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第4章 第2話
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「君のことだ。アリステラがあの放送をどこから流していたのか、すでに調べはついているんだろう?」
「当然だよ」
タカミと一条のそのやりとりは、かつて共にいくつものテロを未然に防いだときと変わらないものだった。
複数の海外サーバーを経由しているため発信源の特定は困難、そんな言葉が災厄前の刑事ドラマなどではよく飛び交っていた。
だが、あんなものは物語上の都合か、現実でもそういうことがあったのだとしたら、サイバー犯罪課に所属していた技術者の能力が低かったのかのどちらかでしかない。
たとえ世界中のサーバーを無数に何重も経由していようが、発信源を特定することはあみだくじをゴールからスタートへと遡るのと同じだ。その迷路が単純か複雑かの違いしかないからだ。
「とはいえ、敵は10万年前の超古代文明か……」
一条は遠い目をすると、一筋縄じゃいかないな、と苦笑した。
「この国だけじゃなく世界中の軍隊が壊滅状態だ。俺たちにできるのは君のハッキングくらいか」
「ハッキングでどうにかなる相手ならいいけどね。アリステラ人が全員電脳化してくれてるとか」
「攻殻機動隊か。懐かしいな。
まぁ、軍隊が残っていたところで、現代の軍隊じゃ到底相手にならないだろうな」
「そうだね、敵は災害や疫病を自在に起こせる」
それも、この4年間で世界中から法治国家がすべて機能しなくなるほどのレベルで、だった。
「アリステラとこっちとでは、そもそも軍事力というもののとらえ方が違うんだ。
奴らは軍や兵器といったものを必要としていない。エーテルという万能物質と、それを扱えるアリステラ人さえいればいいんだ」
10万年前はどうだったかまではわからない。
英雄アンフィスが13人のネアンデルタール人の弟子と軍を従えて、と言っていたから、アリステラの言葉でエーテライズというらしい魔法のようなものを主流とした戦いをしていたのだろうとは思う。
だが、敵は今、そういう戦争をしかけてきている。
「野蛮なホモサピエンスに出来ることは、エーテルの使い手を始末することくらいだろうね」
それはもしかしなくとも、ユワに瓜二つのあの女王を殺す、ということだった。
そんなことはタカミには出来るはずもなかった。ショウゴはもちろん一条にも、誰にもさせたくはなかった。
タカミは一条を自室に案内した。
パソコンのモニターは3面あり、そのひとつには、すでにアリステラによる放送の発信源が示されていた。
別のモニターでは、生前のユワや時の人として扱われていた時代の小久保ハルミの写真や映像と、アリステラの放送のふたりが同一人物であるかどうかの解析結果が出ていた。
同一人物である可能性は、どちらも99.14159265359%と表示されていた。
「やはり同一人物か」
今はそう信じざるを得なかった。
「発信源はヤルダバの首都アルコンだな」
ヤルダバは中東にある小さな国だが、ノーベル賞受賞者を数多く排出し、産業革命以後現代に至るまで、常に科学で世界を牽引し続けてきた国だった。
その領土は決して広くはなく、それに比例し人口も多くはないものの、鉱物資源に非常に恵まれた土地であり、かつては鉄やアルミ、銅などのベースメタルの世界一の産出国であり、現代になると希少なレアメタルやレアアースの世界一の産出国となっていた。
この四年でヤルダバがどうなっているのかは情報がないからわからないが、災厄前は世界で最も文明が進んでいるとされていた国のひとつだ。
「確か近親婚が多いから、天才が生まれやすいと言われている国だったな」
一条の言う通りだったが、近親婚が多くの国で禁止される原因である、死産や遺伝性疾患の罹患率の上昇が、この国では全く見られないという。
そのことから、宗教的観点から「近親婚が唯一許された現人神の住まう国」と呼ばれることもあれば、科学的、あるいは都市伝説的観点から「太古から遺伝子操作技術を持つ禁忌の国」と呼ばれることもある謎の多い国でもあった。
「核分裂反応を最初に発見したのも、確かこの国の三人の化学者だったな」
「ラーガル・アザトスにレオナルド・スカニヤ、それからブライ・グノシス。
核兵器と原子力発電の始祖、ヤルダバの三賢人だよ」
化学者たちの名前を口にして、タカミは違和感を覚えた。
それは一条も同じだったようだ。
「ブライ? あの女王もその名前を口にしていなかったか?」
アリステラの父、ブライ。確か女王はそう言っていた。
女王が手にしていた古文書のひとつもまたブライ聖典というものだった。
名前の一致などよくあることだ。ただの偶然だと片付けることもできるだろう。
だが、アリステラと何の関係もない場所からあの放送が発信されていたとも思えなかった。
「10万年前にアリステラが国ごと異世界から転移してきたのが、ヤルダバの地だったのかもしれないね」
「異世界の土地が含まれていたから、鉱物資源に富み、科学で世界を牽引することができたというわけか」
その可能性は十分にあった。
「それに、ヤルダバは、一年前にユワの遺体を輸送中だった飛行機がその消息を絶ったところだよ」
間違いなかった。
ユワとハルミは今、ヤルダバにいる。
「当然だよ」
タカミと一条のそのやりとりは、かつて共にいくつものテロを未然に防いだときと変わらないものだった。
複数の海外サーバーを経由しているため発信源の特定は困難、そんな言葉が災厄前の刑事ドラマなどではよく飛び交っていた。
だが、あんなものは物語上の都合か、現実でもそういうことがあったのだとしたら、サイバー犯罪課に所属していた技術者の能力が低かったのかのどちらかでしかない。
たとえ世界中のサーバーを無数に何重も経由していようが、発信源を特定することはあみだくじをゴールからスタートへと遡るのと同じだ。その迷路が単純か複雑かの違いしかないからだ。
「とはいえ、敵は10万年前の超古代文明か……」
一条は遠い目をすると、一筋縄じゃいかないな、と苦笑した。
「この国だけじゃなく世界中の軍隊が壊滅状態だ。俺たちにできるのは君のハッキングくらいか」
「ハッキングでどうにかなる相手ならいいけどね。アリステラ人が全員電脳化してくれてるとか」
「攻殻機動隊か。懐かしいな。
まぁ、軍隊が残っていたところで、現代の軍隊じゃ到底相手にならないだろうな」
「そうだね、敵は災害や疫病を自在に起こせる」
それも、この4年間で世界中から法治国家がすべて機能しなくなるほどのレベルで、だった。
「アリステラとこっちとでは、そもそも軍事力というもののとらえ方が違うんだ。
奴らは軍や兵器といったものを必要としていない。エーテルという万能物質と、それを扱えるアリステラ人さえいればいいんだ」
10万年前はどうだったかまではわからない。
英雄アンフィスが13人のネアンデルタール人の弟子と軍を従えて、と言っていたから、アリステラの言葉でエーテライズというらしい魔法のようなものを主流とした戦いをしていたのだろうとは思う。
だが、敵は今、そういう戦争をしかけてきている。
「野蛮なホモサピエンスに出来ることは、エーテルの使い手を始末することくらいだろうね」
それはもしかしなくとも、ユワに瓜二つのあの女王を殺す、ということだった。
そんなことはタカミには出来るはずもなかった。ショウゴはもちろん一条にも、誰にもさせたくはなかった。
タカミは一条を自室に案内した。
パソコンのモニターは3面あり、そのひとつには、すでにアリステラによる放送の発信源が示されていた。
別のモニターでは、生前のユワや時の人として扱われていた時代の小久保ハルミの写真や映像と、アリステラの放送のふたりが同一人物であるかどうかの解析結果が出ていた。
同一人物である可能性は、どちらも99.14159265359%と表示されていた。
「やはり同一人物か」
今はそう信じざるを得なかった。
「発信源はヤルダバの首都アルコンだな」
ヤルダバは中東にある小さな国だが、ノーベル賞受賞者を数多く排出し、産業革命以後現代に至るまで、常に科学で世界を牽引し続けてきた国だった。
その領土は決して広くはなく、それに比例し人口も多くはないものの、鉱物資源に非常に恵まれた土地であり、かつては鉄やアルミ、銅などのベースメタルの世界一の産出国であり、現代になると希少なレアメタルやレアアースの世界一の産出国となっていた。
この四年でヤルダバがどうなっているのかは情報がないからわからないが、災厄前は世界で最も文明が進んでいるとされていた国のひとつだ。
「確か近親婚が多いから、天才が生まれやすいと言われている国だったな」
一条の言う通りだったが、近親婚が多くの国で禁止される原因である、死産や遺伝性疾患の罹患率の上昇が、この国では全く見られないという。
そのことから、宗教的観点から「近親婚が唯一許された現人神の住まう国」と呼ばれることもあれば、科学的、あるいは都市伝説的観点から「太古から遺伝子操作技術を持つ禁忌の国」と呼ばれることもある謎の多い国でもあった。
「核分裂反応を最初に発見したのも、確かこの国の三人の化学者だったな」
「ラーガル・アザトスにレオナルド・スカニヤ、それからブライ・グノシス。
核兵器と原子力発電の始祖、ヤルダバの三賢人だよ」
化学者たちの名前を口にして、タカミは違和感を覚えた。
それは一条も同じだったようだ。
「ブライ? あの女王もその名前を口にしていなかったか?」
アリステラの父、ブライ。確か女王はそう言っていた。
女王が手にしていた古文書のひとつもまたブライ聖典というものだった。
名前の一致などよくあることだ。ただの偶然だと片付けることもできるだろう。
だが、アリステラと何の関係もない場所からあの放送が発信されていたとも思えなかった。
「10万年前にアリステラが国ごと異世界から転移してきたのが、ヤルダバの地だったのかもしれないね」
「異世界の土地が含まれていたから、鉱物資源に富み、科学で世界を牽引することができたというわけか」
その可能性は十分にあった。
「それに、ヤルダバは、一年前にユワの遺体を輸送中だった飛行機がその消息を絶ったところだよ」
間違いなかった。
ユワとハルミは今、ヤルダバにいる。
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