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逃亡編
第二十話『虚無という名の再誕』
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地下水道の薄暗い空間に、狂信者たちの凱歌が響き渡る。
アモンの力を宿した騎士団員は、杭(ロンギヌス)に突き刺した紬の頭部を、勝利のトロフィーのように高く掲げ、凱旋の途につこうとしていた。
「――全人類の敵、その『眼』をここに討ち取ったり! さあ、次は残ったこの惨めな獣たちの番だ」
騎士団員たちが、動かなくなった雷(らい)と天城(せいや)に銃口を向ける。
だが、その時。
地下水道を流れる泥水の音が、不自然に止まった。
……カチャ……。
それは、天城の検眼枠が回る音ではなかった。
天城の「眼球そのもの」が、肉の軋む音を立てて回転する音だった。
壁に寄りかかっていた天城の肉体が、異常な角度で立ち上がる。砕け散った検眼枠の破片が、皮膚の内側へと吸い込まれ、彼の顔面には、もはや人間のものではない「漆黒の孔(あな)」が七つ、北斗七星の形に浮かび上がった。
「……光を……、……失ったのではない……」
天城の口から漏れたのは、ルシファーの優雅さも、アマツミカボシの威圧感も消え失せた、底知れぬ無機質な「声」だった。
「……私は、最初から『無』だったのだ。……光を吸い込み、色を消し、……ただ静寂だけを……観測する……」
天城の全身から、光を反射しない「真の闇」が溢れ出し、周囲のコンクリートを、そして騎士団員の法衣を、音もなく腐食させていく。それはアマツミカボシが本来持っていた「混沌(カオス)」の真の姿――世界を無へと還す性質の覚醒だった。
一方、紬の頭部を、その最期の表情を見つめ続けていた雷の内で、何かが決定的に「破断」した。
彼の中に眠るタケミカヅチ。かつて神話で国を譲らぬ神々を力で屈服させた「武神」。
だが今、その怒りは熱を失い、絶対零度の「虚無」へと反転した。
「……ああ……、……そうか……。……正義なんて、……どこにも……なかったんだね……」
雷がゆっくりと立ち上がる。
彼の身体から放たれていた青白い稲妻は、今や、音も光も放たない「黒い断層」へと姿を変えていた。
彼が歩くたび、足元の地面は焼けるのではなく、存在そのものが消滅し、穴が開いていく。
「――な、なんだ!? 出力を上げろ! 聖なる共鳴波で焼き殺せ!」
リーダーが叫び、騎士団員が一斉に『神殺しの杭』を放った。
だが、放たれた共鳴波は、雷の身体に触れた瞬間に「無」へと吸い込まれ、霧散した。
雷は、感情の消えた瞳で騎士団員を見つめる。
「……君たちの神も、……僕の正義も……、……すべて、……消えてしまえばいい……」
雷が右手を軽く振る。
瞬間、紬の首を掲げていた男の右腕が、肩から先、存在しなかったかのように消滅した。
男は悲鳴を上げることすらできなかった。痛覚を感じる神経そのものが、時空の断層によって削り取られたからだ。
杭が床に落ち、紬の頭部が転がる。
それを、天城の背後に広がる「黒い翼」が優しく受け止めた。
「……さあ、……始めよう。……この、醜悪な神話の……『削除(デリート)』を……」
二人の堕天した神が、絶望の果てにたどり着いた「虚無の神」として覚醒する。
それはもはや逆襲ですらなかった。
世界そのものを、なかったことにするための、静かなる「崩壊」の始まりだった。
アモンの力を宿した騎士団員は、杭(ロンギヌス)に突き刺した紬の頭部を、勝利のトロフィーのように高く掲げ、凱旋の途につこうとしていた。
「――全人類の敵、その『眼』をここに討ち取ったり! さあ、次は残ったこの惨めな獣たちの番だ」
騎士団員たちが、動かなくなった雷(らい)と天城(せいや)に銃口を向ける。
だが、その時。
地下水道を流れる泥水の音が、不自然に止まった。
……カチャ……。
それは、天城の検眼枠が回る音ではなかった。
天城の「眼球そのもの」が、肉の軋む音を立てて回転する音だった。
壁に寄りかかっていた天城の肉体が、異常な角度で立ち上がる。砕け散った検眼枠の破片が、皮膚の内側へと吸い込まれ、彼の顔面には、もはや人間のものではない「漆黒の孔(あな)」が七つ、北斗七星の形に浮かび上がった。
「……光を……、……失ったのではない……」
天城の口から漏れたのは、ルシファーの優雅さも、アマツミカボシの威圧感も消え失せた、底知れぬ無機質な「声」だった。
「……私は、最初から『無』だったのだ。……光を吸い込み、色を消し、……ただ静寂だけを……観測する……」
天城の全身から、光を反射しない「真の闇」が溢れ出し、周囲のコンクリートを、そして騎士団員の法衣を、音もなく腐食させていく。それはアマツミカボシが本来持っていた「混沌(カオス)」の真の姿――世界を無へと還す性質の覚醒だった。
一方、紬の頭部を、その最期の表情を見つめ続けていた雷の内で、何かが決定的に「破断」した。
彼の中に眠るタケミカヅチ。かつて神話で国を譲らぬ神々を力で屈服させた「武神」。
だが今、その怒りは熱を失い、絶対零度の「虚無」へと反転した。
「……ああ……、……そうか……。……正義なんて、……どこにも……なかったんだね……」
雷がゆっくりと立ち上がる。
彼の身体から放たれていた青白い稲妻は、今や、音も光も放たない「黒い断層」へと姿を変えていた。
彼が歩くたび、足元の地面は焼けるのではなく、存在そのものが消滅し、穴が開いていく。
「――な、なんだ!? 出力を上げろ! 聖なる共鳴波で焼き殺せ!」
リーダーが叫び、騎士団員が一斉に『神殺しの杭』を放った。
だが、放たれた共鳴波は、雷の身体に触れた瞬間に「無」へと吸い込まれ、霧散した。
雷は、感情の消えた瞳で騎士団員を見つめる。
「……君たちの神も、……僕の正義も……、……すべて、……消えてしまえばいい……」
雷が右手を軽く振る。
瞬間、紬の首を掲げていた男の右腕が、肩から先、存在しなかったかのように消滅した。
男は悲鳴を上げることすらできなかった。痛覚を感じる神経そのものが、時空の断層によって削り取られたからだ。
杭が床に落ち、紬の頭部が転がる。
それを、天城の背後に広がる「黒い翼」が優しく受け止めた。
「……さあ、……始めよう。……この、醜悪な神話の……『削除(デリート)』を……」
二人の堕天した神が、絶望の果てにたどり着いた「虚無の神」として覚醒する。
それはもはや逆襲ですらなかった。
世界そのものを、なかったことにするための、静かなる「崩壊」の始まりだった。
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