成り上がり覚醒者は依頼が絶えない〜魔王から得た力で自分を虐げてきた人類を救っていく〜

酒井 曳野

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第1章 炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜

第59話

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◇◇◇


 いつもと違う布団のせいか朝早く起きた。確実に迷う事を考慮してすぐに部屋を出る。


 掃除が行き届いたピカピカの廊下を歩く。今回は王女様が手配してくれたが今後は3人の使用人しかいない。

 アメリアたちの負担を考えたら人を増やすべきだろうか?というかこの屋敷にどれくらいの人数が必要なのかも分からない。とりあえずは様子見とする。


 案の定しばらく迷った後、ようやくエリスの部屋の前に着いた。部屋には誰の部屋なのか、何の部屋なのかをプレートに書いてぶら下げてもらっている。そうしないと本当に分からないからだ。

 プレートがない部屋は全く使われていない部屋という事になる。

 さらにレインやエリスの部屋はまさしく豪華絢爛という言葉が似合う装飾がされていたのに対して使用人用の部屋、つまりアメリアたちが使う部屋はその正反対だった。 

 レインたちが以前住んでいた家よりはマシという造りだった為、アメリアたちにもレインと同じような部屋を使うように命令した。

 ここを使えと言ったら全力で拒否してきたので主人からの命令として無理やり使わせた。

 どうせ100部屋中95部屋くらい余ってるんだから使ってくれよ……と何度も思う。こう何度も遠慮されて、命令しての繰り返しだと疲れる。


「エリス……起きてるかー」


 一応声は控えめで扉を開けた。


「お兄ちゃん!おはよう!」


 エリスは起きていた。レインと同じで眠れなかったのかもしれない。
 
 今は着替えの最中だった。着替えはアメリアが手伝っており、その光景からアメリアはレインたちよりももっと早く起きていたのだと分かった。


「ご主人様……兄妹とはいえ女性の部屋にいきなり入るのは如何なものかと思います」

 そして普通に怒られた。たしかにそうだよな。エリスだからとあまり気に留めていなかった。一緒に寝るのはマズイとか思ってるくせに。


「アメリアさん……お兄ちゃんになら見られても大丈夫だよ?一緒にお風呂だって……」

 エリスもレインをフォローする。ただその心遣いが追加攻撃となる。


「お嬢様、いけませんよ?淑女たる者、礼節を弁えねばなりません。私如きに言われるのは嫌かもしれませんが……お嬢様のためです」


「淑女?私の……ため?」


 エリスにはいまいちピンとこないようだ。レインも淑女の意味がよく分からない。それもそのはずだ。これまでの生活で気にしたことがないのだから。


「はい!ご主人様は神覚者となられました。それはこの国だけでなく世界中の知るところとなります。つまりは超有名人なんです。そんな御方の妹君ともなれば覚醒者でなくとも必ず注目されます。
 そのご病気を治された後は外出の機会も増えます。ですのであまり周囲の反感を抱くような行動はされないようがいいでしょう」


 アメリアの言い方は厳しくもエリスのためを思った発言だった。レインには出来ない甘やかさない教育。今後のエリスの為に必要な事だった。

 やはりアメリアたちと出会えたのはレインにとっても幸運だった。


 コンコン――エリスの部屋がノックされる。


「はーい!」


 着替えを終えたエリスは返事をする。


「失礼します。……レインさん、やはりここにいらっしゃったんですね」


 部屋に入ってきたのはステラだった。その後ろに阿頼耶もいた。この2人が一緒なのは違和感だった。


「2人ともおはよう。ステラ、俺を探してたのか?」

「おはようございます。はい、レインさんにご報告があります。今、屋敷の前に人集りが出来ております。おそらく神覚者となった事が正式に発表され、これまでの噂も相まってレインさんに会おうとする者たちが集まったのでしょう。
 今は兵士たちが入り口で防御を固めておりますが……少し混乱している状態と言っていいでしょう」


 ステラは覚醒者ということもあり冷静に周囲の状況を理解している。そして分かりやすくそれを伝えてくれる能力もあった。 
 同じ覚醒者なのにこの差は?という疑問はすぐに捨てた。


「そうか。こんな時はどうしたらいいんだろうな」

「神覚者についての王令はギルドへの勧誘を含む私的な接触の禁止のみです。彼らは……まあ挨拶したいだけとは思いませんが、王令を無視するような事はないと思います。
 兵士も居ますので、このまま屋敷の前にずっと居られるよりは良いかと思います」


「……アメリア、いつそんな事調べたんだ?」

「……いつ?昨日です。ご主人様とお嬢様に関わりそうな規則や王令、知識やこの国の情勢は頭に入れてます。
 まだ……完璧ではありませんし、忘れることもあるので質問にすぐにお答えできないかもしれませんが……」


 なぜアメリアが申し訳なさそうな顔をしているのかが分からない。既に知識に関してもレインを凌駕している。
 
 何が妹たちの方が優れてるだ。アメリアだって十分優秀だった。ステラのように戦えず、クレアのように訳の分からない計算が出来ないだけで全ての能力が平均以上で超万能だった。


 "……この3人の報酬を決めてなかったな。休みだって必要だ。こんな……言い方は悪いが戦闘能力だけの俺よりも化け物みたいな天才集団を雇うお金ってどれくらいだ?……ヤバいな。1年で全財産消滅しそうだ"


「とりあえず外に出るよ。そのついでに話くらいはしてもいいかも。
 あと今日はダンジョンと買い物に行きたいかな。だから……阿頼耶とステラ、ついてきてくれるか?」


「もちろんです」
「かしこまりました」


 ダンジョンで新しい傀儡を加える。出来ればAランクダンジョンに行って手に入れたい。それをこの屋敷とみんなの護衛につける。

 そしてその傀儡を潜ませるための魔法石も買いたい。
 魔法石を加工したペンダントみたいな装飾品があったはずだ。
 何故かレインの屋敷には女性しかいないのでとりあえずその辺色々買っておけばハズレないだろう。


「じゃあ準備していこう。アメリアたちは留守番しててくれ。俺と阿頼耶とステラ、この3人がいない時は屋敷から離れないようにな?大丈夫だとは思うが念のためだ」


「承知しております。ではお嬢様!私たちはここでお勉強をしましょうか。クレアも呼んで3人でお話ししながらしましょう」


「うん!」


 レインたちは部屋を出て準備を始める。と言っても同じ服を着るだけだが。
 
 そしてレインが神覚者となった事を国民全員が知った世の中へ初めて外出する。


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