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「待ってくれ!俺がギフトでループしてるっていうのは嘘だ。俺はこの村の出身じゃない!白目病にもかかってないし、E.O.P.レンズの手術も受けていないんだ!」
「知ってるよ。この目であんたの大体のことはわかる。生まれも育ちもこの村じゃない。N市の西区なんだろ?でも、ギフトがこの村や白目病だけが由来のものとは限らない」
「ほんとなんだ!ギフトなんて持ってないんだよ!持ってるふりをしてただけだ!」
イルマには鉄で出来ているように見える『時間という概念が存在しない世界のようなもの』は、鉄でありながらまるで肉の塊か何かのように、生きているかのように脈打ちながら、工藤の体を取り込み始めていた。
「イルマくん、彼が言ってることは本当みたい。この人、ギフトを持ってないみたいだよ。持ってたら、わたしにはきっとわかるはずから。この人からはさっきからずっと、何のギフトも感じないの」
萌衣がそう言うのならそうなのだろう。
ひとりで充分だと言ったのは、そういうことだったのかと思った。
工藤がループするギフトをもっていなければ、萌衣のキャッスルで手足を吹き飛ばし、無力化するだけで済む話だった。
「そうなんだ!ぼくは嘘をついてただけなんだ!ギフトなんて持ってないんだよ!萌衣ちゃんにも君のお姉さんにも何にもしてない!日付が変われば明日は普通に来るんだ!」
そうなのだろう。
だが、素雲教から暗殺者として送り込まれている以上、拳銃やナイフなどを持っている可能性があったし、姉を捕獲するためにスタンガンや催涙スプレーを持っているかもしれなかった。
どちらにせよキャッスルの敵ではなかっただろうが。
「今さら遅いよ。あんたは姉さんと萌衣さんをその汚い口と言葉で汚した。その報いだと思いなよ」
ーーニュー・ワールド・メイカー、その男が二度とこの世界に現れることができないようにして。
『時間という概念が存在しない世界のようなもの』は、工藤明を完全に飲み込むと、乾いた音と共にその姿を消した。
工藤が消えた後には電動キックボードだけが残されていた。
「行こう、萌衣さん。藤島大地って男から姉さんを助けなきゃ」
藤島大地は、工藤と同じで素雲教の信者であり、足切池から発見された遺体のひとつ田中大輔を殺して遺棄した犯人だ。
田中は藤島によって『救済のため』という理屈で殺されたという話だった。田中も素雲教の信者だったのだろう。
素雲教は、特定の宗教やその関係者の個人情報をネットに晒し、誹謗中傷するだけでなく、情報を得るだけならハッキングまで行う団体であり、工藤によればラース様という教祖はいるらしいが、彼もその教祖の顔を知らなかった。それどころか宗教としては認められてすらいなかった。
素雲教は、宗教のふりをした犯罪者集団だった。
信者たちは、現実世界での人間関係に悩みを抱えており、インターネット上での過激な活動を通じて承認欲求を満たしてる人たちだという。最近は生成AIなども使ってフェイク動画も使っているのだろう。
攻撃対象が異なるだけで、SNSで誹謗中傷を行う者たちはすべて素雲教信者のようなものかもしれない。
「2人乗りは出来そうにないみたい。萌衣さん、走れる?」
工藤の電動キックボードは役に立ちそうになかった。
「キャッスルを出してるから走れるよ。この子たちはわたしの目の代わりだから。さすがに車やバイクや自転車に乗るのは無理だけど」
足切神社の社務所のそばには車とバイクが一台ずつあった。自転車は二台あった。
バイクは、足切池の底に流れてきていた水を塞き止めるための犠牲となった神主であり萌衣の父でもあった人のものだろうか。
車は自転車は、萌衣の母や妹の萌歌と萌音の兼用のものだろう。
ふたりとも運転免許を持っていなかったし、萌衣は目が見えなかったから、徒歩か走るしか選択はなかった。
イルマと萌衣は急いで村戸家に向かって走った。
小さな村だが、乗り物がなければ不便に感じるほどには大きかった。
「イルマくんの家から、エミリちゃんのギフトと、もうひとり、知らないギフトを感じる」
徐々に家が近づいてくると、萌衣は言った。
「それが藤島大地って奴だね」
「間違いないと思う」
「他には何か感じない?そいつだけ?」
他にも犠巫徒がいたら厄介だったからそう訊ねた。
「ひとりだけ。間違いないよ。でも、この力はもしかして女の人……?」
「女? 藤島大地は男でしょ?」
萌衣のその直感は当たっていた。
村戸家にいたのは、藤島大地ではなく、女だった。
地雷系メイクというやつだろうか。
トー横キッズのようなメイクをして、フリフリのドレスのようなワンピースを着た女だった。
「姉さん!」
「エミリちゃん!?」
その女は、左手でエミリの襟首をつかみ、華奢に見える片腕だけで軽々と持ち上げていた。右手には血のついたサバイバルナイフを握っていた。
その足元の床には、姉が両手の指を取り外して産み出した9体のリモートワーカーズは転がっていた。
姉の指は、奥の手である左手の薬指以外、もう残ってはいなかった。
「リモートワーカーズが……みんな……」
そのどれもが、心臓を一突きにされていた。他に傷はないように見えた。
姉のギフトは元々戦闘向きのものではなかった。
9体すべてがやられてしまったということは、本当になす術がないほどにその女のギフトが強力だったのだろう。
だが、女はギフトを使うまでもなかったのかもしれない。生身のまま1対9対で戦えるだけの戦闘技術を持っていたのかもしれなかった。
イルマはその視界にテロップのよくに映し出された名前を見た。
「やっぱり藤島大地じゃない……尾上カナイ(おがみ かない)……?24歳……」
「尾上……?エミリちゃんが『ホワイトボードのようなもの』に書いてた犯人の名前にはそんな人はいなかったよ……」
工藤明にまんまと騙された。イルマはそう思ったが、藤島大地は姉を片腕で軽々と持ち上げる尾上の向こうにいた。
藤島大地、28歳。
彼は、すでに死体となって転がっていた。
「知ってるよ。この目であんたの大体のことはわかる。生まれも育ちもこの村じゃない。N市の西区なんだろ?でも、ギフトがこの村や白目病だけが由来のものとは限らない」
「ほんとなんだ!ギフトなんて持ってないんだよ!持ってるふりをしてただけだ!」
イルマには鉄で出来ているように見える『時間という概念が存在しない世界のようなもの』は、鉄でありながらまるで肉の塊か何かのように、生きているかのように脈打ちながら、工藤の体を取り込み始めていた。
「イルマくん、彼が言ってることは本当みたい。この人、ギフトを持ってないみたいだよ。持ってたら、わたしにはきっとわかるはずから。この人からはさっきからずっと、何のギフトも感じないの」
萌衣がそう言うのならそうなのだろう。
ひとりで充分だと言ったのは、そういうことだったのかと思った。
工藤がループするギフトをもっていなければ、萌衣のキャッスルで手足を吹き飛ばし、無力化するだけで済む話だった。
「そうなんだ!ぼくは嘘をついてただけなんだ!ギフトなんて持ってないんだよ!萌衣ちゃんにも君のお姉さんにも何にもしてない!日付が変われば明日は普通に来るんだ!」
そうなのだろう。
だが、素雲教から暗殺者として送り込まれている以上、拳銃やナイフなどを持っている可能性があったし、姉を捕獲するためにスタンガンや催涙スプレーを持っているかもしれなかった。
どちらにせよキャッスルの敵ではなかっただろうが。
「今さら遅いよ。あんたは姉さんと萌衣さんをその汚い口と言葉で汚した。その報いだと思いなよ」
ーーニュー・ワールド・メイカー、その男が二度とこの世界に現れることができないようにして。
『時間という概念が存在しない世界のようなもの』は、工藤明を完全に飲み込むと、乾いた音と共にその姿を消した。
工藤が消えた後には電動キックボードだけが残されていた。
「行こう、萌衣さん。藤島大地って男から姉さんを助けなきゃ」
藤島大地は、工藤と同じで素雲教の信者であり、足切池から発見された遺体のひとつ田中大輔を殺して遺棄した犯人だ。
田中は藤島によって『救済のため』という理屈で殺されたという話だった。田中も素雲教の信者だったのだろう。
素雲教は、特定の宗教やその関係者の個人情報をネットに晒し、誹謗中傷するだけでなく、情報を得るだけならハッキングまで行う団体であり、工藤によればラース様という教祖はいるらしいが、彼もその教祖の顔を知らなかった。それどころか宗教としては認められてすらいなかった。
素雲教は、宗教のふりをした犯罪者集団だった。
信者たちは、現実世界での人間関係に悩みを抱えており、インターネット上での過激な活動を通じて承認欲求を満たしてる人たちだという。最近は生成AIなども使ってフェイク動画も使っているのだろう。
攻撃対象が異なるだけで、SNSで誹謗中傷を行う者たちはすべて素雲教信者のようなものかもしれない。
「2人乗りは出来そうにないみたい。萌衣さん、走れる?」
工藤の電動キックボードは役に立ちそうになかった。
「キャッスルを出してるから走れるよ。この子たちはわたしの目の代わりだから。さすがに車やバイクや自転車に乗るのは無理だけど」
足切神社の社務所のそばには車とバイクが一台ずつあった。自転車は二台あった。
バイクは、足切池の底に流れてきていた水を塞き止めるための犠牲となった神主であり萌衣の父でもあった人のものだろうか。
車は自転車は、萌衣の母や妹の萌歌と萌音の兼用のものだろう。
ふたりとも運転免許を持っていなかったし、萌衣は目が見えなかったから、徒歩か走るしか選択はなかった。
イルマと萌衣は急いで村戸家に向かって走った。
小さな村だが、乗り物がなければ不便に感じるほどには大きかった。
「イルマくんの家から、エミリちゃんのギフトと、もうひとり、知らないギフトを感じる」
徐々に家が近づいてくると、萌衣は言った。
「それが藤島大地って奴だね」
「間違いないと思う」
「他には何か感じない?そいつだけ?」
他にも犠巫徒がいたら厄介だったからそう訊ねた。
「ひとりだけ。間違いないよ。でも、この力はもしかして女の人……?」
「女? 藤島大地は男でしょ?」
萌衣のその直感は当たっていた。
村戸家にいたのは、藤島大地ではなく、女だった。
地雷系メイクというやつだろうか。
トー横キッズのようなメイクをして、フリフリのドレスのようなワンピースを着た女だった。
「姉さん!」
「エミリちゃん!?」
その女は、左手でエミリの襟首をつかみ、華奢に見える片腕だけで軽々と持ち上げていた。右手には血のついたサバイバルナイフを握っていた。
その足元の床には、姉が両手の指を取り外して産み出した9体のリモートワーカーズは転がっていた。
姉の指は、奥の手である左手の薬指以外、もう残ってはいなかった。
「リモートワーカーズが……みんな……」
そのどれもが、心臓を一突きにされていた。他に傷はないように見えた。
姉のギフトは元々戦闘向きのものではなかった。
9体すべてがやられてしまったということは、本当になす術がないほどにその女のギフトが強力だったのだろう。
だが、女はギフトを使うまでもなかったのかもしれない。生身のまま1対9対で戦えるだけの戦闘技術を持っていたのかもしれなかった。
イルマはその視界にテロップのよくに映し出された名前を見た。
「やっぱり藤島大地じゃない……尾上カナイ(おがみ かない)……?24歳……」
「尾上……?エミリちゃんが『ホワイトボードのようなもの』に書いてた犯人の名前にはそんな人はいなかったよ……」
工藤明にまんまと騙された。イルマはそう思ったが、藤島大地は姉を片腕で軽々と持ち上げる尾上の向こうにいた。
藤島大地、28歳。
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