111 / 123
最終章 第2話
しおりを挟む
雨野ユワがタカミに抱きつくのを、少し離れた場所から朝倉レインは見つめていた。
タカミにとっての最後の戦いは、おそらく城塞戦車キャッスルチャリオットの女王の間に現れた、アリステラの歴代女王のうちのふたり、6翼のアマヤと8翼のアシーナとの戦いになるのだろう。
タカミはまだ知らないだろうが、あの戦いはもう、3年も前の話になる。
時は、西暦2029年になっていた。
もっとも、今となっては西暦という暦にはもはや何の意味もなくなってしまっていた。新たな暦が必要な世界でもなかった。
あの戦いから1年も経たないうちに、人類も新生アリステラも、機械の体を得たアリステラの歴代の女王たちも、そのすべてが滅んでしまっていたからだ。
どの陣営も、大量破壊兵器や大量破壊魔法を所持していたため、その最期は撃たれたから撃ち返す、撃ち返されたからまた撃つという醜い繰り返しだった。
インプラント手術により、肩甲骨にその根元となる部分を埋め込むことで、機械の片翼を背中から生やしてはいたが、それ以外のレインの体は生身のままであった。
彼女が放射能に汚染されることなくこの日まで生きてこられたのは、小久保ハルミが産み出したエーテルのおかげだった。
彼女がまがい物と揶揄していたエーテルには、放射能を発する放射性物質を無毒化する作用があったのだ。
今となってはもはや確かめるすべはないが、小久保ハルミは世界中から希代の詐欺師と揶揄され、新生アリステラに与しながらも、それでも常に人類のことを考えていたのかもしれない。
千年細胞という世紀の大発見をしただけでなく、その細胞から放射性物質を無毒化するエーテルさえも産み出したのだ。
彼女はおそらく、アリステラのエーテルを完全に再現することもできただろう。だが、研究途中の段階で放射性物質を無毒化することができると知り、完全に再現した場合にはその能力が失われてしまうことに気づいた彼女は、あえて研究途中のエーテルを、地球産のまがい物として新生アリステラに提出したのだ。
同じ細胞から産み出したカーズウィルスと共に。
人類を想う聖母のような優しさと、人類を憎む悪女のような恐ろしさ、その二面性こそが、人類がただの野蛮なホモサピエンスではなかったと証明してくれていた。
だが結局は、人類も新生アリステラも、機械の体を得たアリステラの歴代の女王たちも皆、殺し合うことしかできない野蛮な生物でしかなかった。
3年前のあのとき、6翼のアマヤの「業火連弾」により、城塞戦車の女王の間の半分が吹き飛ばされ、ユワの体は世界から完全に失われてしまった。
タカミからゲートを使い避難するよう言われたレインは、彼に指定された東京の巨大な地下空洞にあるという要人専用の核シェルターではなく、雨野市の彼のマンションの部屋へと避難した。
彼のハッキングプログラム「機械仕掛けの魔女ディローネ」を利用して、レインが持っていたユワの知識や記憶、経験といった記録を、人造人間兵士の魔導人工頭脳に与えるためだった。
その際に念のため、自らの記録のバックアップをエーテルを使ってタカミのパソコンに残してもいた。
レインはハッキングやプログラムについての知識は皆無だったが、エーテルがディローネへの命令を可能にしてくれた。あるいは、ディローネがエーテルにより自己進化を遂げていたのかもしれなかった。
彼女はディローネに、人工衛星などを使い、常に世界中を監視するように、そして自分がもし死んでしまうようなことがあれば、ユワや他の歴代の女王たちと同じように、機械の体を与えてくれるように頼んでいた。
ディローネ自身も、いつ雨野市ごと消されてしまうかわからなかったから、人工衛星に避難させていた。
地球上に存在したヒト型種族のすべてが滅んでから2年あまり、レインはユワに機械の体を与えてはいけなかったのではないかとずっと後悔していた。
世界に残されていたのは奇数翼の穏健派に属していたレインと、偶数翼の強硬派に属していたユワのたったふたりだけだった。
もはや戦う必要も理由もないというのに、奇数翼と偶数翼の戦いは、たったふたりになっても続いた。
それぞれの陣営の思惑とは関係なく、ユワは私怨によってだけレインを殺そうとしていた。
レインには、ユワと十分に戦えるだけの力があったが、どうしてもユワを殺せなかった。
ユワは、レインにとってのアンナやショウゴのように、ショウゴやタカミにとって大切で特別な存在だったからだ。
彼女の本当の体に二度目の死を迎えさせたのは、他の誰でもなくレインだったからだ。
だから彼女は、2年あまりもユワの攻撃に対し常に防戦するだけだった。
いっそこのまま殺されてしまえばどんなに楽だろう。何度そう考えたかわからなかった。
レインはとうに心身ともに疲れはてていた。
7年前、ショウゴと共に逃げ続けることに疲れはて、自ら死を望んだオリジナルのユワも、もしかしたら同じような気持ちだったのかもしれない。
タカミがこの場に現れることがなければ、いずれレインはユワに殺されていただろう。殺されることを望んでいただろう。
それは、明日であったかもしれないし、もしかしたら今日であったかもしれなかった。
タカミにとっての最後の戦いは、おそらく城塞戦車キャッスルチャリオットの女王の間に現れた、アリステラの歴代女王のうちのふたり、6翼のアマヤと8翼のアシーナとの戦いになるのだろう。
タカミはまだ知らないだろうが、あの戦いはもう、3年も前の話になる。
時は、西暦2029年になっていた。
もっとも、今となっては西暦という暦にはもはや何の意味もなくなってしまっていた。新たな暦が必要な世界でもなかった。
あの戦いから1年も経たないうちに、人類も新生アリステラも、機械の体を得たアリステラの歴代の女王たちも、そのすべてが滅んでしまっていたからだ。
どの陣営も、大量破壊兵器や大量破壊魔法を所持していたため、その最期は撃たれたから撃ち返す、撃ち返されたからまた撃つという醜い繰り返しだった。
インプラント手術により、肩甲骨にその根元となる部分を埋め込むことで、機械の片翼を背中から生やしてはいたが、それ以外のレインの体は生身のままであった。
彼女が放射能に汚染されることなくこの日まで生きてこられたのは、小久保ハルミが産み出したエーテルのおかげだった。
彼女がまがい物と揶揄していたエーテルには、放射能を発する放射性物質を無毒化する作用があったのだ。
今となってはもはや確かめるすべはないが、小久保ハルミは世界中から希代の詐欺師と揶揄され、新生アリステラに与しながらも、それでも常に人類のことを考えていたのかもしれない。
千年細胞という世紀の大発見をしただけでなく、その細胞から放射性物質を無毒化するエーテルさえも産み出したのだ。
彼女はおそらく、アリステラのエーテルを完全に再現することもできただろう。だが、研究途中の段階で放射性物質を無毒化することができると知り、完全に再現した場合にはその能力が失われてしまうことに気づいた彼女は、あえて研究途中のエーテルを、地球産のまがい物として新生アリステラに提出したのだ。
同じ細胞から産み出したカーズウィルスと共に。
人類を想う聖母のような優しさと、人類を憎む悪女のような恐ろしさ、その二面性こそが、人類がただの野蛮なホモサピエンスではなかったと証明してくれていた。
だが結局は、人類も新生アリステラも、機械の体を得たアリステラの歴代の女王たちも皆、殺し合うことしかできない野蛮な生物でしかなかった。
3年前のあのとき、6翼のアマヤの「業火連弾」により、城塞戦車の女王の間の半分が吹き飛ばされ、ユワの体は世界から完全に失われてしまった。
タカミからゲートを使い避難するよう言われたレインは、彼に指定された東京の巨大な地下空洞にあるという要人専用の核シェルターではなく、雨野市の彼のマンションの部屋へと避難した。
彼のハッキングプログラム「機械仕掛けの魔女ディローネ」を利用して、レインが持っていたユワの知識や記憶、経験といった記録を、人造人間兵士の魔導人工頭脳に与えるためだった。
その際に念のため、自らの記録のバックアップをエーテルを使ってタカミのパソコンに残してもいた。
レインはハッキングやプログラムについての知識は皆無だったが、エーテルがディローネへの命令を可能にしてくれた。あるいは、ディローネがエーテルにより自己進化を遂げていたのかもしれなかった。
彼女はディローネに、人工衛星などを使い、常に世界中を監視するように、そして自分がもし死んでしまうようなことがあれば、ユワや他の歴代の女王たちと同じように、機械の体を与えてくれるように頼んでいた。
ディローネ自身も、いつ雨野市ごと消されてしまうかわからなかったから、人工衛星に避難させていた。
地球上に存在したヒト型種族のすべてが滅んでから2年あまり、レインはユワに機械の体を与えてはいけなかったのではないかとずっと後悔していた。
世界に残されていたのは奇数翼の穏健派に属していたレインと、偶数翼の強硬派に属していたユワのたったふたりだけだった。
もはや戦う必要も理由もないというのに、奇数翼と偶数翼の戦いは、たったふたりになっても続いた。
それぞれの陣営の思惑とは関係なく、ユワは私怨によってだけレインを殺そうとしていた。
レインには、ユワと十分に戦えるだけの力があったが、どうしてもユワを殺せなかった。
ユワは、レインにとってのアンナやショウゴのように、ショウゴやタカミにとって大切で特別な存在だったからだ。
彼女の本当の体に二度目の死を迎えさせたのは、他の誰でもなくレインだったからだ。
だから彼女は、2年あまりもユワの攻撃に対し常に防戦するだけだった。
いっそこのまま殺されてしまえばどんなに楽だろう。何度そう考えたかわからなかった。
レインはとうに心身ともに疲れはてていた。
7年前、ショウゴと共に逃げ続けることに疲れはて、自ら死を望んだオリジナルのユワも、もしかしたら同じような気持ちだったのかもしれない。
タカミがこの場に現れることがなければ、いずれレインはユワに殺されていただろう。殺されることを望んでいただろう。
それは、明日であったかもしれないし、もしかしたら今日であったかもしれなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる