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「この『情報迷宮都市アルゴリア』は、その実験都市なんだ」
それが、イルマの考えるナノマシンの真の目的だった。
「情報迷宮都市?アルゴリア?そんなの、わたしには関係ないよ。わたしは、わたしの代で足切神社を終わらせることさえできたら、それでいい。でも、これ以上足切神社に縛られるのもいや。だから今燃やすの。みんな、やっていいよ」
だが、萌衣のキャッスルの弓兵たちは火矢を放つことはなかった。
「どうして?なんで撃ってくれないの?」
「その子たちはわかってるんだよ。自分たちが火矢を放てばどうなるか。だから、萌衣さんが死んでしまうようなことはしないんだ」
イルマが止めるまでもなかった。
そして、萌衣とここに来たことは正解だった。
神社の敷地内に人がいたからだ。
その男は、先程からずっと、暗闇の中で電動キックボードを乗り回していた。
萌衣は気づいていなかったようだが、イルマの目の前で神社のまわりをずっとぐるぐると回っていた。
「気をつけて、萌衣さん。人がいる。たぶん、ぼくたちの敵だよ」
こんな田舎で電動キックボードのレンタルはできない。きっと自前のものなのだろう。
「わかってる。ずっと変な音がしてるし、キャッスルの弓兵を出してるときは、わたしは目が見えるから」
萌衣もちゃんと気づいていた。
もしかしたら、彼女は神社を燃やすふりをしていただけかもしれなかった。
「YouTuberがさぁ、よく緊急で動画まわしてます、緊急ですって言ってる動画、見たある?あれ、本当に緊急だったことないよね。緊急だったら動画まわす暇なんかないもんね」
電動キックボードに乗ったその男は、初対面にも関わらずイルマたちに話しかけてきた。
「あ、痴話喧嘩は終わった?」
今度はイルマと萌衣のまわりをぐるぐる回り始めた。
「痴話喧嘩なんて……そんなことしてたわけじゃないから!」
萌衣は、頬を膨らませて、唇を尖らせて言った。
イルマは思わず、かわいいと思ってしまった。
「そうなんだ?痴話喧嘩にしか見えなかったけどね。それに、君、その男の子のこと好きでしょ?」
見知らぬ他人からはそういう風に見えるのかと不思議だった。
萌衣を見ると、耳まで顔を真っ赤にしていた。
だが、彼女が自分にそういう感情を持っているはずがなかった。
自分にとっては萌衣は初恋の相手だっが、彼女にとって自分は弟みたいなもののはずだ。
だから、
「緊急ですってやつは、再生数を稼ぎたいんでしょ。実際稼げるみたいだし。YouTuberのことはよく知らないけど」
話題を変えなければとイルマは思った。
それだけではなく、すぐに萌衣を逃がさなければと思った。
男の名が、工藤明(くどう あきら)であり、年は34歳だったからだ。
「懐中電灯のようなもの」の光を当てて顔を見るまでもなく、イルマにはその名前や年が見えていた。
そしてその名前は、足切池から出てきた遺体のひとつ、佐藤千尋を殺した男性行員と同じだった。
地元銀行の女性支店長であった佐藤は、部下である工藤の不正を内部告発をしようとして殺されてしまったという話だった。
「おっ、もしかして、君もあんまりYouTuberが好きじゃないタイプ?」
「好きじゃないっていうか、知らないだけ。VTuberとかもよく知らない。芸人とか元テレビ局員のフリーのプロデューサーのやつしか見ないから。あとは、アニメやドラマの考察系くらいかな」
「おっ、結構ぼくと趣味あうかも。テレビはオワコンとかオールドメディアってよく言われるけど、深夜番組とかはまだまだYouTuberより断然面白いんだよね」
「そうだね」
「こないださぁ、これに乗って車道を走ってたら、路駐してる車がいて避けなきゃいけなかったんだよ」
せっかく話に乗ってやったというのに、工藤はすぐに話題を変えてきた。
相変わらずイルマたちのまわりをぐるぐる回り続けている。飽きやすく、落ち着きのない性格なのかもしれない。
銀行員には向いていない気がした。
だからこそ不正を行い、上司に内部告発をされそうになったのだろう。
現在の職業もイルマの目には見えていた。
素雲教(そうんきょう)信者とあった。
足切村を作ったT藩の藩主、出井素雲と同じ名だった。何か関係があるのだろうか。
「車道でその車を避けたら、対向車とぶつかりそうで怖いじゃん?だからぼくは、なくなく歩道に入ったわけ。そしたら、たまたま近くにいたパトカーに呼び止められてさ、警察官が、歩道を走ってはいけないのは知ってるよな?って高圧的な口調で言ってくるわけ。身分証を見せろとか」
素雲教は確か、特定の宗教団体やその関係者をターゲットとした、インターネット上での嫌がらせ行為や攻撃を継続的に行う集団を指す通称だ。
宗教団体を自称しているが、実際には特定の思想や教義に基づくものではなく、インターネット掲示板などを拠点とする匿名ユーザーの集まりでしかない。
つまり、 素雲教信者という肩書きは職業ですらなかった。
だが、もしこの男が足切村出身であり、E.O.P.レンズの手術を受けており、E.O.P.レベルも高く、尚且つギフトを持っていれば、ネットで金を稼ぐことくらい簡単にできるのかもしれない。
「ぼくはそのとき、免許証もマイナンバーカードも持ってなかった。だからそう伝えたら、今度は住所と電話番号を言えって言うんだよ。で、後日警察に来いって。来ないなら逮捕状を出すからなって脅してくるんだよ」
聞いているだけで虫酸が走る話だった。
もちろん、警察に対してではなく工藤に対してだった。
木村壮一の罪をもみ消す代わりにイルマたちの暗殺を指示した鵜山京一郎という男がいる警察は信用できない。
だが、それとこれは話が別だ。
電動キックボードは原則として歩道ではなく車道の左側を通行しなければならない。例外的に歩道を通行が許可されるのは、2つの条件を満たす場合のみだ。
1つは、最高速度6km/hでの通行が可能なことを示す道路標識や表示があること。もう1つは、車両が「6km/hモード」を搭載している「特例特定原付」であることだ。
要するに、自転車と同じで免許はいらないが、原付と同じものなのだ。
「ぼくは危険を回避しただけなのに、逮捕状なんていう言葉で脅されるんだよ。警察のああいう脅迫的な言動は許されていいかなぁ」
原付に乗ったまま平然と歩道に入ってくる無謀な者が、いざ取り締まられると被害者意識を持つのは恐ろしかった。
それが、イルマの考えるナノマシンの真の目的だった。
「情報迷宮都市?アルゴリア?そんなの、わたしには関係ないよ。わたしは、わたしの代で足切神社を終わらせることさえできたら、それでいい。でも、これ以上足切神社に縛られるのもいや。だから今燃やすの。みんな、やっていいよ」
だが、萌衣のキャッスルの弓兵たちは火矢を放つことはなかった。
「どうして?なんで撃ってくれないの?」
「その子たちはわかってるんだよ。自分たちが火矢を放てばどうなるか。だから、萌衣さんが死んでしまうようなことはしないんだ」
イルマが止めるまでもなかった。
そして、萌衣とここに来たことは正解だった。
神社の敷地内に人がいたからだ。
その男は、先程からずっと、暗闇の中で電動キックボードを乗り回していた。
萌衣は気づいていなかったようだが、イルマの目の前で神社のまわりをずっとぐるぐると回っていた。
「気をつけて、萌衣さん。人がいる。たぶん、ぼくたちの敵だよ」
こんな田舎で電動キックボードのレンタルはできない。きっと自前のものなのだろう。
「わかってる。ずっと変な音がしてるし、キャッスルの弓兵を出してるときは、わたしは目が見えるから」
萌衣もちゃんと気づいていた。
もしかしたら、彼女は神社を燃やすふりをしていただけかもしれなかった。
「YouTuberがさぁ、よく緊急で動画まわしてます、緊急ですって言ってる動画、見たある?あれ、本当に緊急だったことないよね。緊急だったら動画まわす暇なんかないもんね」
電動キックボードに乗ったその男は、初対面にも関わらずイルマたちに話しかけてきた。
「あ、痴話喧嘩は終わった?」
今度はイルマと萌衣のまわりをぐるぐる回り始めた。
「痴話喧嘩なんて……そんなことしてたわけじゃないから!」
萌衣は、頬を膨らませて、唇を尖らせて言った。
イルマは思わず、かわいいと思ってしまった。
「そうなんだ?痴話喧嘩にしか見えなかったけどね。それに、君、その男の子のこと好きでしょ?」
見知らぬ他人からはそういう風に見えるのかと不思議だった。
萌衣を見ると、耳まで顔を真っ赤にしていた。
だが、彼女が自分にそういう感情を持っているはずがなかった。
自分にとっては萌衣は初恋の相手だっが、彼女にとって自分は弟みたいなもののはずだ。
だから、
「緊急ですってやつは、再生数を稼ぎたいんでしょ。実際稼げるみたいだし。YouTuberのことはよく知らないけど」
話題を変えなければとイルマは思った。
それだけではなく、すぐに萌衣を逃がさなければと思った。
男の名が、工藤明(くどう あきら)であり、年は34歳だったからだ。
「懐中電灯のようなもの」の光を当てて顔を見るまでもなく、イルマにはその名前や年が見えていた。
そしてその名前は、足切池から出てきた遺体のひとつ、佐藤千尋を殺した男性行員と同じだった。
地元銀行の女性支店長であった佐藤は、部下である工藤の不正を内部告発をしようとして殺されてしまったという話だった。
「おっ、もしかして、君もあんまりYouTuberが好きじゃないタイプ?」
「好きじゃないっていうか、知らないだけ。VTuberとかもよく知らない。芸人とか元テレビ局員のフリーのプロデューサーのやつしか見ないから。あとは、アニメやドラマの考察系くらいかな」
「おっ、結構ぼくと趣味あうかも。テレビはオワコンとかオールドメディアってよく言われるけど、深夜番組とかはまだまだYouTuberより断然面白いんだよね」
「そうだね」
「こないださぁ、これに乗って車道を走ってたら、路駐してる車がいて避けなきゃいけなかったんだよ」
せっかく話に乗ってやったというのに、工藤はすぐに話題を変えてきた。
相変わらずイルマたちのまわりをぐるぐる回り続けている。飽きやすく、落ち着きのない性格なのかもしれない。
銀行員には向いていない気がした。
だからこそ不正を行い、上司に内部告発をされそうになったのだろう。
現在の職業もイルマの目には見えていた。
素雲教(そうんきょう)信者とあった。
足切村を作ったT藩の藩主、出井素雲と同じ名だった。何か関係があるのだろうか。
「車道でその車を避けたら、対向車とぶつかりそうで怖いじゃん?だからぼくは、なくなく歩道に入ったわけ。そしたら、たまたま近くにいたパトカーに呼び止められてさ、警察官が、歩道を走ってはいけないのは知ってるよな?って高圧的な口調で言ってくるわけ。身分証を見せろとか」
素雲教は確か、特定の宗教団体やその関係者をターゲットとした、インターネット上での嫌がらせ行為や攻撃を継続的に行う集団を指す通称だ。
宗教団体を自称しているが、実際には特定の思想や教義に基づくものではなく、インターネット掲示板などを拠点とする匿名ユーザーの集まりでしかない。
つまり、 素雲教信者という肩書きは職業ですらなかった。
だが、もしこの男が足切村出身であり、E.O.P.レンズの手術を受けており、E.O.P.レベルも高く、尚且つギフトを持っていれば、ネットで金を稼ぐことくらい簡単にできるのかもしれない。
「ぼくはそのとき、免許証もマイナンバーカードも持ってなかった。だからそう伝えたら、今度は住所と電話番号を言えって言うんだよ。で、後日警察に来いって。来ないなら逮捕状を出すからなって脅してくるんだよ」
聞いているだけで虫酸が走る話だった。
もちろん、警察に対してではなく工藤に対してだった。
木村壮一の罪をもみ消す代わりにイルマたちの暗殺を指示した鵜山京一郎という男がいる警察は信用できない。
だが、それとこれは話が別だ。
電動キックボードは原則として歩道ではなく車道の左側を通行しなければならない。例外的に歩道を通行が許可されるのは、2つの条件を満たす場合のみだ。
1つは、最高速度6km/hでの通行が可能なことを示す道路標識や表示があること。もう1つは、車両が「6km/hモード」を搭載している「特例特定原付」であることだ。
要するに、自転車と同じで免許はいらないが、原付と同じものなのだ。
「ぼくは危険を回避しただけなのに、逮捕状なんていう言葉で脅されるんだよ。警察のああいう脅迫的な言動は許されていいかなぁ」
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