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炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜

第56話

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◇◇◇


「ぶわッ!」


 バシャッ!――という大量のお湯を頭からかけられる三姉妹。あの後、レインたちと合流したアメリア、ステラ、クレアは王女シャーロットの屋敷へ招かれた。

 レインを待っている間にクレアも目が覚めていたようで3人はそのままお風呂へメイドたちによって連行され、着ていたボロ布に近い服を全てひん剥かれた。


「あ、あの……ひ、1人で……出来ます」


 アメリアとクレアは大人しく洗われているが、ステラのみ少し抵抗している。


「何を仰いますか!!レイン様とシャーロット様のお連れ様とならば我らの主人と同義。これくらいの事はさせていただかないとメイド失格です!」


 3人に対して8人のメイドが水に濡れてもいいような布を着込んでタオルや桶を持って待機している。


 しかし3人の汚れは相当だったようでお湯をかけて、泡まみれにして、擦って、流して、浸からせるを4周したらしい。
 レインが見る訳にはもちろんいかないのでメイドからの報告で知った。なぜ報告されたのだろうか。


 レインとシャーロット、阿頼耶が待つ部屋に3人が連れて来られた。着ていた服は全て処分され使用人の服を買い取らせてもらう形でそこそこの服を着てもらっている。

 さらには王族の食事ではなくレインたちが好む一般人がよく食べそうな物を風呂を4周している間に用意してもらった。テーブルマナーとかレインにとっては未知の領域だった。

 目の前に並べられた豪勢な食事を目の当たりにして3人は脇目も振らずにがっついた。その光景を見てレインは安心した。

 
◇◇◇


 食事が済み今は同じ部屋でレインと3人が向かい合うように座っている。阿頼耶は部屋の外に、シャーロットは仕事が残っていると部屋を出て行った。


 3人とも完治している為、今後の事を話す予定だった。

 
「さて……これからの事だけど……アメリアからは返事を聞いてたね。2人はどうする?特にクレアはあの時意識もなかったからな。今後どうしたいか決めてくれ」


「「……え?」」


 2人は思わぬ問いかけに返事がすぐに出来なかった。アメリアの意志は3人の意志と自分達は考えていたようだがレインは違う。アメリアはアメリアであって2人とは違う。


「別に驚く事じゃないだろ?それにあの時はまともに考えられなかったはずだ。でも今は違うだろ?俺は君たちの意見を尊重する。助けた恩を盾に無理やり雇っても意味がないからね」


 この3人が世話をする、手伝いするのはレインにとって掛け替えの無い存在だからだ。適当な者を雇うわけにはいかない。


「私はレイン様の元で働きたいです」


 アメリアがまず口を開いた。


「私も……姉さんについて行きます。レインさんに受けた恩はお礼の言葉だけでは絶対に返しきれないものです。なら……レインさんとレインさんが命よりも大切だと仰った家族の為に働きます。働かせてほしいです」


 ステラもそれに続く。そういえばエリスの事は話していたんだった。
 アメリアの家族を守る為に自分を差し出すという行為にレインが共感を覚えたからこの3人を助けようと思った。


「私も働きます!お姉ちゃんからレイン様の事は聞きました!精一杯頑張ります!!」


 最後はステラだった。予想以上に元気になり予想以上に声がでかい。


「そうか。じゃあ3人もこれからよろしくな。今日はここに泊まっていいそうだ。明日また迎えに来るから待っててくれ」


「「「はい」」」


 レインは席を立って部屋を出た。阿頼耶と合流して屋敷の使用人に挨拶して帰路に着いた。


◇◇◇
 

「エリスー帰ったぞー」


 レインは扉を開けた。家に着く直前で阿頼耶とも合流した。
 

「お兄ちゃん!お帰りなさーい」


 エリスの声も同じ場所から聞こえて来る。中級ポーションで耳が聞こえるようになった以上は回復しなかった。上級ポーションも同じだった。まだ外を出歩くことも難しいと思う。


 ただ今日は声に元気があった。エリスがいる部屋に入る。


「お兄ちゃん、今日は良い事あったの?」


 レインの声に元気があったからエリスもそれに合わせただけだったようだ。やはり視覚を失った分、他の機能が発達しているせいか声色だけでその人の感情を細かく判断できるようになっていた。
 

「色々あったんだ。ちょっと話をしてもいいか?」


「もちろんいいよ」


「……ありがとう。ただその前にご飯と風呂だな」


 「そう?お兄ちゃんが言うならそれでも大丈夫だよ?」

 その後、食事を済ませ風呂に入る。エリスは一人で入れるが最近は阿頼耶に手伝ってもらっている。髪も自分でやるより阿頼耶……というか他の人にやってもらった方が気持ちいいらしい。レインは阿頼耶にやらせていない。当たり前だが。

 あとは寝るだけという所までなったらエリスがいつも寝ている布団に2人で向かい合って座る。


「じゃあエリス……少しお話ししようか」

「なんだか……久しぶりだね」


「そうか?」

「うん……お兄ちゃん、最近ずっと忙しそうだったから」


「ごめんな」

「大丈夫だよ。でも怪我だけはしないでね。もう何度も言ってる気がするけど」

「もちろんだ」

 こんな他愛もない会話すら出来ていなかったようだ。エリスの為にやっていた事が結果としてエリスに寂しい思いをさせていた事に猛省する。しかしこれを声に乗せると勘付かれるから抑え込む。

「それで話って?」

「そうだった。明日から別の家に引っ越すけど大丈夫か?かなり大きいお屋敷に住めるようになってね。ここよりはずっと良いから一緒に行こう」


「うん!大丈夫だよ!でも何でそんなお屋敷に住めるの?」


 エリスの疑問はもっともだ。こんなボロ家に住んでた人がいきなり屋敷に移住する。普通はそんな事は起こらない。


「そうだな。エリスは神覚者って知ってるか?」


「……ううん、ごめんなさい」

「謝る事じゃないよ。じゃあ……Sランク覚醒者はわかる?」 


「それは聞いた事あるよ!とても強い人……だよね?」


 Sランク覚醒者の認識の仕方すら可愛い。ああ、もう全てが可愛い。


「そうそう。で神覚者っていうのはそのSランク覚醒者よりも強い人って事だね。とても強いのがSランクなら、神覚者は超強いって事だ」


「そうなんだね」


「その神覚者っていうのが俺の事なんだ。最近忙しかったのはそれのせいで色々挨拶とかしてたからなんだよ」


「え?!お兄ちゃん、すごい!」


 褒められた。それだけで頬が緩み切る。なんとか立て直して話を続ける。
 
 
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