情報迷宮≪実験≫都市アルゴリア -THE NEW WORLD MAKER-

あめの みかな

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#81

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いや、待て。何かがおかしい。
何かが引っ掛かる。
どこだ? 自分は今、何にひっかかった? 何をおかしいと思った?
イルマは必死に悪神たちの言葉を思い返した。

ーーそうだ。人は縛られることを望み、導かれることを望み、そして神や仏に依存する。弱き人間たちが救いを求めて我らを産み出した。

違う。これではない。

ーー仏のふりをしているだけだがな。我らはこの国の代々の王たちが見てきた『滅びの高天原』に蠢く七つの影である。

これでもない。

そして、その答えにたどり着いた。

ーー我らはこの国の代々の王や権力者たち、そして、この国以外の者たちを、1万年以上に渡って操り、この国を支配してきた『偽りの仏たち』そのものだ。

これだ。
1万年?1500年の間違いではないのだろうか?
1万年も前からというのは、さすがにあり得ないと思ったのだ。
それは、昭和初期に発表され、この国の人々を一時期夢中にさせたが、後に偽書とされた竹内文書に書かれていたことと同じではないか?

当時の人々が竹内文書に夢中になったのは、西洋諸国に追い付け追い越せという時代の中、この国こそが世界の中心であったと記されていたからであり、偽書とされたのは現人神である王よりも上位の宇宙的な存在がいることが記されていたためだった。
その存在を、高天原からアマテラスの命を受けた八咫烏が代々の王の側近として存在し、人の姿をしていた、それくらいにしておけば、竹内文書は偽書にされるどころか新約古事記として認められていたかもしれない。

それはともかく、目の前の悪神たちの言葉は、この国の王家が1万年前から続いており、この国が世界の中心だったとする偽りの歴史と何も変わらない。
だが、それを可能とする存在が目の前にいることにすぐに気づいた。

それは、終焉明王だ。

仏のふりをしているだけのこの悪神は、1万年前から存在しており人類文明を何度もリセットしてきたのかもしれない。
本当に1万年前から存在するーー当時の人間によって産み出された神かもしれないし、あるいは終焉明王がそう思い込んでいるだけかもしれなかったが。

「驚いたよ。否定しないんだね。君たちが人間によって産み出された存在にすぎないってこと」

イルマは何も気づいてないふりをすることにした。

「否定はしない。神話など所詮読み物に過ぎない。我らは君たちが普段から楽しんでいる小説や漫画の登場人物と何ら変わらない。だが、人間が我らの存在を求める限り、我らは存在し続ける」

「ぼくは別に君たちの存在を求めてはいないよ。だから、君たちを壊す」

殺すではなく、壊す。
目の前にいるのは、神を名乗ってはいるが、その体は神ではない。ペッパーくんやRobiと同じ、AIを内蔵したヒト型のロボット・ロビンソンの集合体だ。
それに神を名乗る存在が取り憑いているだけだ。

イルマもまた『ニュー・ワールド・メイカー』によって、目の前にいる7柱の悪神に対抗できるであろう存在を作ることにした。
『鳳凰のようなものであり、不死鳥のようなもの』と『絶対零度の氷の麒麟のようなもの』だ。
イルマのギフトは、恭介のギフトさえも再現できるものだった。『氷結麒麟零式』を相殺したときから、自分になら同じことができると思っていた。
同時に、姉の死体を萌衣の死体と同じ『時間という概念が存在しない世界のようなもの』にしまいこんだ。
問題があるとすれば、今は自分の五臓六腑を使うことしかできず、作れる神々には限界があるということだった。

「ほう、お前も神を作れるのか。我らを否定しながら、別の神を作り出しその力を頼るとは、所詮人間は人間だな」

「だが、人間よ。鳳凰や麒麟で我らを倒せると思っているのか?」

「倒してくれたら、ありがたいんだけどね。手間が省けるし。ふたりともいけるかな? どうかな?」

『鳳凰のようなものであり、不死鳥のようなもの』と『絶対零度の氷の麒麟のようなもの』は、イルマに向かってゆっくりと頷いて見せた。

『絶対零度の氷の麒麟のようなもの』は、氷結麒麟・零式と一式に分離すると、二方向から悪神らに突撃した。
悪神は無数の手でそれを受け止めようとした。だが、マニピュレーターと呼ぶには程遠い不完全な指ではそれを受け止めることはできても、その角や首を掴むことはできなかった。

絶対零度は、-273.15℃だ。
物質の温度の下限であり、これ以上冷やすことはできないとされている。
そして、その温度下では、原子や分子の熱運動が理論上完全に停止する。

二体の氷結麒麟にとっては、悪神の手にその体を受け止められるだけでよかった。無数の手から徐々にその体を活動停止に追い込んでいくことができるからだ。
だが、それは叶わなかった。

ーー目覚めろ、零点神童(ぜろてんしんどう)。

黒釈迦は、さらなる悪神をロビンソンの体から呼び起こした。
0点と神童、学校のテストであれば真逆の言葉が並ぶ名を持つその悪神は、どうやら0点を取って親に怒られることに怯えて泣いている子どもでないようだった。
納得がいっていないという顔をしていた。
頭が良すぎるがゆえに計算式など必要とせず、解だけを書いてしまったため0点にされてしまった子ども。
そんな顔だった。

「絶対零度なら、原子や分子の熱運動は理論上完全に停止する。確かに君は間違っちゃいない。だけどね、ぼくがいれば話は変わってくるんだよ。ぼくの名前は『零点神童』。またの名を『ボース・アインシュタイン』というんだ。理論上完全に停止しても、量子力学的には完全な停止ではない『零点振動』をぼくは起こすことができる」

零点振動とは、原子が極限までエネルギーを失ったとしても、不確定性原理のために静止せずに振動していることらしい。
例として、ヘリウムが絶対零度でも固体にならず液体でいられることが挙げられるという。

「ぼくの存在そのものが不確定性原理なんだ。だから、この二体の麒麟さんにはぼくを止めることはできないんだよ」

「絶対零度の2倍の寒さでもか?」

「2倍? それってどっち? -136.575℃ってこと? それとも
-546.3℃?」

二体の氷結麒麟は、二式・雌雄同一態へと変化した。

「神童なんだろ? -273.15×2はいくつだ?」

いや、その姿は二式ではなかった。
三式とでも言うべき、2本角となったその姿は、氷結麒麟の進化形態に見えた。
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