その殺人鬼、『星喰いの凶星(ステラ・ディヴォアラー)』につき。

あめの みかな

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​第6.3話:『後継者の挽歌 ―潰された芽―』

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​ 武御雷(たけみ らい)には、一人だけ目をかけていた後輩がいた。

 若手刑事、久我 瞬(くが しゅん)という。

 彼は、雷が失った「愚直なまでの正義」を体現したような男だった。その鋭い観察眼と、泥臭い聞き込みを厭わない姿勢は、かつて雷自身が周囲から期待されていた頃の姿そのものだった。

​ だが、その鋭さが、久我を死地へと導いてしまう。
 彼は、室井監察官と日向監査官の「不審な死」の共通点——現場付近に必ず現れるキャンピングカーの存在、そして、尊敬する先輩・武御雷の不自然なアリバイの空白に、たった一人で辿り着いてしまったのだ。

​「……武御さん。嘘だと言ってください。貴方が、あの化け物と一緒にいるなんて」

​ 雨の降る埠頭。久我は、暗闇の中に佇む雷の背中に向かって、泣きそうな声で訴えかけた。その手には、雷と天城が密会している決定的な証拠写真が握られている。

​「久我……。お前は優秀すぎた。優秀すぎて、見てはいけない『世界の真実』に触れてしまったんだ」

​ 雷がゆっくりと振り返る。その顔には、以前のような優しさは微塵もなかった。ただ、天城から授かった血塗られた勾玉が、闇の中で鈍く光っている。

​「世界の真実……? 人を殺して、何が真実だ! 貴方が僕に教えてくれた正義は、全部嘘だったんですか!?」

​『あははっ! 正義って言葉、久しぶりに聞いたなぁ。あれ? こないだ聞いたばっかりだっけ。ねえ雷さん、この子、まだ自分がお伽話の中にいると思ってるみたいだよ?』

​ 久我の背後にある街灯のスピーカーから、織葉紬(おりは つむぎ)の嘲笑が降る。

『久我くん。君がその写真を本部に送信しようとした瞬間、私の「電脳の檻」が君のデータを書き換えたよ。今、君は「連続殺人犯・星喰いと内通し、重要証拠を破棄しようとしている裏切り者」として、全警察車両に手配がかかってる』

​「なっ……!?」

​ 久我のスマホが激しく鳴り響く。画面には、署内のグループチャットに流れる自分への逮捕令。紬の手によって捏造された、天城から金を受け取る久我のコラージュ画像が、瞬く間に組織内に拡散されていく。

​「……久我。この世界はな、最初から『捏造』でできているんだ。お前が信じた警察も、国木田も、すべては天城さんの家族を殺した汚れの上に建っている。お前は今、その汚れを守るための贄(にえ)にされたんだよ」

​「そんなの……認めない……! たとえ世界が汚れに満ちていても、僕は……!」

​ 久我が銃を抜こうとした瞬間。
 雷の動きは、もはや人間のそれを超越していた。布津(ふつ)が開発した特殊な「神経麻痺ガス」を仕込んだ超小型カプセルを、至近距離で久我の足元に叩きつける。

​「ガハッ……! 身体が……動か……な……」

​ 霧状に広がった毒を吸い込み、久我はその場に膝を突く。
 雷は無表情のまま、久我の横にしゃがみ込んだ。その手には、かつて自分が久我に贈った「捜査一課異動祝い」の万年筆が握られていた。

​「お前の正義を、ここで終わらせてやる。それが、先輩としての最後の慈悲だ」

​ 雷は万年筆の先を、久我の頸動脈に突き立てた。
 万年筆の芯には、布津が精製した『沈黙の刃(シレンティウム)』が仕込まれている。

​「あ……たけ……み……さ……」

​ 久我の瞳から、光が消えていく。自分が憧れた男に殺されるという、究極の絶望。
 雷はその末期の眼差しを、瞬き一つせずに見つめ続けた。
 後輩の命が「モノ」へと変わるその瞬間、雷の中に残っていた最後の「人間的な良心」が、完全に消滅した。

​『任務完了。映像、最高にエモかったよ! これで雷さんは、もう誰にも、どこにも戻れないね。おめでとう、真の「夜の住人」の誕生だね!』

​ 紬の声に合わせるように、闇から天城星哉が姿を現す。
 天城は死にゆく久我には一瞥もくれず、ただ雷を優しく抱きしめた。

​「よくやった、雷。これで君は、自分の『過去と未来の可能性』を殺した。……もう君を繋ぎ止める鎖はない。……さあ、いよいよ最後の障害を排除しに行こう」

​ 天城の腕の中で、雷は赤ん坊のように目を閉じた。
 愛する者を殺し、信じる者を裏切り、絶望の果てに辿り着いたこの場所だけが、今の彼にとっての唯一の安息地だった。

「雷、次のターゲットは、国木田の牙城を物理的に支える、国家規模の影の支配者だ」

​ 久我の死体は、冷たい雨に打たれながら、無実の罪を背負ったまま海へと沈められた。
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