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電動キックボードに乗るこの工藤明という男が、歩道に回避した際にもし歩行者と接触していたらどうなっていたか。
そんなことは、高校生のイルマでも想像することができた。
この男はその危険性を想像できないのだから、警察官が高圧的になるのも理解できる。
危険な場合はまず一時停止すればいいだけの話だ。自転車だってそうする。
イルマは電動キックボードには乗ったことがなかったが、いつも乗っている自転車では必ずそうしていた。
歩道を通行するなら押すか、あるいは一度停止してから電動キックボードを歩道モードに切り替えるだけで済む。
いずれ、目の前にいるような人間が悲惨な事故を引き起こすのだろう。
そして、この国はかつて飲酒運転がそうであったように大きな事故が起きなければ法改正を行うことはない。
「まぁ、ギフトを使ってうまく切り抜けたんだけどね」
ギフト。工藤は確かにそう言った。
やはり、彼もまた足切村の出身で、白目病にかかったのだろう。
失明していないということはE.O.P.レンズを持っているということだ。
彼にはイルマや萌衣の名前が見えているということだった。
「あんたも鵜山京一郎に頼まれて、ぼくたちを殺しに来たのか?あんた、人殺しだろ?」
「鵜山?誰のことだい?でも、よく知ってるね。ぼくが人殺しだって。ちなみに、ぼくは誰を殺したの?」
この男は木村と違い鵜山とは関係ないのだろうか。
だとしたら、鵜山以外にも自分たちを始末したがっている連中がいるということになる。
考えられるのは素雲教だろうか。
素雲教は、特定の宗教団体やその関係者をターゲットとした、インターネット上での嫌がらせ行為や攻撃を継続的に行っている。
爆破予告のファックスやメールを大量に送付する。
Googleマップの情報を改ざんする。
標的となった人物の個人情報をインターネット上に晒すといった行為を繰り返している。
企業や組織から流出した個人情報が素雲教の掲示板に掲載された事例があり、ハッキングによる情報窃取や脅迫被害も発生しているという。
元々はインターネット上のジョークやミームとして始まったものだったはずだが、現実世界での犯罪行為や深刻な社会問題に発展していた。
複数のメンバーが逮捕される事件も発生しており、警察もサイバー犯罪として捜査を進められている。
素雲教は、特定の人物への攻撃を目的としたインターネットコミュニティであり、その活動は犯罪行為を伴う深刻な問題となっていた。
当初は連立与党のひとつの母体である宗教団体をターゲットにしていただけだった。
その後、もうひとつの与党もまた他の宗教団体と深い関係にあったことが判明したため、その関係者に対する執拗な攻撃へとエスカレートしていった。
次のターゲットとなったのが、裏の神道である黄泉路や足切神社ということかもしれなかった。
厄介なのは、メンバーの一部は現実世界での人間関係に悩みを抱え、インターネット上での過激な活動を通じて承認欲求を満たしていることだろう。
「厩戸見銀行の支店長だった佐藤千尋って人だろ?」
「すごいね。あの遺体を見ただけで、そこまで見えるんだ?」
見たのは、イルマではなく姉のエミリだったが。
そのことをこの男に伝える必要はなかった。
「あんたはその佐藤って人の部下だった。佐藤はあんたがしてた不正を内部告発をしようとして、あんたに殺された。そうだろ?」
「さすがだね。E.O.P.レベルが99を超えるとそこまで見えるようになるのか」
「あんたが元銀行員で、今は素雲教の信者だってことも知ってるよ」
「なるほど。ラース様が君たちを畏れて、ぼくに殺すよう言うわけだ」
ラース?それが素雲教の教祖か何かなのだろうか。
どこかで聞いたことのある名前だった。
姉が誰かのことをそう呼んでいた。
白目病の手術をK病院で受けたときだ。
イルマの担当看護師であった羅臼ユズリハのことを、姉はラースちゃんと呼んでいた。
確か姉は、羅臼のことを高校時代の部活の後輩だったと言ってたか。同学年だったかもしれない。
いや、おかしい。
姉はあのとき、高校時代はバレー部だと言っていた。
だが、つい先日、姉は萌衣や木島玲と共に放課後を過ごし、指名手配犯の居場所をその目で見ては警察に通報していたと聞いたばかりだった。
姉はギフトであるリモート・ワーカーズを使って、指から産み出したコピーに部活動をさせていたのだろうか?
萌衣や木島と放課後を過ごしていたのが姉本人であったなら、その姉の左手から指は消えるが、コピーの指はすべて揃った状態になる。それについては矛盾はない。逆であったなら、指がない状態でバレーをやっていたことになるからだ。
今年の夏の甲子園には、どちらかの手の指がない高校生がレギュラーとして活躍していた高校があったが、マスコミはそのプレー内容よりも指がないことばかり注目していた。
姉はバレー部で全国大会に行ったわけではないが、指が1本でもなければ、部内や学内で彼のように言われていただろう。それを姉はきっと望まない。
だが、姉が左手をコートのポケットに入れて隠すようになったのは大学生になってからだった。
高校時代の姉は、アルバイトもしていたため、姉の代わりに萌衣がイルマの面倒をよく見てくれていた。
その頃はまだ、姉はギフトには目覚めてなかったはずだった。
萌衣と木島は同じ思い出を共有していた。だから、共に行動していたことは間違いなかった。
バレー部だったというのが嘘だったか、最初こそバレー部員として活動していたが幽霊部員だったか、そのどちらかだろう。
姉と羅臼ユズリハとの関係は薄いものだったのかもしれなかった。
「そのラース様って、もしかして羅臼ユズリハのことか?」
そんなはずはないだろうが、一応聞いて見ることにした。
「さぁ?ぼくはラース様には会ったことがないからね。声も聞いたことはない。もちろん顔も知らない。男か女かも知らない」
まるで闇バイトの指示役と実行犯のような関係だった。
本来、素雲教のメンバーは、実行犯であったとしても人前に顔を見せることはない。すべてネットで済む活動をしているからだ。
もちろん暗殺などは行わない。
「相手が男か女かもわからないのに、そのラース様って人の命令でぼくたちを殺しに来たのか」
馬鹿馬鹿しいと思った。
息子殺しの罪を揉み消してもらうために暗殺を引き受けた木村のことがまともに思えるくらいだった。
そんなことは、高校生のイルマでも想像することができた。
この男はその危険性を想像できないのだから、警察官が高圧的になるのも理解できる。
危険な場合はまず一時停止すればいいだけの話だ。自転車だってそうする。
イルマは電動キックボードには乗ったことがなかったが、いつも乗っている自転車では必ずそうしていた。
歩道を通行するなら押すか、あるいは一度停止してから電動キックボードを歩道モードに切り替えるだけで済む。
いずれ、目の前にいるような人間が悲惨な事故を引き起こすのだろう。
そして、この国はかつて飲酒運転がそうであったように大きな事故が起きなければ法改正を行うことはない。
「まぁ、ギフトを使ってうまく切り抜けたんだけどね」
ギフト。工藤は確かにそう言った。
やはり、彼もまた足切村の出身で、白目病にかかったのだろう。
失明していないということはE.O.P.レンズを持っているということだ。
彼にはイルマや萌衣の名前が見えているということだった。
「あんたも鵜山京一郎に頼まれて、ぼくたちを殺しに来たのか?あんた、人殺しだろ?」
「鵜山?誰のことだい?でも、よく知ってるね。ぼくが人殺しだって。ちなみに、ぼくは誰を殺したの?」
この男は木村と違い鵜山とは関係ないのだろうか。
だとしたら、鵜山以外にも自分たちを始末したがっている連中がいるということになる。
考えられるのは素雲教だろうか。
素雲教は、特定の宗教団体やその関係者をターゲットとした、インターネット上での嫌がらせ行為や攻撃を継続的に行っている。
爆破予告のファックスやメールを大量に送付する。
Googleマップの情報を改ざんする。
標的となった人物の個人情報をインターネット上に晒すといった行為を繰り返している。
企業や組織から流出した個人情報が素雲教の掲示板に掲載された事例があり、ハッキングによる情報窃取や脅迫被害も発生しているという。
元々はインターネット上のジョークやミームとして始まったものだったはずだが、現実世界での犯罪行為や深刻な社会問題に発展していた。
複数のメンバーが逮捕される事件も発生しており、警察もサイバー犯罪として捜査を進められている。
素雲教は、特定の人物への攻撃を目的としたインターネットコミュニティであり、その活動は犯罪行為を伴う深刻な問題となっていた。
当初は連立与党のひとつの母体である宗教団体をターゲットにしていただけだった。
その後、もうひとつの与党もまた他の宗教団体と深い関係にあったことが判明したため、その関係者に対する執拗な攻撃へとエスカレートしていった。
次のターゲットとなったのが、裏の神道である黄泉路や足切神社ということかもしれなかった。
厄介なのは、メンバーの一部は現実世界での人間関係に悩みを抱え、インターネット上での過激な活動を通じて承認欲求を満たしていることだろう。
「厩戸見銀行の支店長だった佐藤千尋って人だろ?」
「すごいね。あの遺体を見ただけで、そこまで見えるんだ?」
見たのは、イルマではなく姉のエミリだったが。
そのことをこの男に伝える必要はなかった。
「あんたはその佐藤って人の部下だった。佐藤はあんたがしてた不正を内部告発をしようとして、あんたに殺された。そうだろ?」
「さすがだね。E.O.P.レベルが99を超えるとそこまで見えるようになるのか」
「あんたが元銀行員で、今は素雲教の信者だってことも知ってるよ」
「なるほど。ラース様が君たちを畏れて、ぼくに殺すよう言うわけだ」
ラース?それが素雲教の教祖か何かなのだろうか。
どこかで聞いたことのある名前だった。
姉が誰かのことをそう呼んでいた。
白目病の手術をK病院で受けたときだ。
イルマの担当看護師であった羅臼ユズリハのことを、姉はラースちゃんと呼んでいた。
確か姉は、羅臼のことを高校時代の部活の後輩だったと言ってたか。同学年だったかもしれない。
いや、おかしい。
姉はあのとき、高校時代はバレー部だと言っていた。
だが、つい先日、姉は萌衣や木島玲と共に放課後を過ごし、指名手配犯の居場所をその目で見ては警察に通報していたと聞いたばかりだった。
姉はギフトであるリモート・ワーカーズを使って、指から産み出したコピーに部活動をさせていたのだろうか?
萌衣や木島と放課後を過ごしていたのが姉本人であったなら、その姉の左手から指は消えるが、コピーの指はすべて揃った状態になる。それについては矛盾はない。逆であったなら、指がない状態でバレーをやっていたことになるからだ。
今年の夏の甲子園には、どちらかの手の指がない高校生がレギュラーとして活躍していた高校があったが、マスコミはそのプレー内容よりも指がないことばかり注目していた。
姉はバレー部で全国大会に行ったわけではないが、指が1本でもなければ、部内や学内で彼のように言われていただろう。それを姉はきっと望まない。
だが、姉が左手をコートのポケットに入れて隠すようになったのは大学生になってからだった。
高校時代の姉は、アルバイトもしていたため、姉の代わりに萌衣がイルマの面倒をよく見てくれていた。
その頃はまだ、姉はギフトには目覚めてなかったはずだった。
萌衣と木島は同じ思い出を共有していた。だから、共に行動していたことは間違いなかった。
バレー部だったというのが嘘だったか、最初こそバレー部員として活動していたが幽霊部員だったか、そのどちらかだろう。
姉と羅臼ユズリハとの関係は薄いものだったのかもしれなかった。
「そのラース様って、もしかして羅臼ユズリハのことか?」
そんなはずはないだろうが、一応聞いて見ることにした。
「さぁ?ぼくはラース様には会ったことがないからね。声も聞いたことはない。もちろん顔も知らない。男か女かも知らない」
まるで闇バイトの指示役と実行犯のような関係だった。
本来、素雲教のメンバーは、実行犯であったとしても人前に顔を見せることはない。すべてネットで済む活動をしているからだ。
もちろん暗殺などは行わない。
「相手が男か女かもわからないのに、そのラース様って人の命令でぼくたちを殺しに来たのか」
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