32 / 44
逃亡編
第十六話『終焉執行の足音』
しおりを挟む
地下水道の廃区画。布津が地上へ向かってから、既に十五時間が経過していた。
水滴が滴る音だけが響く闇の中で、武御 雷(たけみ らい)は、苛立ちと不安を押し殺すように、壁に拳を押し当てていた。
「……遅すぎる。布津さんの性格なら、トラブルがあっても何らかの連絡を寄越すはずだ」
「雷、落ち着け。……焦りは『明星』を曇らせる」
天城星哉(あまぎ せいや)が静かに制するが、その声にも隠しきれない疲労が混じっている。彼は砕けかけた検眼枠をカチャリと回した。レンズの奥に映る地上の光は、先ほどから奇妙な「安定」を見せていた。
その時だ。
紬(つむぎ)が膝に乗せていたノートPCが、耳障りな電子音を上げた。
「――!? なに……これ……、布津さんのIDから……メッセージ……? ううん、これ、一括送信のブロードキャストだ……っ!」
モニターに映し出されたのは、布津が最期に辿り着いた九頭竜研究室のライブ映像だった。
だが、そこに映っていたのは布津ではない。
純白の法衣(ローブ)を纏い、全身に痛々しいまでのスタッズと、神聖なルーン文字を刻んだ漆黒の自動小銃を構えた集団――。
『――愚かなる罪人どもに告げる。我ら、人類の祈りを背負い、天の理を執行する者。……「終焉執行・神罰代行騎士団(アポカリプス・ジャッジメント)」が、貴公らの穢れた命を、じわじわと、丁寧に刈り取ってやろう』
リーダーと思わしき、顔の半分を銀の仮面で覆った男が、カメラに向かって「あるもの」を掲げた。
それは、血塗れになり、レンズが粉々に砕けた布津誠一の眼鏡だった。
「……あ……、……布津さん……フッちゃん……」
紬が息を呑み、口元を両手で覆った。
画面は切り替わり、地上の至る所に設置された巨大なスピーカーが映し出される。そこから放たれているのは、布津が命を懸けて設計した「神格中和」の理論を悪用した、『精神感応・共振波』だった。
「……ぐ、ああああっ!!」
雷が不意に頭を抱えてのけぞった。
地下にまで染み込んでくるその波動は、雷の中に眠るタケミカヅチの魂を、無理やり「肥大化」させ、暴走させる。神経をヤスリで削られるような激痛だった。
「――これだ! これなんだよ!! ……布津誠一の知識は、素晴らしい『拷問機(トーチャー)』になった」
地下水道の入り口から、カチ、カチ、と軍靴の音が反響して近づいてくる。
「雷さん! 星哉さん! 誰か来る……一人じゃない、いっぱい来る……っ!」
紬がパニックになり、キーボードを叩くが、布津の理論を組み込んだ騎士団の暗号化壁は、彼女の指先を拒絶し、逆に指先に高圧の電流を跳ね返した。
「あぁぁっ!!」
指先を焼き、紬が泣き崩れる。
闇の奥から現れたのは、重装備の騎士団員たちだった。
彼らが手にしているのは、布津が設計図に記した「神格妨害装置」を銃身に組み込んだ特殊兵器――『神殺しの杭・ロンギヌス』であった。
「さあ、堕天使に悪神ども。……すぐに殺しては面白くない。……君たちが信じた『知性』が、君たちの肉体をどうやってバラバラに分解していくか……。……じっくりと、観察させてもらうよ」
騎士団のリーダーが歪な笑みを浮かべ、引き金を引いた。
放たれたのは弾丸ではない。
雷の神経系に直接干渉し、筋肉を内側から破裂させる「共鳴波」の塊だった。
そこは、逃げ場のない地下室。
布津の遺産に弄ばれながら、三人の「じわじわと続く処刑」が、幕を開けた。
水滴が滴る音だけが響く闇の中で、武御 雷(たけみ らい)は、苛立ちと不安を押し殺すように、壁に拳を押し当てていた。
「……遅すぎる。布津さんの性格なら、トラブルがあっても何らかの連絡を寄越すはずだ」
「雷、落ち着け。……焦りは『明星』を曇らせる」
天城星哉(あまぎ せいや)が静かに制するが、その声にも隠しきれない疲労が混じっている。彼は砕けかけた検眼枠をカチャリと回した。レンズの奥に映る地上の光は、先ほどから奇妙な「安定」を見せていた。
その時だ。
紬(つむぎ)が膝に乗せていたノートPCが、耳障りな電子音を上げた。
「――!? なに……これ……、布津さんのIDから……メッセージ……? ううん、これ、一括送信のブロードキャストだ……っ!」
モニターに映し出されたのは、布津が最期に辿り着いた九頭竜研究室のライブ映像だった。
だが、そこに映っていたのは布津ではない。
純白の法衣(ローブ)を纏い、全身に痛々しいまでのスタッズと、神聖なルーン文字を刻んだ漆黒の自動小銃を構えた集団――。
『――愚かなる罪人どもに告げる。我ら、人類の祈りを背負い、天の理を執行する者。……「終焉執行・神罰代行騎士団(アポカリプス・ジャッジメント)」が、貴公らの穢れた命を、じわじわと、丁寧に刈り取ってやろう』
リーダーと思わしき、顔の半分を銀の仮面で覆った男が、カメラに向かって「あるもの」を掲げた。
それは、血塗れになり、レンズが粉々に砕けた布津誠一の眼鏡だった。
「……あ……、……布津さん……フッちゃん……」
紬が息を呑み、口元を両手で覆った。
画面は切り替わり、地上の至る所に設置された巨大なスピーカーが映し出される。そこから放たれているのは、布津が命を懸けて設計した「神格中和」の理論を悪用した、『精神感応・共振波』だった。
「……ぐ、ああああっ!!」
雷が不意に頭を抱えてのけぞった。
地下にまで染み込んでくるその波動は、雷の中に眠るタケミカヅチの魂を、無理やり「肥大化」させ、暴走させる。神経をヤスリで削られるような激痛だった。
「――これだ! これなんだよ!! ……布津誠一の知識は、素晴らしい『拷問機(トーチャー)』になった」
地下水道の入り口から、カチ、カチ、と軍靴の音が反響して近づいてくる。
「雷さん! 星哉さん! 誰か来る……一人じゃない、いっぱい来る……っ!」
紬がパニックになり、キーボードを叩くが、布津の理論を組み込んだ騎士団の暗号化壁は、彼女の指先を拒絶し、逆に指先に高圧の電流を跳ね返した。
「あぁぁっ!!」
指先を焼き、紬が泣き崩れる。
闇の奥から現れたのは、重装備の騎士団員たちだった。
彼らが手にしているのは、布津が設計図に記した「神格妨害装置」を銃身に組み込んだ特殊兵器――『神殺しの杭・ロンギヌス』であった。
「さあ、堕天使に悪神ども。……すぐに殺しては面白くない。……君たちが信じた『知性』が、君たちの肉体をどうやってバラバラに分解していくか……。……じっくりと、観察させてもらうよ」
騎士団のリーダーが歪な笑みを浮かべ、引き金を引いた。
放たれたのは弾丸ではない。
雷の神経系に直接干渉し、筋肉を内側から破裂させる「共鳴波」の塊だった。
そこは、逃げ場のない地下室。
布津の遺産に弄ばれながら、三人の「じわじわと続く処刑」が、幕を開けた。
0
あなたにおすすめの小説
『お母ちゃん(霊)といっしょ EP0~北海道編 すべてはここから始まった!お母ちゃんの過去を探れ~』
M‐赤井翼
ホラー
「お母ちゃん(霊)といっしょ」シリーズの実質「第1話」です。
読者様の希望により、いつもの「現代小説」カテゴリーでなく、「ホラー・ミステリー」カテゴリーからのエントリーとなりました。
広義の意味で「ホラー」とは「極端に非現実だけど誇張された状況の不条理さに焦点を当てたジャンル」とありますので、お母ちゃんの「かずみ」は浮遊霊キャラクターですので優しく見守ってやってください!
お時間のある方はこの続きの「エピソード1」から「エピソード3」まで公開しますのでそちらも読んでいただけると嬉しいです!
この作品にいただいた「エール」の投稿インセンティブは「こども食堂」運営の応援に使わせていただきますので、よろしかったらご協力ください!
では、お母ちゃん(霊】の「かずみ」と娘の「さとみ」、そしてお父ちゃんの「直」と今回のゲストさん達の応援をよろひこー!
(⋈◍>◡<◍)。✧💖
アジル・イマの晩餐 ―偽神の解剖録―
あめの みかな
ホラー
【メインコンセプト】
外来構文(エイリアン・コード): 人間のDNAに刻まれた、あらかじめ定められた「変異のプログラム」。
アジル・イマの信者: 自らの肉体を捨て、「外骨の民(原初の姿)」へと回帰することを望む変質者たちのネットワーク。
主人公・九条(くじょう): 冷徹な解剖医。死体の中に「人ならざる骨格」の萌芽を見つけ、世界の裏側に足を踏み入れる。
【あと3話!】『お母ちゃん(霊)といっしょ EP1st.~福井・小浜編 悩める「座敷童」の心の壁をぶち壊せ!~』
M‐赤井翼
ホラー
「お母ちゃん(霊)といっしょ」シリーズの実質「第2話」です。
読者様の希望により、いつもの「現代小説」カテゴリーでなく、「ホラー・ミステリー」カテゴリーからのエントリーとなりました。
広義の意味で「ホラー」とは「極端に非現実だけど誇張された状況の不条理さに焦点を当てたジャンル」とありますので、お母ちゃんの「かずみ」は浮遊霊キャラクターですので優しく見守ってやってください!
お時間のある方は「エピソード0」(実質的な「第1話」もアップしますのでお母ちゃんが今、家族と一緒に居る「前振り」の話がありますのでそちらも読んでいただけると嬉しいです!
この作品にいただいた「エール」の投稿インセンティブは「こども食堂」運営の応援に使わせていただきますので、よろしかったらご協力ください!
では、お母ちゃん(霊】の「かずみ」と娘の「さとみ」、そしてお父ちゃんの「直」と今回のゲストの「座敷童」さんの応援をよろひこー!
(⋈◍>◡<◍)。✧💖
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ノストラダムスの大予言とひふみ神示
蔵屋
ミステリー
私が高校三年生の時、ある書籍を読んだことがある。
その書籍とは『ノストラダムスの大予言』である。
1973年に祥伝社から発行された五島勉氏の著書。
「ノストラダムスの大予言
迫りくる1999年7の月人類滅亡の日」
今回、このノストラダムスの大予言について考えて見たい。
そして聖典とも言える『ひふみ神示』について分かりやすく解説していきたい。
この小説が読者の皆様の何かのお役にたてれば幸いです。
令和八年二月吉日
小説家 蔵屋日唱
【悲報】現代ダンジョン時代、俺の職業がLv.1チンピラ【詰み】
道雪ちゃん
ファンタジー
2024年の年末、世界中に突如ダンジョンが出現した。
大学生・三上ひよりも探索者になることを決意するが、与えられた職業は――世界で一人しかいないユニーク職「Lv.1チンピラ」。
周囲からは笑われ、初期スキルもほとんど役に立たない。
それでも、生き残るためにはダンジョンに挑むしかない。
これは、ネット住民と世界におもちゃにされながらも、真面目に生き抜く青年の物語。
※基本的にスレッド形式がメインです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる