その殺人鬼、『星喰いの凶星(ステラ・ディヴォアラー)』につき。

あめの みかな

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​第6.4話:『落日の審判 ―権力の崩壊―』

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​ 元警察官、現在は衆議院議員として警察行政に絶大な影響力を持つ男――権藤 総一郎(ごんどう そういちろう)。

 彼は二十年前、国木田の直属の上司であり、天城家殺害の「隠蔽」を最終的に決裁した張本人だった。権藤にとって、一介の警察官とその家族の命など、組織の安泰という大きな絵を描くための「消しゴム」一欠片に過ぎなかったのだ。

​ 現在、彼は「治安の番人」を自称し、次期法務大臣の椅子を狙っている。だが、その裏では国木田と通じ、警察の不祥事を政界の「貸し借り」の道具として利用し続けていた。

​「……国木田。例の『星喰い』の件、あまり騒がせるな。選挙前に余計な火種を作るなと言ったはずだ」

​ 深夜、厳重な警備に守られた赤坂の高級料亭の一室。権藤は、国木田に向かって傲慢に言い放った。
 だが、それは国木田の幻影でしかなかった。紬が偽装したホログラムであったからだ。
 そして、その部屋の空気は、既に布津(ふつ)が密かに空調へ流し込んだ特殊な「致死性催眠ガス」によって変質していた。

​「……権藤先生。貴方の時間は、二十年前に止まったままなんです。あの炎の中で死んだ男の叫びと共にね」

​ 襖が静かに開き、武御雷(たけみ らい)が姿を現した。
 雷は、権藤の護衛たちが既に廊下で「物言わぬ肉塊」に変わっていることを、その冷めた瞳で語っていた。

​「武御……! 貴様、誰の許可を得てここへ――」

​ 権藤が立ち上がろうとするが、ガスの影響で膝に力が入らず、無様に畳に手をつく。

「先生、申し訳ありませんが、私は席をはずさせてもらいますよ……あはは、もうだめっ。国木田のふりとかもう無理だってばっ」

 その瞬間、国木田の幻影は消え、部屋中のモニターや、権藤が大切にしている骨董品のテレビが一斉に起動した。

​『あははっ! 権力の怪物さんも、酸素が足りないとただのヨボヨボなおじいちゃんだね!』

​ 織葉紬(おりは つむぎ)の嘲笑。

『今、先生が過去に隠蔽した「全ての未解決事件」の真実、それと先生が裏で作らせた「隠し公設秘書」名義の汚職口座リスト。……全部、野党の幹部とSNSのトレンドにリアルタイムでプレゼント中だよ!』

​「な……な、……やめろ! それをされたら、私の政治生命が……!」

​「安心しろ。終わるのは、政治生命だけじゃない」

​ 雷は、布津から渡された新薬――『業火の雫(フレイム・ドロップ)』が仕込まれた注射器を取り出した。
 それは、摂取した者の体温を急激に上昇させ、内臓を文字通り「内側から焼く」毒。天城の家族が炎に巻かれたあの日の、疑似体験(シミュレーション)させるために作られたものだった。

​「……二十年前、あんたは一通の電話で、ある家族の未来を焼き尽くした。……今度は、あんたが焼かれる番だ」

​「や、……やめてくれ……! 悪かった、謝る! 何でもするから……!」

​ 権藤の見苦しい命乞いを、雷は鼻で笑った。
 一閃。雷の指先が、権藤の首筋に鋭く毒を打ち込む。

​「……天城。見ていてくれ。この男が、自分の『罪』の熱さで死んでいく様を」

​ 権藤の叫びは、喉の奥で蒸発した。
 内臓が沸騰し、皮膚が赤黒く変色していく。彼は自分が命じた「隠蔽」という炎に、二十年越しに焼かれたのだ。

​ 雷はその様子を、かつての自分が嫌悪した殺人鬼そのものの無感情さで眺めていた。
 政治家という「偽りの光」が消え、ただの醜い死骸が畳を汚す。

​『ターゲットの沈黙を確認。お疲れ様、雷さん。これで「権力」は死んだよ。……残るは、この世界を回している「金」……経済界の巨頭だけだね』

​ 紬の報告と共に、天城星哉が闇から歩み寄る。
 天城は、雷が手にした注射器を優しく受け取り、それを誇らしげに掲げた。

​「雷。君の手は、もうこれほどまでに汚れている。……だが、その汚れこそが、私にとっての唯一の光だ。……さあ、最後の宴を始めよう」

​ 権藤の死は、翌朝「心不全」として処理されるだろう。だが、彼が隠し持っていた「警察の闇」は、紬の手によってネットという大海へ放流され、組織を根底から揺るがし始めていた。

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