成り上がり覚醒者は依頼が絶えない〜魔王から得た力で自分を虐げてきた人類を救っていく〜

酒井 曳野

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第1章 炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜

第32話

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 ――やはり強い。レインがそう思うのも納得だった。完全装備でなく武器も予備の物で傀儡たちと戦っている。騎士王も参加してるのに近付けば頭を両断される。


 "そろそろ参加しても良さそうだ"


 レインが参戦しようとした時、ニーナの動きが変わった。ニーナの周辺にいた傀儡が再生も遅れるほどバラバラにされた。何らかのスキルが使われた。

 そしてレインへの道を確認したニーナは加速し目の前まで急接近した。

 確実に捉えたとニーナは思っただろう。確かに一瞬消えたようにも見えた。

 ガキンッ――レインはニーナの剣を正面から受け止めた。


 "はっや!反応が遅れた。阿頼耶より遥かに全然速い。ニーナさんの太刀の軌道上にたまたま俺の剣があっただけだ。本当にまぐれで防げたようなもんだ"
 

 ニーナの驚く表情とは裏腹にレインは焦った。自分の想像より遥かに速かった。だけど見えなかったわけじゃない。

 レインの常時発動型パッシブスキルである『魔色視』は魔力を持つ者の予備動作も感知する。ニーナがスキルを使って目の前までの道筋を確定させたと同時に魔力の道が出来た。

 だから予め備えることが出来た。ただ問題なのは備えた上で反応が遅れたことだ。
 普通タイミングは前後するが、どこにどこの向きから来るのか分かっているなら対処できる。しかしそれを上回る速度で想定以上の接近を許した。


 レインにとってのニーナの評価が変化する。


 "ちょっと熱心な人くらいだったのにな。これが国内最強クラスの覚醒者か"


 レインとニーナの剣がぶつかる音が響いたのはその一回だけだった。細切れにされた傀儡も復活しニーナへ向かってくる。ニーナのスキルを用いたであろう一撃もレインには届かなかった。


 ニーナは一歩下がり剣を収めた。それを確認したレインも傀儡の召喚を解除する。


「私の完敗です。今のが私の全力の速度でした」


 ニーナは息を整えながらレインの前に立つ。対してレインは息ひとつ上がっていない。これが今の2人の実力の差だった。


「今のはスキルですか?」


 レインは特に何も考えずに聞いた。その直後に後悔する。スキルは他者に教えるものじゃないと理解している。そしてニーナにも同じような事を言ったからだ。本当に何も考えない発言だから言い訳しようもない。


「あ……い、今のは……」


「今のは〈連斬〉と〈領域〉と〈神速〉の3つのスキルを使ってレインさんに接近しました」


 ニーナは躊躇いもなくスキル名を明かした。


「〈連斬〉は剣を振る時に一時的に刀剣を分裂させるスキルです。剣の周りに5本の別の剣が追従します」


 それで周囲の傀儡が吹き飛んだのか。1度の斬撃で5回斬れるって事だ。ニーナの斬撃の速度であれば一瞬で周囲の傀儡を粉々にする事は簡単だな。


「もう一つは〈領域〉です。これはずっと使っていました。自分を中心とした一定の範囲内の魔力を認識して理解するというものです。常に魔力を消耗するので長時間使うのは難しいですが、乱戦の時などはとても便利です」


 傀儡たちの全方向からの攻撃に対応できたのはそのスキルのおかげか。傀儡に遠距離攻撃の手段を持つ者は少ない。今回に関しては剣士のみを投入したから接近するしかなかった。だからニーナは対応出来ていた。


「最後は〈神速〉です。これは私が世界最速の覚醒者とみんなが呼ぶ理由になってるスキルです。結構恥ずかしいのでやめてほしいのですが……。
 これは自分が今いる場所と設定した場所の2点を高速で移動する……というスキルです。ただそれだけなんです。消えているわけじゃないので間に何かあると止まったり、ぶつかったりするので使い所が難しいですね」


 ニーナは苦笑いする。それでもあの完成度だった。周囲にいる傀儡の全てを認識して、レインへの最短距離が開けるように斬り刻み、高速で接近して斬りかかった。

 レインが受け止めた斬撃1つを繰り出すのにどれほどの経験と技術を用いたのか。

 その説明でようやく出来た自信の頭の悪さに恥ずかしさすら感じた。


「ニーナさんは凄いですね。俺なんかよりもずっと強い」


「私がレインさんよりもですか?」


 ニーナは首を傾げる。この結果を見てレインがニーナよりも弱いという結論を出す者などいないはず。当のニーナ本人もレインの強さに驚愕していた。そのレインがそう言った事が疑問だった。


「そうです。俺の場合はただ運が良かっただけです。……大した努力はしてません」


 アルティの事は言わない。


 "レイン!そんな事はない!!"


「レインさん!そんな事はありません!!」


 ずっと黙っていたアルティとニーナの言葉がほぼ完全に一致した。まかさの事態にレインは言葉を失う。


 "ほぉー私と意見と発言が一致するとは……。この子は見所があるね!"


 何目線だよ……と突っ込みたい気持ちを抑えてニーナと向き合う。


「失礼します」


 ニーナはそう言ってレインの右手を両手で包んだ。フワリと柔らかい感触に包まれる。


 "おい!!手を繋いでいいとは言ってないぞ!!"


 ちょっとうるさいので静かにしてもらえます?


「この手は努力をしていない人の手ではありません。1年や2年程度ではこうはなりません。硬く分厚い剣士の手です。
 レインさんが神覚者となったのは最近の事かもしれません。その肉体能力は強化された魔力やスキルによるものかもしれません。
 しかしこの手は嘘ではありません。その身体つきもそうです。10年はちゃんとやらないと身に付かないと思います」


 10年――その数字に何も思わない訳がなかった。あの場所で血反吐を吐いて死にかけながら魔王の特訓を耐え抜いた。


 エリスの為にそうするのが当然だったレインにとって、あの日々は努力というものは違う扱いだった。やらなければならなかった事だった。


 だがこの人は違った。それを努力と認めてもらった。まだレインの目標であるエリスの完治はしていない。周囲の視線も変わらず扱いも酷いものだ。

 だけど国内最強であるSランク覚醒者に認めてもらえた。それだけで報われたと思った。張り詰めていたものが少しだけ緩み、背に感じる重たいものが少しだけ軽くなった気がした。


「ありがとうございます」


「当然のことです。自分を卑下しないで下さい。では……残りの情報ですね。『決闘』への参加方法は至ってシンプルです。Aランク以上の覚醒者である事、Aランク以上のダンジョンを5ヶ所以上攻略している事、そして治癒の国『ハイレン』が独自に作成している魔力測定を受けて合格する事です。
 ただ神覚者に関してはスキル名の開示が義務付けられていて『決闘』開始時に紹介されます」


「なるほど。なら俺はAランクのダンジョンをあと5か所回らないといけませんね」


 あのAランクダンジョンは間違いという事になっているので正式な記録にはならない。


「そうなります。大丈夫そうですか?よろしければお手伝いしますが?」


「大丈夫です。それにニーナさんは『黒龍』ギルドがあるでしょう?これは俺の問題ですから俺がなんとかします。……ただもう一つ教えてほしいのがどうやってその国に行くんです?」


 出国した事ないから他国へどうやって行くのか分からない。まさか走ってなんて言わないよな?……ちょっといい修業になるかもと思ったレインは末期だった。


「ああ…普通は寝台付き馬車ですね。出国手続きはここで出来ます。手配もここでやってくれるのでいつまでにどこに行きたいのかを前もって申請すれば大丈夫です。
 あの……本当に大丈夫ですか?いくらレインさんでもパーティーを組まずにAランクダンジョンは難易度が高そうに見えますが……」


 "この人は心配性なんだろうか?"


 こう何度も確認されると信用されてないのかと思いたくなる。……というが一緒に行きたいのか?
 さらに今更ながら『黒龍』に勧誘してこないな。国内最強のギルドのサブマスターなら勧誘もして来そうだけど。


 でも聞かないでおく。聞いて勧誘されたら断りづらくなりそうだ。


 申請など簡単にできる事はその場で教えてもらってレインたちは訓練場を出た。その後、3億という訳の分からない金額を紙幣でもらった。

 情報料と迷惑料らしい。神覚者に対する国やギルドが払う報酬に比べたら安いとの事で押しつけられた。


 その後、外で3時間ほど待たされた――レインも若干忘れてた――アラムたちに1億Zel分の紙幣を手渡した。別に2億ある事は伏せておく。待たせてしまった――あと存在を忘れてた――迷惑料みたいな名目で1億全てを渡した。


 そして明日――最も組合本部が混み合う時間でもある昼前にニーナとここで待ち合わせる。

 レインが神覚者である事を公表する。ダンジョンでもここまで緊張する事はなかった。

 まだ前日なのにレインの心臓はドクドクと高鳴りその日は眠れなかった。

 


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