その殺人鬼、『星喰いの凶星(ステラ・ディヴォアラー)』につき。

あめの みかな

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逃亡編

​第二十一話『静寂なる神殺し』

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​ 地下水道に、かつて響いていた「絶叫」はもう聞こえない。
 聞こえるのは、ただ何かが砂のように崩れ落ちる乾いた音だけだった。

​「――なんだ、これは……!? 私の腕が、……私の、アモンの力が……消えて……っ!」

​ 騎士団のリーダーが、信じられないものを見る目で自分の身体を見つめた。
 雷(らい)が放つ「虚無」の波動に触れた瞬間、彼らの肉体、武器、そして宿していた神話の魂までもが、存在の定義を失い、無機質な粒子となって闇に溶けていく。

​「……正義の次には、……何もいらない」

​ 雷が静かに手をかざす。それだけで、数秒前まで紬を蹂躙していた男たちは、断末魔を上げる暇もなく、空間ごと「削除」された。
 天城は、黒く染まった瞳で、足元に転がった紬の頭部を拾い上げた。かつて美しい機織りの女神を宿していたその頭部は、今はただの、冷たい「物」でしかない。

​「……行こう、雷。……この地上を、……この世界を、……真っ白な『空白』に戻すために」

​ 二人の堕天した神が、マンホールを押し上げ、再び地上へと這い上がった。
 夜の街は、相変わらず一億三千万の「神々の光」に満ちていた。だが、二人が歩みを進めるたび、その光は吸い込まれるように消え、街は静かな闇に包まれていく。
 駆けつけた神格化市民たちが、それぞれの神話の武具を振るう。だが、二人の周囲数メートルに踏み込んだ瞬間、彼らは叫ぶこともなく、ただの塵となって風に舞った。

​ それは虐殺ですらなかった。
 ただ、不適切なデータが消去されていくような、静謐で、冷徹な「掃除」だった。


​ ――同じ頃、警察庁の最深部。
 国木田は、複数のモニターに映し出される「空白の領域」の拡大を、愉悦に満ちた表情で眺めていた。彼の傍らでは、ハッカーたちが紬の遺した端末の「最深部」を解体し終えていた。

​「……報告します。布津誠一が遺した隠しファイル……『虚無の共振(ゼロ・レゾナンス)』。……解読完了しました」

​ 国木田がそのデータを手に取り、低く笑った。その傍らには九頭龍教授の姿もあった。

「……素晴らしいよ、布津。君は、天城たちが絶望の果てに『虚無』へ至ることさえ予測していたのか。……そして、その虚無のエネルギーを、この『検眼枠』の設計思想に組み込んでいた……」

​ 布津の遺したデータ。それは当初、三人を救うための中和装置だと思われていた。だが、その深層に隠されていたのは、「虚無となった天城と雷の魂を触媒にし、全人類の神格を一気に吸い上げ、一柱の『究極神』を顕現させる」という、あまりにも冷徹な科学的ロジックだった。

​ 布津は、もし自分たちが敗北し、世界が狂った時のための「強制リセットボタン」としてこれを遺したのかもしれない。だが、その知識は今、最大の敵である国木田の手中にあった。

​「……皮肉なものだ。天城。君たちが世界を消そうとすればするほど、私の『完成』は近づく。……君たちが流す絶望の涙が、私の神座を固めるための水銀(メルクリウス)になるのだよ」

​ 地上では、雷と天城が、自分たちの「復讐」が国木田の計画を加速させていることも知らず、静かなる虐殺を続けていた。
 空には、布津の理論をコピーした巨大なアンテナがそびえ立ち、二人が振りまく「虚無」の波動を、着々と吸収し始めていた。


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