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第1章 炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜
第70話
しおりを挟む◇◇◇
「本当に……いいの?」
今は家に着いてエリスにブレスレットを手渡した。色や特徴を伝えた。
エリスはあちこち触りながら確認している。触った感じから高級な物だと感じ取ったんだろう。やはり遠慮し始めた。
「いいよ、エリスの為に買ってきたんだから。ただお願いがあるんだ」
「なに?どうしたの?」
「このブレスレットは常に付けてて欲しい。俺がエリスを守りたいって願いを込めたんだ。
もし……もしエリスに何かあった時、絶対に守ってくれる。だから外さずに付けててほしい」
「うん!お兄ちゃんから貰ったものだもん!絶対に外さないよ!」
エリスは自分の右手首に付けようとするがうまくいかない。すぐにアメリアが横に座って付けてあげた。
ちなみにアメリアたちにも既に渡してある。レインのスキルの事はステラから伝えてもらい、ブレスレットの中にアメリアたちを守る兵士を潜ませてあることも伝えた。
傀儡が発動する条件は本人が何らかの対象から被害を受けた時、または対象に対して恐怖した時、最後にレインに助けを求めた時、この3つの内のどれか1つでも満たされれば傀儡の兵士が出現し、対象を排除する。
手段の一切は問わない。どんなに悲惨な結果になろうともブレスレットを渡した者たちが無事であればそれで良い。
「ありがとう。じゃあ……」
「お食事の準備は出来ますよ」
「さすがだな。エリスもお腹空いたろ?みんなで食べよう」
「うん!」
エリスはアメリアに手を引かれながら部屋を出た。今日のメニューは何なのか、次は何が食べたいとか仲良さそうに話している。
反対側からもクレアがエリスの手を繋いでいる。先頭はステラが歩いている。家の中とはいえ全く警戒していないという事はない。こうした気遣いも本当に助かっている。
食堂へ向かう道中にも傀儡たちを配置していく。魔法石以外に傀儡を送り込みすぎると壊れてしまう。試しに自分の部屋に置いてある用途不明の壺に巨人兵を送り込んだら粉々になった。
だから1つの物に上位騎士1体しか送り込めない。2体送るとヒビが入るし、それ以上はもう無理だ。
まずはちゃんと見た事すらない時計に潜ませた。続いて廊下の壁に掛けられている作者も何が描かれているのかも全く分からない絵画に潜ませる。
それを繰り返し屋敷中に上位騎士を配置した。アメリアたちには計50体、屋敷内のあらゆる物に計50体送り込んだ。
屋敷内にはまだまだ物が沢山あるから必要に応じて数を増やしていく。まず1番利用する部屋と1番通る廊下に集中して配置した。
あとは庭とか使っていない部屋にも少しは配置したい。あとエリスの部屋には騎士よりも強い奴を入れておきたい。
ただ騎士王は剣士や騎士よりも大きいから部屋の中では戦えない可能性もある。だから今は騎士を数体配置している状態だ。
今後、もっといい傀儡が手に入ったらエリスの周辺に優先して配置していこう。
次は『ハイレン』だ。そう決意した時だった。
「ご主人様……よろしいでしょうか?」
先程までエリスと一緒に歩いていたはずのアメリアがレインの横に移動していた。アメリアがいた所はステラがいる。
「……どうした?」
◇◇◇
「旦那ぁ……それだと力に任せて振ってるだけって言ってるだろ?
剣は斬るもんで叩きつけるもんじゃねぇんだよ。そんな振り方してると硬い敵と戦闘したら折れるぞ?構え、握り、足捌き……その辺も一回見直した方がいい」
「………………なるほど」
あれから数日、現在は屋敷の庭でヴァルゼルと剣の修行をしている。
アドバイスがアルティとは比じゃないくらい分かりやすいが、本人に言ったら殺されるから口に出しては言わない。ヴァルゼルは横柄で雑に見えるが、本当によく見ている。
部屋ではエリスがクレアと勉強している。庭の中心ではレインとヴァルゼルが訓練をしているが、阿頼耶とステラも庭の隅の方で訓練していた。
阿頼耶のお気に入りでもあるステラの願いで阿頼耶が戦い方を教えている。
アメリアは買い物に行った。ブレスレットも付けているし、傀儡が展開されたらすぐに分かるようになっているから何かあれば駆け付ける。まあ相当なバカでもなければ神覚者の使用人を襲おうとは考えないだろう。
もしそんな奴がいても傀儡によって制圧されるだろう。だからそこまで心配はしていない。
「………………いってぇ!!」
「ほらほら!さっさと立て!次だ次!」
ただ厳しいことに変わりはなく何度も殴られた。剣だけの攻撃ならダメージを受けないヴァルゼルは本気でやっても問題ないが屋敷が壊れる。うまいこと力を抜きながら素振りと斬撃を繰り返す。
時折、エリスが窓から心配そうに覗いているのが見えた。耳を澄ませてこちらの様子を伺っているんだろう。
あまり大きな音を立てて心配させるのも申し訳ない。ただダンジョンに行くのも面倒に感じているから庭でやるしかなかった。
組合本部の訓練場でもいいが、あそこだと無駄に注目を浴びそうで嫌だ。
『ハイレン』に出発するまで残り僅かとなった。疲れを残さず少しでも強くなりたい。
◇◇◇
ピコンッ――
――スキル〈最上位強化〉がLv.2になりました――
「あれ?ヴァルゼルと訓練しててもレベル上がるんだ。……これは結構嬉しいな」
スキルのレベルが上がって少しテンションも上がったタイミングだった。鉄格子の正門が少しだけ開いて兵士の1人が入ってきた。
ちなみに兵士には傀儡はつけていない。もしかしたら異動になる可能性もあるからだ。だから正門から入ってくる人に関しては傀儡は発動しないようにしている。
侵入者って大抵壁を乗り越えて来そうな感じするし。それでいいだろくらいの感じだった。
「レイン様……お客様です。レイン様に会わせてほしいとの事で……」
「お客?……誰だろ」
「はい……ギルド『黒龍』サブマスターのニーナ・オラクル様です」
「ニーナさんか。分かった、通してくれ」
「かしこまりました」
兵士は一度お辞儀して正門の方へ走って戻って行った。彼らにも給金を出した方がいいかな。
シャーロットからいくらか貰っていると思うが、彼らはエリスを守る役目の一端を担っている。やってもらって当たり前はない。
そう考えているうちにニーナが入って来た。レインと目が合うと会釈してこちらに駆け寄った。
「レインさん、おはようございます。いきなりの訪問なのに対応していただいて……」
「別に大丈夫ですよ。ここだとアレなんで中へどうぞ」
「はい!お邪魔致します」
レインはヴァルゼルを引っ込めてニーナと一緒に屋敷へと戻る。
"そういえば……エリスとニーナさんって会うの初めてか?エリスの気が乗れば一緒に話をしてもいいかもな"
レインは使った事のない応接室に若干迷いながらも案内した。アメリアがいればすぐに案内して色々準備してくれるんだろうが今は外出中だ。
他の2人も色々忙しいから用意できるものは特にない。……今度練習しておかないといけないな。
「ここで待ってて下さい。ちょっと訓練で汗かいてるので……流して来ます」
「は、はい……お構いなく……」
ニーナはソワソワしてながら返事をする。とても緊張しているようだ。レインには理由が分からなかった。屋敷だから緊張するのだろうか。
でもニーナはSランクで王城にも出入りしているだろうし、自分の家も相当な所に住んだそうなイメージだが……それくらいしか思い付かなかった。
いちいち聞く必要もないから待たせないように急いで風呂場に向かった。
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