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第四部 春霞(はるがすみ)
第4話
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わたしが、茶色い紙袋に入った四台の携帯電話を手渡すと、
「みかなは、青西高校だったよね」
おにーちゃんは言った。
そうだよ、とわたしは言った。
「夏休みの間に3つも事件が起きて、レイプされた女の子や、売春を強要されてた女の子と同じクラス」
聞かれてもいないのに、そんなことまで言った。
きっと、これから先、通っていた高校を聞かれる度に、人から指摘される前にそう答えるんだろうなと思った。
自分から先に言ってしまった方が、きっと後から質問責めをされたりしなくてすんで楽だと思った。
おにーちゃんは、携帯電話を紙袋から一台ずつ取り出すと、裏返して並べはじめた。
「この4つの名前に見覚えや聞き覚えがある名前はある?」
携帯電話は一台ずつ機種が違い、その裏側には名前が書かれたシールが貼ってあった。
ゴテゴテにラインストーンでデコレーションされた、THE JK って感じのものには、「内藤美嘉」。
G-SHOCKに良く似たものには、「夏目メイ」。
シルバーの折り畳み式で、四台の中で一番特徴がなく普通なものには、「山汐 紡」。
錦鯉をイメージしたっていう、すごくかわいいものには、「山汐 凛」。
ひとりだけ、知ってる名前があった。
わたしは、錦鯉をイメージしたらしいデザインの携帯電話を指差し、
「この山汐凛って子」
と、言った。
おにーちゃんは、そっか、と言った。
どうして、山汐凛の携帯電話がここにあるのか、「あの人」がそれをおにーちゃんに届けたのか、「あの人」は誰なのか、おにーちゃんとどういう関係なのか、おにーちゃんは言わなかった。
訊いたらきっと教えてくれたと思う。
でも、訊いてはいけないような気がした。
それに、他にも聞き覚えがある名前があった。
「でも、加藤さんが、山汐さんを、この名前と、この名前で呼んでるのを聞いたことがあるような気がする……」
わたしは、内藤美嘉と夏目メイって書かれていた携帯電話を指差した。
「その加藤さんっていうのは、売春を強要されてた加藤麻衣のこと?」
わたしは、こくりとうなづいた。
「苗字まではわからないけど、この美嘉とメイって名前には聞き覚えがあるよ。
加藤さんが山汐さんをそう呼んでたのを確かに聞いたことがあるよ」
おにーちゃんは、そっか、とまた言った。
それから、四台の携帯電話に合ったUSB用の充電ケーブルを差すと、パソコンのUSBハブに差していった。
「この4人の中で、みかなの携帯番号を知ってる人はいる?」
「いないよ」
「本当に?」
「本当だよ。みかなはおにーちゃんに嘘はつかないよ」
わたしは本当に、その4人の携帯番号を知らないし、わたしの番号を教えたりもしていなかった。
おにーちゃんは、すごく安心したみたいだった。
だけど、
「これから先、知らない番号や公衆電話からとか、非通知でかかってきた電話には絶対に出ちゃいけないよ」
と言った。
どうして?
とは、わたしは聞かなかった。
おにーちゃんがそんな忠告めいたことを言うときは、いつもわたしを思ってのことだと、わたしは知っていたから。
たしか、わたしの携帯電話は、アドレス帳に登録してない番号や、公衆電話や非通知の電話を着信拒否にできたはずだった。
だから、わたしは、おにーちゃんの目の前でその設定をした。
「ねぇ、おにーちゃん」
わたしは、どうしても訊かないといけないことだけを、訊いておくことにした。
「危ないことはしてないよね?」
おにーちゃんは、
「してないよ」
と言った。
わたしはおにーちゃんに嘘はつかないけれど、おにーちゃんはわたしに嘘をつく。
その嘘は、わたしのためを思ってつく嘘。
「みかなのそばからいなくなったりしないでね」
わたしに言えるのは、それだけだった。
「みかなは、青西高校だったよね」
おにーちゃんは言った。
そうだよ、とわたしは言った。
「夏休みの間に3つも事件が起きて、レイプされた女の子や、売春を強要されてた女の子と同じクラス」
聞かれてもいないのに、そんなことまで言った。
きっと、これから先、通っていた高校を聞かれる度に、人から指摘される前にそう答えるんだろうなと思った。
自分から先に言ってしまった方が、きっと後から質問責めをされたりしなくてすんで楽だと思った。
おにーちゃんは、携帯電話を紙袋から一台ずつ取り出すと、裏返して並べはじめた。
「この4つの名前に見覚えや聞き覚えがある名前はある?」
携帯電話は一台ずつ機種が違い、その裏側には名前が書かれたシールが貼ってあった。
ゴテゴテにラインストーンでデコレーションされた、THE JK って感じのものには、「内藤美嘉」。
G-SHOCKに良く似たものには、「夏目メイ」。
シルバーの折り畳み式で、四台の中で一番特徴がなく普通なものには、「山汐 紡」。
錦鯉をイメージしたっていう、すごくかわいいものには、「山汐 凛」。
ひとりだけ、知ってる名前があった。
わたしは、錦鯉をイメージしたらしいデザインの携帯電話を指差し、
「この山汐凛って子」
と、言った。
おにーちゃんは、そっか、と言った。
どうして、山汐凛の携帯電話がここにあるのか、「あの人」がそれをおにーちゃんに届けたのか、「あの人」は誰なのか、おにーちゃんとどういう関係なのか、おにーちゃんは言わなかった。
訊いたらきっと教えてくれたと思う。
でも、訊いてはいけないような気がした。
それに、他にも聞き覚えがある名前があった。
「でも、加藤さんが、山汐さんを、この名前と、この名前で呼んでるのを聞いたことがあるような気がする……」
わたしは、内藤美嘉と夏目メイって書かれていた携帯電話を指差した。
「その加藤さんっていうのは、売春を強要されてた加藤麻衣のこと?」
わたしは、こくりとうなづいた。
「苗字まではわからないけど、この美嘉とメイって名前には聞き覚えがあるよ。
加藤さんが山汐さんをそう呼んでたのを確かに聞いたことがあるよ」
おにーちゃんは、そっか、とまた言った。
それから、四台の携帯電話に合ったUSB用の充電ケーブルを差すと、パソコンのUSBハブに差していった。
「この4人の中で、みかなの携帯番号を知ってる人はいる?」
「いないよ」
「本当に?」
「本当だよ。みかなはおにーちゃんに嘘はつかないよ」
わたしは本当に、その4人の携帯番号を知らないし、わたしの番号を教えたりもしていなかった。
おにーちゃんは、すごく安心したみたいだった。
だけど、
「これから先、知らない番号や公衆電話からとか、非通知でかかってきた電話には絶対に出ちゃいけないよ」
と言った。
どうして?
とは、わたしは聞かなかった。
おにーちゃんがそんな忠告めいたことを言うときは、いつもわたしを思ってのことだと、わたしは知っていたから。
たしか、わたしの携帯電話は、アドレス帳に登録してない番号や、公衆電話や非通知の電話を着信拒否にできたはずだった。
だから、わたしは、おにーちゃんの目の前でその設定をした。
「ねぇ、おにーちゃん」
わたしは、どうしても訊かないといけないことだけを、訊いておくことにした。
「危ないことはしてないよね?」
おにーちゃんは、
「してないよ」
と言った。
わたしはおにーちゃんに嘘はつかないけれど、おにーちゃんはわたしに嘘をつく。
その嘘は、わたしのためを思ってつく嘘。
「みかなのそばからいなくなったりしないでね」
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