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最終章 第3話
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レインが死ねば、タカミのハッキングプログラム「機械仕掛けの魔女ディローネ」が、彼のパソコンに保存されたレインの記録を元に、機械の体を持つ新たな彼女を産み出すようになっていた。
だが、肝心の機械の体も魔導人工頭脳も、もはや世界中のどこにも存在しない。
たとえ存在していたとしても、機械の体に新たに産まれる自分は、自分であって自分ではない。
同じ知識や記憶、経験の記録を持ち、同じ人格を持っていても、それはレインの人格とイコールの存在ではなく、あくまでニアリーイコールの別の存在だ。
新たな自分がユワを相手にどんなにつらい思いをしようが、死んでしまった自分がそれを体験するわけではない。自分にはもはや関係のないことだ。
レインはそんな風に考えてしまうほど疲れはてていた。
だからタカミの声を聞き、その姿を見たとき、諦めなくてよかった、と心から思った。
「お兄ちゃん、今までどこにいたの?」
ユワもまた、タカミが知る彼女とはニアリーイコールの別の存在だ。
だが彼女は、全くそれを気にしている様子はなかった。
生前の彼女の顔に限りなく似せた機械の顔で、レインが彼女の生前の記録でしか知らない顔を、タカミに見せていた。
「どこだろう? よくわからないんだ。ここがどこかもわからないくらいなんだよ」
タカミは、向こうの方かな、と西の方角を指差した。
レインはふと、アンナのことを思い出した。
人には家族や友人や恋人といった大切な人にしか見せない顔がある。
自分もきっとアンナの前ではあんな顔を見せていたのだろう。
アンナに無性に会いたくなってしまった。彼女も機械の体を手に入れていたはずだったが、生身ゆえに情報の並列化ができなかったレインには、彼女の居場所を知ることはできず、再会できないまま世界に終末が訪れてしまった。
ニアリーイコールの別の存在であっても、レインにとってアンナはアンナだった。だから会いたかった。
そんな大切なことを、彼女はいつの間にか忘れてしまっていた。
タカミはそれを理解しているから、生前のユワに対するのと全く変わらない態度で接しているのだ。
あえて意識してそうしているというよりは、ユワを前にすると勝手にそうなってしまうのかもしれない。
「まっすぐ歩いてきたつもりだけど、ずっと荒野が続いてて、目印になるものもなかったし、もしかしたらあっちじゃないかもなぁ」
その言葉から、やはり彼はまだ知らないのだな、とレインは思った。
人類も新生アリステラも、機械の体を得たアリステラの歴代の女王たちも皆、もうこの世界には存在しないということを。
今、自分たちがいる場所が、ほんの3年前までは日本海と呼ばれていた海が干上がり、荒野と化してしまった場所だということを。
世界に残されているのは、タカミとユワとレインの3人しかいないということを、彼はまだ知らないのだ。
「ユワも女王同士の情報の並列化ってやつで知ってると思うけど、ぼくも一度死んでるんだ」
「でも、お兄ちゃんはわたしみたいに機械の体じゃないんだね。
骨がヒヒイロカネになってたり、細胞が全部、千年細胞になったりしてるみたいだけど、前とほとんど一緒。どうして?」
「見ただけでわかるんだ? やっぱりすごいなユワは」
7年ぶりに兄に褒められたユワは、照れくさそうで嬉しそうで、それから少し自慢げな顔をしていた。
「ぼくの死体をすぐに運んでくれた人たちがいたんだ。
アシーナさんとアレクサさんていう人で、アリステラの医療ポッドに入れてもらって、その中でついこの間まで体を再生してもらってたんだ。
今ぼくが生きていられるのはその人たちのおかげ。
でも、ぼくが医療ポッドの中にいる間に、アシーナさんもアレクサさんも皆死んじゃったみたいなんだけどね」
「アシーナさんとアレクサさん……?
それってもしかして、奇数翼の穏健派の、7翼の女王と15翼の女王?」
「ユワは本当に何でもよく知ってるね」
「うん……」
ユワは途端にその表情を暗くした。
7翼のアシーナや15翼のアレクサのことをなぜ知っているのか、彼女には言えない理由があったからだった。
だが、肝心の機械の体も魔導人工頭脳も、もはや世界中のどこにも存在しない。
たとえ存在していたとしても、機械の体に新たに産まれる自分は、自分であって自分ではない。
同じ知識や記憶、経験の記録を持ち、同じ人格を持っていても、それはレインの人格とイコールの存在ではなく、あくまでニアリーイコールの別の存在だ。
新たな自分がユワを相手にどんなにつらい思いをしようが、死んでしまった自分がそれを体験するわけではない。自分にはもはや関係のないことだ。
レインはそんな風に考えてしまうほど疲れはてていた。
だからタカミの声を聞き、その姿を見たとき、諦めなくてよかった、と心から思った。
「お兄ちゃん、今までどこにいたの?」
ユワもまた、タカミが知る彼女とはニアリーイコールの別の存在だ。
だが彼女は、全くそれを気にしている様子はなかった。
生前の彼女の顔に限りなく似せた機械の顔で、レインが彼女の生前の記録でしか知らない顔を、タカミに見せていた。
「どこだろう? よくわからないんだ。ここがどこかもわからないくらいなんだよ」
タカミは、向こうの方かな、と西の方角を指差した。
レインはふと、アンナのことを思い出した。
人には家族や友人や恋人といった大切な人にしか見せない顔がある。
自分もきっとアンナの前ではあんな顔を見せていたのだろう。
アンナに無性に会いたくなってしまった。彼女も機械の体を手に入れていたはずだったが、生身ゆえに情報の並列化ができなかったレインには、彼女の居場所を知ることはできず、再会できないまま世界に終末が訪れてしまった。
ニアリーイコールの別の存在であっても、レインにとってアンナはアンナだった。だから会いたかった。
そんな大切なことを、彼女はいつの間にか忘れてしまっていた。
タカミはそれを理解しているから、生前のユワに対するのと全く変わらない態度で接しているのだ。
あえて意識してそうしているというよりは、ユワを前にすると勝手にそうなってしまうのかもしれない。
「まっすぐ歩いてきたつもりだけど、ずっと荒野が続いてて、目印になるものもなかったし、もしかしたらあっちじゃないかもなぁ」
その言葉から、やはり彼はまだ知らないのだな、とレインは思った。
人類も新生アリステラも、機械の体を得たアリステラの歴代の女王たちも皆、もうこの世界には存在しないということを。
今、自分たちがいる場所が、ほんの3年前までは日本海と呼ばれていた海が干上がり、荒野と化してしまった場所だということを。
世界に残されているのは、タカミとユワとレインの3人しかいないということを、彼はまだ知らないのだ。
「ユワも女王同士の情報の並列化ってやつで知ってると思うけど、ぼくも一度死んでるんだ」
「でも、お兄ちゃんはわたしみたいに機械の体じゃないんだね。
骨がヒヒイロカネになってたり、細胞が全部、千年細胞になったりしてるみたいだけど、前とほとんど一緒。どうして?」
「見ただけでわかるんだ? やっぱりすごいなユワは」
7年ぶりに兄に褒められたユワは、照れくさそうで嬉しそうで、それから少し自慢げな顔をしていた。
「ぼくの死体をすぐに運んでくれた人たちがいたんだ。
アシーナさんとアレクサさんていう人で、アリステラの医療ポッドに入れてもらって、その中でついこの間まで体を再生してもらってたんだ。
今ぼくが生きていられるのはその人たちのおかげ。
でも、ぼくが医療ポッドの中にいる間に、アシーナさんもアレクサさんも皆死んじゃったみたいなんだけどね」
「アシーナさんとアレクサさん……?
それってもしかして、奇数翼の穏健派の、7翼の女王と15翼の女王?」
「ユワは本当に何でもよく知ってるね」
「うん……」
ユワは途端にその表情を暗くした。
7翼のアシーナや15翼のアレクサのことをなぜ知っているのか、彼女には言えない理由があったからだった。
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