夏雲 女子高生売春強要事件

あめの みかな

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スピンオフ 二代目花房ルリヲ「イモウトパラレル」

The 4th day ①

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 四日目の朝、妹よりも早く目を覚ましたぼくは、寝相が悪くうつ伏せに顔を枕に埋めて眠っていた妹のベビードールの背中をめくってみることにした。 

 そこには確かに、ゆうべ見た七色の花弁のタトゥーのようなものが存在した。

 ゆうべ四枚の花弁があったそのタトゥーは、今朝は三枚しかなかった。 

 花弁は最初七枚あったに違いない。それが妹がこちら側にやってきて三日目の昨日四枚になっていて、四日目の今日三枚になっている。 

 カウントダウンされているのだ、とぼくは確信した。 


 妹は一週間しかこちら側にいられなかったのだ。

 残された時間は今日を入れて四日しかないということだろう。 


 七色の花弁の花のタトゥーによるカウントダウンは、神隠しについて民俗学界に影響を与えたという父のもう最後の作品ではなくなった小説には書かれてはいなかった。

 それもそのはずだ。父のもとに母は訪れなかったのだから。 


 佐野教授が聞いたら喜ぶだろう。 

 だが、妹が知ったらどんな顔をするだろう。 


 七色の花弁のタトゥーのカウントダウンについて、ぼくは誰にも言わないでおこうと決めた。 


 父にも、佐野教授にも、そして妹にも。 


 妹と別れる最後のときまで。 


 残された四日間を、一日一日を、一分一秒を大切にしよう。 



 あちら側の「ぼく」とは違う、妹に愛される兄になろう。 

 ぼくはそう心に決めた。 

 妹の頭を優しく撫でながら。 




 妹が目を覚ますのを待つ間、ぼくは久しぶりに携帯からミクシィにログインした。

 部屋にパソコンがあるのにおかしな話だなと思ったけれど。

 寝ている妹のそばから離れるのがいやだった。妹は携帯電話を握り締めたまま眠っていた。 

 新着メッセージや、日記へのコメントなどはなく、特に見るものもなかったが、戯れにマイミク一覧のページを開いてみることにした。 

 マイミクというのはマイミクシィの略で、ミクシィというソーシャルネットワークサイトの中での友人のことだ。

 ソーシャルネットワークサイトとは何であるかと言えばミクシィのことだとしかぼくには説明がつかない。 


 後輩の花柳などはミクシィを出会い系サイトとしてうまく利用しているらしく、ぼくが知る限り三人の女の子と性的な関係にまで至ったらしい。

 何度か女の子と出会う方法なんてのを誇らしげに語られたこともあった。 

 それは以下のような方法である。 



① プロフィール画像は必ず自分の顔が写った写真にすること。 

 顔がわかるということは、文字だけのやりとりになりがちなインターネットにおいては、女性からの警戒心が随分和らぐということらしい。

 しかし、ただ単に自分の顔写真を載せればいいというものではないらしく、髪をセットし髭を剃り、一番お洒落な服を着て、フラッシュで顔を白く飛ばす。
 何十枚も携帯で写真をとり、ベストショットを載せなくてはならないらしい。 


② とにかくおもしろい日記を書くこと。 

 インターネットにおいては昔からおもしろい男がもてるらしい。

 日記であるから、その日あったことを書くわけだが、2ちゃんねるでチラシの裏にでも書いてろと言われてしまうような日記は決して書かないこと。

 常に読まれることを意識して、些細な出来事であっても何倍にも膨らませて脚色し、おもしろく、読ませる日記を書くことで、女性にこの人と会ってみたいと思わせることがもてる秘訣だそうだ。 


③ 女性のメールアドレスを自分からは決して聞かないこと。 

 もてない男にありがちな話らしいが、出会い目的の男はとにかく女性からメールアドレスを聞きたがるものだそうだ。

 知り合ってすぐにメールアドレ スを聞かれれば、女性は警戒心を抱く。

 それ以上の進展はもう望めないと思った方がいいらしい。

 ミクシィでのメッセージのやりとりは、逐一ログインをしなければならず面倒ではあるが、それは女性も同じである。

 女性がミクシィを介してのやりとりを億劫に感じるようになれば、女性からメールアドレスを教えてくれる。

 そのときにはもう、女性は完全にとはいかないまでも、かなり自分に対しての警戒がなくなってきている証拠なのだという。



 そこまで来ればもう、会ってやるだけ、と花柳は得意気に話していた。 


「ただ、」 

 と、花柳は神妙な面持ちでぼくに言った言葉がとても印象に残っている。 

「メールアドレスにローマ字で『プーさん』が入ってる女は、十中八九デブでキチ×イです」 

 きっと何か辛い思い出があるのだろう。 



 他にも、出会いを目的としていることが一見して分からないように、コミュニティは出会い目的とそうでないコミュニティの割合を1:9、もしくは 2:8になるようにするだとか、いろいろとテクニックを無理矢理教えられたが、ぼくはさして出会いなどミクシィに求めてはいなかったし、顔を見知った相手としかマイミクになるつもりはなかったので聞き置いた。 

 花柳のマイミクは900人を越えていた。 


 ぼくはといえば―― 

 マイミクが知らぬ間にひとり増えていた。 


 M子という名の、女の子だった。 


 マイミクシィの追加リクエストを受けた覚えもそれを承認した覚えもない。 


 M子という名の少女のページを見て、ぼくは驚きを隠せなかった。 


 M子は、ぼくのそばで眠る妹だった。 





 M子は確かにぼくの妹だった。 

 妹に確かめたわけではない。

 しかしプロフィールを見ればそれは一目瞭然で、ミクシィ上の名前はM子であったけれど、プロフィールの本名の欄にはご丁寧に加藤麻衣の名が記されており、現住所は愛知県名古屋市、出身地は愛知県弥富市とあった。

 顔写真などはなかったが、それは妹が二代目内倉綾音であることがばれてしまわないためだろう。 


 妹のマイミクはぼくひとりだった。 


 15歳の妹が18歳以上を限定としたミクシィに参加しているのは問題だが、そんな中高生はいくらでもいる、些細な問題だ。 

 こちら側に存在しないはずの妹の、あちら側のミクシィの情報が、あちら側からこちら側に適応している、ということの方がはるかに問題だった。 


 文芸部員たちに招待されたのかとも考えたが、妹は3日以上ミクシィにログインしておらず、妹のマイミクはぼくひとりだけだから、その可能性はない。 

 あちら側の「ぼく」もミクシィをしており、妹がこちら側にやってきたことにより、あちら側での「ぼく」以外のマイミクとの関係が切れて、ぼくとの関係だけが残った。そう考えるのが自然だ。 

 しかし疑問もある。 

 こちら側に存在しないはずの妹のアカウントがなぜ存在しているのか、ということだ。そんなことはあるはずのないことだった。 

 そこまで思案して、ぼくはさらなる疑問に気付いてしまった。 

 妹がこちら側にやってきた三日前、妹はぼくの携帯に電話を何度か入れている。

 確か父にも電話をかけたと言っていた。

 あのときは目の前に現れた少女がまさかあちら側からやってきた妹だとは思いもよらず(新手の「妹」詐偽だと思っていたくらいだ)、まったく気にもとめなかったし、その後妹が携帯を使 うところを見ていなかったから気付かなかったが、あちら側から妹といっしょにもたらされ、こちら側には存在しなかったはずの携帯がなぜ使えたのだろう。 

 携帯もまたミクシィ同様に、あちら側からこちら側に適応している、ということだろうか。 

 だとすれば、妹の背中の七色の花弁のタトゥーは、妹がこちら側にいられる時間ではなく、妹がこちら側に適応するまでの時間なのかもしれない。 

 そのどちらでもない、ということも考えられる。 

 考えても結論は出なかった。 


 あの男の出番、といったところだろう。 

 依頼人が依頼を持ち込んだとき、その探偵は依頼の内容をすでに把握し、その回答までも用意している。 

 ぼくが三日前に電話で、妹の通う学校の生徒手帳が本物であるか確かめる方法を尋ねた探偵だ。 

 依頼解決の報酬に美少女フィギュアを所望する探偵は、朝比奈みくるのフィギュアを、三日前ぼくに所望した。 


 ぼくは妹を起こすと、 

「大須に行こう」 

 と言った。 



 女の子の身支度には時間がかかる。 

 ゆうべお風呂に入ったのに、妹は今朝もまたお風呂に入り、しかもぼくの書いた小説を読みながら小一時間半身浴をしてくれた。

 ぼくが書いた小説のほとんどはおそらくあちら側の「ぼく」も書いているはずだけれど、「ぼく」はどうやら作家としてプロデビューする前に書いた小説を妹に読ませたことがな かったらしい。 

 お風呂から上がった妹は、兄妹だから別に恥ずかしくないとでも言うつもりなのか、ぼくの目の前を裸のままうろついては、下着を履き、綾波レイと同じブラジャーの付け方をして、今度は下着姿のままぼくの目の前をうろつくのだ。 

 そのブラジャーの付け方、あんまりよくないって聞いたことがあるよ、とぼくは言おうとしてやめた。女の子と付き合ったこともないぼくが、どうしてそんなことを知っているのか問われても返答に困ってしまうから。 


 髪を入念にドライヤーで乾かして、ワックスを塗りこんで、またドライヤーをかけて形を整える。

 化粧などしなくても十分にかわいいのに化粧をする。

 中学三年で化粧はまだ早いとぼくは思ったけれど、皆しているそうだ。

 そういうものだろうか。

 妹が化粧をしているのをぼくはじっくりと観察した。

 かわいい妹がもっとかわいくなっていく様子は見ていてとても楽しいものだったけれど、やっぱり中学三年に化粧はまだ早いとぼくは思った。 

 それで終わりかと思えば爪をきれいに研きはじめるのだ。 

 妹が身支度を終えたのはお昼を少し過ぎた頃だった。 


 女の子の身支度にはとにかく時間がかかる。 

 ようやく出かけられると思った矢先にチャイムが鳴った。 



 ドアを開けると、そこには部の後輩の佳苗貴子が立っていた。 





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