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先生は佐野から何とか居場所を聞き出し慌てて駆けつけたが、すでに彼女は事切れていたという。スマホがすぐそばに落ちていて、画面にはグループチャットが開いたままだったそうだ。だから持ち去ったのだと。
先生はすぐに、警察はもちろん、校長や教頭、教師たちに、生徒たちの自殺を伝えたそうだ。
しかし、29人もの高校生が同時に自殺するなどといった話はまともに取り合ってはもらえなかったという。
自殺の方法は書かれていたがその場所まではわからず、生徒たちの自宅だけでもと一晩中車を走らせたが佐野以外の誰も見つけられなかったと先生は言った。
「朝になって、次々に遺体が発見されたそうだよ。救急車で県内のいろんな病院に搬送されたが、死亡が確認されたそうだ」
自殺した者たちが皆クラスメイトだとわかり、事件性があると判断され、全員が今日明日のうちに司法解剖される予定だという。
先生は探偵きどりや刑事きどりなどではなかったのだ。本気で生徒を救おうとしていたのだ。
「見つかってない生徒は?」
「わからない。情報が下りてこないんだ」
だが、あまりに頼りなかった。
何も当てに出来なかった。
この事件は最初から、ぼくたちの手におえるものではなかったのだ。
アリステラピノアはこちらが誰かはまだわかってはいないはずだ。
この正体不明の存在と会話をするのが可能なのは今だけだった。
「全員のスマホにね、お互い誰が今どこにいるかわかるアプリが入ってるんだけど、陽子だけ変な場所にいるね」
だが、どうやらアリステラピノアはぼくたちよりも何枚も上手のようだった。
「陽子、学校にいるの?」
「それとも、誰か別の人が陽子のスマホで見てるのかな?」
「要先生とか、あとひとりだけグループチャットにいなかった人とか」
すでにぼくたちのことを特定しつつあった。いや、これはもう特定されているに違いなかった。
「ぼくは君の言う、ひとりだけグループチャットにいなかった奴だ。
佐野陽子なら死んだ。
全員で自殺する気だったんなら、何故お前は生きてるんだ?」
ぼくは正体を明かし、そう書き込んだ。
「私は最初から自殺するつもりなんてないもの」
「でも、みんな、真実を知りたがってたから。どうして紫帆(しほ)先生が死ななきゃいけなかったのかって」
やはりそうか、とぼくは思った。
数時間前、アリステラピノアの言葉をはじめて読んだときに感じた、優しい声で耳元でささやかれているような感覚。
それは、高校2年のときの担任だった杉本紫帆先生の声のように、あのときぼくには聞こえていた。
紫帆先生は、去年の冬、夜中に大雪が降った日の朝、体育館の用具室で遺体で発見された。
凍死だった。
学校は誰が用具室の鍵をかけたのかわからないとし、紫帆先生の死は不慮の事故だったのか、殺意のある殺人であったのかうやむやのまま、警察の捜査も打ち切られ、あくまで事故死として処理されてしまっていた。
紫帆先生は不思議な魅力がある人だった。
美人で凛としていて、授業はいつも楽しく、皆が彼女を好きだった。
明石家珠莉たちのように佐野陽子をパシリに使うようになった生徒たちですら、当時はそんなことをしていなかった。
うわべだけでなく、心から皆が高校生活を謳歌しているように見えた。
それができていなかったのは、たぶんぼくだけだったろう。
だが、紫帆先生の死の真相という餌だけで、アリステラピノアの言葉を鵜呑みにしクラスメイトたちが全員自殺をするとは到底思えなかった。
人は死ねばアカシックレコードに行くことになり、そこに記録された情報を閲覧できる。
そんな虚言、世迷い事を信じて、自殺をする者などいるわけがなかった。
「皆、知りたい真実はそれだけじゃなかったの」
アリステラピノアは言葉を紡いだ。
「学校以外にも家庭や世間、いろんな場所で、私たちには知らされないことがあるでしょう?
アリステラピノアのアカウントとスマホは、元々紫帆先生のものだったの。
私は死んだ紫帆先生のふりをして、まずは明石家珠莉にコンタクトを取った。
グループチャットを作らせて、そこからひとりひとり個人的にチャットを送った。知りたがってることを事前にリサーチして全部に答えてあげたの。
家庭の問題なら興信所を使えばわかるし、世間のことならマスコミやその業界の関係者にお金を積めばいい。
真実なんて、それが本当に真実かどうかなんてどうでもいいものだし、知りたい人が納得できる解答さえ用意できればいいものだから」
「金ではどうにもならないこともあっただろ?」
「そうね。だからこそ、アカシックレコードに行けばわかるってことにしたの。そうしたら死んでみたくなるでしょう?」
「そうやって紫帆先生を女神か聖母のようにまつりあげて、お前の作った頭のおかしい宗教の信者にしたのか?
クラスメイト全員を自殺させるとは恐れ入ったよ」
「あなたが知りたがってることにも、わたしは答えてあげられるわよ。
隣にいる要先生が知りたがってることもね」
ぼくと先生は顔を見合わせた。
「先生は何か知りたいことがあるの?」
「こいつが誰かだよ」
「ぼくも同じだよ」
ぼくたちが知りたいことは、アリステラピノアには答えられて当たり前の問いだった。
それに、アリステラピノアの正体が誰であれ、そのスマホが本当に紫帆先生のものであるのなら、それを手に入れることができたのは紫帆先生を不慮の事故に見せかけて殺した犯人だけだ。
「お前は誰だ?」
「知りたかったら、一度死んでみたらいいんじゃない?」
「アリステラピノアさんが退会しました」
先生は佐野から何とか居場所を聞き出し慌てて駆けつけたが、すでに彼女は事切れていたという。スマホがすぐそばに落ちていて、画面にはグループチャットが開いたままだったそうだ。だから持ち去ったのだと。
先生はすぐに、警察はもちろん、校長や教頭、教師たちに、生徒たちの自殺を伝えたそうだ。
しかし、29人もの高校生が同時に自殺するなどといった話はまともに取り合ってはもらえなかったという。
自殺の方法は書かれていたがその場所まではわからず、生徒たちの自宅だけでもと一晩中車を走らせたが佐野以外の誰も見つけられなかったと先生は言った。
「朝になって、次々に遺体が発見されたそうだよ。救急車で県内のいろんな病院に搬送されたが、死亡が確認されたそうだ」
自殺した者たちが皆クラスメイトだとわかり、事件性があると判断され、全員が今日明日のうちに司法解剖される予定だという。
先生は探偵きどりや刑事きどりなどではなかったのだ。本気で生徒を救おうとしていたのだ。
「見つかってない生徒は?」
「わからない。情報が下りてこないんだ」
だが、あまりに頼りなかった。
何も当てに出来なかった。
この事件は最初から、ぼくたちの手におえるものではなかったのだ。
アリステラピノアはこちらが誰かはまだわかってはいないはずだ。
この正体不明の存在と会話をするのが可能なのは今だけだった。
「全員のスマホにね、お互い誰が今どこにいるかわかるアプリが入ってるんだけど、陽子だけ変な場所にいるね」
だが、どうやらアリステラピノアはぼくたちよりも何枚も上手のようだった。
「陽子、学校にいるの?」
「それとも、誰か別の人が陽子のスマホで見てるのかな?」
「要先生とか、あとひとりだけグループチャットにいなかった人とか」
すでにぼくたちのことを特定しつつあった。いや、これはもう特定されているに違いなかった。
「ぼくは君の言う、ひとりだけグループチャットにいなかった奴だ。
佐野陽子なら死んだ。
全員で自殺する気だったんなら、何故お前は生きてるんだ?」
ぼくは正体を明かし、そう書き込んだ。
「私は最初から自殺するつもりなんてないもの」
「でも、みんな、真実を知りたがってたから。どうして紫帆(しほ)先生が死ななきゃいけなかったのかって」
やはりそうか、とぼくは思った。
数時間前、アリステラピノアの言葉をはじめて読んだときに感じた、優しい声で耳元でささやかれているような感覚。
それは、高校2年のときの担任だった杉本紫帆先生の声のように、あのときぼくには聞こえていた。
紫帆先生は、去年の冬、夜中に大雪が降った日の朝、体育館の用具室で遺体で発見された。
凍死だった。
学校は誰が用具室の鍵をかけたのかわからないとし、紫帆先生の死は不慮の事故だったのか、殺意のある殺人であったのかうやむやのまま、警察の捜査も打ち切られ、あくまで事故死として処理されてしまっていた。
紫帆先生は不思議な魅力がある人だった。
美人で凛としていて、授業はいつも楽しく、皆が彼女を好きだった。
明石家珠莉たちのように佐野陽子をパシリに使うようになった生徒たちですら、当時はそんなことをしていなかった。
うわべだけでなく、心から皆が高校生活を謳歌しているように見えた。
それができていなかったのは、たぶんぼくだけだったろう。
だが、紫帆先生の死の真相という餌だけで、アリステラピノアの言葉を鵜呑みにしクラスメイトたちが全員自殺をするとは到底思えなかった。
人は死ねばアカシックレコードに行くことになり、そこに記録された情報を閲覧できる。
そんな虚言、世迷い事を信じて、自殺をする者などいるわけがなかった。
「皆、知りたい真実はそれだけじゃなかったの」
アリステラピノアは言葉を紡いだ。
「学校以外にも家庭や世間、いろんな場所で、私たちには知らされないことがあるでしょう?
アリステラピノアのアカウントとスマホは、元々紫帆先生のものだったの。
私は死んだ紫帆先生のふりをして、まずは明石家珠莉にコンタクトを取った。
グループチャットを作らせて、そこからひとりひとり個人的にチャットを送った。知りたがってることを事前にリサーチして全部に答えてあげたの。
家庭の問題なら興信所を使えばわかるし、世間のことならマスコミやその業界の関係者にお金を積めばいい。
真実なんて、それが本当に真実かどうかなんてどうでもいいものだし、知りたい人が納得できる解答さえ用意できればいいものだから」
「金ではどうにもならないこともあっただろ?」
「そうね。だからこそ、アカシックレコードに行けばわかるってことにしたの。そうしたら死んでみたくなるでしょう?」
「そうやって紫帆先生を女神か聖母のようにまつりあげて、お前の作った頭のおかしい宗教の信者にしたのか?
クラスメイト全員を自殺させるとは恐れ入ったよ」
「あなたが知りたがってることにも、わたしは答えてあげられるわよ。
隣にいる要先生が知りたがってることもね」
ぼくと先生は顔を見合わせた。
「先生は何か知りたいことがあるの?」
「こいつが誰かだよ」
「ぼくも同じだよ」
ぼくたちが知りたいことは、アリステラピノアには答えられて当たり前の問いだった。
それに、アリステラピノアの正体が誰であれ、そのスマホが本当に紫帆先生のものであるのなら、それを手に入れることができたのは紫帆先生を不慮の事故に見せかけて殺した犯人だけだ。
「お前は誰だ?」
「知りたかったら、一度死んでみたらいいんじゃない?」
「アリステラピノアさんが退会しました」
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