情報迷宮≪実験≫都市アルゴリア -THE NEW WORLD MAKER-

あめの みかな

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#39

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「鵜山恭介がここにいたら、どうしてた?ぼくたちを殺すのをやめたか?」

「イレギュラーな存在がいたとしても排除しろと言われていた。だから殺しただろうな。鵜山京一郎が息子の死体を見つけることになったとしても、俺はあいつの命令にしたがっただけだ」

やはり鵜山恭介をここに来させなくて正解だった。
何かひとつでも歯車が狂っていたら、この木村を倒せるかどうかわからなかった。

「殺さないのか?俺を」

「姉さん、木島さんに電話して。こいつを警察に送りつける」

木島玲のギフトならそれが可能だった。

「わかった。イルマはちゃんとそいつを押さえ付けてて」

言われなくてもそのつもりだった。

「おい、聞いてるのか?何故俺を殺さない?」

「お前を殺したら、お前と同じ殺人者に堕ちるからだよ。それに、お前はトランスジェンダーの息子を家の恥だとして殺したんだろ?だったら、ぼくの役目はお前こそが家の恥だったことを世間に知らしめてやることだ」

「俺の罪を見逃す代わりにお前たちを殺すよう命じた警察が、俺の罪を公にすると思うか?」

「思うさ。お前はぼくたちの暗殺に失敗したんだからな。もう用済みだろ?」

警察、警察と言っているが、この男に暗殺を命じたのは、警察ではなくあくまで鵜山京一郎個人だろう。
そして、鵜山は厩戸見署の刑事でしかない。県警本部の人間ですらない。
この男が鵜山の命令でイルマや姉や萌衣を殺そうとしたことが分かれば、鵜山の立場も危うくなるだろう。

「ここで終わりか……」

それは木村もわかっているようだった。
木島に電話をかけ終わった姉は、木村に向かってスマホのカメラを向けていた。動画を撮っているのだろう。
この男が切られるのは間違いないが、警察が鵜山を守ろうとする可能性もある。そう考えたのだ。その場合はYouTubeに動画を公開するしかなくなる。

「お前たちは足切神社の巫女がバックについてていいな。そこにいる足切神社の巫女は、お前たち姉弟を大切に思ってるようだし、木島家の息子を電話で呼んだってことは、木島家ともうまくやってるってことか」

「バックについてるつもりはないよ。エミリちゃんはわたしの大切な友達。イルマくんはかわいい弟みたいな存在。うちは妹しかいないし。玲くんーー木島の家の子は高校のときからエミリちゃんが好きなだけ」

「それをバックについてるっていうんだよ。無敵じゃないか」

「え?マジで?木島はあんたの許嫁じゃん?なんでわたし?」

「足切神社に女の子しか生まれなかったら木島の家の男の子を婿養子にするなんて、21世紀にもなって馬鹿げてると思わない?」

確かに馬鹿げた話だった。
21世紀にもなって、信じる神が違うからとか、隣の国の資源がほしいからという理由で戦争をしている国くらい馬鹿げていた。

「わたしも玲くんもいい加減それをやめたいの。それは、中学生のときから玲くんと話してた。そしたら高校生のときに、エミリちゃんが来た。玲くんはエミリちゃんに一目惚れしたんだよ」

「木島はやだなぁ。友達ならちょうどいいけど」

イルマも、彼を義兄さんとは呼びたくなかった。

「わたしだってそうだよ。玲くんは友達がちょうどいい人だもん」

今まさにここに向かってきているであろう木島も、まさかそんな話をかれているとは思わないだろうと思った。

「それじゃあ、萌衣は?萌衣はどうするの?」

「わたしは結婚はしないよ。妹たちには白目病の手術をちゃんと受けさせたし、好きな人が出来たら、足切の家を出てもいいって言ってある」

神主だった父親はもういない。
体が死蝋化していくギフトを持ってしまったために、死蝋化が進み人の形でいることさえできなくなって萌衣の影の一部になっていた。
その父親は足切池の底にあった地下水の入り口を塞いでいる。そこには昨日、木島たちによってセメントが流し込まれている。

母親や祖父母はまだ存命のはずだが、表に出てくることはほとんどなかった。
今、足切神社を仕切っているのはほとんど萌衣だった。

「わたしの代で足切神社は終わり。もう池は埋めたし、神社も御神体もわたしの代で壊そうと思ってる。玲くんとはそういう話も進めてる。どうするかはまだ決めてないけど、たぶん火事に見せかけて火をつけることになると思う」

萌衣の決意は固そうだった。
廃社というやつだろうか。
神道ならよその土地に新たに神社を建てて、御神体と共に神をその地に移したりするのだろう。
足切神社は黄泉路(よみじ)という裏の神道、黄泉の国の神を崇める神社のひとつだったから、どうなるかまではイルマにはわからなかった。

「あんたは足切村に恨みでもあるこか?ギフトを持ってるっていうことは、あんたもこの村の出身だったんだろ?」

お前たちは足切神社の巫女がバックについてていいな。
木村は確かに先ほどそう言った。それがイルマには気になっていた。

「ぼくや姉さんの目に見える名前を変えているってことは、あんたは白目病の手術も受けてて、E.O.P.レベルが90以上ってことだ」

木村が足切村の出身であることは間違いなかった。

「恨んでるさ。村八分にされて、村を出ていくことさえ許されず、夜逃げするしかなかった家の子どもが、この村を恨まないとでも思うか?」

そういう理由かと納得した。
息子を殺した罪をもみ消してもらえるとはいえ、暗殺依頼を引き受けたのも納得がいった。
息子の死体を足切池に棄てたこともだった。

「村八分……木村と鵜山……どちらも40年ほど前、わたしの祖父が神主をしていた時代にこの村にあった家ですね」

萌衣は何か知っているようだった。
木村だけでなく、鵜沼も足切村から出た家というのは驚きだった。
鵜沼京一郎は当然知っているだろうが、息子の恭介は知っているのだろうか。

40年前ということは時代はまだ昭和だ。バブルと呼ばれた時代の真っ只中だろうか。
平成にあった市町村合併よりもはるか前、20年ほどは前であり、この村が旧・足切村ではなく、本当にまだ足切村だった頃の話だった。

「田舎は常に監視されてるだろ?この村の住人たちは、いまだに監視しあってるんじゃないのか?」

「そうだね。この村の人たちはいまだにそうだね」

萌衣が答えた。

「だから、わたしは白目病の手術さえ受けさせてもらえなかった。足切神社の代々の神主や巫女は、ずっと白目病を受け入れてきたから。わたしも受け入れなきゃいけなかった」

それは、とても重い、

「お前もこの村の被害者というわけか。厄介な家に生まれたな」

重すぎるくらい重い話だった。

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