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最終章 第4話

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 レインやディローネによって、機械の体を得て黄泉返りを遂げたユワは、人類を守る側ではなく、滅ぼす側についた。
 人類や世界を災厄から守るため、14歳で生け贄にされた彼女にとって、それは当然の選択だった。
 偶数翼の強硬派に合流した彼女は、ある空中戦艦を母艦とする部隊に、自ら願い出て所属した。

 その戦艦の名は、飛翔艇オルフェウス1番艦エウリュディケ。
 その艦長を務めていたのは、「16翼の女王」「天国のアリーヤ」と呼ばれるアリステラの歴代の女王のひとりだった。

 アリステラがまだこの星ではなく、母なる星に存在した時代に最初に作られた1番艦エウリュディケは、2番艦以降のどんな艦よりも優れた空中戦艦だったらしい。
 この星でアリステラが滅亡を迎える直前、当時の女王であったアマヤは、自分や特権階級に属する者たちだけを乗せて国を脱しようとしたそうだ。
 しかし、アリステラはかねてからエーテルの枯渇が問題となっており、高性能すぎるが故に多くのエーテルを必要とするその艦は、発進後間もなく燃料切れとなり、トルコのアララト山に墜落、アマヤを含めた乗員の大半が死亡したという。

 16翼のアリーヤが率いる部隊は、偶数翼の強硬派の中でもその存在の賛否が分かれるほど、最も過激な部隊だった。
 3年前、アリーヤは10万年もの間アララト山に残骸が残っていたその艦を復元させると、奇数翼の穏健派が有する地球製の艦を次々と攻め、滅ぼした。

 アーリヤの部隊が最後に攻めたのが、タカミを助けた7翼のアシーナが有する艦だった。

 地球製の艦はすべて、タカミやディローネによって魔導人工頭脳が初期化され、飛ぶことができなくなっており、基地としてしか使えなくなっていた。
 だが、アリーヤは圧倒的な戦力差があるにも関わらず、戦力を惜しむこともなければ容赦もすることもなく、1番艦と部隊の持つ全戦力を投入した。

 その戦いは、互いの艦や兵をすべて失うほどの激しいものになったという。
 最後は女王やその末裔同士の戦いとなり、アリーヤもまた15翼のアレクサと相討ちとなって戦士した。

「あのとき、お兄ちゃんもあそこにいたんだ……」

 7翼のアシーナを討ち取り、その戦いで唯一生き残ったのがユワだった。

 だから、ユワはそのことをタカミに話すことが出来なかった。

 タカミはきっと、そんな自分さえも許してくれるだろう。
 けれど話してしまったら、しこりのようなものが、きっと兄の中に出来てしまう。
 それが直接の原因になることはないだろうけれど、ユワは、兄に嫌われてしまうことを何よりも恐れていた。

 ユワが殺してしまったのは、アリーヤだけではなかった。
 数えきれないほどの女王たちをその手にかけてきた。

 2年あまりもレインを殺そうと追いかけまわしていたこともまた、十分しこりになり得るものだった。だから怖かった。

 彼女には、家族と呼べる相手が兄しかいなかったからだ。
 本当の兄妹のように育ったが、自分が養女だということを、いつも引け目に感じていた。
 嫌われてしまったら、家族ですらいられなくなってしまう。
 それが何よりも怖かった。

 人類が滅び、世界が終わっても、まだそんなことを気にしている自分が、ユワは可笑しかった。

 もうわたしは人間じゃないのに。
 この体も、この頭も、全部機械なのに。

 どうして心なんていう、邪魔なだけの余計なものがあるんだろう。

 兄と再会できたことは、本当に嬉しかった。
 けれど、なぜ兄なのだろう?
 そんなことを考えてしまった自分がいた。

 生き返ったのが兄ではなく、ショウゴだったとしても、何の問題もなかったはずなのに。
 どうしてショウゴが帰ってきてくれないのだろう。

 この体のせいだ、とユワは思った。
 ショウゴが生き返ってしまったら、きっと自分は彼の子を欲しくなってしまう。
 だけど、この体では彼の子どもを生むことはできない。
 体はいくらでも形を変えられるから、女性器に似たものを作ることはできる。
 彼に抱かれることができる。でも、それだけだ。

 わたしの体がもし本物だったなら。
 あぁ、やっぱりだめだ。
 死んでしまっている間に、機械の体になってしまっている間に、自分が子宮を持たない状態で生まれてきたことを忘れてしまっていた。
 千年細胞で蘇生されたというわたしの体はどうだったのだろう。
 ちぎれてなくなってしまった手足さえも再生可能なあの細胞は、わたしに子宮を与えてくれていただろうか。

 ショウゴではなく兄が生き返ってしまったのは、自分が子どもを生むことが出来なかったからだ。

 ショウゴに会いたかった。一目会いたくてたまらなかった。
 兄が帰ってこなければ、こんな気持ちにならなかったのに。

 ユワはそんな風にしか考えられなくなってしまっていた。

 それ以上に、自分をこんな体で黄泉返らせたあの女が、殺したいほど憎かった。
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