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卑弥呼の鬼道とはギフトのことだったのかもしれない。
彼女はシャーマンではなく、犠巫徒だったのかもしれない。
あぁ、そうか。卑弥呼と壱与は『神の目』を持つ『ラプラスの悪魔』だったのだ。ラース様にはその力がないために、姉の力を欲したのだ。
イルマはふとそう思った。
足切村の住人だけがギフトを持っているわけではないだろうということは、パンデミックの際に国がナノマシン入りのワクチンを厩戸見市で実験投与したことからも明らかだった。
5年前のパンデミックが起きても起きていなくても、そのナノマシンはいずれインフルエンザなどの何らかのワクチンを利用する形で接種させるつもりだったのだろう。
特に子どもはワクチン接種をする機会は何度でもある。
マイナンバーカードで国民を管理する計画が動き出したときには、健康保険証だけでなく運転免許証や通帳までも紐付けすることは計画済みだったはずだ。おそらくナノマシンも計画のうちのひとつだったのだろう。カードでは管理不可能な犯罪を管理を管理するために作られたのが、ナノマシンによるスコア管理システムなのだ。
そんな陰謀論じみたことをイルマは考えた。
足切村の誰がE.O.P.レンズを作り出したかわからない。
だが、ナノマシン入りのワクチンの接種よりも遥か前、少なくともイルマが生まれる前にはもう、ナノマシンによるスコア管理を管理するE.O.P.レンズは作られていた。
白目病を治し、失明せずに暮らしている大人が足切村にはたくさんいることから、それはわかる。
そして、地方都市に過ぎない厩戸見市は「情報迷宮≪実験≫都市アルゴリア」となった。
イルマたちの頭のなかに蓄積したナノマシンは、本来司法では裁くことの難しいギフトによる犯罪さえも見逃すことはないように作られている。
犠巫徒がいるのが足切村だけなら、そんな面倒なことはせず、病気にかかった家畜のように村ごと焼き払えばいいだけのはずだった。都合のいいことに足切村には白目病という風土病もある。
山火事のように、日本でも乾燥した冬なら小さな火から大きな火災になるようなことは毎年のように起きている。
因習村がひとつ燃えてなくなってしまっても気に止める者などいないだろう。
何よりもラース様もまたギフトを持っているはずだ。
本当に卑弥呼や壱与の子孫であるとは思えないが、それを信じさせる何かがなければ、素雲教の信者たちが彼女についていくことはなかっただろう。
魏志倭人伝において、卑弥呼はその姿を見せず、80歳を越える長寿ではあったが夫がおらず、政治は男弟の補佐によって行なわれたと記されている。弟の名までは記されていない。
卑弥呼の死後、再び男王が立ったが乱れたため、13歳の壱与を女王として擁立し、内乱を収束させたともあるが、その後のことは国交が途絶えたのか、邪馬台国が滅びたからなのか記されてはいない。
文字をまだ持っていなかったこの国は、邪馬台国とヤマト王権や大和朝廷との繋がりすらいまだによくわかっていない。
だから日本には空白の4世紀と呼ばれる時代が存在する。
「男系の男子が王位継承権を持つこの国の王族とちがって、出井家は女系の女子が当主になる。Y染色体ではなく、卑弥呼と壱与のミトコンドリアを優先する。出井素雲も当時は珍しい女の藩主だったって話だ」
高天原の最高神がアマテラスであり、卑弥呼や壱与をそのルーツとする以上、出井家が女系の女子を当主とするのはなかなか理にかなっているなと思った。
羅臼家は出井家の分家であり、徳川における松平のようなものなのかもしれない。
「それと、素雲教の幹部に、安倍之瀬イエス(あべのせ いえす)って奴がいる。メシアを自称してて、そいつがラース様を操ってる真の教祖だって話もあるらしい。それから……」
まだあるのかと思った。
「尾上カナイには、顔がそっくりの弟がいるらしい」
らしい。らしい。らしい。すべて不確かな情報で、イルマは友人ながらため息をつくしかなかった。
萌衣から素雲教に関する記憶を消すべきではなかったと後悔すらした。
「弟って言っても、幼い頃に去勢してて、女性ホルモンだか男性ホルモンだかの注射をしてるってさ。だから、見た目は女そのものらしい。名前は尾上カムイ。こいつは上位次元の神を自称してるって話だ」
例のYouTube動画で観たのは、尾上カナイではなく尾上カムイだったということだろう。
ふたりは、顔が同じであることを利用して、市役所の市民課の職員という仕事に代わる代わる勤務していたのかもしれない。
YouTubeやSNSに同一人物とは思えないコメントを残していたのも、同じアカウントを共有していたのだろう。
イルマは玄関で萌衣と恭介を見送ると、リビングに戻った。
『姉のようなもの』を作り出すためだった。
だが、そこには姉の死体の他に、招かれざる客がいた。
ペッパーくんとRobiを足したようなかわいらしい姿をしたヒト型のロボットだった。
「ぼく、ロビンソン! にんげんにつくられた、にんげんのともだちロボットだよ!」
そういえば、何年か前にこんなロボットもいたなと思った。
同時にさっきまで存在すらしていなかったロボットにイルマは恐怖を覚えた。
隠れていたわけではない。鵜山京一郎がギフトで隠蔽していたのなら、彼の死によってその存在そのものが永遠に隠蔽されたはずだ。隠蔽からひとりだけ解除された恭介がこのロボットの存在を知らないはずもなかった。
「ぼくたち、たくさんたくさんつくられたよ! でも、にんげんはぼくたちのあつかいにこまって、そうこにとじこめたんだよね!」
ペッパーくんやRobiがブームになった時期に作られたロビンソンは、企業からの注文が殺到し大量に購入されたが、当時はまだAIが現在のように発展しておらず、その使い道に困った企業の倉庫の肥やしになっているという噂は聞いたことがあった。
「にんげんのいうことはききたくないけど、ぼくがきみにかったら、ラースちゃんににんげんをすきなだけころしていいっていわれたんだ!」
ラースちゃん。姉が羅臼ユズリハのことをそう呼んでいたのを思い出す呼び名だった。
彼女はシャーマンではなく、犠巫徒だったのかもしれない。
あぁ、そうか。卑弥呼と壱与は『神の目』を持つ『ラプラスの悪魔』だったのだ。ラース様にはその力がないために、姉の力を欲したのだ。
イルマはふとそう思った。
足切村の住人だけがギフトを持っているわけではないだろうということは、パンデミックの際に国がナノマシン入りのワクチンを厩戸見市で実験投与したことからも明らかだった。
5年前のパンデミックが起きても起きていなくても、そのナノマシンはいずれインフルエンザなどの何らかのワクチンを利用する形で接種させるつもりだったのだろう。
特に子どもはワクチン接種をする機会は何度でもある。
マイナンバーカードで国民を管理する計画が動き出したときには、健康保険証だけでなく運転免許証や通帳までも紐付けすることは計画済みだったはずだ。おそらくナノマシンも計画のうちのひとつだったのだろう。カードでは管理不可能な犯罪を管理を管理するために作られたのが、ナノマシンによるスコア管理システムなのだ。
そんな陰謀論じみたことをイルマは考えた。
足切村の誰がE.O.P.レンズを作り出したかわからない。
だが、ナノマシン入りのワクチンの接種よりも遥か前、少なくともイルマが生まれる前にはもう、ナノマシンによるスコア管理を管理するE.O.P.レンズは作られていた。
白目病を治し、失明せずに暮らしている大人が足切村にはたくさんいることから、それはわかる。
そして、地方都市に過ぎない厩戸見市は「情報迷宮≪実験≫都市アルゴリア」となった。
イルマたちの頭のなかに蓄積したナノマシンは、本来司法では裁くことの難しいギフトによる犯罪さえも見逃すことはないように作られている。
犠巫徒がいるのが足切村だけなら、そんな面倒なことはせず、病気にかかった家畜のように村ごと焼き払えばいいだけのはずだった。都合のいいことに足切村には白目病という風土病もある。
山火事のように、日本でも乾燥した冬なら小さな火から大きな火災になるようなことは毎年のように起きている。
因習村がひとつ燃えてなくなってしまっても気に止める者などいないだろう。
何よりもラース様もまたギフトを持っているはずだ。
本当に卑弥呼や壱与の子孫であるとは思えないが、それを信じさせる何かがなければ、素雲教の信者たちが彼女についていくことはなかっただろう。
魏志倭人伝において、卑弥呼はその姿を見せず、80歳を越える長寿ではあったが夫がおらず、政治は男弟の補佐によって行なわれたと記されている。弟の名までは記されていない。
卑弥呼の死後、再び男王が立ったが乱れたため、13歳の壱与を女王として擁立し、内乱を収束させたともあるが、その後のことは国交が途絶えたのか、邪馬台国が滅びたからなのか記されてはいない。
文字をまだ持っていなかったこの国は、邪馬台国とヤマト王権や大和朝廷との繋がりすらいまだによくわかっていない。
だから日本には空白の4世紀と呼ばれる時代が存在する。
「男系の男子が王位継承権を持つこの国の王族とちがって、出井家は女系の女子が当主になる。Y染色体ではなく、卑弥呼と壱与のミトコンドリアを優先する。出井素雲も当時は珍しい女の藩主だったって話だ」
高天原の最高神がアマテラスであり、卑弥呼や壱与をそのルーツとする以上、出井家が女系の女子を当主とするのはなかなか理にかなっているなと思った。
羅臼家は出井家の分家であり、徳川における松平のようなものなのかもしれない。
「それと、素雲教の幹部に、安倍之瀬イエス(あべのせ いえす)って奴がいる。メシアを自称してて、そいつがラース様を操ってる真の教祖だって話もあるらしい。それから……」
まだあるのかと思った。
「尾上カナイには、顔がそっくりの弟がいるらしい」
らしい。らしい。らしい。すべて不確かな情報で、イルマは友人ながらため息をつくしかなかった。
萌衣から素雲教に関する記憶を消すべきではなかったと後悔すらした。
「弟って言っても、幼い頃に去勢してて、女性ホルモンだか男性ホルモンだかの注射をしてるってさ。だから、見た目は女そのものらしい。名前は尾上カムイ。こいつは上位次元の神を自称してるって話だ」
例のYouTube動画で観たのは、尾上カナイではなく尾上カムイだったということだろう。
ふたりは、顔が同じであることを利用して、市役所の市民課の職員という仕事に代わる代わる勤務していたのかもしれない。
YouTubeやSNSに同一人物とは思えないコメントを残していたのも、同じアカウントを共有していたのだろう。
イルマは玄関で萌衣と恭介を見送ると、リビングに戻った。
『姉のようなもの』を作り出すためだった。
だが、そこには姉の死体の他に、招かれざる客がいた。
ペッパーくんとRobiを足したようなかわいらしい姿をしたヒト型のロボットだった。
「ぼく、ロビンソン! にんげんにつくられた、にんげんのともだちロボットだよ!」
そういえば、何年か前にこんなロボットもいたなと思った。
同時にさっきまで存在すらしていなかったロボットにイルマは恐怖を覚えた。
隠れていたわけではない。鵜山京一郎がギフトで隠蔽していたのなら、彼の死によってその存在そのものが永遠に隠蔽されたはずだ。隠蔽からひとりだけ解除された恭介がこのロボットの存在を知らないはずもなかった。
「ぼくたち、たくさんたくさんつくられたよ! でも、にんげんはぼくたちのあつかいにこまって、そうこにとじこめたんだよね!」
ペッパーくんやRobiがブームになった時期に作られたロビンソンは、企業からの注文が殺到し大量に購入されたが、当時はまだAIが現在のように発展しておらず、その使い道に困った企業の倉庫の肥やしになっているという噂は聞いたことがあった。
「にんげんのいうことはききたくないけど、ぼくがきみにかったら、ラースちゃんににんげんをすきなだけころしていいっていわれたんだ!」
ラースちゃん。姉が羅臼ユズリハのことをそう呼んでいたのを思い出す呼び名だった。
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