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年を取ると時間の流れがあっという間に感じると大人は言う。けれど、それは高校生も変わらないように思う。
ひとつひとつの授業は長く感じるが、1日や1週間、1ヶ月も1年もあっという間に過ぎていく。
あの冬の日の朝の出来事も、今ではもう語る者はいないように。
父や母が好きな、旬を過ぎた芸能人がバスや電車を乗り継ぐだけのつまらないテレビ番組も一緒に観ていると長く感じる。娯楽性よりも芸術性を重視した映画も長く感じる。けれど、それでも過ぎてしまえばあっという間だ。
授業やテレビを、仕事や家事や子育てに置き換えただけで、高校生も大人も時間の感じ方は大して変わらないのではないだろうか。
そこに責任の有無の違いがあることはわかる。家庭を持ち、子どもが生まれればなおさらだろう。
けれどぼくにはそれ以上のことはまだわからない。
大人になれば違いがわかるようになるのだろうか。
つい先日高校受験が終わったばかりのような気がするのに、ぼくはもう高校3年で、進学のための受験勉強の真っ最中だ。
夏休みは進学塾の夏期講習と学校の課題でほとんど潰れてしまった。
9月もあっという間に終わり、10月になった。10月は体育祭、11月には文化祭がある。この手の行事は苦手だが、過ぎてしまえばきっとあっという間なのだろう。
ぼくはきっとあっという間に大人になるのだろう。
大人というものが何なのかさえ、高校生のぼくにはまだわからないというのに、気づけばいつの間にか大人になっているのだろう。
大人になったぼくは大人という概念を果たして理解しているのだろうか。
ぼくもまた、年を取ると時間の流れがあっという間に感じると言うような、ありきたりな大人になるのだろうか。
10月1日、私立澪標(みおつくし)高校3年C組の教室には、ぼくしかいなかった。
8時25分に予鈴が鳴ってもクラスメイトたちは誰も教室にやってこなかった。8時30分にショートホームルームの開始を告げるチャイムが鳴ってもそれは変わらず、教室にはぼくひとりだった。
平日だったし、創立記念日でもなかったから、休みの日に間違えて登校してしまったというわけではないだろう。
もしそうなら大惨事だった。
ぼくは片道1時間半かけて電車やバスを乗り継ぎ高校に通っているのだ。往復で3時間も休日を無駄にしたことになってしまう。
ぼくは慌てて両耳にはめたままだったワイヤレスイヤホンを外した。隣の教室から生徒たちの賑やかな声が聞こえてきたことにほっとした。
それから、登校中のバスの中や、バス停から学校に向かうまでの間、それに校内で他の学年や他のクラスの生徒たちを目にしていたことを思い出し、もう一度ほっとした。
二度ほっとした後で、では何故この教室にはぼく以外誰もいないのだろう、と不安になった。
まるで短編のホラードラマのようだった。長編映画では決してない。平凡な高校生であるぼくが主人公になりえるとしたら、短編のオムニバスのひとつくらいが関の山だろう。
数分遅れて教室にやってきた担任の教師は、両手に紙袋を提げていた。
担任の名前は要雅雪。現国の教師だ。年は20代後半か30代前半だろう。
要先生は、背は高いが猫背で、長い前髪と眼鏡のせいで、いつも顔が隠れていた。前髪を上げたり短く切ったりしたら、きっと誰も先生だとわからないだろう。
要先生は、一言で言えばやる気のない教師だった。授業では先生がひとりで教科書を朗読し、テストに出るような重要なポイントの説明はするが、生徒に問題を出し解答を求めることはない。淡々と進む授業は退屈で、生徒たちは居眠りや内職、漫画やスマホアプリにいそしむ。ホームルームも配布や説明をしなければいけないプリントを抑揚のない声で読み上げるだけで、そのスタイルは学校行事でも変わらない。
先生はぼくと目を合わそうとしなかった。右手の紙袋をひとつ教壇に置くと、校庭に面した窓側の一番前の席に向かって歩いて行った。
そして、左手に持ったままの紙袋から数輪ずつの小さな花束を取り出し、クラスメイトたちの机の上に置き始めた。
それが何を意味するのか、それくらいのことはぼくにも意味はわかった。ただ、本当にこういうことをするんだな、とぼくは思った。
ひとつひとつの授業は長く感じるが、1日や1週間、1ヶ月も1年もあっという間に過ぎていく。
あの冬の日の朝の出来事も、今ではもう語る者はいないように。
父や母が好きな、旬を過ぎた芸能人がバスや電車を乗り継ぐだけのつまらないテレビ番組も一緒に観ていると長く感じる。娯楽性よりも芸術性を重視した映画も長く感じる。けれど、それでも過ぎてしまえばあっという間だ。
授業やテレビを、仕事や家事や子育てに置き換えただけで、高校生も大人も時間の感じ方は大して変わらないのではないだろうか。
そこに責任の有無の違いがあることはわかる。家庭を持ち、子どもが生まれればなおさらだろう。
けれどぼくにはそれ以上のことはまだわからない。
大人になれば違いがわかるようになるのだろうか。
つい先日高校受験が終わったばかりのような気がするのに、ぼくはもう高校3年で、進学のための受験勉強の真っ最中だ。
夏休みは進学塾の夏期講習と学校の課題でほとんど潰れてしまった。
9月もあっという間に終わり、10月になった。10月は体育祭、11月には文化祭がある。この手の行事は苦手だが、過ぎてしまえばきっとあっという間なのだろう。
ぼくはきっとあっという間に大人になるのだろう。
大人というものが何なのかさえ、高校生のぼくにはまだわからないというのに、気づけばいつの間にか大人になっているのだろう。
大人になったぼくは大人という概念を果たして理解しているのだろうか。
ぼくもまた、年を取ると時間の流れがあっという間に感じると言うような、ありきたりな大人になるのだろうか。
10月1日、私立澪標(みおつくし)高校3年C組の教室には、ぼくしかいなかった。
8時25分に予鈴が鳴ってもクラスメイトたちは誰も教室にやってこなかった。8時30分にショートホームルームの開始を告げるチャイムが鳴ってもそれは変わらず、教室にはぼくひとりだった。
平日だったし、創立記念日でもなかったから、休みの日に間違えて登校してしまったというわけではないだろう。
もしそうなら大惨事だった。
ぼくは片道1時間半かけて電車やバスを乗り継ぎ高校に通っているのだ。往復で3時間も休日を無駄にしたことになってしまう。
ぼくは慌てて両耳にはめたままだったワイヤレスイヤホンを外した。隣の教室から生徒たちの賑やかな声が聞こえてきたことにほっとした。
それから、登校中のバスの中や、バス停から学校に向かうまでの間、それに校内で他の学年や他のクラスの生徒たちを目にしていたことを思い出し、もう一度ほっとした。
二度ほっとした後で、では何故この教室にはぼく以外誰もいないのだろう、と不安になった。
まるで短編のホラードラマのようだった。長編映画では決してない。平凡な高校生であるぼくが主人公になりえるとしたら、短編のオムニバスのひとつくらいが関の山だろう。
数分遅れて教室にやってきた担任の教師は、両手に紙袋を提げていた。
担任の名前は要雅雪。現国の教師だ。年は20代後半か30代前半だろう。
要先生は、背は高いが猫背で、長い前髪と眼鏡のせいで、いつも顔が隠れていた。前髪を上げたり短く切ったりしたら、きっと誰も先生だとわからないだろう。
要先生は、一言で言えばやる気のない教師だった。授業では先生がひとりで教科書を朗読し、テストに出るような重要なポイントの説明はするが、生徒に問題を出し解答を求めることはない。淡々と進む授業は退屈で、生徒たちは居眠りや内職、漫画やスマホアプリにいそしむ。ホームルームも配布や説明をしなければいけないプリントを抑揚のない声で読み上げるだけで、そのスタイルは学校行事でも変わらない。
先生はぼくと目を合わそうとしなかった。右手の紙袋をひとつ教壇に置くと、校庭に面した窓側の一番前の席に向かって歩いて行った。
そして、左手に持ったままの紙袋から数輪ずつの小さな花束を取り出し、クラスメイトたちの机の上に置き始めた。
それが何を意味するのか、それくらいのことはぼくにも意味はわかった。ただ、本当にこういうことをするんだな、とぼくは思った。
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