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「素雲教の信者でラース様の顔を知っている人なんているのかな。どんな宗教だって、誰も神の顔なんか知らないでしょ?最近の宗教ならともかく、昔からある宗教なら開祖の顔も知らないはずだ。誰もこの神社の初代神主、足切根守左衛門の顔を知らないし、700年前に黄泉路を開いた西日野神社の神主、西日野始終七左衛門(にしひの しじゅうしちざえもん)のことも知らないはずだ。だけど、信者ならその教えを守る。そういうことだよ」
その言葉に、イルマは何故か妙に納得させられてしまった。
「えーっと、名前を確認させてもらおうかな。君は、村戸イルマくんだね。うんうん、知ってる。そして、そっちのお姉さんが……なんだ、足切萌衣ちゃんだったのか。足切神社の巫女に用はないんだけどなぁ」
だったら、なぜこの男は神社のまわりをぐるぐる回り続けていたのだろう。
足切神社の巫女に用はない?そっちのお姉さん?
成人女性を指す言葉としての「お姉さん」ではなく、イルマと一緒にいたから姉のエミリだと思い込んだのだろうか?
「そうだよなぁ、おかしいと思ったんだ。狐野エミリちゃん、いや、村戸エミリちゃんだったっけ。彼女は白目病の手術を受けてるはずだから、白杖をついてたりフード付きローブを羽織ってるわけがなかった」
「エミリちゃんが狙いなんだね」
萌衣の言う通り、そうとしか考えられなかった。
「さっきあなたは、『E.O.P.レベルが99を超えるとそこまで見えるようになるのか』って言ってた」
イルマも確かにその言葉を聞いた。
「あなたの狙いはわたしでもイルマくんでもないんでしょう?」
聞いた瞬間に少し違和感を覚えたが、聞き流してしまっていた。
「そうだよ。でも、これじゃあ、藤島くんに取られちゃうなぁ」
素雲教の刺客はもうひとりいたらしい。
その藤島という男は、今頃姉の元に向かっているのだろう。
「その藤島っていうのは、藤島大地(ふじしま だいち)って人のこと?」
「あれ?なんで知ってるの?」
「あなたが佐藤千尋という人を殺して足切池にその死体を棄てたように、他に発見された田中大輔っていう24歳で無職の人がいたから」
姉はホワイドボードのようなものに遺体全員の名前や年齢を書いていた。
だが、あの警察ドラマの捜査会議のまねごとの中では、その田中大輔という男にまではまだたどり着けてはいなかった。
板書はされていたが、姉の解説がまだった。
キャッスルを使って見て覚えたのか、姉から聞いて覚えたのかはわからないが、萌衣の記憶力の良さに驚かされた。
「犯人はネットで出会ったカルト教団の信者、藤島大地だったはず。カルト教団っていうのは、素雲教のことだったんだね」
「カルト教団はひどいなぁ」
工藤明は肩をすくめて笑う。
「あれ?犯罪者集団だった?他人の個人情報をネットに晒して誹謗中傷するだけじゃなく、情報を得るためならハッキングもいとわないんでしょ?」
「そういう人もいるね。ぼくにはそんな技術はないけど」
「必要ないんでしょ?E.O.P.レンズがあるから。写真一枚あれば、そこからあらゆる情報を読み取れるんだか
ら」
確かにそれならハッキングする技術は必要がなかった。
だが、それはE.O.P.レベルが高ければの話だ。
もしかしたら、工藤は姉を殺しに来たわけではなく、拉致しに来たのかもしれない。姉の目はDNAの塩基配列まで見ることができる神の目そのものだからだ。
「その目があれば、教団内での立ち位置はかなり上のはず。誹謗中傷を書き込む必要もないんじゃない?あなた自身は、グループチャットか何かで仲間と情報を共有してるだけ。特定の宗教団体や関係者に嫌がらせをしたり、晒したり、誹謗中傷したりするのはきっと別の人なんだよね」
萌衣の想像通りであれば、工藤がたとえ厩戸見市の住人であり、市内でワクチン接種をしていたとしても、ナノマシンによるスコア管理でレベルが下がることはないのだろう。
「田中大輔は、藤島大地によって『救済のため』という理屈で殺された。あなたたちは、現実世界での人間関係に悩みを抱えた人たちよね。インターネット上での過激な活動を通じて承認欲求を満たしてるだけの人たち」
信仰と孤独。
素雲教の人々は、まるでSNS社会の歪みそのものにからめとられているようだった。
「イルマくん、ここはわたしにまかせて。エミリちゃんのところに行くってあげて。きっと藤島大地はエミリちゃんを狙ってる」
「でも……」
姉の元に今すぐ駆けつけたかったが、萌衣の身も心配だった。
心配なのは、それだけではなかった。
彼女が目の前にいる男を殺してしまうんじゃないかと不安だった。
「大丈夫。この人は殺さないから。人体発火しちゃうのはやだもん」
「信じていいんだよね?」
「わたしが今すぐに一度でもイルマくんに嘘ついたことある?」
そんなことは一度もなかった。
嘘をつかれたことも、裏切られたことも一度もなかった。
「いいよ。行きなよ、村戸イルマくん」
工藤明は笑っていた。
「その代わり、足切萌衣ちゃんは死んじゃうけどね」
萌衣に勝てる自信があるのだろう。
「ぼくを殺そうとか捕まえようとしても無駄だよ。ぼくはループの中にいる。アニメとかでよくある、円環の理ってやつ」
だから、電動キックボードで延々と円を描き続けていたということだろうか。
電動キックボードの種類は、LUUP(ループ)。
彼が言うループはLOOPだから綴りは違うが、日本語表記したら同じだ。
萌衣のギフト「キャッスル」とは相性が悪そうだった。彼女の力は殺傷能力に特化した能力だからだ。
「ぼくは今日と言う日を、ぼくが納得できるまで繰り返すことができるギフト『ループ・ルーパー・ルーペスト』を持ってる」
「英単語の三段活用?最低ほネーミングセンスね」
それにループという単語はおそらく動詞や名刺だった。輪状にする、巻きつける、宙返りする、繰り返し処理するといった意味だ。形容詞ではない。
動詞としてのloop,looped,loopedという三段活用はあっても、big,bigger,biggestのようなものなどないだろう。
「いいんだよ、ぼくの趣味なんだから」
もしかしたら、納得のいくまでループを繰り返すことが可能な彼にとっては、ループという言葉の意味自体が異なっているのかもしれなかった。
その言葉に、イルマは何故か妙に納得させられてしまった。
「えーっと、名前を確認させてもらおうかな。君は、村戸イルマくんだね。うんうん、知ってる。そして、そっちのお姉さんが……なんだ、足切萌衣ちゃんだったのか。足切神社の巫女に用はないんだけどなぁ」
だったら、なぜこの男は神社のまわりをぐるぐる回り続けていたのだろう。
足切神社の巫女に用はない?そっちのお姉さん?
成人女性を指す言葉としての「お姉さん」ではなく、イルマと一緒にいたから姉のエミリだと思い込んだのだろうか?
「そうだよなぁ、おかしいと思ったんだ。狐野エミリちゃん、いや、村戸エミリちゃんだったっけ。彼女は白目病の手術を受けてるはずだから、白杖をついてたりフード付きローブを羽織ってるわけがなかった」
「エミリちゃんが狙いなんだね」
萌衣の言う通り、そうとしか考えられなかった。
「さっきあなたは、『E.O.P.レベルが99を超えるとそこまで見えるようになるのか』って言ってた」
イルマも確かにその言葉を聞いた。
「あなたの狙いはわたしでもイルマくんでもないんでしょう?」
聞いた瞬間に少し違和感を覚えたが、聞き流してしまっていた。
「そうだよ。でも、これじゃあ、藤島くんに取られちゃうなぁ」
素雲教の刺客はもうひとりいたらしい。
その藤島という男は、今頃姉の元に向かっているのだろう。
「その藤島っていうのは、藤島大地(ふじしま だいち)って人のこと?」
「あれ?なんで知ってるの?」
「あなたが佐藤千尋という人を殺して足切池にその死体を棄てたように、他に発見された田中大輔っていう24歳で無職の人がいたから」
姉はホワイドボードのようなものに遺体全員の名前や年齢を書いていた。
だが、あの警察ドラマの捜査会議のまねごとの中では、その田中大輔という男にまではまだたどり着けてはいなかった。
板書はされていたが、姉の解説がまだった。
キャッスルを使って見て覚えたのか、姉から聞いて覚えたのかはわからないが、萌衣の記憶力の良さに驚かされた。
「犯人はネットで出会ったカルト教団の信者、藤島大地だったはず。カルト教団っていうのは、素雲教のことだったんだね」
「カルト教団はひどいなぁ」
工藤明は肩をすくめて笑う。
「あれ?犯罪者集団だった?他人の個人情報をネットに晒して誹謗中傷するだけじゃなく、情報を得るためならハッキングもいとわないんでしょ?」
「そういう人もいるね。ぼくにはそんな技術はないけど」
「必要ないんでしょ?E.O.P.レンズがあるから。写真一枚あれば、そこからあらゆる情報を読み取れるんだか
ら」
確かにそれならハッキングする技術は必要がなかった。
だが、それはE.O.P.レベルが高ければの話だ。
もしかしたら、工藤は姉を殺しに来たわけではなく、拉致しに来たのかもしれない。姉の目はDNAの塩基配列まで見ることができる神の目そのものだからだ。
「その目があれば、教団内での立ち位置はかなり上のはず。誹謗中傷を書き込む必要もないんじゃない?あなた自身は、グループチャットか何かで仲間と情報を共有してるだけ。特定の宗教団体や関係者に嫌がらせをしたり、晒したり、誹謗中傷したりするのはきっと別の人なんだよね」
萌衣の想像通りであれば、工藤がたとえ厩戸見市の住人であり、市内でワクチン接種をしていたとしても、ナノマシンによるスコア管理でレベルが下がることはないのだろう。
「田中大輔は、藤島大地によって『救済のため』という理屈で殺された。あなたたちは、現実世界での人間関係に悩みを抱えた人たちよね。インターネット上での過激な活動を通じて承認欲求を満たしてるだけの人たち」
信仰と孤独。
素雲教の人々は、まるでSNS社会の歪みそのものにからめとられているようだった。
「イルマくん、ここはわたしにまかせて。エミリちゃんのところに行くってあげて。きっと藤島大地はエミリちゃんを狙ってる」
「でも……」
姉の元に今すぐ駆けつけたかったが、萌衣の身も心配だった。
心配なのは、それだけではなかった。
彼女が目の前にいる男を殺してしまうんじゃないかと不安だった。
「大丈夫。この人は殺さないから。人体発火しちゃうのはやだもん」
「信じていいんだよね?」
「わたしが今すぐに一度でもイルマくんに嘘ついたことある?」
そんなことは一度もなかった。
嘘をつかれたことも、裏切られたことも一度もなかった。
「いいよ。行きなよ、村戸イルマくん」
工藤明は笑っていた。
「その代わり、足切萌衣ちゃんは死んじゃうけどね」
萌衣に勝てる自信があるのだろう。
「ぼくを殺そうとか捕まえようとしても無駄だよ。ぼくはループの中にいる。アニメとかでよくある、円環の理ってやつ」
だから、電動キックボードで延々と円を描き続けていたということだろうか。
電動キックボードの種類は、LUUP(ループ)。
彼が言うループはLOOPだから綴りは違うが、日本語表記したら同じだ。
萌衣のギフト「キャッスル」とは相性が悪そうだった。彼女の力は殺傷能力に特化した能力だからだ。
「ぼくは今日と言う日を、ぼくが納得できるまで繰り返すことができるギフト『ループ・ルーパー・ルーペスト』を持ってる」
「英単語の三段活用?最低ほネーミングセンスね」
それにループという単語はおそらく動詞や名刺だった。輪状にする、巻きつける、宙返りする、繰り返し処理するといった意味だ。形容詞ではない。
動詞としてのloop,looped,loopedという三段活用はあっても、big,bigger,biggestのようなものなどないだろう。
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