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新章:円環の凶星
第3話:『雄弁なる沈黙(前編)』
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北斗七星の二番星「巨門」。その宿命を持つ次なる獲物は、法廷の若き旗手、葛城 玲奈(かつらぎ れいな)だった。
彼女は、いかなる不利な証拠も言葉の魔術で塗り替え、依頼人を無罪へと導く「勝利の女神」として、法曹界でその名を轟かせていた。
だが、その裏側にあるのは、徹底した人間不信と、相手の言葉の「綻び」を見つけ出し、そこから魂を切り裂くような冷酷な観察眼。彼女の持つ「巨門」の星は、真実を隠蔽し、自らの言葉を神殿とする、傲慢な輝きを放っていた。
「……葛城弁護士。あなたの弁論は、実に見事だ。まるで、この世界そのものを『言葉』という名の檻に閉じ込めているようだね」
閉廷後の人気のない弁護士控え室。天城星哉(あまぎ せいや)は、壁に寄りかかり、眼鏡の奥の瞳を細めて彼女を見つめていた。
彼は以前、玲奈が担当した事件の鑑定医として顔を合わせていた。玲奈は、この端正な顔立ちの医師が、自分と同じ「側の人間」――冷徹な観察者であることを直感し、密かに興味を抱いていた。
「天城先生。……檻、ですか。私はただ、法というゲームのルールに従って、最適な『物語』を構築しているだけですよ」
玲奈は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、書類を鞄に詰め込む。
「だが、その物語には『光』が足りない。……君の瞳の奥、言葉を紡ぐたびに震えるその神経(ルート)……。そこには、君自身も気づいていない、もっと純粋な輝きが眠っているはずだ」
天城はゆっくりと歩み寄る。その足音は一切響かない。
玲奈は、彼が放つ異様な圧迫感に気づき、本能的に一歩下がった。だが、天城の手はすでに、彼女の繊細な顎を、強引に、かつ優雅に掬い上げていた。
「……何をするの、先生。離して」
「検診だよ、玲奈。君の『言葉の源泉』を、少しだけ覗かせてもらう」
天城の手には、すでにあの鈍く光る検眼枠(テストフレーム)が握られていた。
玲奈が抗議の声を上げようと口を開いた瞬間、天城は無理やりそのフレームを彼女の顔に押し当てた。
「――っ! あ、あ……っ」
カチャ。
一つ目のレンズがセットされる。
玲奈の視界が、不自然なほど鮮明に、そして残酷に拡大された。
「巨門の星は、語ることで世界を定義する。ならば、君から『言葉』を奪えば……その魂は、どれほど無惨に剥き出しになるだろうか」
天城が二つ目のレンズを回すと、玲奈の耳からすべての音が消え、代わりに彼女自身の「内なる思考」が、暴力的なまでのノイズとなって脳を焼き始めた。
彼女が今まで他人を追い詰めるために使ってきた鋭利な言葉の数々が、今度は自分自身の神経を切り刻むナイフとなって跳ね返ってくる。
「……あ、……あぁ……」
言葉の天才であった彼女の口から、無意味な吐息だけが漏れる。
天城は、彼女の戦慄する瞳の中に、黄金色に輝く「巨大な門」の幻影を見た。
それが、彼女の宿す二番目の星――巨門の本体。
「さあ、玲奈。……君のその美しい饒舌さを、私の虚無へと献上して。……言葉を捨てて、本当の『静寂』を教えてあげる」
控え室の明かりが、不気味に明滅する。
玲奈の喉元に、天城の細い指が、ピアノを奏でるような軽やかさで添えられた。
法廷の勝利者が、絶望の「無言劇」へと引きずり込まれていく。
星を喰らう殺人鬼による、二度目の晩餐が、今まさに「口を割ろう」としていた。
彼女は、いかなる不利な証拠も言葉の魔術で塗り替え、依頼人を無罪へと導く「勝利の女神」として、法曹界でその名を轟かせていた。
だが、その裏側にあるのは、徹底した人間不信と、相手の言葉の「綻び」を見つけ出し、そこから魂を切り裂くような冷酷な観察眼。彼女の持つ「巨門」の星は、真実を隠蔽し、自らの言葉を神殿とする、傲慢な輝きを放っていた。
「……葛城弁護士。あなたの弁論は、実に見事だ。まるで、この世界そのものを『言葉』という名の檻に閉じ込めているようだね」
閉廷後の人気のない弁護士控え室。天城星哉(あまぎ せいや)は、壁に寄りかかり、眼鏡の奥の瞳を細めて彼女を見つめていた。
彼は以前、玲奈が担当した事件の鑑定医として顔を合わせていた。玲奈は、この端正な顔立ちの医師が、自分と同じ「側の人間」――冷徹な観察者であることを直感し、密かに興味を抱いていた。
「天城先生。……檻、ですか。私はただ、法というゲームのルールに従って、最適な『物語』を構築しているだけですよ」
玲奈は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、書類を鞄に詰め込む。
「だが、その物語には『光』が足りない。……君の瞳の奥、言葉を紡ぐたびに震えるその神経(ルート)……。そこには、君自身も気づいていない、もっと純粋な輝きが眠っているはずだ」
天城はゆっくりと歩み寄る。その足音は一切響かない。
玲奈は、彼が放つ異様な圧迫感に気づき、本能的に一歩下がった。だが、天城の手はすでに、彼女の繊細な顎を、強引に、かつ優雅に掬い上げていた。
「……何をするの、先生。離して」
「検診だよ、玲奈。君の『言葉の源泉』を、少しだけ覗かせてもらう」
天城の手には、すでにあの鈍く光る検眼枠(テストフレーム)が握られていた。
玲奈が抗議の声を上げようと口を開いた瞬間、天城は無理やりそのフレームを彼女の顔に押し当てた。
「――っ! あ、あ……っ」
カチャ。
一つ目のレンズがセットされる。
玲奈の視界が、不自然なほど鮮明に、そして残酷に拡大された。
「巨門の星は、語ることで世界を定義する。ならば、君から『言葉』を奪えば……その魂は、どれほど無惨に剥き出しになるだろうか」
天城が二つ目のレンズを回すと、玲奈の耳からすべての音が消え、代わりに彼女自身の「内なる思考」が、暴力的なまでのノイズとなって脳を焼き始めた。
彼女が今まで他人を追い詰めるために使ってきた鋭利な言葉の数々が、今度は自分自身の神経を切り刻むナイフとなって跳ね返ってくる。
「……あ、……あぁ……」
言葉の天才であった彼女の口から、無意味な吐息だけが漏れる。
天城は、彼女の戦慄する瞳の中に、黄金色に輝く「巨大な門」の幻影を見た。
それが、彼女の宿す二番目の星――巨門の本体。
「さあ、玲奈。……君のその美しい饒舌さを、私の虚無へと献上して。……言葉を捨てて、本当の『静寂』を教えてあげる」
控え室の明かりが、不気味に明滅する。
玲奈の喉元に、天城の細い指が、ピアノを奏でるような軽やかさで添えられた。
法廷の勝利者が、絶望の「無言劇」へと引きずり込まれていく。
星を喰らう殺人鬼による、二度目の晩餐が、今まさに「口を割ろう」としていた。
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