ぼくのクラスには宗教が存在した。

あめの みかな

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私は比較的裕福な家庭に生まれた。
幼い頃から欲しいものは何でも買ってもらえた。
小学校受験に続き中学受験にも失敗した私は、両親から愛された記憶がないこと以外は、何不自由のない暮らしを15年間送り、私立澪標高校に入学した。

高校に入学してすぐ、子どもの頃から星が好きだったわたしは天文部に入部した。
その頃、天文部は部員数が足らず、廃部の危機だった。私は先輩たちに歓迎され、生まれてはじめて居場所を手に入れた気がしたのをよく覚えている。

星が好きだったといっても、星を眺めるのが好きだっただけで、星の名前や星座はほとんど知らなかった。自分で星に名前をつけたり、星と星を指で結んで勝手に星座を作ったりしていた。

紫帆先生は天文部の顧問で、そんな風にただ星が好きだっただけの私に、星の名前や星座をたくさん教えてくれた。
どの星がどれくらい離れた場所にあって、地球から見えるその星の輝きが何万年前のものなのか、それから占星術や宇宙考古学といった宇宙のいろいろなことも教えてくれた。そのうちのひとつにアカシックレコードがあった。

先生は、スタイルが良くて、背も男の子たちと変わらないくらい高かった。顔も小さくて、8頭身もあった。
長い黒髪もとてもきれいで、初めて先生を見たとき、

「お人形さんみたい」

と私が言うと、先生は「よく言われる」と、嫌みのない口調でそう言って、胸が小さいのもお人形さんみたいでしょ、と笑った。
教師という職業だからか、化粧は控えめで、だからこそ素材の良さが際だっていた。
美人なのにお高く止まっていたりしてなくて、男子生徒はもちろん、女子生徒からも人気があった。

「先生は、どうして星が好きなの?」

いつだったか、わたしはそんなことを訊ねたことがあった。

「紫帆だからかな」

と先生は言った。

「逆さに読むと、『ほし』になるでしょ?」

先生は、今の名前だと逆さに読むと「ほしともぎす」になっちゃって、もぎすって何? って感じだから、結婚するときは結構苗字が大事なの、と言っていた。
星野って苗字の人が一番いい、と笑っていた。「ほしのしほ」なら、逆さに呼んでも「ほしのしほ」だからと。

それを聞いてから、わたしは星を見るときは必ず紫色の帆がある大航海時代のような船に先生と乗って、ふたりで夜空を見上げているのを想像するようになった。
私の苗字が星野だったらよかったのにとか、私が男の子だったらよかったのにとか、そんなことを考えるようになっていった。

私は、髪型や化粧から少しずつ先生に似せてゆくようにもなった。
太っていたわけじゃないけれど、先生みたいにスラッとした身体になりたくてダイエットもした。

街で男の子に声をかけられたり、学校の男子から告白されるようにもなった。
けれど、先生みたいにはなれなかった。鏡に映る自分を見てはため息をつくばかりの毎日だった。

ある日、

「お嬢様は日に日にお綺麗になられていきますね」

そんなことを執事の赤堀に言われた。
赤堀は私より一回り年上で、確か先生と同い年だった。

「すみません。お嬢様は以前からお綺麗でしたが最近は特に、という意味でして……」

両親から愛された記憶のない私にとって、赤堀は父のようでもあり兄のようでもあった。

「女性は恋をされるとお綺麗になられると父から聞いたことがあります」

赤堀の父も祖父も代々私の家の執事を務めてくれていた。
赤堀が父親から聞いたのは私の叔母の話だそうだった。

「お嬢様も恋をしていらっしゃるのでしょうか?
どこの馬の骨だかおわかりになりますでしょうか?」

優しい口調で後半意味不明なことを口走り、父がコレクションしている日本刀を構えた赤堀は、まるで妹や娘に彼氏ができて戸惑う兄や父親のようだった。

「好きな人ならいるよ」

わたしは言った。

「学校の先生で、赤堀と同い年の人。でも安心して。その人は女の人だから。あくまで憧れ。恋とは違うと思う」

赤堀は半分抜きかけていた日本刀を鞘に納めると、ほっと胸を撫で下ろしていた。

好きだったんだと思う。
あれはきっと初恋だった。

わたしは紫帆先生が大好きだった。


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