その殺人鬼、『星喰いの凶星(ステラ・ディヴォアラー)』につき。

あめの みかな

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逃亡編

​第十六話『終焉執行の足音』

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​ 地下水道の廃区画。布津が地上へ向かってから、既に十五時間が経過していた。
 水滴が滴る音だけが響く闇の中で、武御 雷(たけみ らい)は、苛立ちと不安を押し殺すように、壁に拳を押し当てていた。

​「……遅すぎる。布津さんの性格なら、トラブルがあっても何らかの連絡を寄越すはずだ」

​「雷、落ち着け。……焦りは『明星』を曇らせる」

 天城星哉(あまぎ せいや)が静かに制するが、その声にも隠しきれない疲労が混じっている。彼は砕けかけた検眼枠をカチャリと回した。レンズの奥に映る地上の光は、先ほどから奇妙な「安定」を見せていた。
​ その時だ。
 紬(つむぎ)が膝に乗せていたノートPCが、耳障りな電子音を上げた。

​「――!? なに……これ……、布津さんのIDから……メッセージ……? ううん、これ、一括送信のブロードキャストだ……っ!」

​ モニターに映し出されたのは、布津が最期に辿り着いた九頭竜研究室のライブ映像だった。
 だが、そこに映っていたのは布津ではない。
 純白の法衣(ローブ)を纏い、全身に痛々しいまでのスタッズと、神聖なルーン文字を刻んだ漆黒の自動小銃を構えた集団――。

​『――愚かなる罪人どもに告げる。我ら、人類の祈りを背負い、天の理を執行する者。……「終焉執行・神罰代行騎士団(アポカリプス・ジャッジメント)」が、貴公らの穢れた命を、じわじわと、丁寧に刈り取ってやろう』

​ リーダーと思わしき、顔の半分を銀の仮面で覆った男が、カメラに向かって「あるもの」を掲げた。
 それは、血塗れになり、レンズが粉々に砕けた布津誠一の眼鏡だった。

​「……あ……、……布津さん……フッちゃん……」

 紬が息を呑み、口元を両手で覆った。
 画面は切り替わり、地上の至る所に設置された巨大なスピーカーが映し出される。そこから放たれているのは、布津が命を懸けて設計した「神格中和」の理論を悪用した、『精神感応・共振波』だった。

​「……ぐ、ああああっ!!」

 雷が不意に頭を抱えてのけぞった。
 地下にまで染み込んでくるその波動は、雷の中に眠るタケミカヅチの魂を、無理やり「肥大化」させ、暴走させる。神経をヤスリで削られるような激痛だった。

​「――これだ! これなんだよ!! ……布津​誠一の知識は、素晴らしい『拷問機(トーチャー)』になった」

 地下水道の入り口から、カチ、カチ、と軍靴の音が反響して近づいてくる。
 
「雷さん! 星哉さん! 誰か来る……一人じゃない、いっぱい来る……っ!」

 紬がパニックになり、キーボードを叩くが、布津の理論を組み込んだ騎士団の暗号化壁は、彼女の指先を拒絶し、逆に指先に高圧の電流を跳ね返した。

​「あぁぁっ!!」

 指先を焼き、紬が泣き崩れる。
​ 闇の奥から現れたのは、重装備の騎士団員たちだった。
 彼らが手にしているのは、布津が設計図に記した「神格妨害装置」を銃身に組み込んだ特殊兵器――『神殺しの杭・ロンギヌス』であった。

​「さあ、堕天使に悪神ども。……すぐに殺しては面白くない。……君たちが信じた『知性』が、君たちの肉体をどうやってバラバラに分解していくか……。……じっくりと、観察させてもらうよ」

​ 騎士団のリーダーが歪な笑みを浮かべ、引き金を引いた。
 放たれたのは弾丸ではない。
 雷の神経系に直接干渉し、筋肉を内側から破裂させる「共鳴波」の塊だった。
​ そこは、逃げ場のない地下室。
 布津の遺産に弄ばれながら、三人の「じわじわと続く処刑」が、幕を開けた。

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