情報迷宮≪実験≫都市アルゴリア -THE NEW WORLD MAKER-

あめの みかな

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第四章:天の崩壊

黄泉照の軍勢は次々に地を穢し、神々はこれを止める術を失う。
アマテラスは岩戸に隠れ、ツクヨミは沈黙し、スサノオは行方を絶つ。
やがて黄泉照は高天原へ侵攻し、アマテラスの光そのものを飲み込んだ。

――天が滅び、昼と夜の区別がなくなった。
それが「闇の永日(えいじつ)」と呼ばれる時代である。


終章:再び昇る黄泉の太陽

天が滅びた後、黄泉照は地上に降りた。
そこには、死と生が一つに交わる新しい国「黄泉路(よみじ)」が誕生する。

彼女は静かに宣言する。

「神々は人を創った。だが、死は人を神に還す。だから私は、あなたたちの神ではなく、帰る場所。」

以後、黄泉路信仰は地下に潜み、
その血を継ぐ者たちが“黄泉照の巫女”として密かに残った。


それは、まるで日本神話を否定するために作られたような神話だった。

イルマは神の存在を信じてはいない。
日本神話もロマンはあるが、この国の王が自らやその子孫が王であり続けるために作らせたものに過ぎないということも、高校生ながら彼は知っていた。
当時の王は、中国の三國志時代の魏の国に、魏志倭人伝なるものがあることを知らなかったのだろう。
魏志倭人伝は、1800年ほど前、中国の三國志で有名な曹操やその息子である魏の国の初代皇帝の時代に記されたものだからだ。
そこに記された邪馬台国の存在は、この国の初代の王が即位したのが2600年ほど前だとする日本神話と大きく矛盾する。

邪馬台国のふたりの女王は、シャーマンであり太陽の巫女だ。
ふたりが、高天原の最高神であり、太陽神でもあるアマテラスのモデルとなったという説もあるが、おそらくは違うだろう。
邪馬台国には、中国大陸から貨幣や銅鏡などと一緒に漢字が日本にもたらされ、「漢委奴国王」と刻まれた金印もあったが、その歴史を記す文字がなかったからだ。
この国が文字を得るのは、5世紀の初頭だ。
文字がなかった時代の女王がアマテラスのモデルになるためには、古事記や日本書紀が編纂されるまでの数百年間、口伝でその存在が伝わっていなければならないからだ。
そして、その血筋が王家と関係なければ、ふたりの女王をアマテラスのモデルにする理由がない。口伝そのものの存在が消されていただろう。

5世紀の初頭、百済から王仁(わに)という人物が『論語』と『千字文(せんじもん)』といった書物を持って渡来したという伝説がある。
その頃から日本国内で制作された鉄剣などにも漢字が使われるようになり、日本人が漢字を文字として認識し、使い始めたと考えられている。
『千字文』は、子供に漢字を教えたり、書の手本として使うために用いられた漢文の長詩だ。すべて異なる1000の文字が使われているという話だから、よほど頭のいい人が作ったのだろう。

魏志倭人伝や邪馬台国の存在が日本に伝わったのは江戸時代の末期だっただろうか。
当時の王は、自分の存在を揺るがしかねないその古文書にきっと震えただろう。

そのために作られたというわけではないだろうが、文字がなかったとされる時代に、神代文字と呼ばれる文字があったとする古文書が存在する。
神代文字は、その名の通り神の時代の文字だ。

明治~昭和初期に竹内巨麿(たけのうち きよまろ)が公表した「竹内文書(たけうちもんじょ)」は、「日本は世界の中心であり、王家の系譜は1万年以上さかのぼる」と主張している。
日本は世界を統べる神の国であり、エジプト、ギリシャ、インドなどの各地の文明は、王の命で派遣された日本人が作ったとも書かれているらしい。
王が宇宙船に乗って宇宙を旅をしたという記述もある。

当時はこの国の多くの民がこの古文書を信じたそうだ。
明治維新以降、この国は西洋に追い付き追い越せと、富国強兵の道を進んでいたからだ。
江戸時代の鎖国政策によって西洋よりも技術的にはるかに遅れをとっていたこの国の人々にとって、日本は世界の中心であり、王家の系譜は1万年以上さかのぼるというその内容は、きっと魅力的な内容だったのだろう。

だが、竹内文書には、王家やそれを支える省庁にとって、許されざる内容が記されていた。

王よりも上位の宇宙的存在についてだ。

当時のこの国は、竹内文書の存在を許すわけにはいかなかった。

竹内文書の内容は、実際の古墳時代の考古学的資料と一切整合せず、専門家による鑑定で「古文書としての物理的・言語的痕跡が近代のもの」と判明したため、歴史学・考古学の双方の立場から完全に「偽書」とされた。

竹内文書や関連の信仰団体が用いた「神代文字」は、古代日本に独自の文字があったという主張を支えるものだったが、これも考古学的な出土例がまったくなく、形や構造が仮名や漢字からの派生にしか見えないため、江戸~明治期の創作と結論づけられている。

この話を教えてくれたのは姉だっただろうか。もしかしたら、萌衣だったかもしれなかった。
竹内文書の著者は随分と余計なことをしたものだとイルマは思った。
この国において、王は現人神であり、王より上位の宇宙的存在など出すべきではなかった。
高天原からアマテラスの部下が派遣されてきており、代々の王の側近を務めていた。それくらいにとどめておくべきだった。八咫烏など、その役にふさわしい存在が日本神話にはいたからだ。
あるいは、竹内文書の著者は、より上位の存在について記すことによって、王の存在を否定したかったのかもしれない。

「萌衣さんは、その黄泉照の巫女なの?」

「一応そういうことになるけど、うちは分家みたいなものかな」

足切神社を作った萌衣の先祖には兄弟がいたのだ。

「もしかして、Y市にある西日野神社が、萌衣さんの家の本家?」

なんとなくそんな気がした。

「うん。西日野神社を作った人が、日本神話そのものを否定する神話を考えたの」

「それが黄泉路のはじまり?」

「そうだよ。その人のせいでうちのご先祖様は罪人にされて足を切られてしまったの」

足切神社の初代神主である足切根守左衛門(ねもりざえもん)のことだろう。
根守左衛門は、足がないにも関わらず、まるであるかのように歩いたり走ったりすることができ、それだけでなく一晩で足切神社を建てた。
イルマは以前、姉と共に萌衣からそう聞いていた。

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