情報迷宮≪実験≫都市アルゴリア -THE NEW WORLD MAKER-

あめの みかな

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#51

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「狐野エミリ……お前はわたしの『ホワイトフォクシーズ』のうちのひとりだったはずだ。何故わたしの式神のような存在に過ぎない『四尾の狐』が、わたしに似たギフトを持っている?」

「何を言ってるの……?わたしは村戸エミリ……狐野エミリは、わたしがE.O.P.レベルを上げて偽造した名前なんだけど……?」

姉は苦しそうにそう答えた。
イルマも姉からそう聞いていた。
E.O.P.レベルが90以上になると自分の視界の中にマウスやキーボードのようなものが現れ、名前を自由に書き換えることができるようになると。

「尾上……?ギフトを持ってるってことはこの村の……?わたしたちの同級生……?」

萌衣は何かを知っているようだった。いや、必死に思い出そうとしていた。
そんな萌衣を見て、尾上カナイは不気味に笑った。近づいたら姉を殺す、そんな目をしているようにイルマには見えた。

「ひさしぶりだね、足切萌衣。高校以来?あんたがこいつに何かしたの?こいつがわたしのことを忘れたり、自分が誰かを忘れたり、ギフトに目覚めるなんてことがないことくらい、あんたが一番知ってるよね?」

この女は一体何を言ってるのだろう。
姉は村戸家がこの村に引っ越してきた1年後、今から7年前に白目病を患い、E.O.P.レンズの手術を受けた。
大学生の頃にギフトに目覚めた。
ただそれだけのはずだった。

「もしかして、あなた……」

「あんた知ってたはずだよねぇ?こいつが高校のときにとっくに死んでること。その死体を使って、わたしのギフトで動かしてあげてるだけだってこと」

「姉さんが高校のときに死んだ?」

そんなわけがなかった。
姉は生きている。今目の前にいる。それがすべてだ。
そのはすだった。
だがーー
その死体を使って、わたしのギフトで動かしてあげた?
ファンタジー小説のネクロマンサーのように死体を操るギフトだとでも言うのだろうか?
尾上は、萌衣は知っていたはずだとも言った。

「萌衣さん……どういうこと?萌衣さんは何をぼくたちに隠してるの?」

萌衣はイルマから目を背けた。
それだけで十分だった。
尾上が適当なことを言って混乱させようとしているわけではないことがわかったからだ。
萌衣は姉の親友で、イルマにとって初恋の相手だった。
だけど、信用してはいけない相手だったのかもしれない。

もしも彼女が敵だったならーー
つい先程のようにギフトを使って工藤という男のように『時間という概念が存在しない世界のようなもの』を作り出し、その世界に取り込んで、いますぐにでも無力化するべきだろうか。
いや、敵だったとしたら、とっくに攻撃を仕掛けてきていたはずだ。
ーー違う。
工藤が現れたとき、萌衣は彼がギフトを持っていないことに気づいていた。けれど言わなかった。それどころか、イルマだけを先にこの家に向かわせようとしていた。
夜道を散歩したいと言い出したのは萌衣だった。徒歩では遠い足切神社までふたりで歩いた。神社に火を放とうとしていたが、本気ではなかった。
彼女は村戸家で何が起きるかを知っていたとしか思えなかった。
自分がここで起きることに巻き込まれないように動いていたと考えるのが普通だろう。
彼女は敵ではないかもしれないが、味方でないことだけはわかった。

「あなた、尾上カナイさんじゃないのね……顔も声も違ってるけど、鞍馬葉子(くらま ようこ)さんなのね……」

萌衣はようやく気づいたかのようにそんなセリフを言った。

鞍馬葉子という名前には見覚えや聞き覚えがあった。
だからイルマはホワイトボードのようなものを見た。

足切池から発見された遺体のひとつに山田直哉という34歳の男がいた。

犯人は、市役所勤務の女性であり、市民課の担当で、数ヵ月前に山田とトラブルになった。
そのトラブルが殺害の動機だと、姉の字で書かれていた。
遺体が発見されるまでのこの数か月、町の人たちからは「市役所のクレーマーが突然姿を消した」と都市伝説的のように語られていたともあった。

山田は厩戸見市から出ていこうとしていた男だったようだ。
市役所には何かの手続きにやってきたが、彼はマイナンバーカードを持ってはおらず、作りたくないと言っていたらしい。
健康保険証はこの夏にマイナ保険証に統合されてしまったため、マイナンバーカードがない上に保険証も持っていないという状況だったという。つまり、病気や怪我をしても病院にかかるつもりがなかったか全額負担をするつもりだったということになる。元々保険証を持っていなかったのかもしれない。
運転免許証はもっていたようだが、それだけでは足りず、もうひとつ何か身分を証明できるものが必要な手続きだったらしい。
それは市役所だけでなく警察も関わるものであり、市役所の判断だけでは手続き不可能なものだったという。

ーーだーかーらー、何度も何度もお願いしてるじゃないですか、あなたには人の心がないんですか?困ってるから助けてほしいって言ってるじゃないですか、あなたと話してるとなんかロボットと話してるみたいなんですけど?何度も言いますがマイナンバーカードは作る気はありません、こんな街出ていくからもういいんですよ、知りませんよ、でも、この手続きだけはどうしても今日やってもらわなくちゃいけないんですよ、何度言えばわかってくれるんですか?

イルマの目には、ホワイトボードのようなものに書かれた情報から、そのときの様子が流れ込んできた。
映像ではなく文字情報として流れてきた。
山田は言葉こそ丁寧だが終始怒鳴り付けるような様子だったようだ。涙ぐみながら懇願したかと思えば、また怒り出していたという。
情緒不安定な精神状態だ。
市役所に来る前に一度メンタルクリニックにかかった方が良かったかもしれない。だが、メンタルクリニックでも迷惑をかけたかもしれないと思うと、行かないでくれてよかったのかもしれなかった。

山田はおそらく接客業を経験したことがなかったのだろう。
どこかの誰かが「お客様は神様です」なんてことを言ってしまったために自分のことを勘違いしてしまう人がいる。姉が以前言っていた。接客業を経験するとこの国の民度の低さがわかると。海外から言われているようなマナーの良い人間は数が限られており、飲食店に訪れた客の民度はSNSの民度とほとんどかわらないと言っていた。
市役所の担当者を怒鳴るような山田のような人間は、飲食店などでも当然偉そうな態度を取っていただろう。

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