる人が何を言ってるんだろうなと思ったが、悪い気はしなかった。
「イルマくん、今のは謝った方がいいんじゃない?」
「そうなの?姉さんの平常運転だよ?」
萌衣は呆れていた。
それがエミリに対しての呆れだったのか、自分に対してのものだったのか、イルマにはわからなかった。
2つ目の遺体は、佐藤千尋。42歳。
地元銀行の女性支店長だったらしい。
犯人は部下の男性行員で、名前は工藤明というそうだ。
彼女は工藤の不正を内部告発をしようとして殺されてしまったという。
「不正って、少し前にどこかの銀行で逮捕者が出てた、貸金庫の中身を盗んでたようなことかな?」
「うーん。不正ってことしかわからなかった。遺体を見たのは一瞬だけだったし。犯人のギフトは、正義感と保身が対立してる感じかも」
天使と悪魔が囁いているような、古い漫画やアニメでよくある、あんなイメージだろうか。
「池の水が抜かれたことで、初めて彼女の“正義”が報われるかもしれないね」
萌衣が言った。確かにその通りかもしれなかった。
「そうだね。わたしたちが犯人を見つけてこらしめてやらなきゃね」
姉はすっかり全員を佐伯のように凝らしめる気になっていた。
でなければ、そもそもこんな捜査会議のまねごとのようなことはしていなかっただろう。
だが、そんなことは警察にまかせてしまえば良いことだった。
佐伯の自首を促したのは姉やイルマや萌衣だったが、彼がギフトを持つ犠巫徒と呼ばれる存在だったのはたまたまだろう。
タクシー運転手の但野は、ギフトは持っていなかった。
駐在だった花野も警察がすぐに逮捕できたのだから、ギフトは持っていなかっただろう。
仮に佐伯のようにギフトを持つ犯人がいたとしても、警察にまかせるべきだった。
特に姉は過去に木島や萌衣と行っていた指名手配犯の潜伏先の通報の繰り返しで警察に目をつけられていたこともある。
すでに書店やコンビニには、茶川ひよりーー塗壁木綿原作の漫画が掲載された雑誌が流通もしていた。
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