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逃亡編
第十九話『剥奪される聖域 / 首と杭の円舞曲(ワルツ)』
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地下水道の湿った闇。そこはもはや、逃亡者の隠れ家ではなく、一方的な「蹂躙」が行われる密室へと変貌していた。
武御 雷(たけみ らい)は、強制的な神性共鳴によって神経系をズタズタにされ、床に這いつくばったまま、ただ喉から「ヒュー、ヒュー」という絶望の呼気を漏らしていた。かつて悪人を法の名の下に裁き、暴力を持って制圧したその腕は、今は一本の指を動かすことさえ叶わない。
天城 星哉(あまぎ せいや)もまた、砕け散った検眼枠の破片を顔に刺したまま、壁に寄りかかり、虚ろな眼でその光景を見ていた。布津の眼球を「増幅器」にされ、脳を直接灼かれた彼は、もはや叫ぶ力さえ残っていない。
そして、騎士団の男たちの視線は、最も無防備で、最も「人間的」な部分を残していた織葉 紬(おりは つむぎ)へと向けられた。
「――女神様の糸は、もう切れたかな?」
リーダーの合図と共に、数人の団員たちが、ヘッドセットで脳を焼かれ、失禁し、虚脱状態にある紬の元へ歩み寄った。彼女がかつて、情報という武器で他人を追い詰め、社会的に葬り去ったその華奢な身体が、今は物理的な「肉」として、飢えた獣たちに晒されている。
「やめ……ろ……っ」
天城が掠れた声で呟くが、団員の一人がその顔を軍靴で踏みにじり、黙らせる。
「これは『浄化』の儀式だ。悪魔に染まった器を、我々の聖なる火で焼き直してやるのさ」
男たちの荒々しい手が、紬の泥に汚れた衣服を容赦なく引き裂いていく。
ビリッ、という乾いた音が地下室に響くたび、彼女の白い肌が、不潔な闇の中に剥き出しにされていく。彼女の叫び声は、すでに喉が潰れているのか、かすれた嗚咽にしかならない。
一人が彼女の細い手首を床に押しつけ、もう一人がその脚を強引に割り、組み付く。
代わる代わる、神の名を騙る男たちが、意識の混濁した彼女の身体を蹂躙していく。それは性愛などではなく、ただの「解体」であり、彼女という尊厳を徹底的に破壊するための暴力だった。
「……あ……、あぅ……」
紬の瞳からは、涙さえも枯れ果てていた。
かつて自分が「正義」の名の下に加害者となったとき、被害者たちもこんな風に、逃げ場のない絶望の中で自分の魂が壊れる音を聞いていたのだろうか。
一億三千万の「神」という名の加害者。
そして、その神意という大義名分の下で、獣のような欲望を正当化する騎士団。
今、この地下水道で行われているのは、聖戦などではない。ただの醜悪な、人間の業(ごう)のぶつかり合いだった。
雷の目の前で、紬の身体が無惨に揺さぶられ、弄ばれる。
彼女の魂が、一欠片ずつ剥がれ落ち、死んだ魚のような瞳で天井の闇を見つめるようになるまで、男たちの狂宴は続いた。
かつて正義を語った四人は、今や、一人は孤独な死体となり、三人は尊厳を完全に剥奪された「モノ」へと成り果てていた。
騎士団員の一人――金髪で彫りの深い貌を持つ男が、蹂躙され、生ける屍と化した織葉 紬(おりは つむぎ)の前に立った。男の背後には、かつて「アメン」という名の神でありながら、後に悪魔学で「アモン」と呼ばれた、猛禽の頭を持つ巨大な魔神の幻影が揺らめいている。
「――ずっと、一度やってみたかったことがあるんだ。神話や物語の中でしか許されない、究極の『美』の形というやつをね」
男は恍惚とした表情で、自らの背負う『神殺しの杭・ロンギヌス』を床に突き立てた。そして、腰のホルダーから、聖水で清められたという白銀の軍刀を引き抜いた。
「紬……逃げ……て……」
雷(らい)が、血を吐きながら床を這い、彼女の手を掴もうとする。だが、騎士団員は無慈悲に雷の手を踏みつけ、その指の骨を粉砕した。
「黙って見ているんだな、武御雷。……神の器を破壊し、魂を永遠に『観測』の対象とする。これこそが、我ら騎士団が貴公らに下す、最高の聖餐だ」
男は、虚ろな眼で天井を見つめる紬の細い首を、優しく、慈しむように左手で掴み上げた。
「……あ……、あ……」
紬の喉から漏れる、か細い音。
次の瞬間、銀光が走った。
迷いのない一閃。
ブシュッ、という噴水のような音が地下水道の静寂を切り裂き、紬の華奢な頭部が、身体から切り離された。
「ああ……なんて、なんて美しいんだ……!」
男は、鮮血に濡れた彼女の頭部を、髪を掴んで高く掲げた。
そして、床に突き立てられた『神殺しの杭・ロンギヌス』の鋭利な先端に、彼女の断面を……容赦なく突き刺した。
ズブッ、という鈍い音が響き、紬の頭部が杭の頂上に鎮座する。
彼女の瞳は、死の瞬間、かつてないほどの恐怖で見開かれ、その表情のまま凍りついていた。
杭に滴る彼女の血が、ロンギヌスの神聖な刻印を汚し、黒く染めていく。
「……ああ……ああああああああっ!!」
雷の絶叫が、地下水道の壁を震わせた。
最愛の、守りたかった少女の首が、中二病じみた騎士団の掲げる「杭」の飾り物にされる。それは、あらゆる神話の中で最も凄惨で、最も救いのない「敗北」の光景だった。
天城(せいや)は、その光景を、黒く染まった瞳でじっと見つめていた。
ルシファーの闇さえも超えた、底なしの「無」が、彼の魂を蝕んでいく。
「……これで、完成だ。……明星は堕ち、雷神は折れ、……知恵の女神は、我らの旗印となった」
杭に刺された紬の首が、地下水道の僅かな空気の流れに揺れる。
それは、正義も悪も、神も悪魔も、すべてが等しく「狂気」に飲み込まれた世界の、墓標だった。
武御 雷(たけみ らい)は、強制的な神性共鳴によって神経系をズタズタにされ、床に這いつくばったまま、ただ喉から「ヒュー、ヒュー」という絶望の呼気を漏らしていた。かつて悪人を法の名の下に裁き、暴力を持って制圧したその腕は、今は一本の指を動かすことさえ叶わない。
天城 星哉(あまぎ せいや)もまた、砕け散った検眼枠の破片を顔に刺したまま、壁に寄りかかり、虚ろな眼でその光景を見ていた。布津の眼球を「増幅器」にされ、脳を直接灼かれた彼は、もはや叫ぶ力さえ残っていない。
そして、騎士団の男たちの視線は、最も無防備で、最も「人間的」な部分を残していた織葉 紬(おりは つむぎ)へと向けられた。
「――女神様の糸は、もう切れたかな?」
リーダーの合図と共に、数人の団員たちが、ヘッドセットで脳を焼かれ、失禁し、虚脱状態にある紬の元へ歩み寄った。彼女がかつて、情報という武器で他人を追い詰め、社会的に葬り去ったその華奢な身体が、今は物理的な「肉」として、飢えた獣たちに晒されている。
「やめ……ろ……っ」
天城が掠れた声で呟くが、団員の一人がその顔を軍靴で踏みにじり、黙らせる。
「これは『浄化』の儀式だ。悪魔に染まった器を、我々の聖なる火で焼き直してやるのさ」
男たちの荒々しい手が、紬の泥に汚れた衣服を容赦なく引き裂いていく。
ビリッ、という乾いた音が地下室に響くたび、彼女の白い肌が、不潔な闇の中に剥き出しにされていく。彼女の叫び声は、すでに喉が潰れているのか、かすれた嗚咽にしかならない。
一人が彼女の細い手首を床に押しつけ、もう一人がその脚を強引に割り、組み付く。
代わる代わる、神の名を騙る男たちが、意識の混濁した彼女の身体を蹂躙していく。それは性愛などではなく、ただの「解体」であり、彼女という尊厳を徹底的に破壊するための暴力だった。
「……あ……、あぅ……」
紬の瞳からは、涙さえも枯れ果てていた。
かつて自分が「正義」の名の下に加害者となったとき、被害者たちもこんな風に、逃げ場のない絶望の中で自分の魂が壊れる音を聞いていたのだろうか。
一億三千万の「神」という名の加害者。
そして、その神意という大義名分の下で、獣のような欲望を正当化する騎士団。
今、この地下水道で行われているのは、聖戦などではない。ただの醜悪な、人間の業(ごう)のぶつかり合いだった。
雷の目の前で、紬の身体が無惨に揺さぶられ、弄ばれる。
彼女の魂が、一欠片ずつ剥がれ落ち、死んだ魚のような瞳で天井の闇を見つめるようになるまで、男たちの狂宴は続いた。
かつて正義を語った四人は、今や、一人は孤独な死体となり、三人は尊厳を完全に剥奪された「モノ」へと成り果てていた。
騎士団員の一人――金髪で彫りの深い貌を持つ男が、蹂躙され、生ける屍と化した織葉 紬(おりは つむぎ)の前に立った。男の背後には、かつて「アメン」という名の神でありながら、後に悪魔学で「アモン」と呼ばれた、猛禽の頭を持つ巨大な魔神の幻影が揺らめいている。
「――ずっと、一度やってみたかったことがあるんだ。神話や物語の中でしか許されない、究極の『美』の形というやつをね」
男は恍惚とした表情で、自らの背負う『神殺しの杭・ロンギヌス』を床に突き立てた。そして、腰のホルダーから、聖水で清められたという白銀の軍刀を引き抜いた。
「紬……逃げ……て……」
雷(らい)が、血を吐きながら床を這い、彼女の手を掴もうとする。だが、騎士団員は無慈悲に雷の手を踏みつけ、その指の骨を粉砕した。
「黙って見ているんだな、武御雷。……神の器を破壊し、魂を永遠に『観測』の対象とする。これこそが、我ら騎士団が貴公らに下す、最高の聖餐だ」
男は、虚ろな眼で天井を見つめる紬の細い首を、優しく、慈しむように左手で掴み上げた。
「……あ……、あ……」
紬の喉から漏れる、か細い音。
次の瞬間、銀光が走った。
迷いのない一閃。
ブシュッ、という噴水のような音が地下水道の静寂を切り裂き、紬の華奢な頭部が、身体から切り離された。
「ああ……なんて、なんて美しいんだ……!」
男は、鮮血に濡れた彼女の頭部を、髪を掴んで高く掲げた。
そして、床に突き立てられた『神殺しの杭・ロンギヌス』の鋭利な先端に、彼女の断面を……容赦なく突き刺した。
ズブッ、という鈍い音が響き、紬の頭部が杭の頂上に鎮座する。
彼女の瞳は、死の瞬間、かつてないほどの恐怖で見開かれ、その表情のまま凍りついていた。
杭に滴る彼女の血が、ロンギヌスの神聖な刻印を汚し、黒く染めていく。
「……ああ……ああああああああっ!!」
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