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逃亡編
第十八話『理性という名の墓標』
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地下の湿った空気は、雷(らい)の絶叫と紬(つむぎ)の狂気の呻きで満たされていた。
『神殺しの杭・ロンギヌス』から放たれる共鳴波は、雷のタケミカヅチの魂を無理やり活性化させ、その肉体を内側から焼いていた。皮膚は爛れ、血管は破裂寸前。それでも、気絶することすら許されない。意識を失うたび、騎士団はより強い共鳴波を放ち、雷の魂を覚醒させる。
「――がっ……、ぁああああっ!! やめろぉっ……! 殺せ、殺してくれええええ!!」
雷の叫びは、もはや「正義のヒーロー」の声ではない。それは、泥にまみれ、尊厳を剥ぎ取られた獣の断末魔だった。
彼の脳裏には、かつて救った市民たちの笑顔と、彼らが今、自分を殺そうと神の力を振るう姿が、万華鏡のように入り乱れて映し出される。彼が信じた「正義」は、今、彼自身の肉体を蝕む毒と化していた。
一方、紬はヘッドセットから流れる『思考抑制フィールド』によって、精神を破綻寸前に追い込まれていた。
彼女の脳内には、無数の「死」のデータが、布津が研究していた『神経網の脆弱性』を通じて直接流し込まれる。それは、世界中の自殺者の最期の光景であり、無念の死を遂げた者たちの絶叫。そして何より、布津が孤独な研究室で味わった「裏切りと絶望」の波形が、彼女の脳を直接焼いていた。
「……いやあぁあぁあ! 見たくない! 星哉さん……布津さんが……布津さんが死んだ時の『感情』が……私の中に流れ込んでくるぅ……っ!」
紬の瞳からは、涙と同時に、微量の血が流れ落ちる。彼女の愛したデジタルな世界は、今や彼女を狂わせるための地獄の祭壇と化していた。
「さあ、アマツミカボシ……いや、ルシファーよ。……君の仲間は、もうすぐ『ただの肉塊』と『狂った人形』になる。……その光景を、君のその『神の眼』で、じっくりと味わうがいい」
騎士団のリーダーが、天城星哉(あまぎ せいや)の前に、あるものを無造作に放り投げた。
それは、プラスチック製の透明なケースだった。
中には、冷たく、凍り付いたような……布津誠一の、左眼球が収められていた。
「――これは……」
天城の瞳が見開かれる。
リーダーは、ケースに収められた眼球を、特殊なデバイスで固定した。
「布津誠一の眼球だ。彼の『理性の視覚野』は、彼の死の瞬間、最も純粋な『絶望』を捉えていた。……我々は、彼のこの眼球を『神意増幅器(ロゴス・アンプ)』として活用させてもらう。……国木田様の真の意図を、より明確に世界に伝えるためにね」
その瞬間、天城の検眼枠が、まるで呼応するように激しく震え始めた。
レンズに封じられた女神たちの魂が、悲鳴を上げるように光を放ち、一つ、また一つと、亀裂が入っていく。
「やめろ……。布津は……科学を愛した男だ……。彼の眼を……汚すな……!」
天城の叫びは、もはや無力だった。
「科学を愛した男? 毒薬作りに傾倒した犯罪者の間違いだろ?」
布津の左眼球は、騎士団のデバイスによって、天城の検眼枠と無理やりシンクロさせられていく。
天城の視界に、布津が最期に見た九頭竜の裏切りと、己の死が、脳を直接焼くような鮮烈さでフラッシュバックした。
「――っ、うわああああああああああああああああああああっ!!」
ルシファーの明星が、そのあまりの絶望と屈辱によって、黒く、淀んだ闇へと塗り潰されていく。
検眼枠は音を立てて砕け散り、レンズに封じられていた神々の魂は、無数の黒い蝶となって闇の中に散っていった。
雷の「正義」は、肉体の苦痛によって完全に死に絶えた。
紬の「理性」は、仲間の死の追体験によって、狂気へと堕ちていく。
そして、天城の「明星」は、仲間の亡骸を弄ばれる屈辱によって、憎悪の漆黒に染め上げられた。
三人はもはや、かつての輝きを失った、ただの「動く屍」と成り果てていた。
地下水道には、騎士団の歪んだ歓喜の声だけが、嘲笑のように響き渡っていた。
『神殺しの杭・ロンギヌス』から放たれる共鳴波は、雷のタケミカヅチの魂を無理やり活性化させ、その肉体を内側から焼いていた。皮膚は爛れ、血管は破裂寸前。それでも、気絶することすら許されない。意識を失うたび、騎士団はより強い共鳴波を放ち、雷の魂を覚醒させる。
「――がっ……、ぁああああっ!! やめろぉっ……! 殺せ、殺してくれええええ!!」
雷の叫びは、もはや「正義のヒーロー」の声ではない。それは、泥にまみれ、尊厳を剥ぎ取られた獣の断末魔だった。
彼の脳裏には、かつて救った市民たちの笑顔と、彼らが今、自分を殺そうと神の力を振るう姿が、万華鏡のように入り乱れて映し出される。彼が信じた「正義」は、今、彼自身の肉体を蝕む毒と化していた。
一方、紬はヘッドセットから流れる『思考抑制フィールド』によって、精神を破綻寸前に追い込まれていた。
彼女の脳内には、無数の「死」のデータが、布津が研究していた『神経網の脆弱性』を通じて直接流し込まれる。それは、世界中の自殺者の最期の光景であり、無念の死を遂げた者たちの絶叫。そして何より、布津が孤独な研究室で味わった「裏切りと絶望」の波形が、彼女の脳を直接焼いていた。
「……いやあぁあぁあ! 見たくない! 星哉さん……布津さんが……布津さんが死んだ時の『感情』が……私の中に流れ込んでくるぅ……っ!」
紬の瞳からは、涙と同時に、微量の血が流れ落ちる。彼女の愛したデジタルな世界は、今や彼女を狂わせるための地獄の祭壇と化していた。
「さあ、アマツミカボシ……いや、ルシファーよ。……君の仲間は、もうすぐ『ただの肉塊』と『狂った人形』になる。……その光景を、君のその『神の眼』で、じっくりと味わうがいい」
騎士団のリーダーが、天城星哉(あまぎ せいや)の前に、あるものを無造作に放り投げた。
それは、プラスチック製の透明なケースだった。
中には、冷たく、凍り付いたような……布津誠一の、左眼球が収められていた。
「――これは……」
天城の瞳が見開かれる。
リーダーは、ケースに収められた眼球を、特殊なデバイスで固定した。
「布津誠一の眼球だ。彼の『理性の視覚野』は、彼の死の瞬間、最も純粋な『絶望』を捉えていた。……我々は、彼のこの眼球を『神意増幅器(ロゴス・アンプ)』として活用させてもらう。……国木田様の真の意図を、より明確に世界に伝えるためにね」
その瞬間、天城の検眼枠が、まるで呼応するように激しく震え始めた。
レンズに封じられた女神たちの魂が、悲鳴を上げるように光を放ち、一つ、また一つと、亀裂が入っていく。
「やめろ……。布津は……科学を愛した男だ……。彼の眼を……汚すな……!」
天城の叫びは、もはや無力だった。
「科学を愛した男? 毒薬作りに傾倒した犯罪者の間違いだろ?」
布津の左眼球は、騎士団のデバイスによって、天城の検眼枠と無理やりシンクロさせられていく。
天城の視界に、布津が最期に見た九頭竜の裏切りと、己の死が、脳を直接焼くような鮮烈さでフラッシュバックした。
「――っ、うわああああああああああああああああああああっ!!」
ルシファーの明星が、そのあまりの絶望と屈辱によって、黒く、淀んだ闇へと塗り潰されていく。
検眼枠は音を立てて砕け散り、レンズに封じられていた神々の魂は、無数の黒い蝶となって闇の中に散っていった。
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紬の「理性」は、仲間の死の追体験によって、狂気へと堕ちていく。
そして、天城の「明星」は、仲間の亡骸を弄ばれる屈辱によって、憎悪の漆黒に染め上げられた。
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