49 / 109
#48
しおりを挟む
「つまり、仮にぼくは君に殺されても、警察に捕まっても、日付が変われば、また今日の朝に戻ってるんだ。ぼくはね、今日という日をもう何度もループしてる。そのループの中で殺したい人間を何人も、何度も殺してきたんだよ」
工藤明の顔つきが変わった。ヘラヘラと笑っていたその顔は、その目は、これまでに何人も見てきた殺人鬼のそれになっていた。
「もちろん君たちもだよ。覚えてないだろうけどね。このループの中では、ぼくだけがやりたいことをできる。ぼくが君のお姉さんや萌衣ちゃんを殺した後、ふたりにしたことがなんだかわかる?」
想像するだけで反吐が出る思いだった。
ループによってなかったことになっているとはいえ、こんな男に姉や萌衣を汚されたことや、この男の記憶に残っていることがおぞましかった。
「君が想像している通りのことだよ」
先ほど、この男は藤島大地に先を越されると言っていた。
だが、それは嘘なのだろう。
この男は何度もループを繰り返す中で、ここにいるのがイルマと萌衣であることを知っていたはずだ。
だから、この周回では確かに先を越されるが、この男にとってそれはもはやどうでもいいことなのだろう。いつでも納得のいく状態で明日を迎えられるからだ。
「もちろん、それ以上のこともしてきたよ。ふたりの腹を割いて、腸を引きずり出してみたんだ。どれくらい長いかは、理科か生物、保健体育だったかな?とにかく学校の授業で習った気がするけど、実際に見たことはなかったからね。まぁ、メジャーを持ってなかったから測れなかったんだけど」
ギフトの戦力だけならこの男より萌衣の方が確実に高い。
だが相手のギフトがループである以上、萌衣ひとりでは絶対に勝てない相手だった。
置いていく訳にはいかなかった。殺されて、犯される。腸を引きずり出される。首を切られたりもするだろう。
だが、自分がいたとして勝てるだろうか。
「なぁ、あんた、なんで佐藤千尋っていう人を殺したんだ?」
今は勝つ方法を思い付くまで時間を稼ぐしかないと思った。だからイルマは工藤にそう訊ねた。
工藤明が殺した佐藤千尋という女性は地方銀行の支店長。工藤は彼女の部下だった。
「ちょっと前に話題になった銀行員みたいに、貸金庫にある宝石とかに手を出したのか?不正がばれて告発されそうになったから殺したのか?」
「君たちは銀行員の給料を知ってる?半沢直樹みたいなメガバンクじゃなくて地方の銀行員の給料だよ。やっすいんだよ。それなりにいい大学を出たのに、何年も勤めたのに、手取りはたったの400万だった」
400万円ももらえていたなら十分だろうと思った。中小企業はいまだに正社員でも年収200~300万円程度の人がざらにいるだろう。
「今、それだけもらえてたら十分だろって顔してたね。でもさ、労働の対価として見合うかどうかを判断するのは君たちでもなければ国でもない。ぼくだっていうことを忘れちゃだめだよ。この国の銀行全体の平均年収は600から650万円。平均給与よりは高い水準だ。でも、地域経済の動向や支店の規模によって年収にばらつきがある。顧客との距離が近く、地域社会に密着して貢献できるというやりがいがあるっていうけど、平均年収よりも200万も少なくて、やりがい?ふざけるなって思わない?あの銀行でも、50代の支店長や部長クラスになれば1200万円だったかな。そういう連中が平均年収をつり上げてるだけ。そういう連中は地域社会に密着して貢献なんてことはやってない。あの女は特にね。30代後半のうちから、女ってだけで支店長になったんだよ。当行初の30代の女性支店長ってさ。ずるいと思わない?ぼくは、あの女と同じだけの年収をもらってやろうと思っただけ」
あぁこういうタイプの人間かと思った。
いまだに男が女より優れていると思っているタイプの男がいるのだ。
少し前に、とあるアイドルグループに所属する女の子が、SNSに自分で組み立てて塗装もしたプラモデルのロボットの写真をアップしたことがあった。
プロレベルの塗装で、おそらく塗装だけでなくさまざまなテクニックが駆使されていた。
組み立てる前に洗剤を混ぜた水につけておくとか、普通に組み立てるだけでは必ず出来てしまうパーツとパーツの繋ぎ目を消すため、本来なら使う必要のない接着剤を使ってわざと使って繋ぎ目を溶かすようにしたとか、アニメに出てくるものとは異なり、子どもが怪我をしないように丸く作られている突起物を、やすりをかけてアニメ通りにするとか、プラモデル作りにはたくさんのテクニックがある。
イルマもたまにプラモデルを作ることはあるが、せいぜい墨入れという作業をするくらいで、そういったことや塗装を本格的にしたことは数えるほどしかなかった。
アニメの影響で自分だけのロボットを作ろうとしたこともあったが、全く異なるアニメの中古のフィギュアを安く買って、そのフィギュアの装備を外し、ロボットに取り付けるくらいのことしかできなかった。
その女の子が作ったプラモデルは、それで食べていけるんじゃないかと思うくらいの完成度だった。もちろんそんな簡単な世界ではないのだろうが、それくらい凄かった。
すごいね、かっこいいねと褒める人たちが多い中、どうへ家族か彼氏か友達か誰かが作ったものを自分が作ったことにしたんだだろう。そんな風に言う人たちがいたが、それくらいならまだ普通の反応だっただろう。男子なら誰もが一度くらいは作ったことがあっても、プロレベルに見えるものを作り上げる技術を持っている者は少ない。信じられなかったとしてもおかしくはなかった。
そんな中、女は化粧をするから塗装も上手いんだと言い出す者がいた。よほど自分よりはるかに年下の、それもアイドルの女の子に、自分の技術が負けているのが悔しかったのだろう。たかが女に、二十歳そこそこの小娘にという気持ちもあったのだと思う。
だが、化粧と塗装は材料も塗り方も何もかも違う。それに、その理論だとすべての女性がプラモデルの塗装が基本的に男よりも上手ということになってしまうことになる。自分が納得できる理由が欲しかったのだろうが、素直に他人を、そのアイドルの女の子を認められないかわいそうな人がいるものだなと思った。
そんな風に、どうしても女に負けたくないという人がいまだにいるのだ。
工藤明の顔つきが変わった。ヘラヘラと笑っていたその顔は、その目は、これまでに何人も見てきた殺人鬼のそれになっていた。
「もちろん君たちもだよ。覚えてないだろうけどね。このループの中では、ぼくだけがやりたいことをできる。ぼくが君のお姉さんや萌衣ちゃんを殺した後、ふたりにしたことがなんだかわかる?」
想像するだけで反吐が出る思いだった。
ループによってなかったことになっているとはいえ、こんな男に姉や萌衣を汚されたことや、この男の記憶に残っていることがおぞましかった。
「君が想像している通りのことだよ」
先ほど、この男は藤島大地に先を越されると言っていた。
だが、それは嘘なのだろう。
この男は何度もループを繰り返す中で、ここにいるのがイルマと萌衣であることを知っていたはずだ。
だから、この周回では確かに先を越されるが、この男にとってそれはもはやどうでもいいことなのだろう。いつでも納得のいく状態で明日を迎えられるからだ。
「もちろん、それ以上のこともしてきたよ。ふたりの腹を割いて、腸を引きずり出してみたんだ。どれくらい長いかは、理科か生物、保健体育だったかな?とにかく学校の授業で習った気がするけど、実際に見たことはなかったからね。まぁ、メジャーを持ってなかったから測れなかったんだけど」
ギフトの戦力だけならこの男より萌衣の方が確実に高い。
だが相手のギフトがループである以上、萌衣ひとりでは絶対に勝てない相手だった。
置いていく訳にはいかなかった。殺されて、犯される。腸を引きずり出される。首を切られたりもするだろう。
だが、自分がいたとして勝てるだろうか。
「なぁ、あんた、なんで佐藤千尋っていう人を殺したんだ?」
今は勝つ方法を思い付くまで時間を稼ぐしかないと思った。だからイルマは工藤にそう訊ねた。
工藤明が殺した佐藤千尋という女性は地方銀行の支店長。工藤は彼女の部下だった。
「ちょっと前に話題になった銀行員みたいに、貸金庫にある宝石とかに手を出したのか?不正がばれて告発されそうになったから殺したのか?」
「君たちは銀行員の給料を知ってる?半沢直樹みたいなメガバンクじゃなくて地方の銀行員の給料だよ。やっすいんだよ。それなりにいい大学を出たのに、何年も勤めたのに、手取りはたったの400万だった」
400万円ももらえていたなら十分だろうと思った。中小企業はいまだに正社員でも年収200~300万円程度の人がざらにいるだろう。
「今、それだけもらえてたら十分だろって顔してたね。でもさ、労働の対価として見合うかどうかを判断するのは君たちでもなければ国でもない。ぼくだっていうことを忘れちゃだめだよ。この国の銀行全体の平均年収は600から650万円。平均給与よりは高い水準だ。でも、地域経済の動向や支店の規模によって年収にばらつきがある。顧客との距離が近く、地域社会に密着して貢献できるというやりがいがあるっていうけど、平均年収よりも200万も少なくて、やりがい?ふざけるなって思わない?あの銀行でも、50代の支店長や部長クラスになれば1200万円だったかな。そういう連中が平均年収をつり上げてるだけ。そういう連中は地域社会に密着して貢献なんてことはやってない。あの女は特にね。30代後半のうちから、女ってだけで支店長になったんだよ。当行初の30代の女性支店長ってさ。ずるいと思わない?ぼくは、あの女と同じだけの年収をもらってやろうと思っただけ」
あぁこういうタイプの人間かと思った。
いまだに男が女より優れていると思っているタイプの男がいるのだ。
少し前に、とあるアイドルグループに所属する女の子が、SNSに自分で組み立てて塗装もしたプラモデルのロボットの写真をアップしたことがあった。
プロレベルの塗装で、おそらく塗装だけでなくさまざまなテクニックが駆使されていた。
組み立てる前に洗剤を混ぜた水につけておくとか、普通に組み立てるだけでは必ず出来てしまうパーツとパーツの繋ぎ目を消すため、本来なら使う必要のない接着剤を使ってわざと使って繋ぎ目を溶かすようにしたとか、アニメに出てくるものとは異なり、子どもが怪我をしないように丸く作られている突起物を、やすりをかけてアニメ通りにするとか、プラモデル作りにはたくさんのテクニックがある。
イルマもたまにプラモデルを作ることはあるが、せいぜい墨入れという作業をするくらいで、そういったことや塗装を本格的にしたことは数えるほどしかなかった。
アニメの影響で自分だけのロボットを作ろうとしたこともあったが、全く異なるアニメの中古のフィギュアを安く買って、そのフィギュアの装備を外し、ロボットに取り付けるくらいのことしかできなかった。
その女の子が作ったプラモデルは、それで食べていけるんじゃないかと思うくらいの完成度だった。もちろんそんな簡単な世界ではないのだろうが、それくらい凄かった。
すごいね、かっこいいねと褒める人たちが多い中、どうへ家族か彼氏か友達か誰かが作ったものを自分が作ったことにしたんだだろう。そんな風に言う人たちがいたが、それくらいならまだ普通の反応だっただろう。男子なら誰もが一度くらいは作ったことがあっても、プロレベルに見えるものを作り上げる技術を持っている者は少ない。信じられなかったとしてもおかしくはなかった。
そんな中、女は化粧をするから塗装も上手いんだと言い出す者がいた。よほど自分よりはるかに年下の、それもアイドルの女の子に、自分の技術が負けているのが悔しかったのだろう。たかが女に、二十歳そこそこの小娘にという気持ちもあったのだと思う。
だが、化粧と塗装は材料も塗り方も何もかも違う。それに、その理論だとすべての女性がプラモデルの塗装が基本的に男よりも上手ということになってしまうことになる。自分が納得できる理由が欲しかったのだろうが、素直に他人を、そのアイドルの女の子を認められないかわいそうな人がいるものだなと思った。
そんな風に、どうしても女に負けたくないという人がいまだにいるのだ。
0
あなたにおすすめの小説
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
10年ぶりに現れた正ヒロインが強すぎて、10年来のダメ系幼馴染型ヒロインが敗北しそうな件について。
神崎あら
青春
10年ぶりに再会した彼女はまさに正ヒロインと呼ぶにふさわしい容姿、性格、人望を手にしていた。
それに対して10年間一緒にいた幼馴染は、堕落し酒に溺れ、泰平の世話なしには生きられないペットのような生き物になっている。
そんな対照的な2人のヒロインが戦う(一方的にダメ幼馴染が社会的にボコられる)物語が今始まる!!
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる