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炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜

第57話

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「だから神覚者になったから家とかお金もいっぱい貰えたって事だね。それに今日、帰る時に3人の女性を助けたんだ。 
 その人たちがその屋敷でメイドとして俺たちの世話をしてくれることになってるんだ。明日一緒に挨拶しような」


「……うん、でも大丈夫なの?私……目が見えないから迷惑かけちゃうかもしれない」


「そんな事気にするな。それを迷惑だと思うような人たちじゃないから安心してくれ」


「う、うん」


「それでな?これからが本番なんだけど……もう少ししたら10日……いや15日くらい留守にしないといけなくなる」


「な、なんで?!」


 エリスは明らかに不安そうな声を出す。もしかしてもう帰って来ないと思っているのかもしれない。
 これまでも1日以上家を空けた事はなかったのにいきなり15日くらいだもんな。

 
「実はエリスの病気を治せる薬の場所が分かったんだ。でもそれが別の国にあるみたいで、そこまで行って手に入れてくる。だからしばらく家を空けないといけない」

「私のため?……それは危なくないの?お兄ちゃんが怪我したりしない?絶対にしない?」

「大丈夫だ。絶対にそんな事はない。……だからもう少しだけ待ってほしい。やっと、やっとエリスの病気を治せるんだ」


「それは嬉しいけど……お兄ちゃんは本当に大丈夫なんだよね?また帰ってくるよね?病気が治る代わりにお兄ちゃんがいなくなっちゃうんだったらこのままでいい!」

 エリスは手探りでレインの両手を握る。目の前に座っているからすぐに握られた。とても震えている。今まで15日も離れた事がなかったからエリスにとっても不安なんだろう。でも今回だけは我慢してもらわないといけない。レインにとっての悲願がもう目の前まで来ている。あとは手を伸ばすだけ、一歩踏み出すだけで達成できる。


「エリス……病気が治ったら何をしたい?」

 レインは片手でエリスの手を握りながら、もう片方の手でエリスの頬に触れる。

「……え?」

「俺は……そうだな。また一緒に買い物行きたいな。俺が作ったご飯だけじゃなくてプロが作った料理も外に食べに行きたい。それにこの国以外もたくさん国はある。いろんな国に旅行に行くのも良いな。俺はエリスとしたい事が沢山ある。エリスはどう?」


「私も……お兄ちゃんと一緒にいろんな所に行きたいな。……でも、私みたいに病気で苦しんでる人を助けたい……かな。私に何が出来るか分からないけど。いっぱい勉強もしたい」


「良いじゃん!やりたい事はなんでもやろう!俺たちはもうそれが出来る所まで来たんだから。だから……」


 レインはエリスの手を引いてエリス自身を引き寄せた。そして少し力を込めて抱きしめた。


「……お願いだから……治らなくていいなんて言わないでくれ。一緒にこれからも……ずっと一緒に沢山の事を経験させてくれよ」


「お兄ちゃん……ごめんなさい。本当にありがとう。お兄ちゃん……大好き」


 エリスからはっきりと好意を示された。こんな事は今まで無かった。それだけでも胸がいっぱいになった。


「俺もさ……俺も大好きだ。これからもずっと一緒だ」


「……うん」


 落ち着くまでそのままでいてどちらからともなく離れた。エリスの表情はいつにも増して晴れやかだった。



◇◇◇


「エリス様」

「様?!」

 エリスの可愛げのある驚く声が響く。現在、あの家を出て屋敷へ到着した所だ。
 持っていく物は本当になかったが捨てるのもアレなので全て収納スキルで放り込んだ。そしてまだしっかり歩く事のできないエリスの手を引いてゆっくり向かった。


 エリスが外に出るのは本当に久しぶりだ。これからは何も気にする事なく外に出られるようにしてあげたい。


 そして到着すると門の前に兵士が3人とアメリアたちがメイド服を着て待っていた。ステラだけは動きやすい軽装をしている。その横にはシャーロットの姿もある。

 
「そうです。レイン様のご令妹であるエリス様にご挨拶申し上げます」


 アメリアはどこで習ったのだろうと思える言葉でエリスの前に立つ。エリスは周囲に多くの人がいる事を察知して不安だったのかレインの手を強く握る。


「……大丈夫だ。みんなエリスに挨拶する為に集まったんだ。俺もいるから」


「う、うん」


「そうですよ、エリス様」


 アメリアはエリスの前で両膝をついてエリスの空いている手を両手で包んだ。


「私はアメリアといいます。これからよろしくお願いします。困った事があればいつでも言って下さい。私たちがエリス様をお助けします」


「よ、よろ……しく」


 アメリアが離れてステラが近付く。アメリアと同じように膝をついてエリスの手を握る。


「次は私ですね。私はステラです。アメリアは私の姉になります。覚醒者としてエリスさんに近付く悪い奴はぶっ飛ばします。レインさんが外出している時に怖い事がもしあったら私を頼ってください」
 

「う、うん」


 やはり初対面の人だと緊張するようだ。レインの手を握る力が強くなっている。ただ全然痛くもない。むしろ可愛い。

「最後は私だね!私はクレアです。1番下の妹で計算が得意です!エリスちゃんは勉強好き?」


 クレアは明るく歳もエリスに1番近い。そして何も言わなくても友人のように接してくれている。


「勉強……したみたい…です。でもちゃんとやった事がなくて……」


「ホント?!じゃあ一緒に頑張ろうね!」


「うん」


 クレアと話した事で少し落ち着いたのかレインの手を離した。それがレインにとっては少し残念だったのは言うまでもない。


 簡単な自己紹介を済ませて次は屋敷の案内へ移る。レインたちにとっては我が家となり、アメリアたちにとっては職場となる。何処に何があるのかを覚えておかないと家の中で迷子になるという事態に陥る事だってあり得る。


 あとシャーロットの自己紹介はやめてもらった。既に初対面の3人と会話しているのでエリスはかなり限界だった。
 こんな状態で王女様なんて出てきたら倒れるんじゃないかと心配になった。


 さらに3人の兵士は元々王女様の私邸の門番だった。合計で8人いるらしいが、それを10人に増やしたらしい。
 基本的には王女様の私邸を守る役目だが、この3人はレインの屋敷を専属で守ってくれるそうだ。ただ王女様の屋敷の入り口とレインの屋敷の入り口は道一つ挟んだだけなので兵士を分ける意味はそこまでない。

 そこから各部屋の案内があった。案内は王女様お付きのメイドだった。アメリアとステラは懸命にメモを取っている。 
 クレアは見たら大体覚えられると阿頼耶みたいな事を言い始めた。ちなみにレインは既にほとんど覚えていない。
 聞いた側からどんどん抜け落ちていく。


 さらにそこから風呂や食事を済ませると日暮れになった。

 今、レインは無駄に広く感じる部屋のベッドで1人だった。これまでもエリスと別の部屋ではあったが、ここは本当に1人だと感じる。


 "何となく……寂しいな……"


 エリスの為に広い屋敷に移り住んだけど、なんか……違う感じがする。もう夜になっているが眠れない。エリスはもう寝たのだろうか。


 コンコン――自分の部屋がノックされた。誰だ?エリスじゃない事は間違いない。こんな広い屋敷を1人で歩く事はできない。レインだって無理だ。


「ご主人様……よろしいですか?」


 この声はアメリアだ。


「どうぞ」


 レインは簡単に返事をする。部屋の扉がゆっくり開けられアメリアが入ってきた。

 
 

 

 
 
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