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「導かれなかった者たちへ」#18
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ーー射貫け。ユナイテッドアローズ・イグナイテッド(3本の火矢)
誰かがギフトの名を口にした瞬間、古賀の顔と胸、それから腹に、火のついた矢が同時に3本刺さった。
「先生、どう考えても、ショートホームルームなんてやってる場合じゃないっしょ?」
クラスメイトの要 雅雪という男が、左手に「燃える弓」を手にしていた。
どうやら本当に、僕と同じクラスにゲームの参加者がいたようだ。
本はどこに持っているのだろうか。僕のように簡単に奪われないような対策をしてきているのは間違いないだろう。
「生徒が殺し合いさせられてるときに、『人』という字は人と人が支えあって出来てるとか、頭沸いてんすか?」
右手の手のひらからは、新たな3本の火矢が現れていた。
「『辛い』という字に棒を1本足すと、『幸せ』になる? 金八の次はシン仮面ライダーの受け売りっすか?」
要は古賀にさらに3本、火矢を撃ち込んだ。
「あんたら大人は、そうやって漢字を都合よく解釈してるけど、その理論だと、すべての宗教は『儲ける』ために『信者』を集めてることになるんすよ」
要は古賀が人の形でなくなるまで火矢を撃ち続けた。
「まぁ、大体間違っちゃいないけどさ、あんたが人生棒に振ってまで信じてる『千のコスモの会』とかいうカルト教団まで否定しちゃダメじゃないっすか?」
だから生徒に殺されちゃうんすよ、と要は吐き捨てた。
古賀が死んでも、クラスメイトたちは大人しく席に座っているだけだった。
「一体何XLの服着てるんだよ。このなりで国語教師はともかく、新体操部の顧問はおかしいだろ」
そんなことをぼやきながら、要は古賀の死体を漁り、ポケットから彼女のスマホを取り出した。
「オーダーメイドでもない限り、生徒たちを大人しくしてるものは、教師たちが共通して持っているもののはずだ。そんなもん、ひとつしかねえよなぁ」
それがスマホということだろう。
要は古賀の指紋を使ってロックを解除した。
「何だ、このアプリ……『キェルケゴール』……? まさか、スマホアプリを使って発動させるギフトがあるのか? 人工のギフトってわけか?」
キェルケゴールは、確か19世紀のデンマークの哲学者であり思想家でもある人物の名前だった。人間に服従を要求する神の存在を根底とし、神への絶対服従を主張していた人だったと思う。
「ふうん、なるほどね。生徒ひとりひとりの名前にチェックを入れるかどうかで、『キェルケゴール』の対象と対象外を選べるってわけか。まぁ、こいつらは大人しくさせておくか」
要はそう言って、古賀のスマホをポケットにしまうと僕のそばに歩いてきた。
「八王子鳴海と、そっちの女は翌檜紫帆(あすなろ しほ)だな? お前らも俺と同じで『キェルケゴール』の能力の対象外になってた。ふたりともゲームの参加者で、例の本を持ってるってことでいいんだよな?」
僕は、ああ、とだけ答えた。
紫帆の名前まで、古賀のスマホにあることには少し驚かされた。
「俺はこれから2年5組に行く。このままここにいて、一時間後に花火の爆発に巻き込まれるのは御免だからな」
「奇遇だね。僕も同じことを考えてたよ」
「一緒に行くか? ただし、お前たちの仲間になるわけじゃない。優勝できるのはひとりだけらしいからな」
いつかはやり合うことになるが、一時的に共闘しようと持ちかけているのだろう。
僕と紫帆はその提案に乗ることにした。
要 雅雪と親しかったわけでもないのに、僕は何故か彼のことを別人のように感じていた。
「俺の顔に、何かついてるか?」
僕はいつの間にか要をじろじろと見てしまっていたのだろう。僕の視線に気づいた彼はそう言った。
僕は、いや、とだけ答えた。
彼のギフトはケルベロスという名前じゃなかったか? いや、アマツミカボシだったか?
そんな疑問が僕の頭に浮かんでいた。
何故か僕は、目の前にいる彼と姿形は同じだが、性格やギフトの能力がまるで違う彼を知っているような気がしていた。
どちらにせよ、ユナイテッドアローズ・イグナイテッドなんていう長たらしい名前のものではなかった気がした。
「どうしたの? 鳴海くん」
紫帆にも心配させてしまっていたが、この不思議な感覚をうまく言語化して簡潔に説明することは難しそうだった。
「大丈夫だよ、あの人がギフトの弓矢を撃つよりも、鳴海くんが拳銃撃つ方が早いから。鳴海くんにはわたしもついてるし」
他にも僕の頭には、天を貫くような光の柱や墜落する飛行機、彼をお兄ちゃんと呼ぶ妹らしき女性と少女など、要に関する僕が知るはずのないイメージが溢れてきてもいた。
彼の皮膚がただれ肉が腐り落ちていく姿や、体が糸のようになり機織り機のようなものに吸い込まれていく姿も浮かんだ。
彼が僕の夢に出てきたことがあったのだろうか。
だとしたら、それは予知夢のようなものかもしれなかった。
このゲームで何人生き残れるのかはわからない。
だが、たぶん要 雅雪は生き残るのだと思う。
その彼もまた、比較的近い未来に死ぬことになるか、機織り機に吸い込まれ組紐になる運命にあるのだろう。
僕は生き残れるだろうか。
僕が死んでしまっても、せめて紫帆だけは消えずにすむようにならないものだろうか。
要や紫帆と共に2年5組に向かうため階段をかけおりながら、僕はそんなことを考えていた。
誰かがギフトの名を口にした瞬間、古賀の顔と胸、それから腹に、火のついた矢が同時に3本刺さった。
「先生、どう考えても、ショートホームルームなんてやってる場合じゃないっしょ?」
クラスメイトの要 雅雪という男が、左手に「燃える弓」を手にしていた。
どうやら本当に、僕と同じクラスにゲームの参加者がいたようだ。
本はどこに持っているのだろうか。僕のように簡単に奪われないような対策をしてきているのは間違いないだろう。
「生徒が殺し合いさせられてるときに、『人』という字は人と人が支えあって出来てるとか、頭沸いてんすか?」
右手の手のひらからは、新たな3本の火矢が現れていた。
「『辛い』という字に棒を1本足すと、『幸せ』になる? 金八の次はシン仮面ライダーの受け売りっすか?」
要は古賀にさらに3本、火矢を撃ち込んだ。
「あんたら大人は、そうやって漢字を都合よく解釈してるけど、その理論だと、すべての宗教は『儲ける』ために『信者』を集めてることになるんすよ」
要は古賀が人の形でなくなるまで火矢を撃ち続けた。
「まぁ、大体間違っちゃいないけどさ、あんたが人生棒に振ってまで信じてる『千のコスモの会』とかいうカルト教団まで否定しちゃダメじゃないっすか?」
だから生徒に殺されちゃうんすよ、と要は吐き捨てた。
古賀が死んでも、クラスメイトたちは大人しく席に座っているだけだった。
「一体何XLの服着てるんだよ。このなりで国語教師はともかく、新体操部の顧問はおかしいだろ」
そんなことをぼやきながら、要は古賀の死体を漁り、ポケットから彼女のスマホを取り出した。
「オーダーメイドでもない限り、生徒たちを大人しくしてるものは、教師たちが共通して持っているもののはずだ。そんなもん、ひとつしかねえよなぁ」
それがスマホということだろう。
要は古賀の指紋を使ってロックを解除した。
「何だ、このアプリ……『キェルケゴール』……? まさか、スマホアプリを使って発動させるギフトがあるのか? 人工のギフトってわけか?」
キェルケゴールは、確か19世紀のデンマークの哲学者であり思想家でもある人物の名前だった。人間に服従を要求する神の存在を根底とし、神への絶対服従を主張していた人だったと思う。
「ふうん、なるほどね。生徒ひとりひとりの名前にチェックを入れるかどうかで、『キェルケゴール』の対象と対象外を選べるってわけか。まぁ、こいつらは大人しくさせておくか」
要はそう言って、古賀のスマホをポケットにしまうと僕のそばに歩いてきた。
「八王子鳴海と、そっちの女は翌檜紫帆(あすなろ しほ)だな? お前らも俺と同じで『キェルケゴール』の能力の対象外になってた。ふたりともゲームの参加者で、例の本を持ってるってことでいいんだよな?」
僕は、ああ、とだけ答えた。
紫帆の名前まで、古賀のスマホにあることには少し驚かされた。
「俺はこれから2年5組に行く。このままここにいて、一時間後に花火の爆発に巻き込まれるのは御免だからな」
「奇遇だね。僕も同じことを考えてたよ」
「一緒に行くか? ただし、お前たちの仲間になるわけじゃない。優勝できるのはひとりだけらしいからな」
いつかはやり合うことになるが、一時的に共闘しようと持ちかけているのだろう。
僕と紫帆はその提案に乗ることにした。
要 雅雪と親しかったわけでもないのに、僕は何故か彼のことを別人のように感じていた。
「俺の顔に、何かついてるか?」
僕はいつの間にか要をじろじろと見てしまっていたのだろう。僕の視線に気づいた彼はそう言った。
僕は、いや、とだけ答えた。
彼のギフトはケルベロスという名前じゃなかったか? いや、アマツミカボシだったか?
そんな疑問が僕の頭に浮かんでいた。
何故か僕は、目の前にいる彼と姿形は同じだが、性格やギフトの能力がまるで違う彼を知っているような気がしていた。
どちらにせよ、ユナイテッドアローズ・イグナイテッドなんていう長たらしい名前のものではなかった気がした。
「どうしたの? 鳴海くん」
紫帆にも心配させてしまっていたが、この不思議な感覚をうまく言語化して簡潔に説明することは難しそうだった。
「大丈夫だよ、あの人がギフトの弓矢を撃つよりも、鳴海くんが拳銃撃つ方が早いから。鳴海くんにはわたしもついてるし」
他にも僕の頭には、天を貫くような光の柱や墜落する飛行機、彼をお兄ちゃんと呼ぶ妹らしき女性と少女など、要に関する僕が知るはずのないイメージが溢れてきてもいた。
彼の皮膚がただれ肉が腐り落ちていく姿や、体が糸のようになり機織り機のようなものに吸い込まれていく姿も浮かんだ。
彼が僕の夢に出てきたことがあったのだろうか。
だとしたら、それは予知夢のようなものかもしれなかった。
このゲームで何人生き残れるのかはわからない。
だが、たぶん要 雅雪は生き残るのだと思う。
その彼もまた、比較的近い未来に死ぬことになるか、機織り機に吸い込まれ組紐になる運命にあるのだろう。
僕は生き残れるだろうか。
僕が死んでしまっても、せめて紫帆だけは消えずにすむようにならないものだろうか。
要や紫帆と共に2年5組に向かうため階段をかけおりながら、僕はそんなことを考えていた。
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