ひとりの少女を守るために70億の命を犠牲になんてできないから、ひとりの少女を犠牲にしてみた結果、事態がさらに悪化した件。

あめの みかな

文字の大きさ
48 / 123

第6章 第2話

しおりを挟む
 その日、特殊な能力に目覚めたのは大和ショウゴだけではなかった。

 鳳アンナには新たな能力が開花し、ショウゴと命のやりとりをした一条ソウマもまた、小久保ハルミへの強い執着、後悔から能力を開花させていた。

 マンションの階下から轟音が二度響き、タカミが部屋を飛び出して行った後、

「過保護なお義兄ちゃんは嫌われるって、ついさっき教えてやったばかりなのにな」

 やれやれ、と一条は立ち上がった。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 立ち上がることなどできるはずもない身体で。

 ショウゴに拳銃で撃ち抜かれ、二度とペンすら握れず、二度と歩くこともままならないだろうと思われたその手足は、完全に治癒していた。
 彼は開花させた驚異的な治癒能力によって、皮膚や骨、筋肉、そして神経までをも再生させていたのだ。

 それが彼の身体で起き始めたのは、彼の手当てを終えたショウゴが部屋から出ていき、タカミとふたりきりになったときからだ。
 突然身体が燃え上がるように熱くなり、それは怪我の痛みを感じないほどの熱さだった。
 このまま死ぬのかとさえ思ったが、タカミの前であったから顔色ひとつ変えることはなかった。
 数分間耐えていると身体は完全に完治していた。

 一条自身、あれほどの損傷を受けていた身体が、なぜ急に再生を始めたのかよくわかってはいなかったが、

「エーテルは、現代人から見れば魔法のようなもの、か。
 確かにこれは魔法か。あるいは奇跡と呼ぶべきものだな」

 エーテルによるものだろうということは、何となくであったが理解していた。

 2000年ほど前の時代、メシアと呼ばれた男がいた。
 その男は他者の病や怪我を触れるだけで治すことができたという。
 人々はそれを奇跡と呼んだ。
 だが、その男が起こす奇跡やメシアであることを認めない者たちがいた。
 そのため、男は国家反逆罪でとらえられ死刑となった。
 処刑された直後、本当に死んでいるかを確かめるために脇腹に槍を刺した男がいた。
 その男は緑内障を患っていたが、槍を刺した際に飛び散った血が目に入ることでその病が治ったという。
 3日後にはメシア自身も復活を遂げている。

 おそらくこの治癒能力は、そのメシアの肉体が持っていた能力に限りなく近いものだろう。
 だが彼はメシアになるつもりなどは毛頭なかった。
 メシアの生まれ変わりや神の化身を自称し、自身もそうなろうとする者、した者が実際にどんなことをし、どんな末路が待っているか、カルト教団を相手にしていた彼はよく知っていた。
 メシアとはなろうとするものではなく、なっているものなのだ。

 それに、人々や世界を救おうなどという崇高な想いは一条にはなかった。

「これで俺もハルミに会いに行ける。
 タカミにハルミは渡さない」

 彼にあるのは、ただそれだけだった。

 一条に開花した能力は、正確には「『驚異的な治癒能力を持つ細胞』を産み出す能力」であった。
 そうして産み出され、彼の身体を今構成する細胞は、小久保ハルミが産み出した千年細胞に非常によく似ていた。
 彼女が千年細胞を元にして作りだしたエーテルが、彼の能力を開花させ、一条細胞とでも呼ぶべき新たな千年細胞を作り出したというのは、なんとも皮肉というべきだろうか。あるいは運命的というべきだろうか。

「飛行機かヘリを、奴らより早く手に入れられなければな。
 絶対に俺が先にヤルダバに、ハルミのところに辿り着かなければ」

 そう呟くと、彼はスマホをリュックから取り出し、かつての後輩に電話をかけることにした。

 遣田ハオト。
 それは、一条が警視庁公安部にいた頃の彼の相棒の名前だった。
 数年連絡を取っていなかったし、今はどこにいるかすら知らなかったが、遣田は一条を非常に慕ってくれていた。警察時代に一条が唯一心を許した同僚だった。
 タカミというハッカーの協力者の存在を話したのも彼だけであったし、小久保ハルミを一条家の別荘に匿ったときも、週に1、2度彼女に食料品などの生活必需品を届けてもらってもいた。
 彼ならきっと協力者になってくれるはずだった。

 だが、彼はその電話に出なかった。

「スマホが使えるようになっているのをまだ知らないのか」

 優秀だが間が抜けたところがある、遣田ハオトという男は、一条の前ではそういう男だったのだ。

 彼が千里眼や未来予知、潜在意識の増幅、他者の肉体への憑依能力などを持っていることや、10万年前に異世界から国ごと転移してきた超古代文明アリステラの英雄アンフィスによって、エーテルの扱い方を学んだネアンデルタール人らの生き残りであることはもちろん、千年細胞や千のコスモの会にまつわる様々な事象に深く関わっていたことを、一条は知るよしもなかった。

 まぁ、そのうち折り返しがあるだろう。
 一条はスマホをしまい、床に落ちていた彼の拳銃を拾い上げた。
 間髪入れず、窓に向かって数発弾丸を撃ち込んだ。
 放射線状にヒビが入った窓に、リュックを投げつけると、窓は大きく割れ、リュックは窓の外に落下していった。

 このマンションにエレベーターは一台しかなく、今はタカミが使っている。
 タカミはきっとショウゴを連れて帰ってくるだろう。
 彼らに見つからず、地下駐車場に向かうには、窓を割って飛び下りるしかない。

 20階建てのこのマンションの高さはおそらくは約60メートルといったところだろう。
 飛び下り自殺で確実に即死する高さは20メートルと言われているが、今のこの身体ならば即死級のダメージを受けてもきっと再生してくれるだろう。

 一条は過去に二度、死ぬことよりもはるかに恐ろしい経験をしている。
 一度目は、一条家の別荘からハルミが消えたときだ。
 二度目は、つい先ほど、手足を撃たれ、ハルミの元へ向かえる身体ではなくなってしまったとき。
 どちらも、死んでしまった方がマシだったと思える体験だった。

 それに比べれば、もはや一条に何も怖いものはなかった。

 一条はためらうことなく割れた窓から外に飛び下りた。

 そして、彼は「三度目の死ぬことよりもはるかに恐ろしい経験」をすることになった。


--念のため、一条さんの脳に私の精神と記憶のバックアップを用意しておいて正解でした。


 どこからか聞こえてきたその声は、先ほど彼が電話をかけた遣田ハオトの声によく似ていた。

「遣田か? 一体どこから話しかけている?」


--あなたの頭の中からですよ。
  あなたの身体と、あなたに開花した治癒能力は私が頂きます。
  この治癒能力があれば、私が持つ脳や肉体のリミッターを解除する能力を、その後のダメージを気にしたり、新たな肉体を探す必要もなく、存分に扱うことができるでしょう。
  あなたは本当に最期まで優秀な人でした。


 一条の頭の中で、何かが焼き切れるような音と焦げた臭いがした。
 その音と臭いは、彼の精神そのものが焼き切れる音であり、臭いだった。

 60メートルの高さから落下した一条の身体は、落下の直前にマンションの壁面や近隣の建物を利用してその落下速度を緩和させると、怪我ひとつ負わずアスファルトの上に着地した。

 何事もなかったかのように歩き始め、

「さてと、雨野タカミさんや大和ショウゴさん、それから朝倉レインさんに合流するとしますか」

 その顔に下卑た笑いを浮かべた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...