情報迷宮≪実験≫都市アルゴリア -THE NEW WORLD MAKER-

あめの みかな

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#49

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「こういう田舎って意外と金持ちが多いんだよ。ださい髪型で、ださい服着てるくせに、指輪やネックレスだけはやけに高そうなものつけてるババアがよくいるだろ?大体バブル世代だな。土地を転がして儲けてた連中。その後はマンションや駐車場とか、いわゆる不労所得で勝手に金が入ってくるようなさ。その下の世代になると、時計だけはいいものをって何百万円もするのとかつけてたり、所詮は家電でしかない車にバカみたいに金をかけてたりする。こいつで十分なのにね」

工藤はそう言うと電動キックボードのハンドルを易しく撫でた。

「だから、貸金庫には結構いいものが入ってたんだよ。金の延べ棒なんかもあった。ドラマや映画に出てくるような偽物じゃなくてさ、本物を生で見たことある?ないでしょ?ちょうど金の価値が上がりはじめてたときでさぁ、実物見たときは興奮したなぁ。銀行の貸金庫は宝の山だよ。毎日せっせと働いてるのがバカみたいに思えてくる」

拳銃なんてハワイにでも行けばいくらでも撃てる場所があるのに、拳銃が撃ちたくてわざわざ警察官になる人間がいると聞いたことがあった。
だが、この男はどうやらそういう人間とは違うようだった。
貸金庫にどんなものがあるかを知ってしまい、給与への不満や若くして支店長になった女性への嫉妬でおかしくなってしまったのだろう。
だからといって、工藤がした犯罪が許されるわけではなかったが。

「うまくやってたのになぁ。あの女がいけないんだよ。めざといから。女はめざといっていうけど、あれはほんとだね。ぼくは萌衣ちゃんみたいに目が見えない子がいいな」

その台詞は、ただの女性蔑視からくるものではなかった。
手術さえ受ければ治ったはずの白目病で、村や家のしきたりによって手術が受けられずに失明してしまった萌衣に対しての完全な侮辱だった。

激しい怒りが自分の内から込み上げてくるのをイルマは感じた。
だが、その心は驚くほど平静そのものだった。

そして、この男のループに勝てる方法がひとつだけあることにイルマは気づいた。

ーーニュー・ワールド・メイカー。

イルマが戦術名付けたばかりのギフトの名の通り、新しい世界を作り出すしかなかった。

それは、イルマや姉のエミリが閉じ込められたことのある、ギフトによって作られた亜空間ーーあの『生徒指導室のようなもの』だった。
彼自身はその亜空間に閉じ込められた記憶は失われていたが、その後姉が全く同じ場所に閉じ込められていたことでで思い付くことができた。

だが、その世界でもきっと、日付が変わる。
工藤のループが起きてしまう。
目の前にいる男は、今日という日のはじまりにいた場所に戻ってしまうだけだった。
それを防ぐ力が必要だった。

ーー工藤明を、『時間という概念の存在しない新世界のようなもの』に閉じ込める。

イルマはその力で、五臓六腑のひとつである腎臓を使い、『時間という概念が存在しない世界のようなもの』を作りだすことにした。
作れるかどうかはわからなかった。
数学上は可能だが、現実的には不可能な、球体に一切傷をつけず裏返した状態を再現した。数学は苦手だったから、YouTubeでそういうものが数学上はあるという動画を一度観たことがあるだけだった。
球体は裏返すと四次元構造の物体になるらしい。それはおそらく四次元世界そのものだ。
そして、四次元世界では時間さえも操ることが可能となる。四次元とはそういうものだと何かの漫画で読んだことがあった。違っていてもいい。そういうものとして作る。イルマにならそれができるはずだった。
時間を操ることができるなら、その概念そのものも消すこともできるかもしれなかった。

「なんだ、このおかしな物体は……君が作り出してるのか?」

そして、それは工藤のそばに現れてくれた。

「一度も経験してないのか?あんたが何回ループしたか知らないけど、これまでのぼくは随分と間抜けだったんだな」

そう言わざるを得なかった。
今のイルマにとって、ギフトで作り出すものは『椅子のようなもの』でも『ホワイトボードのようなもの』でもなければ、『甲冑や盾や剣のようなもの』でもなかった。
たとえギフトであっても、なんの攻撃もしてきていない工藤明を殺せば、イルマの脳内に蓄積したナノマシンは彼を人体発火させるだろう。
何を作って攻撃をしたとしても、捕まえて警察に突き出したとしても、工藤明は日付が変わればループするのだ。

「これは……君のギフトは一体なんなんだ?」

「ぼくにもよくわからないんだけどね、『概念のリサイクル』だとぼくは思ってる。あんたにそれは何に見える?」

「時間という概念の存在しない新世界のようなもの……なんだ?ぼくは何を言ってるんだ?」

君は何を言っているんだ?ではなく、ぼくは何を言っているんだ?と工藤は言った。
それこそがイルマのギフトだった。

「大丈夫。合ってるよ。あんたの脳は、それを見た瞬間に『形』を認識するより先に『時間という概念の存在しない新世界のようなもの』と脳が勝手に結論づけてしまうんだ。それなのに、それをよく見ようとすると形が崩れる。そうだろ?」

「輪郭が分解されていく……面と面の間に薄い『間』がある……この『間』は空気じゃなくて、“見る者の記憶”を素材にしてできている……そんな感じだ……」

本当にぼくは何を言っているんだ?言わされているんだ?と、工藤は頭を抱えはじめた。乗っていた電動キックボードから降り、目の前にあるそれから目が離せないようになっていた。夢中になっていた。

「それは、見る人によって見え方が少し違うんだ。ぼくにはそれは、鉄で出来てるように見える。あんたにはどう見えてる?」

「剣がたくさん刺さった樽だよ。黒ひげ危機一髪みたいな……」

「そっか。でも、それを見た全員が、『時間という概念の存在しない新世界のようなもの』と呼ぶことだけは一致してるんだ。そうだろ?それ以外の言葉が出てこないはずだ」

「だから『概念のリサイクル』ってわけか。君か、過去に誰かがイメージした『時間という概念が存在しない世界のようなもの』という情報を、この世界に複製物として再構成しているんだね」

「そうだよ。あんたが二度とループできなくなるようにするための『時の牢獄のようなもの』だよ」

時間という概念が存在しない世界のようなものーー時の牢獄のようなものは、工藤を徐々に取り込みはじめていた。


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