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「ツインテール・オーバーキル」#20
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わたしは、なんとなくだけど、西日野文書に九天魔曼陀羅が記されていた理由がわかる気がした。
黄泉の国の神々であるイザナミやカグツチ、夜や月の神であるツクヨミを崇めるということは、黄泉路は災厄の神であるオオマガツヒやヤソマガツヒのことも崇めていたんだろう。
つまり、黄泉路はイザナギやアマテラス、スサノオをはじめとする高天原の神々を崇める神道と真っ向から対立する宗教だということだ。
アマテラスやスサノオは、イザナギが黄泉の国の穢れを禊によって清めた際に生み出された神だ。ツクヨミやオオマガツヒ、ヤソマガツヒもまた、その際に生まれた神だけれど、夜や月の神、災厄の神になったという記述があるくらいで、二柱の神に比べたらその記述はあまりに少ない。
おそらく、黄泉路と対立関係にあるのは、高天原や神道だけじゃなく、その神々によって平定された葦原中国やそこに住む人々も含まれるのだろう。
九天魔曼陀羅は、黄泉の国の神々による「葦原中国再平定」のための儀式なのだ。
創造は破壊からしか生まれないという言葉があるけれど、本当に世界を滅ぼすための外法なのかもしれなかった。
そして、その外法は間もなく完成する。
あとひとり、天魔と呼ばれる犠巫徒の命が捧げられてしまったら儀式が始まる。
だけど、ツインテールは本当に自殺だったのだろうか。
弟が彼女を殺し、九天魔曼陀羅にその命を捧げたんじゃないのだろうか。
わたしには、ツインテールの死だけでなく、九天魔曼陀羅にも弟が深く関わっているようにしか思えなかった。
彼には彼女の自殺を思いとどませることだって出来たはずだったから。
「死体、埋め終わったよ」
弟はわたしにそう声をかけると、
「帰ろう、姉さん」
いつも通りの笑顔で、そう言った。
1ヶ月が過ぎ、9月も下旬になると、大学の後期講義が始まった。
わたしと弟は、この半年くらい近所にあるゲームセンターでアルバイトをしていたけれど、大学が始まるタイミングでふたり揃ってやめることにした。アルバイトをしていたのは、正しくはわたしじゃなくツインテールだったけど。
わたしの預金は1000万もあったし、ツインテールが最期に人を殺した日、セクハラとパワハラが主な仕事みたいな店長は殺されてしまっていたけれど、新しく配属されてきた店長はハラスメント要素だけがさらに強化されたような人だったから、さすがにもうここでは働けないなと思ったから。
それに、九天魔曼陀羅にもし弟が関わっているとしたら、わたしは彼を止めなければいけなかったから。
わたしたちが所属する文芸部の部室の裏に、ツインテールの死体が埋まっていることは、まだ誰にも知られてはいない。
彼女について、ほんの少し前までマスコミも世間もあれだけ騒いでいたのに、新しい事件が起きたり、芸能スキャンダルが出てくると、まるでツインテールなんて犯罪者はいなかったかのように、皆忘れてしまったかのようだった。
わたしは本当は、あの日やあの夜の記憶を売ってしまいたかった。
けれど、弟のことがあったから記憶を売ることはできないでいた。
夏休み中に彼氏を鬼頭副部長に寝取られたという1年生の女の子は、文芸部だけじゃく大学までやめてしまっていた。
その子のことはみんなあまり好きじゃなかったのか、口にしていい雰囲気じゃなかったからなのか、彼女が大学をやめたという報告が硲部長や鬼頭さんからあっただけで、誰も彼女のことを話題には出さなかった。
大学をやめるという選択は、彼女自身が決めたことだろうし、彼女の両親も納得の上のことなのだろう。
彼女の人生だから、彼女の好きにすればいいと思う。わたしはたぶん、二度と彼女に会うことはないし、連絡先も交換していなかったから、きっとすぐに彼女の名前も顔も忘れてしまうんだと思う。何年かしたら、ああ、そんな子もいたねと笑い話にしてるかもしれない。
黄泉の国の神々であるイザナミやカグツチ、夜や月の神であるツクヨミを崇めるということは、黄泉路は災厄の神であるオオマガツヒやヤソマガツヒのことも崇めていたんだろう。
つまり、黄泉路はイザナギやアマテラス、スサノオをはじめとする高天原の神々を崇める神道と真っ向から対立する宗教だということだ。
アマテラスやスサノオは、イザナギが黄泉の国の穢れを禊によって清めた際に生み出された神だ。ツクヨミやオオマガツヒ、ヤソマガツヒもまた、その際に生まれた神だけれど、夜や月の神、災厄の神になったという記述があるくらいで、二柱の神に比べたらその記述はあまりに少ない。
おそらく、黄泉路と対立関係にあるのは、高天原や神道だけじゃなく、その神々によって平定された葦原中国やそこに住む人々も含まれるのだろう。
九天魔曼陀羅は、黄泉の国の神々による「葦原中国再平定」のための儀式なのだ。
創造は破壊からしか生まれないという言葉があるけれど、本当に世界を滅ぼすための外法なのかもしれなかった。
そして、その外法は間もなく完成する。
あとひとり、天魔と呼ばれる犠巫徒の命が捧げられてしまったら儀式が始まる。
だけど、ツインテールは本当に自殺だったのだろうか。
弟が彼女を殺し、九天魔曼陀羅にその命を捧げたんじゃないのだろうか。
わたしには、ツインテールの死だけでなく、九天魔曼陀羅にも弟が深く関わっているようにしか思えなかった。
彼には彼女の自殺を思いとどませることだって出来たはずだったから。
「死体、埋め終わったよ」
弟はわたしにそう声をかけると、
「帰ろう、姉さん」
いつも通りの笑顔で、そう言った。
1ヶ月が過ぎ、9月も下旬になると、大学の後期講義が始まった。
わたしと弟は、この半年くらい近所にあるゲームセンターでアルバイトをしていたけれど、大学が始まるタイミングでふたり揃ってやめることにした。アルバイトをしていたのは、正しくはわたしじゃなくツインテールだったけど。
わたしの預金は1000万もあったし、ツインテールが最期に人を殺した日、セクハラとパワハラが主な仕事みたいな店長は殺されてしまっていたけれど、新しく配属されてきた店長はハラスメント要素だけがさらに強化されたような人だったから、さすがにもうここでは働けないなと思ったから。
それに、九天魔曼陀羅にもし弟が関わっているとしたら、わたしは彼を止めなければいけなかったから。
わたしたちが所属する文芸部の部室の裏に、ツインテールの死体が埋まっていることは、まだ誰にも知られてはいない。
彼女について、ほんの少し前までマスコミも世間もあれだけ騒いでいたのに、新しい事件が起きたり、芸能スキャンダルが出てくると、まるでツインテールなんて犯罪者はいなかったかのように、皆忘れてしまったかのようだった。
わたしは本当は、あの日やあの夜の記憶を売ってしまいたかった。
けれど、弟のことがあったから記憶を売ることはできないでいた。
夏休み中に彼氏を鬼頭副部長に寝取られたという1年生の女の子は、文芸部だけじゃく大学までやめてしまっていた。
その子のことはみんなあまり好きじゃなかったのか、口にしていい雰囲気じゃなかったからなのか、彼女が大学をやめたという報告が硲部長や鬼頭さんからあっただけで、誰も彼女のことを話題には出さなかった。
大学をやめるという選択は、彼女自身が決めたことだろうし、彼女の両親も納得の上のことなのだろう。
彼女の人生だから、彼女の好きにすればいいと思う。わたしはたぶん、二度と彼女に会うことはないし、連絡先も交換していなかったから、きっとすぐに彼女の名前も顔も忘れてしまうんだと思う。何年かしたら、ああ、そんな子もいたねと笑い話にしてるかもしれない。
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