情報迷宮≪実験≫都市アルゴリア -THE NEW WORLD MAKER-

あめの みかな

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#44

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「それが黄泉路のはじまり?」

「そうだよ。その人のせいでうちのご先祖様は罪人にされて足を切られてしまったの」

「どうして?」

「本当の罪人は足切根守左衛門じゃなくて、兄の西日野枝杜左衛門(えもりざえもん)だったから」

根守左衛門が足切という苗字になったのは、罪人として足を切られて、この村に送られてからだったということなのだろう。

「300年前、西日野神社はY市にはなかったの。このあたりの干拓を進めたT藩にあったの。700年くらい前には、もう黄泉路と西日野神社はT藩にあったんだ」

700年前といえば、鎌倉時代の末期だ。そんな頃にはもう黄泉路が存在していたことにイルマはとても驚かされた。

1325年なら「建長寺船」の派遣、「正中地震」の発生といった出来事があったはずだ。
建長寺船は、鎌倉の建長寺の伽藍修繕費を捻出するため、元への貿易と文化交流を目的として出航した。
これには禅僧の中巌円月らが同乗し、元の文化に触れたとされている。
正中地震は、滋賀県と福井県境付近で発生した。この頃、近畿地方では地震が相次いでいた。
この地震の翌年には、地震と疫病の流行が重なり、元号が「正中」から「嘉暦」へ改元された。 

イルマは困惑した。
歴史に興味はあるが、そこまで詳しくはなかったからだ。
なぜそんな情報がわかるのか。
それは、彼の目に見えていたからだった。
視界の角に目をやると、E.O.P.レベルがまた上がっていた。
それによって、萌衣の言葉に情報が補足されるようになっていた。

山ほどの情報が視覚から入ってくる。
本当に情報迷宮都市だった。
手術のせいで視界にかかっていた靄は消えたが、その代わりに入ってくるあまりの情報量にイルマは溺れてしまいそうだった。
姉はこれ以上の情報を常に視覚から得ているのかと思うとゾッとした。

「だけどね、西日野神社の関係者やその檀家は、危険な神や教えを崇め信じているとしてキリシタンのように弾圧されたの」

キリシタン弾圧は、1587年に行われた豊臣秀吉の「バテレン追放令」から始まり、1612年の徳川幕府による禁教令によって本格化した。

まただ。また情報が勝手に入ってくる。

この政策は、信仰の禁止、教会や信者の迫害、踏み絵や拷問が行われた。
大規模な一揆を引き起こし、明治時代の初期まで続いた。 
島原・天草一揆が1637年~1638年のことだから、400年ほど前のことになる。
300年前だと、弾圧を逃れるために信仰を隠し続ける「潜伏キリシタン」がいた頃だろう。

めまいがした。足元がふらついていた。気を抜けば、すぐにでも気が狂いそうになっていた。

当時のT藩の藩主は確か、出井素雲(でい そうん)という名だ。
自らが極楽浄土へ行くために、罪人を斬首せずに足を切り、労働力として足切村に囲い込んだ人物だ。

足切村の管理を任されていた武士の一族は兵頭。
足切村に子どもが生まれるたびに、その足を切り落としていた一族だ。
いつの頃からはわからないが、足切神社に跡取りとなる男子がいなければ木島家から婿をもらい、男子がいるときは兵頭家から嫁をとることになっていたんだったか。

「枝杜左衛門は、弟の根守左衛門を自分の身代わりとして藩に差し出したんだ」

そして、罪人として足を切られ、この村でギフトを得て、足切様という神を作り出したのだろう。
二度と弾圧されることのないよう、黄泉路であることを隠すために。
だから足切神社を作ったのだ。

「たぶん、この村の人たちのご先祖様は、西日野神社の檀家の家の人たちだったんだね」

彼らにとって、根守左衛門は足切様そのものだったのかもしれなかった。

気づけば、イルマと萌衣は足切神社の前にいた。

「わたしね、これからこの神社を燃やそうと思うの」

萌衣がそう言ったとき、すでに彼女はそのギフト「キャッスル」を発現させていた。

「止めないでね」

彼女の身体の、穴という穴から火矢を持った弓兵がその姿を覗かせていた。

「本気だったら、萌衣さんはぼくに何も言わずにその火矢を撃ってるはずだよ」

だから、止めてほしいんだろうと思った。
懐中電灯のようなものは持っていたが、田舎の街灯もない夜の暗闇の中では、彼女の表情まではわからなかった。
目や鼻、口、耳から現れた弓兵の姿だけが見えていた。

「イルマくん、ギフトで建物に火をつけたら、わたしのスコアはどうなるかわかる?わたし、この世界から一発退場かな?ワクチンに入ってたナノマシンに、人体発火させられちゃうのかな?」

「ナノマシンは、ギフトによる犯罪も見逃さないよ。父さんと母さんが遺してくれたスコアブックに書いてあった」

父と母はギフトを使い、あらゆる犯罪に手を染めていた。
それは、すべてイルマと姉のエミリのためだった。
そして、母は人を殺めたことによって人体発火し、父は放火によって人体発火して死亡した。
具体的にどんな形のものであったかまではわからないが、母は人を殺すギフトを持っており、父は火を放つギフトを持っていたらしかった。

「神社を燃やすだけでも、萌衣さんは人体発火する。ぼくの目の前でね」

「イルマくんの目の前で燃えちゃうのはやだなぁ」

「だったらやめてよ」

「やだ」

「それに、神社の社務所には萌衣さんのお母さんや妹さんたちがいる。みんな焼け死ぬかもしれない。ひとりでも死んじゃったら萌衣さんは人殺しになる。人体発火することになるよ」

「そっか。ダブルパンチ?ツーアウト?ってやつになるのかな。でも不思議だね。どうしてギフトを使った犯罪までナノマシンが裁けるんだろう?」

それは、たぶん、

「ギフトを持ってる人は、足切村でクリサリス・ウィルスに感染して白目病になった人だけじゃないんだと思うよ」

そういう理由だとイルマは考えていた。
他の土地でも、自分たちのような犠巫徒はきっといるのだ。

「ワクチンに入っていたナノマシンは、萌衣さんも知ってるとおり、犯罪者を裁くことを目的としてる。だけど、それだけじゃない。ギフトを使った犯罪は、現行法では裁くことができないし、法改正もできないからだよ」

そんな法改正をしたら、この国はきっと世界の笑いものになるだろう。
後の時代でも、生類憐れみの令のように国内でもネタにされ続けるのだろう。
この国は、つい最近初の女性総理が誕生したばかりだ。初の女性総理がそんなことをすれば、たとえそれが正しい法改正であったとしても、女性全体のイメージを悪くしかねない。

「法改正せずにぼくたち犠巫徒が力を誤った使い方をしたときに、自動的に裁けるようなシステムを作ろうとしてるんだよ」

スコア管理による従来の重大犯罪とギフト犯罪の全自動処刑システム。

「この『情報迷宮都市アルゴリア』は、その実験都市なんだ」

それが、イルマの考えるナノマシンの真の目的だった。
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