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「人質の身代わり山羊(スケープゴート)」#44「明晰夢 5」第四部 最終回
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僕は「僕」を真似て勝ち誇った笑いをしてみることにした。
だけど、たぶんうまくできてはいなかっただろう。
「さっき、ギフトには第二段階や第三段階があるって教えてくれたでしょ。だから僕も、少し考え方や捉え方を変えてみようかなってさ。
僕の命の残機を、人に移せるかどうか試してみたんだよ。
君はもういない人なわけだし、僕と君は元々は同じ人間だったわけだから、試すにはちょうどいい相手かなって思ってさ」
「『僕』に命をくれたのかい? これからいなくなる君の代わりに、『僕』に梨沙を守ってほしいとか?」
「違うよ。ただ残機を移すだけなら、君に命を与えるだけだけど、身体中のいろんな部位に命を与えてみたんだ。君の体がどうなるのか見てみたくてさ」
ーー生まれいでろ、グルヴェイグ。
「僕」の体から、皮膚や肉が裂ける音が何度も聞こえてきた。
「僕」の目や耳、鼻の穴、そして口から、勢い良く腕が飛び出した。
喉に与えた命は、喉を裂くように腕を出し、その手には喉仏の骨をつかんでいた。
内臓に与えた命もまた、それぞれ「僕」の肋骨を折り、皮膚を破って腕を伸ばした。腕や脚も同じだった。
どの腕も「僕」の体の中から這い出ようともがいているように見えた。なかなか出られなくて困っているようだった。
口と喉を潰された「僕」は、悲鳴すら発することが出来なかった。
僕は彼が絶命するのを待った。
彼が息を引き取った後も48本の腕たちは、その体から這い出ようと必死にもがいていた。
僕は彼らにごめんな、とだけ言って、
ーーかすめとれ、グルヴェイグ。
彼らの命を僕の残機に戻すと、僕は「僕」が落とした梨沙のスマホを拾った。
僕は梨沙の隣の席に座り、彼女にスマホを手渡した。
「ありがとう。蓮司くん」
彼女は嬉しそうに笑っていた。
「秋月 蓮司くんじゃなくて、春夏冬 蓮司くんなんだよね?」
そうだよ、と僕は笑って、
「『僕』を作り直してくれてありがとう。おかげで僕は今、毎日がすごく幸せだよ」
そう言うと、梨沙は僕に抱きついてきた。
「未来のわたしも幸せそうにしてる? 蓮司くんといっしょにいる?」
「してるよ。僕たちはいつもそばにいるよ」
「よかったぁ……」
「昨日は梨沙と一緒に西日野神社に初詣に行ったよ」
「ほんと? じゃあ、珠莉ちゃんや亜美ちゃんに会った?」
「うん。ほんとだよ。一馬さんや学さんや麻衣さんにも会ったよ。みんなすごくおもしろい人だった」
僕は上目遣いに僕を見上げる梨沙にキスをした。
唇と唇が触れる感覚が次第に弱くなっていき、やがて全く何も感じられなくなったとき、僕はリビングのこたつで目を覚ました。
梨沙は僕の隣で、手を握ってくれていた。彼女はずっと僕の寝顔を見ていたようだった。
「おかえり、蓮司くん」
と、彼女は言った。
おはようじゃなくて、おかえりと梨沙は言った。
どうやら僕は夢を見ていたわけではなく、本当に過去に行っていたらしい。
「ただいま、梨沙」
だから僕は梨沙にそう言った。
だけど、たぶんうまくできてはいなかっただろう。
「さっき、ギフトには第二段階や第三段階があるって教えてくれたでしょ。だから僕も、少し考え方や捉え方を変えてみようかなってさ。
僕の命の残機を、人に移せるかどうか試してみたんだよ。
君はもういない人なわけだし、僕と君は元々は同じ人間だったわけだから、試すにはちょうどいい相手かなって思ってさ」
「『僕』に命をくれたのかい? これからいなくなる君の代わりに、『僕』に梨沙を守ってほしいとか?」
「違うよ。ただ残機を移すだけなら、君に命を与えるだけだけど、身体中のいろんな部位に命を与えてみたんだ。君の体がどうなるのか見てみたくてさ」
ーー生まれいでろ、グルヴェイグ。
「僕」の体から、皮膚や肉が裂ける音が何度も聞こえてきた。
「僕」の目や耳、鼻の穴、そして口から、勢い良く腕が飛び出した。
喉に与えた命は、喉を裂くように腕を出し、その手には喉仏の骨をつかんでいた。
内臓に与えた命もまた、それぞれ「僕」の肋骨を折り、皮膚を破って腕を伸ばした。腕や脚も同じだった。
どの腕も「僕」の体の中から這い出ようともがいているように見えた。なかなか出られなくて困っているようだった。
口と喉を潰された「僕」は、悲鳴すら発することが出来なかった。
僕は彼が絶命するのを待った。
彼が息を引き取った後も48本の腕たちは、その体から這い出ようと必死にもがいていた。
僕は彼らにごめんな、とだけ言って、
ーーかすめとれ、グルヴェイグ。
彼らの命を僕の残機に戻すと、僕は「僕」が落とした梨沙のスマホを拾った。
僕は梨沙の隣の席に座り、彼女にスマホを手渡した。
「ありがとう。蓮司くん」
彼女は嬉しそうに笑っていた。
「秋月 蓮司くんじゃなくて、春夏冬 蓮司くんなんだよね?」
そうだよ、と僕は笑って、
「『僕』を作り直してくれてありがとう。おかげで僕は今、毎日がすごく幸せだよ」
そう言うと、梨沙は僕に抱きついてきた。
「未来のわたしも幸せそうにしてる? 蓮司くんといっしょにいる?」
「してるよ。僕たちはいつもそばにいるよ」
「よかったぁ……」
「昨日は梨沙と一緒に西日野神社に初詣に行ったよ」
「ほんと? じゃあ、珠莉ちゃんや亜美ちゃんに会った?」
「うん。ほんとだよ。一馬さんや学さんや麻衣さんにも会ったよ。みんなすごくおもしろい人だった」
僕は上目遣いに僕を見上げる梨沙にキスをした。
唇と唇が触れる感覚が次第に弱くなっていき、やがて全く何も感じられなくなったとき、僕はリビングのこたつで目を覚ました。
梨沙は僕の隣で、手を握ってくれていた。彼女はずっと僕の寝顔を見ていたようだった。
「おかえり、蓮司くん」
と、彼女は言った。
おはようじゃなくて、おかえりと梨沙は言った。
どうやら僕は夢を見ていたわけではなく、本当に過去に行っていたらしい。
「ただいま、梨沙」
だから僕は梨沙にそう言った。
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