その殺人鬼、『星喰いの凶星(ステラ・ディヴォアラー)』につき。

あめの みかな

文字の大きさ
34 / 44
逃亡編

​第十八話『理性という名の墓標』

しおりを挟む
​ 地下の湿った空気は、雷(らい)の絶叫と紬(つむぎ)の狂気の呻きで満たされていた。
 『神殺しの杭・ロンギヌス』から放たれる共鳴波は、雷のタケミカヅチの魂を無理やり活性化させ、その肉体を内側から焼いていた。皮膚は爛れ、血管は破裂寸前。それでも、気絶することすら許されない。意識を失うたび、騎士団はより強い共鳴波を放ち、雷の魂を覚醒させる。

​「――がっ……、ぁああああっ!! やめろぉっ……! 殺せ、殺してくれええええ!!」

 雷の叫びは、もはや「正義のヒーロー」の声ではない。それは、泥にまみれ、尊厳を剥ぎ取られた獣の断末魔だった。
 彼の脳裏には、かつて救った市民たちの笑顔と、彼らが今、自分を殺そうと神の力を振るう姿が、万華鏡のように入り乱れて映し出される。彼が信じた「正義」は、今、彼自身の肉体を蝕む毒と化していた。

​ 一方、紬はヘッドセットから流れる『思考抑制フィールド』によって、精神を破綻寸前に追い込まれていた。
 彼女の脳内には、無数の「死」のデータが、布津が研究していた『神経網の脆弱性』を通じて直接流し込まれる。それは、世界中の自殺者の最期の光景であり、無念の死を遂げた者たちの絶叫。そして何より、布津が孤独な研究室で味わった「裏切りと絶望」の波形が、彼女の脳を直接焼いていた。

​「……いやあぁあぁあ! 見たくない! 星哉さん……布津さんが……布津さんが死んだ時の『感情』が……私の中に流れ込んでくるぅ……っ!」

​ 紬の瞳からは、涙と同時に、微量の血が流れ落ちる。彼女の愛したデジタルな世界は、今や彼女を狂わせるための地獄の祭壇と化していた。

​「さあ、アマツミカボシ……いや、ルシファーよ。……君の仲間は、もうすぐ『ただの肉塊』と『狂った人形』になる。……その光景を、君のその『神の眼』で、じっくりと味わうがいい」

​ 騎士団のリーダーが、天城星哉(あまぎ せいや)の前に、あるものを無造作に放り投げた。
 それは、プラスチック製の透明なケースだった。
 中には、冷たく、凍り付いたような……布津誠一の、左眼球が収められていた。

​「――これは……」

 天城の瞳が見開かれる。
 リーダーは、ケースに収められた眼球を、特殊なデバイスで固定した。

「布津誠一の眼球だ。彼の『理性の視覚野』は、彼の死の瞬間、最も純粋な『絶望』を捉えていた。……我々は、彼のこの眼球を『神意増幅器(ロゴス・アンプ)』として活用させてもらう。……国木田様の真の意図を、より明確に世界に伝えるためにね」

​ その瞬間、天城の検眼枠が、まるで呼応するように激しく震え始めた。
 レンズに封じられた女神たちの魂が、悲鳴を上げるように光を放ち、一つ、また一つと、亀裂が入っていく。

​「やめろ……。布津は……科学を愛した男だ……。彼の眼を……汚すな……!」

 天城の叫びは、もはや無力だった。

「科学を愛した男? 毒薬作りに傾倒した犯罪者の間違いだろ?」

 布津の左眼球は、騎士団のデバイスによって、天城の検眼枠と無理やりシンクロさせられていく。
 天城の視界に、布津が最期に見た九頭竜の裏切りと、己の死が、脳を直接焼くような鮮烈さでフラッシュバックした。

​「――っ、うわああああああああああああああああああああっ!!」

​ ルシファーの明星が、そのあまりの絶望と屈辱によって、黒く、淀んだ闇へと塗り潰されていく。
 検眼枠は音を立てて砕け散り、レンズに封じられていた神々の魂は、無数の黒い蝶となって闇の中に散っていった。

​ 雷の「正義」は、肉体の苦痛によって完全に死に絶えた。
 紬の「理性」は、仲間の死の追体験によって、狂気へと堕ちていく。
 そして、天城の「明星」は、仲間の亡骸を弄ばれる屈辱によって、憎悪の漆黒に染め上げられた。

​ 三人はもはや、かつての輝きを失った、ただの「動く屍」と成り果てていた。
 地下水道には、騎士団の歪んだ歓喜の声だけが、嘲笑のように響き渡っていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

漆黒の闇から

一宮 沙耶
ホラー
邪悪な霊が引き起こす事件の数々 若い頃から霊が見え、精神を病んでいた私が事件を解決していく ただ、自分も黄泉の世界に巻き込まれてしまう

『お母ちゃん(霊)といっしょ EP0~北海道編 すべてはここから始まった!お母ちゃんの過去を探れ~』

M‐赤井翼
ホラー
「お母ちゃん(霊)といっしょ」シリーズの実質「第1話」です。 読者様の希望により、いつもの「現代小説」カテゴリーでなく、「ホラー・ミステリー」カテゴリーからのエントリーとなりました。 広義の意味で「ホラー」とは「極端に非現実だけど誇張された状況の不条理さに焦点を当てたジャンル」とありますので、お母ちゃんの「かずみ」は浮遊霊キャラクターですので優しく見守ってやってください! お時間のある方はこの続きの「エピソード1」から「エピソード3」まで公開しますのでそちらも読んでいただけると嬉しいです! この作品にいただいた「エール」の投稿インセンティブは「こども食堂」運営の応援に使わせていただきますので、よろしかったらご協力ください! では、お母ちゃん(霊】の「かずみ」と娘の「さとみ」、そしてお父ちゃんの「直」と今回のゲストさん達の応援をよろひこー! (⋈◍>◡<◍)。✧💖

アジル・イマの晩餐 ―偽神の解剖録―

あめの みかな
ホラー
​​【メインコンセプト】 ​外来構文(エイリアン・コード): 人間のDNAに刻まれた、あらかじめ定められた「変異のプログラム」。 ​アジル・イマの信者: 自らの肉体を捨て、「外骨の民(原初の姿)」へと回帰することを望む変質者たちのネットワーク。 ​主人公・九条(くじょう): 冷徹な解剖医。死体の中に「人ならざる骨格」の萌芽を見つけ、世界の裏側に足を踏み入れる。

【あと3話!】『お母ちゃん(霊)といっしょ EP1st.~福井・小浜編 悩める「座敷童」の心の壁をぶち壊せ!~』

M‐赤井翼
ホラー
「お母ちゃん(霊)といっしょ」シリーズの実質「第2話」です。 読者様の希望により、いつもの「現代小説」カテゴリーでなく、「ホラー・ミステリー」カテゴリーからのエントリーとなりました。 広義の意味で「ホラー」とは「極端に非現実だけど誇張された状況の不条理さに焦点を当てたジャンル」とありますので、お母ちゃんの「かずみ」は浮遊霊キャラクターですので優しく見守ってやってください! お時間のある方は「エピソード0」(実質的な「第1話」もアップしますのでお母ちゃんが今、家族と一緒に居る「前振り」の話がありますのでそちらも読んでいただけると嬉しいです! この作品にいただいた「エール」の投稿インセンティブは「こども食堂」運営の応援に使わせていただきますので、よろしかったらご協力ください! では、お母ちゃん(霊】の「かずみ」と娘の「さとみ」、そしてお父ちゃんの「直」と今回のゲストの「座敷童」さんの応援をよろひこー! (⋈◍>◡<◍)。✧💖

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

ノストラダムスの大予言とひふみ神示

蔵屋
ミステリー
 私が高校三年生の時、ある書籍を読んだことがある。  その書籍とは『ノストラダムスの大予言』である。  1973年に祥伝社から発行された五島勉氏の著書。  「ノストラダムスの大予言 迫りくる1999年7の月人類滅亡の日」  今回、このノストラダムスの大予言について考えて見たい。  そして聖典とも言える『ひふみ神示』について分かりやすく解説していきたい。  この小説が読者の皆様の何かのお役にたてれば幸いです。  令和八年二月吉日  小説家 蔵屋日唱

処理中です...