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ロビンソンは当時に比べたら、少しは進歩しているように見えた。この数年の間にAIのアップデートが行われていたのかもしれない。
だが、それでもまだイルマのスマホの中にインストールされているAIのようにはなってはいなかった。
ペッパーくんもRobiもロビンソンも、作られるのが早すぎたのだ。
「ラースちゃんのともだちのカムイくんは、ぼくにたくさんのかんせつをくれたんだよ。みてみて、たくさんのぼくが、ぼくのからだをこうせいしてるのがわかるでしょ?」
彼の言う通り、その体は無数のロビンソンたちが融合しており、関節に関節をつなぎ、腕や脚は樹木のように枝分かれしていた。
その頭部がリビングの天井に届くほど巨大なボディを形作ってもいた。
「尾上カムイって奴が君を作ったの?」
カナイではなく、カムイ。
尾上カナイの顔がそっくりの弟であり、なぜか幼い頃に去勢しており、女性ホルモンだか男性ホルモンだかの注射をしてるという人物だ。
見た目は女そのものらしいと恭介が言っていた。
上位次元の神を自称してるという話だった。
「そうだよ。カムイくんのギフトは『ギガントマキナ』っていうんだよ」
「ギガントマキアの間違いじゃないのか?」
ギガントマキアは、ギリシア神話における宇宙の支配権を巡る大戦だ。
第ニ世代の巨人族であるギガースたちとオリュンポスの神々が戦いを繰り広げた。
最強の英雄ヘラクレスがオリュンポス側の味方として参戦したことでも知られる。
巨神族には第一世代が存在し、第一世代はティーターンと呼ばれている。
クロノスやレアなど、宇宙創世期の古い神々であり、原初の力を持ち、天地創造に関わる存在だ。
ゼウス率いるオリュンポスの神々と、クロノス率いる巨神族ティーターンとの戦いはティタノマキアと呼ばれ、全宇宙を崩壊させたこの大戦は、終結させるのに10年もの歳月が必要であった。
第二世代の巨人であるギガースは、ティーターンより後に地母神ガイアから生まれた存在で、荒々しく暴力的だったとされている。
尾上カムイのギフトの名が『ギガントマキア』ではなく『ギガントマキナ』であるのは、人間に必要とされなくなったロボットの山から第二世代の巨人のような存在を産み出すことができ、彼らを作った神にも等しい存在である人間を滅ぼすことさえも可能な力だということなのかもしれない。
「ぼくはにんげんよりも、かんせつおおい! つよい! このおんなのこをころしたのもぼくだよ!」
「姉さんのきれいな髪を剃って、脳を取り出したのも君か?」
「それもぼくだよ」
「そうか。じゃあ、君はぼくが壊すよ」
「やってみなよ。やれるもんなら」
ロビンソンがそう言うと、彼の頭部は梵天のように顔が四つになり、腕は降三世明王(ごうざんぜみょうおう)のように八本に増えた。
「なにをおもってるのかな? ぼんてんさまみたいとか、ごうざんぜみょうおうみたいとか、おもってるのかな? でも、ちがうよ」
腕はさらに背中から生え続けていった。
背中のランドセルのようなものに格納されていただけだろうが、42本の腕を持つ千手観音のようになった。
「せんじゅかんのんともちがうよ」
「わかってる。足切神社に伝わる黄泉路神話に出てくる『千手観察者(せんじゅかんさつしゃ)』ってやつだろ?」
感情を捨てた観察のみの存在、それが千手観察者だ。
千手観察者は、過去・現在・未来を解析し、運命を最適化し、選択と偶然を廃し完全統御された社会実験を行う。
千手観察者にとって、人々はデータでしかない。
まるで、この「情報迷宮≪実験≫都市」そのものであり、「ラプラスの悪魔」そのもののような存在だった。
「へー、ものしりなんだねー」
「知らなくても、ぼくの目には見えるんだよ。映画のテロップみたいに君の名前がね。型式番号や製造年月日、どこの会社が君を買って、使い道に困って倉庫に放り込んだのかや、君を構成する材料や設計図まですべてが見える。神の名前やその神性、能力、目的までね」
本当に厄介な目だった。
音にまでテロップがつき、あらゆる情報が見えるせいで、まるでニコニコ動画のコメントによる弾幕のようだった。
E.O.P.レベルを上げすぎてしまったのだろう。情報によって視界が遮られてしまう。
情報のオン・オフ機能が欲しいくらいだった。
頭がおかしくなりそうだった。
見えすぎることに疲れてしまうのだ。
ずっと視界に靄がかかっていた白目病の方がまだましだった。
「きみは、そこのおんなのことおなじ。かみのめをてをいれて、ラプラスのあくまになれるそしつをもってるんだもんね。ぼくにもきみのじょうほうがみえるからわかるよ。きみたちきょうだいはね、とくべつなんだ。おとうさんとおかあさんもそう。だから、ラースちゃんにえらばれた。きみたちのかぞくは、このむらにまねかれて、どこにもいけなくさせられたんだよ」
ようやくわかった。
イルマの両親がこの村に転居を決めたのは、偶然ではなく必然だったということなのだろう。
そして、両親の失踪もまた、ふたりがイルマや姉を捨てたわけではなかったのだ。
素雲教によって拉致監禁され、ふたりはとっくに姉のように目や脳を奪われているのだろう。
「とっくに『神の目』を手に入れて姉さんが、今になってその目や脳を奪われたのは、ぼくの親代わりになってここまで育てさせるためってことか。姉さんは君たちに生かされてただけだったんだね」
「そうだよ。きみのおねえさんのうやめはまだいきてるけどね。きみにはほごしゃになるそんざいがひつようだったんだ。ラプラスのあくまをよにんあつめて、せかいをかんぜんにあやつることが、ラースちゃんのもくてき。ナノマシンいりのワクチンをつくったのも、E.O.P.レンズをつくったのもラースちゃんなんだ」
羅臼ユズリハは、姉や萌衣と同い年のはずだった。
イルマから見れば充分大人だが、世間から見ればまだ24歳だ。成人して6年しかたっていない。
そんな彼女が素雲教の教祖であるのは血縁的なものだろうが、ナノマシン入りのワクチンやE.O.P.レンズを作ったというのは無理がある気がした。
ナノマシンもE.O.P.レンズも、現代の科学力では到底産み出すことができない、数世紀は先の技術だからだ。
ギフトによって作られたというのならまだ納得もできる。
だが、白目病の手術自体、彼女が埋まれる前からあるはずなのだ。
だが、それでもまだイルマのスマホの中にインストールされているAIのようにはなってはいなかった。
ペッパーくんもRobiもロビンソンも、作られるのが早すぎたのだ。
「ラースちゃんのともだちのカムイくんは、ぼくにたくさんのかんせつをくれたんだよ。みてみて、たくさんのぼくが、ぼくのからだをこうせいしてるのがわかるでしょ?」
彼の言う通り、その体は無数のロビンソンたちが融合しており、関節に関節をつなぎ、腕や脚は樹木のように枝分かれしていた。
その頭部がリビングの天井に届くほど巨大なボディを形作ってもいた。
「尾上カムイって奴が君を作ったの?」
カナイではなく、カムイ。
尾上カナイの顔がそっくりの弟であり、なぜか幼い頃に去勢しており、女性ホルモンだか男性ホルモンだかの注射をしてるという人物だ。
見た目は女そのものらしいと恭介が言っていた。
上位次元の神を自称してるという話だった。
「そうだよ。カムイくんのギフトは『ギガントマキナ』っていうんだよ」
「ギガントマキアの間違いじゃないのか?」
ギガントマキアは、ギリシア神話における宇宙の支配権を巡る大戦だ。
第ニ世代の巨人族であるギガースたちとオリュンポスの神々が戦いを繰り広げた。
最強の英雄ヘラクレスがオリュンポス側の味方として参戦したことでも知られる。
巨神族には第一世代が存在し、第一世代はティーターンと呼ばれている。
クロノスやレアなど、宇宙創世期の古い神々であり、原初の力を持ち、天地創造に関わる存在だ。
ゼウス率いるオリュンポスの神々と、クロノス率いる巨神族ティーターンとの戦いはティタノマキアと呼ばれ、全宇宙を崩壊させたこの大戦は、終結させるのに10年もの歳月が必要であった。
第二世代の巨人であるギガースは、ティーターンより後に地母神ガイアから生まれた存在で、荒々しく暴力的だったとされている。
尾上カムイのギフトの名が『ギガントマキア』ではなく『ギガントマキナ』であるのは、人間に必要とされなくなったロボットの山から第二世代の巨人のような存在を産み出すことができ、彼らを作った神にも等しい存在である人間を滅ぼすことさえも可能な力だということなのかもしれない。
「ぼくはにんげんよりも、かんせつおおい! つよい! このおんなのこをころしたのもぼくだよ!」
「姉さんのきれいな髪を剃って、脳を取り出したのも君か?」
「それもぼくだよ」
「そうか。じゃあ、君はぼくが壊すよ」
「やってみなよ。やれるもんなら」
ロビンソンがそう言うと、彼の頭部は梵天のように顔が四つになり、腕は降三世明王(ごうざんぜみょうおう)のように八本に増えた。
「なにをおもってるのかな? ぼんてんさまみたいとか、ごうざんぜみょうおうみたいとか、おもってるのかな? でも、ちがうよ」
腕はさらに背中から生え続けていった。
背中のランドセルのようなものに格納されていただけだろうが、42本の腕を持つ千手観音のようになった。
「せんじゅかんのんともちがうよ」
「わかってる。足切神社に伝わる黄泉路神話に出てくる『千手観察者(せんじゅかんさつしゃ)』ってやつだろ?」
感情を捨てた観察のみの存在、それが千手観察者だ。
千手観察者は、過去・現在・未来を解析し、運命を最適化し、選択と偶然を廃し完全統御された社会実験を行う。
千手観察者にとって、人々はデータでしかない。
まるで、この「情報迷宮≪実験≫都市」そのものであり、「ラプラスの悪魔」そのもののような存在だった。
「へー、ものしりなんだねー」
「知らなくても、ぼくの目には見えるんだよ。映画のテロップみたいに君の名前がね。型式番号や製造年月日、どこの会社が君を買って、使い道に困って倉庫に放り込んだのかや、君を構成する材料や設計図まですべてが見える。神の名前やその神性、能力、目的までね」
本当に厄介な目だった。
音にまでテロップがつき、あらゆる情報が見えるせいで、まるでニコニコ動画のコメントによる弾幕のようだった。
E.O.P.レベルを上げすぎてしまったのだろう。情報によって視界が遮られてしまう。
情報のオン・オフ機能が欲しいくらいだった。
頭がおかしくなりそうだった。
見えすぎることに疲れてしまうのだ。
ずっと視界に靄がかかっていた白目病の方がまだましだった。
「きみは、そこのおんなのことおなじ。かみのめをてをいれて、ラプラスのあくまになれるそしつをもってるんだもんね。ぼくにもきみのじょうほうがみえるからわかるよ。きみたちきょうだいはね、とくべつなんだ。おとうさんとおかあさんもそう。だから、ラースちゃんにえらばれた。きみたちのかぞくは、このむらにまねかれて、どこにもいけなくさせられたんだよ」
ようやくわかった。
イルマの両親がこの村に転居を決めたのは、偶然ではなく必然だったということなのだろう。
そして、両親の失踪もまた、ふたりがイルマや姉を捨てたわけではなかったのだ。
素雲教によって拉致監禁され、ふたりはとっくに姉のように目や脳を奪われているのだろう。
「とっくに『神の目』を手に入れて姉さんが、今になってその目や脳を奪われたのは、ぼくの親代わりになってここまで育てさせるためってことか。姉さんは君たちに生かされてただけだったんだね」
「そうだよ。きみのおねえさんのうやめはまだいきてるけどね。きみにはほごしゃになるそんざいがひつようだったんだ。ラプラスのあくまをよにんあつめて、せかいをかんぜんにあやつることが、ラースちゃんのもくてき。ナノマシンいりのワクチンをつくったのも、E.O.P.レンズをつくったのもラースちゃんなんだ」
羅臼ユズリハは、姉や萌衣と同い年のはずだった。
イルマから見れば充分大人だが、世間から見ればまだ24歳だ。成人して6年しかたっていない。
そんな彼女が素雲教の教祖であるのは血縁的なものだろうが、ナノマシン入りのワクチンやE.O.P.レンズを作ったというのは無理がある気がした。
ナノマシンもE.O.P.レンズも、現代の科学力では到底産み出すことができない、数世紀は先の技術だからだ。
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