呼び出された異世界は戦争絶えない世界でした〜人類の旗の元に集う戦友たちは銃を取って立ち上がる〜

酒井 曳野

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第1章 その男、世界に降り立つ

第45話

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45話



「この真ん中にある石、少しぐらつくんです。少し強く引っ張れば取れると思います。今までは壊してしまうと思って大事にしまっていたのですが………。これがわざと取れやすい様にしていたら」

 その石に何か秘密があるのだとしたら試す価値もあるだろうけど……シンプルに壊れかけなだけなのも否めない。

「でもそれはイザベラからもらった大切な物なんだろ?壊してしまっていいのか?それに何か秘密があるとも限らないんだろう。イザベラに聞いてもいいんじゃ……」

「……大丈夫です。壊れてしまってもおばあちゃんとの思い出はずっと残っていますから。それに今はとても疲れているだろうし……これまで秘密を1人で抱えていたんです。だから」

 余計に壊しにくいと思うんだが……。まあ本人がいいと言うならそうしよう。そのペンダントの事をイザベラが知っているとも限らないし。

「分かった。じゃあその石を外してくれないか?」

「はい。いきます」

 花を象った銀色の枠から石が外される。少し力を込めただけで簡単に外れてしまった。するとその石を残して銀色の枠は塵となって消えた。その時点で何らかの魔法によって作られた物だと理解する。

 そしてレイラはその石の裏を確認した。そして目を見開いて凝視する。

「やっぱり………これ……」

「何かあったのか?」

 レイラは黙って頷いて、こちらに石の裏面を見せた。確かに何か文字が書かれている。3行の文字だが読めない。
 魔法陣によく描かれている文字と同じ様なものだろうと思うが俺には分からない。

「なんて書いてあるんだ?」

「私にも見せて下さいませ。んー、これは私にも読めません。魔法の文字ではある様ですが……もしかすると失われた神の言語なのかもしれません。この文字の意味と発音が分かれば《名持ちの魔法》が発動するかもしれませんが……」

「その文字の意味は分かるのか?」

「…………多分、分かります。何となくですけど……今誰かが教えてくれた気がしました。おばあちゃんじゃない誰かが……」

 その時、会議室内に優しい風が吹いた。少し冷たい、しかし寒さはない。涼しく気持ちのいい風が。こんな閉じられた洞窟の中で風?

「…………ディベラ?」

 俺はポツリとそう呟いた。周囲の者も何か感じているようだった。
 
「……この魔法を発動してみます」

女神の瞳アーケアカウト

 その言葉をレイラが呟く。すると会議室の机の中央に周囲の縁が緑色で背景が土色の円盤が浮かび上がる。

 それを見た俺以外の全員が一斉に立ち上がった。明らかな魔法の発動。条件反射で警戒してしまう。

 しかし俺だけはその円盤を見ていた。円盤の中は何かの基準があるのだろう。濃淡で色分けがされている。

 そしてその円盤の中心から端に向かって波打つ様に線が移動している。それが何度も円盤の中で繰り返されている。これは俺が過去に何度も見たものだった。

「これは……レーダーか!」

 もうそれとしか思えない。この濃淡による色分けはおそらく地表を表している。高低差なのかどうかは不明だが、円盤の中心の色は濃い土色をしている。そこから外に向かって薄くなっている。

「レーダー……というものは何か分かりませんが…まさか人族が《名持ちの魔法》を使用できるなんて……とても信じられません」

「レイラ、これは広範囲の探知魔法なんだろ?」
 
「はい、そうだと思います。この魔法を唱えてから使い方が何となく理解できました。
 この魔法は私たち人類を認識している他種族を捕捉します。範囲は正確には分かりませんが、かなり広いと思います」

「エイシェト、これがどのくらいの範囲か分かるか?」

「……これだけでは何とも言えませんね。確認のためにここから数十kmの位置に私が転移して戻りましょうか?それならばある程度は判断が出来るかと思います」

「俺が魔力核を持ってるのにそこまで離れられるのか?」

「ええ、転移だけならば問題ございません。ただ戦闘は出来ませんので数秒で戻ります。まずここから50kmほど離れてこちらに戻ります。では行ってまいります」

 俺たちの目の前にいたエイシェトは魔法陣を展開して消えた。

「あっ!反応がありますよ!」

 ルナが反応した。レイラが出した魔法レーダーに小さな赤い点が1つ出現した。その場所は円盤の中心から端までの3分の2くらいの位置だからもう少し遠くても反応するだろう。

 つまりは探知範囲はざっくり70km前後ということになる。やはりこれはレーダーっぽい探知魔法でこれ自体に殺傷能力を有している訳ではないが敵が接近する前に来る方向や数も認識出来るものだ。

 これを常時展開出来るなら人類にとってこれ以上ないくらいの進歩だ。

「レイラ、これはどれくらいの時間展開出来る?」

「そう……ですね、今も自分の中の何かがすり減っている様な感覚があります。多分これが魔力なんだと思います。この感じだと……長時間でも問題なく続けられそうです」

「分かった。全ての魔力を使い切った後で回復してまた使える様になるまでどれくらいか分かるか?」

「それは実際にやってみないと分からないです。すみません」

「そうか。いや初めて使ったもんな。そりゃそうだ。すまない、焦って変な事を聞いた。
 じゃあこのまま1時間発動しててくれ。その後、解除して全回復するまでの時間を計測しよう。それが分かれば自ずと計算もできる。まずは1時間頑張ってくれ」

「分かりました!頑張ります!」

「では一旦解散しましょう。しばらくは見張りの人員も増やしたままに、非番の兵士の数も減らして即座に動ける様にしておきます。兵士たちには申し訳ないですが……」

「いや大丈夫だろう。そもそも非番って言ったって大体の奴は訓練に参加してるからな。任務がない分、訓練に集中できるって喜んでるよ」

 ルナの発言にイワンが反応する。

「イワン、訓練の参加を強制していないだろうな?休みの時に休めていないといざとなった時に動けない様だと本末転倒だぞ?」

「そんな事してないですよ!成瀬さんは知らないかもしれませんが、成瀬さんが出してくれた訓練道具って評判がすごく良いんですよ。順番待ちになるくらいに。
 だからみんな道具の空きがあったら休みだったとしても参加したいんですよ」

「そうなのか?分かったよ、数日後には俺が出せる上限も増えているから追加も出そう。武器も新しい物を追加しないとな」

「分かりました!それは助かります。では俺はまた訓練に戻ります。では」

 そう言ってステラ、カミラ、イワン、ウィリアムが会議室から出た。部屋に残ったのは、リリー、ルナ、レイラと俺だけだ。

 そしてレーダーにあった反応が消えて、すぐにエイシェトが戻ってきた。

 




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